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16話 祭服と神能について

白を基調とした教会の一室にて、僕はなすがままに完成された祭服を着せられていた。


着せてくれるのは教会のシスターさん。ユリアさんと同じぐらいの美人さん。


本来なら緊張の1つぐらいはするのだろうが、僕は特に緊張していなかった。


単純に肝が太くなったとかではなく、実感が湧かないのだ。


どこか楽観視している自分が居る。


今後について都合のいい考えが浮かんでは消えていく。


ぼけぇっとしていると、さっきから着せてくれたシスターさんが僕から離れ、軽く頭を下げた。


「き、着替えが完了致しました。神子様」


「あ、ありがとう? ございます」


なんか怯えられてない? というよりは、この教会にいる人達は例外なく僕から距離を離している。


やっぱり歴代の神子達が凄すぎて、その影響が出てるのかもしれないね。


……僕にはそんな力なんかないのになあ。


「…………あ! わ、私は上位司祭様をお呼びに行きますね!」


「あ、はい……って、もう行っちゃったよ。なんかショック」


まあいいか。どうせ他人だし。仲良くなる必要もないだろう。


「とりあえず……うわぁ。なんか重なってるなあー」


服の名前は知らないけど、三、四枚重なっている着物? みたいになっていて重苦しそう。


そう"重苦しそう"であって、重苦しくないのだ。


「すげえ。全然重くないし、違和感もない。まるで身体と一体化しているみたいだ」


白を基調とし、ラインは目立ち過ぎない金色。目を凝らすと、白い布地にも細かい刺繍のようなものが施されている。


祭服からは、魔力の流れも感じ取れる。


聖騎士(パラディン)達が着ている『聖鎧』のように、『魔法付与(エンチャント)』されているのだろう。


違いがあれば、これは『神聖具(クロア)』では無いこと。


これはユリアさんから聞いた話だけど、『魔法付与(エンチャント)』は経験を積んた魔法使いなら誰でも使える特殊技法らしい。


生まれ持った属性とは違って、難しいけど、努力すれば手に入る特殊技法のことを、『技能(スキル)』と呼び、生まれ持った特殊能力を『才能(ギフト)』と区別するんだと。


才能(ギフト)』は1万人に1人ぐらいの割合で、神聖国でも数えるぐらいしか居ない。


教皇様や聖女様も絶対というわけじゃないけど、『才能(ギフト)』持ちが選ばれる可能性が高い。


神聖国では『才能(ギフト)』も、神からの贈り物と呼ばれることがあるから。


今代の教皇様にはないけど、聖女様にはあるらしい。


詳しくは教えてくれなかったけど、ユリアさん曰く「会えば分かりますから」と言うので、楽しみにしとこう。


そして僕の1番の疑問が、『才能(ギフト)』持ちは、神子では無いのか? 問題である。


それについては、ユリアさんが丁寧に教えてくれた。


神子の力は、『才能(ギフト)』を凌駕するもの。


絶大なる神の力の一端を個人で有する。


それは海を割き、山を両断し、空を制する。


世界を揺るがす大いなる力。


神が有する『権能』の1つ。


それを与えられた者を『神子』と呼び、与えられた力を『神能(ディア)』と呼んだ。


と、神聖国の伝承からの言い伝えらしい。


ユリアさんも何処までが真実なのかは不明だと言ってた。


でも少なくとも神聖国の者は皆、これらの伝承を信じている。


ユリアさんも例外ではない。


そこで思い出してみよう。


神能(ディア)』? なにそれ? おいしいの?


僕そんなん持ってねーぞ!


何処までいっても偽物。本物じゃあ無いんですよ僕は。


もう、どうにでもなれだ。


とりあえず今日のお披露目を乗り切ることに全力を尽くそう。


決意を胸に抱いていると、コンコンとノックの音。


「よろしいでしょうか神子様」


最近1番聴いている声が、扉越しに聴こえた。


「いいですよ」


「失礼します」


ドアノブが回り、ユリアさんが部屋へと入ってくる。


「神子様……」


そんなユリアさんが僕を見て固まっていた。


「え、えーっと。似合いませんか?」


壊滅的に似合って無かったのだろうか。


そりゃあ村人の子供だもの。お高い服装なんざ似合わないよねー。


買い物下手な僕はよく考えずに服を買っては、似合わなくて箪笥に仕舞うことが多かったから。


今更似合わない服の一つや二つがあっても気にしない。


でも、さすがに祭服が似合わないとかアウトじゃない?


「どんでもない! お似合いです! 素敵です神子様!」


「え、そう? そうなの? そ、そっかぁ。えへへー」


やっべ。人生で初めて女性の人に褒めてもらっちゃった。


これは嬉しい。


いつの間にか頭を掻いていた。つい年相応な照れ方をしてしまった。


「ええ。私も多くの童子の祭服を見てきましたが、これ程お似合いなのは神子様ぐらいです。やはり神のお使いであらせられる神子様だからこそ神聖なる祭服はもはや、戦場を駆ける騎士の甲冑。魔物を狩る冒険者の皮鎧。舞踏会での貴婦人のドレス。まさに正装! 祭服は神子様が身に付けるために産まれてきた衣服なのだと、私は確信致しました!」


すごく興奮されているようだ。


さすがにこれ程褒められると、不安になってくるね。


ユリアさんの個人フィルター補正とかで、僕が美化されているんじゃと。


だって、さっきのシスターさん。頭下げたまま部屋出て行ったもん。僕のこと見てなかったもん。


「あらあらあら。いいじゃないですかぁ。神子様ぁ」


「うわ! い、いつの間に」


気がつけば豊満な体を持つ女性が、僕の背後から手を回してきて、ベタベタと触られてた。


「な、なにをやっているのですか! ベロニカ!」


ユリアさんが叱りつける。


「なにって、あたしが寝ずに作った物を見に来たのよ」


そう。この豊満女性ことベロニカさんは、神聖国でも最高峰の裁縫師であり、僕が今身に付けている祭服を作り上げたお人だ。


僕には分かる。


ベロニカさんは魔法の達人だ。現に彼女の体からは、魔法使いの証である、魔力が吹き出ていた。


魔法を使えない人は、魔力の蓋がされていて、魔力が全く漏れでないことは、魔力を集中させた僕の目で確認済みだ。


ユリアさんも聖騎士(パラディン)さん達も、さっきのシスターさんからはしっかりと魔力が漏れ出ていた。


逆に窓越しから町を歩く人達からは、全く魔力を目視出来なかった。


ない訳では無い。


生きる為には、魔力は必須だ。むしろ魔力が全くない人なんで居ない。


空気中に存在する魔力(マナ)を吸っているんだから、無かったら毒になるかもしれないし。


みんな魔法使いになれる可能性はあるけど、魔力量の最大値は個人それぞれだからね。


僕は逆に魔力を普段身体の中で巡らせ、外に漏れでないようにしている。なんか勿体ないからね。


まあ、『魔気(マキ)』を習得したから、放出することも増えるだろうけど。


「それにしても、銀髪にはやはり純白の祭服は似合うわねえ」


そうやってベタベタを止めないベロニカさん。


「貴女の触り癖がなければ、私も尊敬はできるのですが……!」


「あらぁ。そんなに怒ったら、可愛いお顔が台無しよぉ〜」


火に油を注ぐような発言は辞めてください!


ユリアさんがこめかみをぴくぴくさせてるじゃないですか!


「まあ、いいわ。ではでは、ユリアちゃんが怒る前にあたしは去るとしますかぁ〜。神子様またお会いしましょう……ちゅ!」


ベロニカさんは投げキッスをして、部屋からすぅーと居なくなって行った。


残ったのは怒っているユリアさんと、オロオロの僕だけ。


今更だけど、僕は銀髪に金色の瞳を持つどう見ても日本人に見えない容姿を授かりました。


今までは鏡もない村で生きていたから、自分の容姿なんか気にしてなかった。


お母様が銀髪に蒼い瞳。お父様が金髪に緑の瞳。


金色の瞳は何処から来たんだよ。


お父様の髪色が僕の目に移植されたんか?


まあ気にしてもしょうがない。


この世界では髪色なんざカラフルすぎて、銀髪ですら目立たないんじゃなかろうか。


ちなみにユリアさんは、茶髪にブラウンの瞳です。普通っぽいけど、綺麗に手入れされてあって、すごく似合ってるんだから。


ユリアさん。眼鏡外したら更に美人になりそう。外した所見ないけどね。


あの眼鏡からも魔力を感じるから、もしかしたら魔法道具(マジック・アイテム)かもね。


落ち着いたのか、深呼吸して僕に向き直るユリアさん。


「では神子様。馬車の準備が出来ているので、首都に向かいましょう。教皇猊下と聖女様、そして信徒達がお待ちしております」


もう逃げられない。セーブはした? 準備は出来た?


僕が普通の少年から神子に変わる運命の日。


相変わず現実味が湧いてこないけど、むしろ良かったのかもしれない。


重圧で押しつぶされるよりかは、楽観的に行けた方が楽だからね。


僕もユリアさんを見習って、深呼吸する。


そして返事を返す。


「はい」

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