156話 新大陸40
二人の吸血鬼姉妹を僕が拠点にしているエスティの街に連れていく。
冒険者たちはやはり少なく感じる。
拠点を変えたか、避難しているのか、あるいは街の警備に駆り出されているか。
「のうのう。なんじゃ? この騒ぎ」
「ククリさんの影響でここら辺も生態系が少しね」
「うぅ〜ごめんね〜」
色々ぼかしたけど、しばらくは緊急事態宣言ばりに忙しくなるだろうな。
既に元凶は解消されたけど、伝える手段ないし。
『ねぇ……どうせならソロモンが倒したことにして、宣伝すれば?』
澪さんが何の気なしにボソッと提案するけど、妙案じゃん。
(そうしようか。それなら色々ごまかせるし)
生態系を狂わす怪物はソロモンとの激しい戦いの末に跡形もなく消し飛びましたとさ。
そんな凄い魔法使いのソロモンさんが経営するメシア商会をどうぞよろしくお願いしまーす。
完璧だろ。
なんか突っ込まれたら企業秘密か禁則事項なんでって突っぱねればいいわけだし。
「ぐふふ……問題解決だっ」
「ど、どうしたのじゃ?」
「うわぁ〜ん、ごめんねぇ〜!」
どうやら今回の一件に関して、気を揉みすぎて僕がおかしくなったと勘違いしたようだ。
少し説明が必要だと感じ、近くの酒場に二人を連れていく。
今更だけど、二人は目立つ容姿をしている為、僕とお揃いの外套を被ってもらっている。
と言っても、リリィさんはちっさいし声もロリで変な喋り方だから目立ちそうだし、ククリさんはナイスバディ過ぎて外套越しでもスタイルの良さが滲み出てる。
ましてや、僕なんかありふれた容姿に、駆け出し冒険者装備。そこいらの人と変わらない一般人じゃん。
(おいおい。僕だけまともかよ!)
『推定魔力百億の自称まともさんが通りまぁ〜す』
『ついでにとある大陸の神子様だねっ!』
『救った人々は数知れずのスーパーヒーローですっ』
…………“伝説のこなたたちを使いこなす一般人?“
『ボロくそ言われているわね。ついでに言うと王族と繋がりある商会の長ね』
ネタにマジレスはダメ絶対。
色々あったなぁと、遠い目をしてしまうよ。
そこそこの値段で美味しいご飯が食べられる酒場の席に三人で座る。
リリィさんは足が宙に浮いていて、それをブラブラ揺らしてワクワクしている。
「楽しみじゃのう〜ご飯なんて百年ぶりじゃ〜♪」
ガチでそうなので、可哀想過ぎます。いっぱい食べてくださいね。奢りますから。
伊達に星三冒険者していない。貯蓄はそこそこなのです。どーんと来なさいな。
「私も〜沢山の人と会う自体が百年ぶり〜」
ガチで篭ってお姉さんの為に頑張ってたもんね。暇な時に街の案内は任せてくださいな。
伊達に数ヶ月拠点にしてませんので。美味しい屋台や洋服屋さんにご案内しまっせ。
「注文お願いしまーす」
僕が店員さんを呼びかけて、店員さんにメニューを教えてもらう。こういう酒場にはメニュー表はないのだ。聞けば大雑把な料理名が述べられるし、無いメニューでも気分が良かったり、材料を持ち込めば即興で作ってくれたりと汎用性が高い。
「肉じゃ! とにかく肉を持ってまいれ!」
肉に飢えているロリィ。
「うぅ〜ん、野菜がたくさぁーん食べたいなぁ?」
ベジタブルがお好みのグラビアボディ。
「オススメで」
無難な選択に定評のある前髪切れよな少年。
「私はビール」
昼間からはっちゃける受付嬢。
…………ん?
僕は空いている席にちゃっかり座っていたソフィーさんを二度見する。
「な、なんで居るんですか!?」
「見かけたから……来ちゃった♪」
密談ルートがロックされたぜ!
ここからコミカルルート解禁だ!
「ねぇねぇ。あなたたちはアーサー君の知り合い?」
「その前に質問! 何故受付嬢のソフィーさんがここに居るのでしょうか!」
「そんなの、血吸いの森の怪物騒動のせいで依頼が捌けないからでーす」
「もっともな理由でしたー!」
僕の正面に座っているククリさんが心做しか申し訳なさそう。
「それで? このかわい子ちゃんたちはアーサー君のなに?」
「ふむ……そうじゃなぁ……生涯を誓い合った仲じゃな」
「えっ!? うっそぉ!?」
嘘ついてないのが余計にタチが悪い!
「それに〜一緒の家に住んでいるの〜」
「住んでないよ! 一晩の宿だよ!」
「でも泊まったんだぁー」
「ぐふっ!」
その通りでした!
そもそも君たちもこれからこの街で過ごすから家無しじゃんか!
心做しかソフィーさんからゴミムシを見るような目を向けられているような。
「ふぅーん。手を出すのが早いんだねー」
僕はどんどんちっちゃくなっていく気分だ。
それを見かねたのか、リリィさんがフォローを入れてくれる。
「あまり意地悪しないで欲しいのう。一緒の孤児院育ちでこれから共に冒険者としてパーティを組むだけじゃ。からかって悪かったな」
「そっ、そうなんだ……勘違いしてごめんね?」
「全くですよ。ソフィーさんはいつもおっちょこちょいなんですから!」
リリィさんという万の味方を得た気分だ。
僕もそれに乗っかって非難しておく。
「そうだね〜アーサーくんは私にとって弟みたいな存在だも〜ん」
ククリさんもほんわかにはぐらかしてくれた。
「それなら妾は長女として妹と弟の面倒を見ている姉ということじゃな! がははっそれはいいのう♪」
「えっ……この子が……お姉ちゃん?」
まるで世界最高レベルの難関問題を出題された学生みたいな顔を浮かべるソフィーさん。
僕は彼女の肩にそっと手を乗せる。
「そういうお年頃なんですよ」
「あっ……そっかぁ……ふふ。可愛いんだね。よしよし」
「むむっ? 何故妾は撫でられておるのだ?」
リリィさんの少しの疑問も、料理が運ばれて来たことで霧散する。
「うっひょー! 肉じゃ! ご馳走じゃー!」
目を輝かせてかぶりつき恍惚とした表情を浮かべるロリ。
「もぐもぐ……自然を感じるよぉ〜」
ネイチャーな何かを感じ取る、脱ぐことを求められそうなグラビアボディ。
「ぶはぁー! この一杯の為に頑張ってる!」
口にお髭を付けた耳年増な受付嬢。
「こんなの……聞いてないよー!!?」
オススメが魔物の目玉の盛り合わせで叫ぶ駆け出し冒険者。
賑やかな毎日がやってきた。
☆☆☆
翌日のこと。
「これが冒険者の証かのう! 長らく生きてきたが初めて手に入れたぞえ!」
目を輝かせ星一つの冒険者の証となる冒険者証明書の紙を掲げてはしゃぐリリィさん。
周りの冒険者たちから生暖かい目で見られる。
冒険者になるだけなら自己責任で年齢は問わないそうだ。まあ、明らかに子供が来たら止めるそうだけど。
「ふふっ。おめでとうございます」
おすまし顔のソフィーさんが微笑ましそうに言う。
昨日は結局ソフィーさんの酒盛りに付き合わされた。
その結果、吸血鬼姉妹とソフィーさんは仲良くなり、わざわざソフィーさんの居る時間に冒険者登録に来るほど。
「私頑張ってアーサーくんを養うね〜」
「いや、僕の方が今は稼ぎが良いからね?」
伊達に星三冒険者してない。ほら、面構えとかかなり精悍してない?
「んー? 顔を見て欲しいの〜?」
ジーッ。
「そういう訳じゃ……」
顔が近い近い。
「なにイチャイチャしているのかな?」
「あ、いえ! 全然そんなんじゃ!」
じとっとした眼差しを僕に向けるソフィーさんに冷や汗をかく。
「のうのう! 早ういこうぞ! 冒険に出かけようぞ!」
「そ、それじゃ、この依頼をパーティで受けます」
リリィさんが腕にぶら下がるようにもたれかかり、せっついてくる。
僕も渡りに船だと、直ぐに持っていた星二の依頼を提出した。
パーティの合計星の数を半分に割った数までしか依頼を受けられないシステムなので、僕の星三とリリィさんとククリさんの星一つを合わせて、星二と半分のため、依頼は星二までだ。とは言っても基本的に自分より一つ上までが形容範囲でそれ以上の差があると受付で止められるとの事。
僕がソロなら星三まで受けられるけど、彼女たちがちまちまと雑用をやりたがらないだろうから、最初から討伐系の依頼を受けた。
「はーい。受理しまーす」
明らかにオフモードのソフィーさんがてきばきと申請を受理し、冒険に旅立つ。
「もちろん目指すは星十冒険者じゃな!」
「もう〜お姉ちゃん待って〜」
走り出したパーティメンバーに苦笑した。
もちろん、追いかけるで? 走って。