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157話 新大陸41

吸血鬼姉妹は怒涛の追い上げを見せ、だったの二ヶ月で星三冒険者まで上り詰めた。


今ではいつ抜かれるかソワソワしてしまう。


血吸いの森の怪物騒動はソロモンという仮面の魔法使いが収めた形になった。そして、宣伝通り毎日メシア商会には大勢のお客が押し寄せる。


販売したボードゲームもカードゲームも順調そのもの。今では王都にゲームブームが到来したと言ってもいい。後追いの商会も居るが、テキの悪さや生産出来る体制では無いため数を揃えられず泣く泣く諦める形となった。


そんなこんなで人生でも比類なき大忙しさが僕を襲った。


アーサーになれば吸血鬼姉妹の冒険に引っ張りだされ、ソロモンになれば連日の相談事に身を粉にする。


そうして、ようやく今日はのんびりする機会を得た。


(二ヶ月間休み無しとかブラックでした……)


この大陸で見つけたお気に入りのミルクティーをメイド長のアルシアさんに淹れてもらう。


「お味は如何でしょうか、マスター」


ハーフエルフの愛らしい容姿と上品な佇まいは万人を魅力して有り余る。ましてやメイド服とかベストマッチしすぎて大勢の死傷者が生まれかねない。主に鼻血で。


分かってる。皆まで言うな。


誰だコイツ? と言いたいのでしょう?


僕も言いたいわ! 誰だよコイツ!?


出会ってから半年近く経つわけだけど、こんなに変わるものか? ほんの二ヶ月前ぐらいはもう少し乱暴者だったぞ?


「アルシア」

「はい。なんでしょうマスター」

「スカート捲っていい?」

「何寝ぼけてやがりますか? シバくぞゴラァでございます」


安心した。アルシアさんだ。僕たちのアルシアさんが帰ってきた!


最近恒例の本人確認を済ませ、リラックスした状態でソファにぐてーっと脱力しながらミルクティーを堪能する。


至福のひととき。


ダダダダ!


がばっ!


「聞いたわよ! 若返られるんだって!? マスター! 私を若返らせて! 具体的に十三歳ぐらいの頃に!」


だらけ切っていた僕に詰寄るのは痴女メイドこと、ジェシカさんだ。


ククリさんにも負けない豊満なボディのお持ち。奴隷になる前は、高級娼館のナンバーワン穣だったそうなん。


「どうしてその年齢なのかな? あと、誰に聞いた?」

「詰め寄りすぎだ、殺すぞこの野郎です」


ジェシカさんの顔を片手のアイアンクローで持ち上げるアルシアメイド長。もはや敬語ではないアルシア語を使う。


「あいたたたっ!? ちょっと待ってよ! ようやく抱いてもらえるチャンスなのよ!?」

「ば、ばばば馬鹿野郎! だ、抱くって……な、何言ってやがりますか!?」


顔を真っ赤にして慌てふためく、うぶな我らがメイド長。


「ぐふふ。相変わらず可愛い反応するわね! マスターに一緒に可愛がってもらう!?」

「やめろ痴女メイド。ヒュース」

「はっ! マイロード……ふん!」

「ぐほっ!?」


呼べば何時でも現れてくれる執事長のヒュースさんに鉄拳制裁をしてもらうのも、数え切れない。


もはや、こういう日常にも慣れた。


「それで? 誰に聞いたの?」


僕は限られた人にしか時空魔法のことは話していない。こんな口の軽そうな痴女メイドに教えるわけない。


(もちろんこの屋敷が亜空間化していることから推測は出来るだろうけど)


メシア商会。構成人員五百人オーバー。ほぼ全員奴隷。後ろ盾に第二王子とヘンリック商会が付いている謎多き商会だ。


協力者を含めれば二千人はくだらないだろう。


(まあ、ほとんどは浮浪児と貧民街の人達なんだけどね)


トムさんからの最新の報告によると、餓死などでの死亡率が例年より遥かに下回っているそうだ。情報提供による対価で大勢の貧しい人達がご飯にありつけている。ひとつの目標が着実に実を結び始めていた。


ゲンコツを食らった頭を擦りながら、痴女メイドは僕から視線を逸らす。


「……ふむ。シャルルだね?」


このメシア商会のナンバーツーと言っても過言では無い真面目なシャルルだが、こともあろうかこの痴女メイドのことをジェシカお姉様と呼んで慕っているのだ。


彼女がお姉様と呼ぶのは痴女メイドと第三王女であるイヴちゃんだけなのだ。悲しきかな。この三人は大の仲良し。


イヴちゃんはその“好機予知“と呼ばれる“天武“を使い、城を抜け出しウチに遊びに来る。


シャルルもイヴちゃんも世間には疎いからか、経験豊富の痴女メイドめに誑かされているのだ。実に嘆かわしいことである。


「シャルル〜おいで〜!」

「ダメぇ〜シャルルちゃん! 罠よぉぉぉぉ!」

「なんでしょうか、ご主人様っ!」


満面の笑みで扉を開くシャルル。


この子は最近、呼べば直ぐにやってくるようになったのではない。呼んでなくでも来るようになったのだ。なんなら未来予知ばりに追跡してくる。


だが、そんな笑みも僕の前で目を逸らす痴女メイドを見たところで凍る。


「きゅぅ〜♪」

「おお……おいで、スピカ」


もはや僕よりシャルルに懐いている疑惑のスピカが抜群の危機回避能力を発揮し、僕の方に飛び乗ってくる。


久しぶりの我が子との触れ合いに僕は御満悦です。


やっべっ! みたいな表情をしたシャルルは後ずさる。


「あ、あの……用事を思い出しましたぁ〜!!」


しゅたたたっ! と、全力速で廊下を爆走する。


「うりうりうりぃ〜」

「きゅぅ〜♪」


僕はそんなシャルルには目もくれずにスピカを愛でまくる。


「捕らえろ」

「「はっ!」」


だって、逃げられないんだもの。


一瞬で僕の傍に控えていたアルシアさんとヒュースさんが姿を消す。


そして間もなく。


『ぎゃぁぁぁーーー!!!?』


遠くでシャルルのおよそ女の子が出す悲鳴ではない声が鳴り響いた。


数分後、両脇を掴まされ、ぶら下がるようにシャルルが帰ってきてくれた。宇宙人みたいな愛らしさとは思わないかね?


「おかえりシャルル」

「た、ただいま……です」


精一杯顔をそむける様子から、どうやってこの状況を打開するべきか考えている必死さが見て取れた。


「ジェシカお姉様に脅されましたぁー! どうしても、ご主人様に抱いて欲しいから知っていることを吐けと脅されましたぁー!」

「シャルルちゃん!?」


痴女メイドよ。これが貴様が妹のように可愛がる、この娘の本性だ。


僕はほう……とまるでシャルルの言い分に耳を傾けるように頷く。


我が意を得たりとばかりにぱあっと顔を明るくする。


「つまりシャルルは吐いたわけだ? 僕の内密な話を」

「そ、それは!?」


しまった! と驚愕の表情を浮かべるシャルル。


いや、普通に気付こうよ。


「はぁ……別に怒ってないよ」

「えっ……そうなんですか?」


恐る恐る言うシャルルに僕は苦笑しつつ、続ける。


「怒ると言うより叱るが正しいかな? 僕がこの話を内密にしたかったのは、危険があるからだよ」


時空魔法の一つ『回帰リターン』は指定した対象の時を任意に巻き戻すことが出来る。


だが、リスクがない訳では無い。


「その方法は最悪、若返らせた人物の記憶すらその分だけ巻き戻す可能性がある」

「えっ!? そ、そんなことって……」

「君が考え無しにジェシカさんに話した気持ちは分かる。彼女の悩みを解決したかったんだよね?」

「……はい」


この子は真面目だからなぁ。多少の茶目っ気はむしろ息抜きに近い行為だろう。


だから、僕に似て頼まれたら断れない。あるいは断わりにくい。その場で断っても、悶々と何かできたことは無いか悩み続けるタイプだ。


だから慕っているジェシカさんの役に立ちたかったのだ。


シャルルは僕ならなんでも出来ると信じて疑わないからね。


「別にジェシカさんが若返っても手を出したりしないよ」

「な、なんでよ!? こんな美女が股開いて誘ってるのよ!?」

「そういう言動をどうにかしろ!」


本当に美女だからなぁ。


断り続けるのも大変なのだ。


「だからシャルルが気に病むことはないよ……おいで」


僕の言葉に涙を溜めたシャルルは手を広げた僕に向かって飛びつく。スピカは僕の頭部に避難だ。


「ごめんなさい。勝手に喋ってごめんなさいっ」

「いいよ。気にしてないよ。僕はね、みんなが傷つかないなら、敵に情報をいくら流してもいいんだ。どんなに情報が筒抜けでも僕は負けたりしないならね」


よしよしと撫で慣れたシャルルの髪を掬う。


「髪伸びたね。艶も凄いや」

「ご主人様のお陰ですっ。全部ご主人様から貰いましたっ」


僕に似て真っ白な女の子は出会った当初では想像つかないぐらい元気になってくれた。


今では調子に乗りやすい真面目アルビノ腐女子という情報過多な女の子になった。


「ねぇ。どうして抱いてくれないの? 私が娼婦だったから?」

「関係ないよ。僕はね、そういうのを求めて君を迎え入れたわけじゃないんだ……幸せになってもらいたいから迎え入れたんだよ」

「なら抱いてよ! それが私の幸せだから」


お、おう。完璧なカウンターを食らってしまった。

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