148話 新大陸32
「うん。実は新しい商品を思いついたんだ」
「あら。オーナー自ら足を運ぶんだもの。凄いものなんでしょう?」
「ハードル上げないでよ〜」
そう言いつつ、僕は懐から魔法を付与した魔石を取り出した。
「魔石? いいえ。それだけじゃないわね……手に取っても?」
「どうぞ」
トワさんに手渡すと、魔石をじっと見つめる。
「……ヤバイもの持ってきたわね。なによこの精巧な魔法陣。内容までは分からないけれど、どうやって魔石の中に刻んだのかすら皆目見当もつかないわ……神業ね」
「僕が作りました」
「だと思ったから驚かないわよ。この魔石の魔法はなにかしら」
「その魔石を砕くとね、魔法が発動するの。でね、その魔法はね致命傷でも治せるぐらいの回復魔法が保存されてるよ」
「あぁ……目眩が。驚きを飛び越えて気絶しそう。私の予想じゃあ、せいぜい最下級の魔法が入っていると思ってたのに……」
「最下級の魔法を保存してなんの意味があるの? むしろコストの無駄使いだよ〜」
頭が痛そうに額を押さえるけど、本当に仕事ができる美人にしか見えないよ。確か発明した美容品とかは自分でも試してるって言ってるよね。肌がツヤツヤだ。
よく見たらシャルルもツヤツヤだ。
当初の痩せすぎた身体は、健康的な生活を続けたからか、肉付きが良くなってより可愛くなっている。
僕の視線に気付いたからかシャルルは首を傾げる。
「どうしましたか?」
「シャルルは日に日に可愛くなるよね」
「えっ……こ、今晩はお部屋に伺えということでしょうか?」
照れ隠しのつもりだろうけど、照れの仕方がおかしい。もっと普通に照れてよ。
「違うから。あの痴女メイドからの悪知恵だろ」
元自称高級娼館のナンバーワン娼婦こと痴女メイドは歩く十八禁だ。
「いえ! 彼女は仕事熱心ですし、人当たりも良くてみんなに慕われております!」
「あのね。シャルル。痴女メイドと言っただけで該当する人物が思い付く時点で、君自身も彼女のことを痴女だと思ってるからね?」
「ぐふっ……」
墓穴を掘ったシャルルはそのまま崩れ落ちる。
最近リアクションがでかくなったよなぁ。
でも、倒れ方もしなやかな感じで狙っている。これもあの痴女メイドの仕込みだろう。
だが、やはり未熟だからか、少しチラリズムが足りないようだ。
「僕。太ももはチラリと見えるのが好きなんです」
「いきなりなんの告白よオーナー」
「次は太ももが少し見えるぐらいに倒れ込んで見せます!」
「意気込みの方向性が迷子よシャルルちゃん」
おっと。つい本音が。
太ももには一家言があるのでつい。
ここは落ち着くために、煩悩を払おう。
ガーターベルト最高。絶対領域最高。ハイソックス最高。スパッツ最高。タイツ最高。
これらを全て身につけられるメイドさんは最&高。
ふぅ……落ち着いたぜ。
「それよりこの魔石……あー。魔法石? でいいや。その価値はどんぐらいになりそう?」
「白金貨三百枚」
金貨三千枚でざっと三十億円?
盛りすぎだろ!!
「これ一回限りの消耗品だお?」
動転して語尾がおかしくなったじゃまいか。
「死にかけの人を救えるのよ? 貴族はもちろん王族は常に命を狙われている可能性があるの。お金を抱えて死ぬぐらいなら、自分の命をお金で幾らでも買うような人も沢山いるのよ? 言い値でいいならそのぐらいになるわの」
「そうなんだお……」
「ご主人様。語尾がおかしいですお」
「シャルルちゃんもよお」
不味い! この語尾を流行らせるわけにはいかない!
これが流行ったせいで……あんな……あんな事件が起きるなんて……!!
特に思いつかないけどね!
「こほん! これは星六冒険者でもなんとか買えるぐらいが理想なんだけど」
「星六冒険者……妙に具体的ね。流石にこれ以上は相場が分からないわ。アンちゃんを呼んで相談した方がいいわ。あの子が売るわけだし」
「だおだお♪」
あかん。シャルルがハマったみたい。この子すぐ影響受けるんだから。
……いずれ黒歴史になるというのに。
早速呼ぼう。
「シャルル。アンは何処に?」
「お店の方にて働いておりますよ?」
ここから商店までそこそこ距離がある。
まがりにも帰貴族街だから立ち並ぶお店も貴族向け。
ウチのメシア商会は庶民の味方がコンセプトだ。
そのため、どうしても距離が遠くなってしまう。
「僕が向かった方が早いよね?」
「「やめてください 」」
二人にマジトーンで止められた。
「で、でも僕のお店だし見に行きたいんだよ」
お店が開いてから一度も足を運んでいないのだ。
「ご主人様が行けば騒ぎなります」
「アンちゃん。オーナーにすごい恩義を感じてるから暴走するわよ。売り子をしてる子達もね」
お店には選りすぐりの美男美女を配備しているらしくて、興味あったのに。
そこまで言われたら流石に行くわけにはいかないよね。
前世で例えるなら、下請けのショップに会社の社長が見に来るようなものか? 流石に言い過ぎか。
「私がアンジェラを連れてきますのでお待ちください」
シャルルはサッと翻して、部屋から退出する。
「今更だけど、あの子一応ここのナンバーツーなんだけどなぁ〜」
「うふふ。シャルルちゃんは自分でできることは自分でやろうとする子なのよ」
「もう少しダラケてもいいと思うんだけどなぁ」
シャルルはなんやかんや責任感が強いから、常に歩き回っていたりする。
全ての職場に顔を出しては改善点や不満などを聞いてひっそり改善したりしてあるそうだ。
そこら辺の裁量はシャルルに任せたが為に、頑張りすぎている気がする。
『ん? そこにいるのは芋掘りメイドではありませんか。ちょうど良かった。私の代わりにアンジェラを連れてきてください』
『誰が芋掘りメイドじゃああああ!!!! この万年幼児体型ッ!!!』
『なんですって!!?』
『あぁ!!?』
シャルルが庭に出た所でアルシアさんに出くわし、そのまま口喧嘩が始まる。
「意外とあれでストレス発散しているのかなぁ」
「私には戯れているだけに思えるけどね」
確かに、シャルルが一方的にちょっかいを出しているように見えるけど、実際はアルシアさんもノリよく付き合っているように見える。
『お前! マスターに相手されないからって、私に突っかかってくるな!』
『されてますぅ〜貴女みたいに口が悪くて芋臭いメイドなど相手にされませ〜ん』
『はん! 相手にされてるって言っても、頭を撫でられたりするぐらいだろうが! やっぱりガキだなぁお前は』
『あら! 羨ましい? ねっねっ。羨ましいんですかぁ〜? 指一本も触れて貰えないアルシアさん?』
『カッチーン……てめぇ! 今日という今日はぜってぇーに許さねぇー!!!』
『ぎゃぁー!! 本気にしすぎですよ!!? ほんの戯れじゃないですかぁー!!』
『うるせぇー!!! まちやがれぇー!!』
そのまま遠ざかっていく二人を僕達は見詰めつつ思った。
((さては仲悪いな?))