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152話 新大陸36

『へぇ。興味深いわね……あれは、魔法じゃない? ……そう。魔力を体内の血を取り出すのに使っているのね』

『どういうことなの? マナちゃん』

『私たちと言うと、魔力を半物質化させて物理的な干渉をさせた『魔力の手(マナハンド)』があるでしょう? それに近いわ』

『本当にさ〜その名称ダサいから変えなーい?』


グサッ! 澪を正直な一言に大ダメージを食らったぜ。


(別にイイけどさ。どんなのがいいの?)


吸血鬼さんのお食事はもう少しかかりそうだから、暇なのです。


もしかしたら正気に戻ってくれるかもしれないし、パワーアップするだけかもしれないから油断は出来ない。


『そうだなぁ〜『魔力腕(マナアーム)』ってのは?』

『ぶふっ!』

『……ライアぁ? なーに笑ってんのかなぁ?』

『い、いえっ。笑ってませんよっ……笑ってませんって! ふふふっ』

『笑ってんじゃーん!』

『それはそうよ。ネーミングセンスほぼ一緒じゃない。手から腕に変わっただけだし』

『そのままでも雛は良いよ〜分かりやすいもん』


雛さんの優しさが世界を救うのです。


そうだよね。分かりやすいよね。うん。


シンプルイズベストと言う言葉もあるぐらいだしね!


…………“いっその事、日本語だけでいいのでは?“

『あ〜そうかも。ルビを振ることに拘りすぎかもね』

『それなら選択肢が広がるね!』

『はいはい! 『黄金の手』とかどうでしょうかっ!』

『良くそれで人のこと笑えたなぁー!?』

『ぎゃー犯されますぅー!』

『毎回言うなー!!』

『はぁ……『魔手(ましゅ)』でもういいじゃない』

『それいい! 分かりやすい!』

…………“こなたたちも賛成する“

(ふ、ふん! そこそこやるようだね! でも、次は負けないんだからぁー!)


そうやってマナたちと暇つぶしをしていたら、飲み干したのか吸血鬼さんが声を上げた。


「ぶぅはぁ〜お腹いいっぱいぃ〜♪」


干からびた魔物の横で横たわりお腹を撫でる吸血鬼さん。


少し膨らんだお腹は妊婦さんのよう。


『はしたいないわね』

『大の字で寝てるね……』

『あ、おかえり〜。……ライアちゃんは?』

『しばらく太陽のお仕事で忙しいみたい』

『あっ……そっかぁ〜頑張ってもらおうね』


どうやらしばらくライアさんには会えないようです。南無ぅ〜。雛はスルー能力を取得したみたいだね。その成長を喜んでいいのやら。


おなかいっぱいになったせいで、おねむの時間のようです。すやぁ〜。


「いやいやいや! 寝るなし! 起きてくださーい!」


僕は吸血鬼さんに近寄り、耳元で叫ぶ。


「うぅ〜ん……あとさんねぇ〜ん」

「シャレになんないわ! ……ほら、起きてくださーい!」


吸血鬼だから本当に三年寝れそうだからね!


少し躊躇ったけど、肩を揺すって起こす。


柔らかい。なんなら二の腕も触っちゃう。


ゆさゆさと揺らすがよだれを垂らしてだらしなく寝る彼女を見ていると、自分が凄く悪いことをしているように感じる。


(こんなに幸せそうに寝てるんだもん。起こすのはやめとこうかな?)


前世の社会人時代は朝早く起きないといけなかったから、とても……とても辛かった!


その頃のことを思い出すと寝かせてあげたくなる。


『甘いわね。早く起こさないと他の冒険者たちが彼女を退治に来るかもしれないわよ?』

「そ、そっか。……この人が一応犯人なんだもんね」


こうして見ると、普通の女の子にしか見えないけど、戦闘能力はかなり高いのだ。


『起こすのが嫌ならせめて安全な場所までおぶっていきなさいな』

「うぅーん……うん。そうするよ」


僕はごめんねと詫びながら、彼女を背負う。


「ぐっ……お、おも……ごほん! わぁ〜かっるーい!」


危ない危ない。女性に重いは禁句でした。


寝ていても、聞かれる可能性があるからね。


僕はそそくさとその場を立ち去った。



☆☆☆



森の少し奥地。暗い洞窟の中に『収納』の中にあったお布団を敷いて吸血鬼さんを寝かせる。


(吸血鬼だからね。日を浴びると大変なことになるかもね)


そういう配慮から暗い洞窟なのだ。


明かりはライアさん不在なので、僕の自家製だ。


寝ているから、豆電球程度の光量にしているから、洞窟の暗さとジメジメがミックスして、肌寒い。


(こ、怖いぃ……早く起きてぇ)


洞窟の奥には何か潜んでいるのでは? などと要らぬ想像をして一人で震えてしまう。


マナたちは僕が彼女をおぶっている間に、身体を『魔力解析(マナアナライズ)』を使って、調べていたみたいで、今は『精霊の箱庭』の奥に引っ込んで細かい解析中だ。


むにゃむにゃと幸せそうに寝ている彼女を見ると、こっちまで眠くなってくる。


体育座りの体制のまま、僕は寝落ちしてしまう。


「ふぁ〜! よく眠ったよ〜」


間延びした声に呼び起こされる。


目を開けば、背伸びをした吸血鬼さん。


ゆるふわの金髪が似合うおっとり美少女だ。


女の子座りなので、艶めかしさがそのポンキュッポンな身体で余計にエロスを感じさせる。


「起きました?」


動揺しつつ、何とか声を掛ける。


さあ、どう返す?


じ〜。


じ〜〜。


「君はだぁあれ?」

「覚えてないのかい!」


可愛く首を傾げられました。


割と怖い思いをしたのですが!?


「あなたに襲われた善良な冒険者です!」

「あ〜そうなんだー。ごめんね?」

「許すぅ!」

「わぁ〜い!」


可愛く首を傾げられたらもう許すしかないじゃないか! ずるいぞ!


喜び方もふんわりしすぎてもう可愛いしか言えない。


(さては天然さんだな?)


吸血鬼さんは周りをうろちょろ見渡し、僕に尋ねる。


「ここどこぉ〜?」

「あなたが眠ったからここに運んだんですよ。場所は森の少し奥の洞窟です」

「そうなんだ〜ありがとね〜」


邪気のない笑顔を向けられて、僕はもう浄化されそうだ。


吸血鬼の笑顔に浄化されそうな聖職者とは?


「それで聞きたいことがあるんですが」

「なに〜?」


どうやら好意的な様子。


「どうして魔物たちから血を吸っていたんですか? あ、食事だからとかならすみません」


純粋に生きるためには血を吸わないといけないからとかなら、もう少し離れた場所でしてもらう必要がある。


僕の質問に少し困ったように吸血鬼さんが言う。


今更ながら名前聞いてない。


「それはね〜お姉ちゃんを助けるためなんだ〜」


でもシリアスっぽい雰囲気に突入したみたいだから、後でいいかな。


「お姉さんは何かご病気でしょうか?」

「病気というより……同じ吸血鬼の奴にね〜、滅ぼされそうなところを何とか助けた出せたんだけど〜血をたあくさん飲まないと〜起きれないんだ〜迷惑かけたなら、ごめんね?」

「そんな事情が……さぞやお辛かったでしょうね」

「うぅん。お姉ちゃんは私の一番大切な人だもん。助けるよ〜辛いなんて思ったことない〜」


うぅ。ええ子や。お姉さん想いのええ子や。


軽く涙腺が崩壊しそうになる。


『雛にとってのお兄ちゃんなんだね〜』


雛さんも最高にええ子や〜。


『旦那様がそんな状態になったら私たちも身動き取れそうにないけどね』


確かに。僕がどうこうなるということは、彼女たちも巻き添えを食らう可能性があるもんね。


気を引き締めないと! 僕一人の命ではないのだ。


「でもね……もう、無理そうなんだ〜」

「えっ……」


吸血鬼さんは泣きそうな顔で俯く。


「近場の魔物は全部狩ったの〜。だから無理をして遠出してきたけど〜往復でギリギリ。私が飲む分もあげないと間に合わないぐらい〜」


自分の無力感に拳を握りしめる彼女。


強く握りしめた拳から血が滴る。


「ほんとはね〜? お姉ちゃん一人ならこんな事にはならなかったの〜。でも、私が足手まといだから、こんな目にあっちゃった〜」


えへへと力無く笑い彼女は泣いているように感じた。


こんな顔されたらさ、助けないとじゃん。


『ふふ。あなたらしい』


マナの言葉に少し照れながら、彼女が握りしめた拳に触れて解きほぐす。


「あっ……」

「吸血鬼さんってお名前なんて言うんですか? あと、回復魔法を使っても?」


僕は見つめる瞳は潤んでいて、今にも泣き出しそう。


彼女の手をできる限り優しく握る。


「僕に出来ることならなんでも言ってください。必ず助けますから」


僕の存在意義。かっこよく言うならレゾンテートル。


「えっとね……あはは。人とお話するの久しぶりだから……えっとね、私はね〜ククリカって言うの」

「ククリカさん」

「長いなら〜好きに呼んでいいよ〜? あとね、回復魔法はね……ごめんね? ダメなの。焼けちゃう」

「分かりました。では、これなら?」


僕は傷ついた手のひらに手をかざす。


(時雨、空音。お願いね)

…………“創造主。任せて“


時空魔法のひとつ。『回帰(リターン)』。


効果は指定した物の時間を巻き戻す。


この場合は手のひらのみだ。


それでも同じ範囲を癒す回復魔法の百倍近い消費を要する。


時雨と空音のサポートで最適化されていて、それだから他の人が使うのは難しいだろう。


僕はバカスカ使っているけどね!


「わぁ〜不思議ぃ……」


見蕩れるように自分の手のひらが再生されていく様を見つめる。


今回はわかりやすいようにゆっくり再生させました。まあ、巻き戻しの方が正しいけど、細かいことは気にしない。


「僕には少し不思議な魔法が使えるんです。どうですか? 役に立つでしょうか?」

「時間を巻き戻す魔法が少しだけ不思議? あはは〜面白いね〜」


一発で見破るやんけ。やっぱり長生きしているのかもしれない。一応は伝説に値する魔法なのだから。


「これならお姉さんの状態も良かった頃に巻き戻せるかもしれません」


正直、本人全体を巻き戻したら、どうなるか分からない不安がある。


(ピンポイントで脳みそだけ固定してなら巻き戻すという離れ業を試すのはリスキーだからね)


下手したら脳みそと身体が拒絶反応を起こすかもしれない。


(最悪。いつも通り『運命改変(モイラ・シフト)』を使えばなんとかなると思う)


対価は未知数になるけど、死にはしないだろう。


『それはダメよ。しっかりとそのお姉さんの状態をチェックして、手を尽くしてからやるべきだわ』

『うん。ククリカちゃんのお姉ちゃんは助けたいけど、お兄ちゃんが死ぬ可能性があるなら、雛は……お兄ちゃんを選ぶよ』


そうなるかぁ。ままならないものだね。


「えっとね? お姉ちゃんが倒されたのが〜…………百年ぐらい前?」

「…………おふっ」


無理やんけ。


(時雨、空音……イケそうです?)

…………“ごめんなさい。今の最大魔力でも五十年ぐらいしか戻せない“


そっかぁ……無理かぁ。


つい、ゴシゴシと頭をかいてしまう。


「えへへ……ありがとうね〜? お姉ちゃんを助けてくれようとしてくれる気持ちだけで嬉しいよぉ〜」


儚く笑わないで。胸が締め付けられる。


「せめて……せめて上位竜の生き血があればな〜」


どうやってマナたちに頼み込んで『運命改変(モイラ・シフト)』を使わせて貰えないか考えてた時に、ククリカさんのぼやきが耳に届いた。


「それってどういう?」

「えっとね〜? 吸血鬼はね、どんなに粉々にされても〜血があれば蘇られるの〜。でもね、血がほぼ空にされた上で粉々にされたら〜本人が持つ魔力相当以上の魔力が籠った血を与えないと蘇られなくて本当に死ぬの〜」


おや? おやおや? おやおやおや?


「参考程度にどれぐらいの魔力があれば?」

「えっとね〜私の十倍ぐらい〜? 吸血鬼の血は除外だから、魔物の血を生命維持に使ってたんだ〜」


ほほう? 十倍とな?


(マナさ〜ん! 僕の把握出来る限りの魔力量はククリカさんの何倍かね?)

『おおよそ……五十万倍かしら?』


おいおいおい。余裕やんけ。インフレした魔力もまあ可笑しいけど。いや、可笑しいな!?


『ミロディアの時点で大精霊クラスと言われ、それから何回も底を尽く消費を繰り返した結果、あの頃の十倍はあるわね。一般人を百としたら魔法使いは千程度で彼女は二万ぐらい。大精霊はざっと十億であなたは百億よ』


お、おう。具体的な数値を聞くとビビるぜ。


むしろ百億あっても人一人の時間は五十年しか巻き戻せないのか。


「なんとかなりそうなのでお姉さんの元に案内してくれませんか?」

「えっ!?」


魔力なら任せてくれ! 有り余ってるから! 本当に!

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