147話 新大陸31
その後、後日食事にでも行こうと約束し、アレスさん達と別れた。
彼らはモイさんが回復次第、リハビリで簡単な依頼を受けて、お金が貯まったら王都に行ってさっきの魔石を買うと言い残して行った。
咄嗟についた嘘が大事になった! と僕は汗をダラダラ流しながら、慌てて変装して王都に転移した。
ガチャり。
「おかえりなさいませ。ご主人様」
「……最近、僕が来ることを察知出来るようになったよね。ただいま、シャルル」
僕が転移した瞬間、扉が開きシャルルが優雅に一礼。
本人曰く、来る予兆みたいのが匂いで分かるとかなんとか。
わけがわからないよ。
だって、転移を発動してから到着するのにほんの数秒だよ? 視認できる範囲ならコンマ数秒だ。
つまりシャルルは僕が魔法を発動する前に、察知して移動を開始していることになる。
(ファンタジー世界だからなぁ)
この一言で片付けるしかないよね。
深く考えないことが長生きの秘訣です。
「それにしても予定より早くこちらに帰って来ましたね。皆、ご主人様に一目会いたくて頑張っているんですよ?」
「ん? なんで頑張ったら僕に会えるの? ……あー、褒美とか頑張ったで賞とかそんな感じか」
子供の頃、目立ってなかった子供には漏れなく頑張ったで賞が贈られたよね。
他の子はしっかりとした理由の賞状とか貰ってたのに。
「それもあるのかもしれませんが、純粋にご主人様に気に入られたいのかと。奴隷なのに奴隷扱いされていないのですから。それに不思議な職場にも程があります」
シャルルはくすりと笑い、カーテンを開く。
そこには果てしない草原が広がっていた。
草原と言っても、何も無い訳じゃない。
それぞれの宿舎と職場もあるのだ。
「奴隷になったドワーフの人達が頑張ってたもんね」
人間だけじゃなくて多種多様の種族が奴隷として僕と契約した。
結果、ハリボテの建物は全て職人技により立派なものに。
「既に奴隷の数も三百名を越えました。当初は奴隷を解放する為に買っているのでは? と奴隷商人達は警戒していましたが、今では逆に買ってくれと連日押し寄せてくる盛況っぷりです」
「年齢見た目種族病気問わずだからね。どんな人でも向かい入れる準備は出来てるよ」
僕もシャルルの横に立ち、窓の外を眺める。
「今はご主人様が購入した奴隷を実験とかで消耗しているなどと言われてますよ。何せ屋敷に向かい入れたら最後、ほとんど出てくることがなくなりますからね」
「自給自足を目指しているからね。みんなこの生活に不満とか無い?」
「ありませんよ。むしろやる気に満ち溢れております」
どんな人でも仕事はある。
ウチは何もかも始まったばかりの会社みたいなものだ。やる事は山積み。
「スピカは寝てるの?」
「はい。というか、何故か起きている間は私の頭の上を陣取るのですが……」
「あはは。気に入られてるんだよ。もしかしたら僕に似ているからかもね」
「ご主人様に? でもご主人様と私ではかなり違うように思います」
「そんなことないよ。これは内緒だけど。僕も本当は白髪なんだ。目の色は琥珀色だけどね」
「同じ白髪……お揃い……私だけの秘密……ふふ」
シャルルが嬉しそうに笑う。
「いつかご主人様の本当のお姿をお見せ下さいね」
「うん。いいよ」
「約束です」
今更気恥しいけど、見たいというのなら見せないとね。ガッカリとかされたらどうしよう。ちょっと演出入れた方がいいかな?
「そういえばご用件はなんでしょうか?」
「あ、そうだそうだ。ちょっと新しい商品を売ろうと思うんだ。だからトワのところに行きたい」
「かしこまりました。ご案内します」
シャルルの後ろをついて行く。
屋敷の中は基本的に、決まった人しか入らない。
それぞれの部署の奴隷は、決まった宿舎と職場がある。
諜報部はこの屋敷の空間の中では森林による訓練が主で、街などで情報収集するから職場とは言わないけど。
護衛部も訓練や巡回が主だ。巡回と言っても、屋敷の敷地外と中は別空間だから塀をよじ登って侵入しようにも弾かれる。
なので主に敷地外、屋敷の周りをグルグル回るのが務めだ。
メシア商店の店舗をヘンリーさんに用意して貰ったから、その店舗の護衛も兼ねている。
現在、店舗を運営しているのは元商人の女性アンジェラだ。通称アン。彼女が商人としてのスキルをフル活用してお店を切り盛りしている。
管轄的に開発部の販売部門という扱いで、トワさんの部下になる。
商品は元錬金術師による道具や、元薬師のポーションや、元鍛冶師の武器防具、そしてトワさんの閃いた便利な日用品などとにかく売れそうな物をアンが厳選して店舗販売している。
現状は黒字経営出来ているみたい。
アン曰く、横の繋がりとか考えずに売るだけに専念出来るとかぬるすぎて楽しいらしい。
ウチは新興の商店だから、本来は手土産に他の商会とかにコネ作りしに行かなければならないらしいけど、秘密主義のウチにはその必要は無い。
大抵のものはここで生み出せる。
足らないものはヘンリーさんにお願いすればいい。もちろん対価は支払う。
本来そんな舐め腐ったことをすれば、潰しにかかるだろうけど、噂とかで第二王子のエバン君が後ろに付いているとかでみんな手出し出来ない。
もちろん、他の商店を潰すつもりとかないから、いずれはオリジナルブランドを展開していくつもり。
今は何が作れて作れないのかを試す期間だ。
屋敷から出て、横手に立ち並ぶ開発部の建物に入っていく。
忙しなく動く人達。
みんな僕を見れば一礼していく。
これでも改善されたのだ。
最初の頃は、土下座して動こうとしないレベルだった。
僕がそういう堅苦しいのは嫌いだと遠回しに幹部のみんなに伝えて、何とかここまで改善された。
開発部にはここ研究所みたいな場所と、生産ラインとかがある工場と、物資を保管する倉庫などがある。
メシア商店の主力だから規模も一番大きい。
三百人余りの内、百人ほどがここだ。
これからももっと増やしていく予定です。
そんな研究所の最奥の部屋にシャルルがノックする。
「トワ。ご主人様がいらっしゃいました」
「どうぞ。入ってー」
ガチャリ。
僕とシャルルはトワさんの職場に足を踏み入れた。
「いらっしゃいオーナー。シャルルちゃん」
「数日ぶりだね。トワさん」
「さんは不要よ。オーナー」
「あはは。癖だから」
いつものやり取りをして僕は部屋を見渡す。
体育館の半分ぐらいの大きさがある部屋だ。
壁際にはぎっしり詰まった本棚やら、道具が山積み。
テーブルもいくつもあって、開発予定の品の図面が敷かれたもの。組み立て途中の部品が乱立しているもの。書類やらが積み上がったもの。
それらをトワさんは全て場所を把握しているのだから恐ろしい。
ここ以外にも部下の人達と一緒に開発する場所もあり、そこは体育館二個分ぐらいの広さがあり、いずれは数十人が同時に開発したりする予定だ。
今は、専門知識を持つ人が少ないから、稼働率は低いけど。
「それで用件はなにかしら?」
トワさんは相も変わらず、女性にしか見えない色っぽい仕草で尋ねてきた。