149話 新大陸33
待つ間に僕はトワさんに例のものについて尋ねた。
「ボードゲームはどう?」
「うふふ。バッチリよ! オーナーの考案したこのボードゲーム……名前はまだ無いのよね?」
「うん。元々は他の人がそれっぽいことをして遊んでいたのを聞いたんだ。だからそれを参考に提案したに過ぎないよ。実際作ったのはトワさんでしょう? 好きに名前を付ければいいよ」
僕がこの大陸に降り立って、最初に親切にしてくれた老夫婦が遊んでいたものがベースだ。
「実在した英雄たちの英雄譚を元にした能力。そしてその英雄たちが出現させるための準備となる汎用ユニットの召喚……初めて聞いた時はワクワクが止まらなかったわ! 戦争。それは現在局面している私たちの国の出来事。でも、実際はみんな戦争がどういうものなのか知らないから他人事。それを少しでも理解してもらうために、興味の持ちやすい娯楽に落とし込んだオーナーの発想は天下一品よ!!」
「……褒めすぎだよ。何度も言ったけど、僕が思い付いたんじゃなくて元からあるものを参考にしたんだよ」
それっぽいものが前世に沢山あるから、それをかなり参考にもしたから、クオリティがなかなかなものになったのだ。
「それにカードゲームと呼ばれるものもそうよ! これはボードゲームのような本格的な準備を必要とせずにデッキさえ構築出来れば、いつでも楽しめる! あなたは間違いなく天才だわ!」
「これも元ネタがあるんだよ。それこそ僕の考案したものなんて比にならない物もあるんだ」
かなりスタンダードなものにした。流石にカードゲームの概念がないこの世界で、いきなり難解複雑なものは持ち込んでも理解は得られないだろうから。
「ボードゲームが英雄たちの戦いで、カードゲームは魔物たちや伝説の獣たちの戦いと内容を分けてるのも素敵よ! ああ……はやく完成させて大勢の人たちを楽しめさせたいわ〜」
こんなんだから、トワさんはほとんど寝ていないで製造ラインを作成したり、絵が上手い人達にイラストの書き起こしを急かしたりと忙しない日々を送っているんだ。
そうやってトワさんとゲームの構想について熱く語っていたら、シャルルがアンジェラさんを連れて来てくれた。
「オ、オーナー! ウチに売って欲しい物があるってホント!? オーナーの為ならどんなもんでも売り捌くよ! 絶対失望なんかさせないから!!」
「アンちゃん。落ち着きなさいな、はしたないわよ」
「ご、ごめん開発長っ」
てへへと頭を撫でるアンジェラさん。
アンジェラさんはバイタリティの塊みたいな人だと改めて思う。パワフルでじっとしてられない。商人としてどうなの? と問われれば非常に有能だろう。
ヘンリーさんにも一目置かれているぐらいだからね。ヘンリーさん曰く、彼女は直感が非常に優れており、流行りや廃りに敏感ですぐに売るものを切り替える柔軟さを備えていると褒めちぎっていた。ヘンリック商会の後継者にしたいぐらいだとも言っていた。
「アン。売って欲しいのはこの魔法石だよ」
「魔法石? ……字面的に魔法が使える石?」
「そうなるね。一回限りの消耗品だけど」
「白金貨レベルの商品だよ! うちのコンセプトは一般市民じゃないの? ……いや、オーナーが売りたいというのならわけがあるよね? ………そっか! それは冒険者の為の魔導具なんだね! なら、値段上限は大金額で支払えるようにしなくちゃ! 取り敢えずどういう魔法が使えるの?」
なんも言ってないのに、ほぼ答えに辿り着くんだよね。しかも直感で。トワさんとベクトルの違う天才だ。
「致命傷を治せる回復魔法が入ってるそうよ。私としては白金貨二十五枚はくだらないわね」
「マジでぇ!? 確かにそんぐらいかも……ぐぬぬ、それを大金貨で売った日には……国がめんどくさいことになるよ!?」
「そうねぇ〜こんな戦争で使えそうな物をお国様が放っておかないわよね〜いつも便利なものは争いの道具に使われる運命なのよね……」
国や貴族から買い占めが発生するよね。純粋に商いを楽しみたいアンジェラさんと、みんなの役に立つような道具を作りたいトワさんにとっては良くない方向に物事が傾く商品なのだろう。
「いっその事、冒険者の資格を有する人だけにしか売らないようするか……うん。なら星六は必要かも。そうしないと代理を立てて買うような人が現れるよね……星六なら信用も置けるし、万が一転売なんかしたら出禁にしてやるし! うっし! これでどうかな、オーナー!」
「えっ売ってくれるの?」
むしろあの一瞬でここまで考えてくれたことに驚く。しかもかなり理想に近い形だ。
「そこに付け加えるなら、高ランクの冒険者を対象にしたテスト販売、もしくは暴発の恐れがあるので死なないだろう冒険者を対象にしてますとか面白くない?」
「うんうんっ! 開発長には前科があるもんね! 信憑性があるからみんな信じるよ!」
「そこは複雑な気持ちなんだけどね……オーナーの願いよ。一肌脱ぐとするわ」
「さっすが開発長! おっとこまえ〜!」
「うふふ。ありがとう」
気付けばトントン拍子に話が纏まってしまった。
僕は胸に温かい気持ちが溢れた。
こんな無理難題すら、軽く乗り越えてくる彼女たちに感謝しかない。
「二人とも……ありがとう! それでお願いしますっ!」
「任せて頂戴な♪」
「オーナーから直々に頼まれたんだもん! 張り切るよぉ〜!」
頼もしい二人とその後は、定期的な補充と販売制限、値段の見直しと夜が耽けるまで話し込むことになった。
「えっ……ご主人様。私は放置ですか!? 褒めてくださいよぉー!」
気が付けば部屋の背景と化していたシャルルの悲痛の叫びは僕たち三人には届くことは無かった。
『哀れね。これで旦那様を題材にした書物でも書出せば面白そうね』
『そ、それはちょっと……興味深い、かも』
『えへへ……お兄ちゃんにバレたら大目玉だね』
『ご、御主人様……メイドめも気になってしまいますぅ』
…………“こなたたちも読んでみたい“
僕の中でよからぬ事を考えている精霊たちのことなど、その時の僕には知る由はなかったのです。
いやいや! 聞こえてるから!
なんちゅうこと企んでるんだよ。
もちろんあとで、シャルルのフォローに回ろうとしていたさ!
腐の書物に出演してたまるか!
後日、シャルルの満足いくまで食べ歩くに行くはめになったとさ。
安い代償だぜ! あと、シャルルの息抜きにもなったようで良かった。
みんな、僕の為に働きすぎるきらいがあるからね。
しっかり労わなければ!
それが組織のトップに立つ者の勤めだと思うからね。