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154話 新大陸38

「起きたんですか?」


何故か少しイラッしながら尋ねる。


「そじゃあ〜目の前で愛しい妹が男と乳くりあってじゃなぁ〜?」


ニヤニヤとしながらのじゃロリが言う。幼げな声音で大人ぶった喋り方。あまりにも定番の組み合わせだった。


『テンプレキタコレ!』

『実在してたのね……のじゃロリが!』

『すごいすごーい!』

『よがっだてずぅ〜お姉様がおぎられでぇ〜』

『いつまで泣いてんの!?』

…………“濃いけど嫌いじゃない“

『意外とストライクゾーン広めなのね』


みんなも大フィーバーだ。


僕は百年待っていたお姉さんがこんなんで、ガッカリだよ!


しゅた! と棺から飛び降りる。


もちろんヒラリとシーツは抜け落ちる。


ババーンと効果音がありそうなほど、腰に手を当てて、胸を張る。


「妾こそがククリカの姉のリリルカじゃ! よろしくの! アーサーとやら! にひひ」


人を馬鹿にしたような笑顔である。


「おねぇ〜ちゃ〜んぅ!」

「おーよしよし! 良くぞ妾を呼び戻してくれたぞ! さすがは妾の妹のククリカじゃ!」

「おねぇちゃ〜んぅ」

「うむ……ちっと起きるのが遅れたのぉ。じゃが聞こえておったぞ? リリルカが妾に話しかける毎日を! 自分で飲みたいだろうにいつも血を飲ませてくれたことを! 妾は何一つ忘れたりせぬ! 全てはリリルカのおかげじゃ! 本当に最高の妹を持った妾は幸せじゃ!!」


不意にリリルカさんの顔を見た事を後悔した。


彼女は抱きつくククリカさんをめいいっぱい抱きしめ、撫で回しながら、泣いていた。


百年分の涙を流し切るつもりで。


(今、サラッと言ったけど百年間意識があったってことだよね? ……お姉さんの方も耐え続けてたんだ)


ああ、ダメだ。想像しちゃダメだ。


まだ、泣いてしまう。


お互いが再会出来るその時を、永遠にも感じる間を耐え続けていた二人の姉妹のことを。


『ぐすっ……それは、不意打ちよ……』

『う“わぁーん“。よがだでずぅー! おぶだびがざいがいぎでぇー!』

『ば、ばかー! 泣かないでよぉ……ひっく。こっちもどまらないじゃ〜ん』

…………“こなたたちも創造主と一緒。はっぴぃえんどが好き“

『お兄ちゃん!』

(ずずっ……ん?)

『助けられて良かったね!』

(……うん!)


救えて良かった。


きっと彼女たちはこれから百年分の寂しさを埋めるように語り明かすのだろう。


僕はそっと落ちたシーツを二人に掛けてあげた。


もう遮るものは無い。


僕はひっそりと部屋を出る。


彼女たちに女神様の祝福を! なんつってね。



☆☆☆



部屋を出て、リビングと思われる場所でボケーッとしていた。


マナたちは『精霊の箱庭』の奥に引っ込んだ。きっと寝ていたりするのだろう。


睡眠の必要はないらしいが、僕と同じサイクルで過ごしたいのだそうだ。


呼べば飛んできてくれるから、別に寂しくはない。


帰ってもいいのかと思いつつ、離れ難い思いがあった。


なんかね、二人の笑顔を見ないことには離れられないんだよね。


最後に見たのは泣き笑いと泣き顔だったから。


これにて、血吸いの森の怪物騒動も沈静化し、数年も経てばそんな話もあったなぁと酒場の小話になるのだろうな。


(きっとこういう積み重ねが僕を支えてくれている)


救える人を救い続ければ、僕は胸を張って神子を名乗れるんだと思える。


(あの二人の姉妹のせいかな……スーニャやドロシー、ライオット……みんなのことを思い出すのは。会いたいなぁ)


スーニャはきっとククリカさんにも負けないぐらい泣きながら抱きついてくるぞぉ〜。


ドロシーはきっと堪えながら僕を抱きしめて静かに泣く。


ライオットはどうだろう。胸に溢れた思いが顔を出すのかも。彼は真面目だからきっとこらえ続ける。その時は僕から抱きしめにいってもいいですか?


キントは素直に大喜びしてくれて、カルスは珍しく嬉しそうな顔を見せてくれるのかな。ロイドとミーゼはきっと抱き合って大喜びしながら、僕の肩を痛いぐらい叩くのだ。


それから、それから……ユリアさんは……おじいちゃんは……教皇様は……メアは……マミさんは……シュシュは……シリカは……シャロンは……ユーリは……ジミー君は……マーくんは……リンちゃんは……マリちゃんは……ノット君は……ああ、いっぱい居るなぁ。会いたい人が。


「なーにを黄昏ておるんじゃ?」


いきなり背後から抱きしめられてしまった。


「リリルカさん」


日はすっかり落ちて夜の帳の時間。


てっきりもう眠ってしまったのかと。


ほっぺたとほっぺたをくっつけられたあげく、頬ずりされる。


「本当にありがとうなのじゃ。すまぬの。妾のようなおうとつがない身体はそそられんだろうが」

「……そんなことないですよ。十分素敵な女性です」


何となく、彼女は僕を慰めに来てくれたのだと分かった。だから茶化さずに答える。


「むぅ……そう、素直な反応されると……どうすれば良いのか分からぬぞ」

「なら、頭のひとつでも撫でてくださいな」


つい、甘えてしまった。


ついさっき会ったばかりののじゃロリに。


「よしよし……妾にはお主が何を抱え込んでいるのかは分からぬ。じゃが、きっとお主はその重みに見合うようなまっことイイ男なのは分かる」

「褒めすぎですよ」


僕ほどありふれた人は居ない。


少し小心者で、誰かの役に立ちたい欲求を持っているだけなんだ。


「そうじゃなぁ。……よしっ! 決めたぞ! 妾とククリカはお主に生涯ついてゆこう!」

「……はっ!? な、何言ってるんですか!?」


いきなりの提案に僕は混乱する。


今日会ったばかりだぞ? なのに生涯とかスケールが大きすぎる!


「そんなことなかろう? お主は百年の呪縛から妾達姉妹を助け出してくれた。本来なら叶わぬ再会を与えてくれた……生涯など生ぬるい。妾とククリカはお主の子や孫の世代まで見届けようぞ。なぁーに、吸血鬼の妾達からしたら大した時間ではないから気にするな! にひひ」

「勘弁してよぉ〜」


僕にまた増やせって言うの? 大切な人をさ。


「そうじゃ! 妾達の名前は呼びにくかろう? 何か愛称をつけてたもう?」

「うーん……リリィさんとククリさんってのは?」

「おおっ悪くないぞ! お主センスあるのぉ」

「マジで!? だよね! 僕は名付けのセンス抜群だよね! リリィさん分かってるぅ〜♪」


全く、マナたちは酷いんだ。僕はそんなに悪くない感性を持っているのにさ! 最近は魔法の名付けにすら参加させてくれないんだ。


「おお……こんなお世辞で元気になるのかえ? 妾のスキンシップより……かえ? ちと女として落ち込むぞ?」


なんかボソボソ言っているけど、リリィさんはいい子なのは分かった。よし! 僕に付いてこい!

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