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15話 自己防衛の術

「神子様、もう間もなく神聖国に入ります」


クールなユリアさんが淡々と告げる。


それ以降の言葉はない。明らかにこの前の事を引きずっている。


「ついにですか……」


馬車に揺られて7日目。


安全に安全を重ねた為か、本来なら3日の道乗りが7日。


聖騎士(パラディン)さん達の話し声が聞こえた。


「神子様ともお別れか……」


「寂しく、なるな」


「神子様を発見された以上、我々は猊下から与えられる新たな任に就くことになるからな」


「思えば、お前達とも長い付き合いだったな」


「なに辛気臭い事言ってんだよ、らしくないな……帰ったら酒でも飲みに行こう」


「お前こそらしくないぞ」


出会いあれば別れもある。


憧れる男同士の友情。


僕も酒を交わす仲間が欲しい。


羨ましさと微笑ましさを感じながらユリアさんに話しかける。


そろそろ立ち直って欲しいもんだ。


「ユリアさんも彼らと飲みに行ったりしないのですか? 聖騎士(パラディン)の方々とも長い付き合いでしょう?」


この前の感じからして、仲は悪くないなんだけど。


「私は行きません。彼らとは仕事仲間であっても、友人ではないので」


冷たい返答。


「そう……ですか」


残念。ユリアさんはお酒に弱いらしい。


「お酒に弱いのなら仕方ないですよね」


「待ってくだい。なぜ私がお酒に弱いという話になるのです?」


「だって、真面目で仲間思いなユリアさんが断る理由なんて、お酒に弱いくらいしか思いつかないじゃないですかー」


「さらに待ってください。なぜそこから仲間思いまで追加されているのですか!」


「じゃあ。ユリアさんは長年一緒に居た仲間の聖騎士(パラディン)さん達の事なんかどうでもいいと?」


「そ、それは……そんなことはありません。彼らはしっかりと任を全うしました。立派なことですし感謝をしています」


「じゃあ、なんで一緒にお酒飲みに行かないの?」


「だ、だから、それは……私はそんな柄じゃないですから」


「らしいですよ皆さん!」


僕は窓の傍に居た聖騎士(パラディン)さん達に話しかける。


「なあ!?」


自分が相当恥ずかしい事を言ったのを思い出したのか赤面してしまうユリアさん。この人予想以上に可愛いぞ。


「ユリア様。そんなことを気にしていたのですか」


「不器用つーか。なんつーか。気にしないでくださいよ!」


「俺達だってユリア様には感謝してるんですよ! 何度、ユリア様に励まされたか」


「ユリア様! 一緒に飲みに行きましょうよ!」


聖騎士(パラディン)さん達の猛攻にユリアさんどうとう手で顔を隠してしまう。


「あれ? 言い過ぎた?」


さすがに言い過ぎたかと焦り出す聖騎士(パラディン)さん達。


それに対するユリアさんの返答は。


「ぃぃぃ……ぃきます。行かせてもらいます! ですから持ち場を離れないでください!!」


「「「はっ!」」」


ユリアさんの返答にニヤニヤしながら返事して、持ち場に駆け足で戻る彼らの足は羽が生えたように軽かった。


眼鏡を直すユリアさんの口元は緩んでいた。






馬車の旅も終わり、現在僕はエディシラ神聖国の首都に近しい町にて、待機していた。


ユリアさん曰く、「神子様のお披露目を首都で行いますので、相応しい服装を準備致しますので、少々お待ちください」とのこと。


僕の寸法を神聖国の町に1つはある神殿にて測り、神聖国指折りの裁縫師による祭服作成を行っている最中。


裁縫師さんはふくよかな中年のおば様だったとだけ伝えとこう。手つきが凄かったです。


お披露目など初耳すぎて、何度耳を疑ったか。


ユリアさんユリアさん、後出し情報多すぎです。


人生初のお披露目とか心臓が持つかどうか。


こういう時は普段している事をやると落ち着くんだっけ。


僕が普段やっていることと言えば。


「あー。久しぶりだけど落ち着くなぁ〜」


魔力が循環している身体。魔力を自在に操り、形を作っていく。


例えば椅子。あるいはベッド。もしくはテーブル。


目につく部屋の物を片っ端から真似て魔力をこねる。


こんなことでも、自分の心が落ち着いていくのを感じた。単純すぎて助かる。


ふと脳裏に蘇るのは、聖騎士(パラディン)だけが身につけられる『聖鎧』。


今までは魔力を形にして、騎士みたいにしたり、手にしてみたりとしてきたけど、普通真っ先に思いつくのに、なぜ思い付かなかったのだろう。


「魔力を身体に纏わせる!」


古今東西。魔力を身体に纏わせるとか定番中の定番だ。


じゃあなぜ思いつかなかったのか?


理由は簡単。


僕は既に身体の中に魔力を絶え間なく巡らせている。


本来ならこれで『身体強化』なる能力に昇華し、人間離れした動きが出来るようになるのだ。


だけど僕は、何故かその能力を得られなかった。


その為、魔力にて自分を強くするというイメージを完全に捨てていたのだ。


才能ない。もしくはやらかしたやつと割り切っていた。


なので思いつかなかった。


魔力を身体の中ではなく、魔力を身体の()に纏わせるなど。


「いわゆる魔装!」


そう魔力で身体を覆う鎧のようなもの。


身体能力が上がるわけでは無いけど、物理的な攻撃や魔法攻撃などを軽減してくれるハイブリッドな能力。


「やってみよう!」


早速実践。


目を閉じ、魔力を身体から放出する。


緩やかに魔力が全身から流れ出る。


基本的魔力で形を作るのと同じだ。


それを形作らずに、身体全身の表面に覆わせるように。


不思議な感覚だ。


まるで水の中に居るのに、濡れないし息苦しくない。


むしろ暖かい。自分の魔力をこんなふうに感じるのは新鮮だ。


そうだ、鏡。


鏡の前へと移動し、自分の姿を確認。


「なんか……地味?」


魔力の色が透明色だからか、イマイチ見た目が変わらない。


もっとこう、オーラが吹き出るみたいなかっこよさをイメージしてた。


「ま、まあ。それはおいおい研究していくとして、問題は性能だね」


ぶっちゃけ、見た目より性能派。


性能良ければ、割と満足出来る。


部屋を見回り、小物を探す。


「これなんかいいんじゃない?」


それは暖炉に使う乾燥した薪だった。


「えい!」


薪を頭上に放り上げ、目を瞑る。


次の瞬間、頭部を撫でる風が当たる。


カランと薪がカーペットの上に落ちる。


「当たったよね? 全く痛くなかった」


頭部に当たったのに、痛みはない。


「やった! 成功だ!」


とりあえず自分の身を守れる力を手に入れた。


魔法使い由来の紙装甲もこれで解決だ!


「と言っても、どれぐらいの強度があるかわからないんだよね」


そう易々と試せるものじゃない。


下手したら大怪我する可能性すらあるんだ。


「これは難題だ」


これから神子として生きるということは、常に誰かが傍に居ることになる可能性が高い。1人で過ごすことをこよなく愛する僕にはかなりの苦痛になるかも。


つまり、こうやって新技を試せる機会がなくなるのかもしれない。


魔法大好きな僕には死活問題だ。


「とりあえず出来ることをしよう」


その後、ユリアさん達の目を盗んでは、密かに『魔気(マキ)』の練習に明け暮れた。


魔気(マキ)』とは魔装じゃあそのまますぎるし、なんか気を放出している感じだから安直だけど命名。割と気に入っています。

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