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144話 新大陸28

早朝。


日も上がっておらず薄暗い中、街の正門前まで向かう。


そこには荷馬車が待機しており、馬の手入れをしていた旅装束に身を包んだ如何にも商人然とした三十代前半ぐらいの男性に勇気をだして声をかけた。


「あの〜ディース様でしょうか?」

「ん? なんだ君は」

「お初にお目にかかります。僕は冒険者組合からディース様の御依頼を受注したアーサーと申します。護衛としてディース様を必ずや隣町までお送りいたします」


出来る限りハキハキと挨拶をする。


変にどもると相手の反感を買うのは経験上知っている。


「……一人なのか? 仲間は?」

「おりません。一人です」

「一人で私を護衛するのか?」

「は、はい」


やっぱりソフィーさんの言う通り複数人で受ける前提の依頼だったかぁ。


ディース様は僕を値踏みするように上から下までじっと見る。


「さしずめ依頼料が安くて、残っていた依頼を君が引き受けたのだろう。ありがとう。一人で出発する羽目にならなかった」


ビックリするぐらいあっさりと承諾してくれた。


グチグチ言われるかと思った。


「と、言っても先の挨拶からして、君はある程度自分の立場が分かっているだろうが、君一人で依頼料に相応しい働きをしなければならない。期待を裏切らないで欲しい」

「誠心誠意努めさせていただきます」

「いい心掛けだ。では出発しよう。停滞は一銭にもならないからな」


ディース様に促され、御者を務めるディース様の隣りに座らせてもらう。


荷台の荷物からは仄かな匂いがした。


(臭くはないけど、なんか食べ物の匂いっぽいな)


食品を隣町まで販売しに行くのだろう。


余計な詮索はせず、僕は荷馬車が門をくぐり抜けていくのをじっと待っていた。


門番さんの人は眠だそうに欠伸しながら手を振り見送る。


僕は軽く会釈して正面を向く。


(まずいな……軽く走ってるだけなのに、既に揺れがヤバイ)


酔い耐性は人並み以上あるけど、この揺れはおしりが悲鳴をあげるのも時間の問題かも。


「おしりが痛いのか?」

「えっ……い、いえ! 少し緊張していまして」


流石におしりが痛くて集中出来ませんなど言えない。


それに僕は護衛だから、途中で馬車から降りて並走するという手もある。


「そうか。大抵の冒険者はもっとゆっくり進めなど言ってくるものだが、君はタフなんだな」

「あ、あはは」


ディース様は淡々と正面を向き、馬車の操縦に専念する。


その精悍な横顔は疲れ果てたサラリーマンみたいに見えた。


「おひとりでずっとこのお仕事を?」


本来なら護衛として雇われたのだから喋らずに周りを警戒するべきなのは分かってはいるけど、つい沈黙に耐えきれなかった。


「そうだ。というよりは最近お世話になっていた商会から独立したんだ。なに、珍しくもない話だ。商人というのは強欲なものでな、知識が身につけば欲が出る。店番や倉庫番などでは満足出来なくなる。自分の唯一無二の財産を欲する」


ディース様は僕の質問を咎めずに、快く会話に乗ってくれた。


見た目は少し怖いけど、言葉使いや態度からは微塵も他者に対する悪感情は無い。


本心から言っているのだと何となく分かった。


こういう人はなんと言うんだっけ……そうだ、真面目だ。


真面目な人なんだ。


「商人として一山の財産を築こうと思ったんですね。素敵なことだと思います。人生は一度きりです。好きなように生きるのはとても素晴らしいことですよ。もちろん人に迷惑をかけるのは良くは無いのですが……すみません。なんか、生意気なことを言いました」


あーもう! どうしてなんか上から目線みたいなこと言ってんの!?


僕も大してできた人間と言うわけじゃないのに。


案の定、ディース様は少し驚いたような表情を浮かべる。いや、本当に気のせいレベルだけども。


「驚いた。人に私の夢を肯定されたことも初めてだが、それがこんなにも若い子に言われるとは。……実に興味深い」


実に面白い。と言う学者さんぽいこと言わないで。


「私はもしかしたら君みたいに変わった考えを持つ人々に出会って、自分の世界を広げたいのかもしれない」


変わった人って言われた! これは少しショック。自称、凡人の僕からしたら周りが変なのであって僕は僕なりに頑張っているだけなんだけど。


「世界は広いですよね……見果てぬ先にはもしかしたら新大陸などあるかもしれません」


僕は誤魔化すように話題を逸らそうとするけど、明らかにむしろ変なことを言ってしまう。


「考えたことも無かった。そうか、新大陸か……もしあるとした、そこでも商人は逞しく商いに精を出しているのだろうか」

「あはは……きっと、そうだと思いますよ?」


着眼点が変わっていたので少し笑ってしまった。


「君に笑われでも何故だか腹が立たないな。これも不思議だ」

「す、すみません!?」


ガサガサ。


僕は咄嗟に音の鳴ったほうに視線を向ける。


「……魔物か?」


ディース様もすぐに察して小声で尋ねてくる。


「まだ分かりません。草むらが揺れただけですので」

「そうか。だが、念の為に速度を上げておこう」

「はい。それが宜しいかと」


僕は膝立ちになって、横に広がる森林に視線を向ける。


耳を澄まして、僅かな物音も取りこぼさぬように。


 カサッ。


カサカサッ。


(明らかに追ってきてる? ……少し誘ってみるか)


僕は馬車から身を乗り出し、地面に落ちていた手頃な石ころをかっさらう。


「少し誘ってみてもいいですか?」

「そうだな……このまま、正体不明の存在に追跡されるより、正体が分かった方が対策のとり方が分かるか。分かった。加速の準備に入る」

「お願いします。では……三……二……一!」


僕は石ころを草むらに向けて投擲。


がぅ!?


僅かに獣の悲鳴のような声が聴こえてきた。


「魔物です!」

「っ!」


馬車の速度が上がる。


そして魔物は姿を表す。


「あれは……アルマジロ?」

「ん? あれはマルマールだな」


アルマジロみたいに体を丸めでコロコロとこちらに向かって転がってくる魔物の名前はマルマールらしい。ポ〇モンみたいな名前だね。


「気を付けろ。奴らの体当たりは若木程度ならへし折る」

「マジですか!?」


流石にそんなパワーで突撃されたら馬車は持たない。


僕は背中から新調した鋼の剣を引き抜き、低く構える。


(横払いしか選択肢ないよね? 縦振りはかなりリスクがあるし)


横払いなら面攻撃だから当てやすいけど、縦振りは線の攻撃だ。外したら馬車に直撃コースだ。ミスは許されない。


僕は集中して体当たりをしてくるマルマールなる魔物に備えた。


(数は三匹……速度は馬車に迫る勢いか)


間もなく接近するだろう。


「来ます!」

「私は操縦に集中するが」


大丈夫か? と暗に言われる。


「大丈夫です! 任せてください!」

「分かった。君を信じよう」


もちろん不安はある。


でも、受けた仕事だ。


依頼主を不安にさせたら冒険者失格だろ!


気張れよ、僕!


迫る一匹目。


「ふっ!」


星三になり強化された身体能力は問題なくマルマールを補足。


振り抜いた剣の峰にぶつかり、一瞬の均衡のあと、マルマールは吹き飛んだ。


ホームラン!


もちろん油断はしていられない。


すぐに剣を引き、次に備える。


その後は、体当たりを仕掛け続けるマルマールを捌き続ける。


それが半時ほど過ぎたところで、マルマール達は諦めたのか追いかけて来なくなった。


僕は疲れ果てたように座り込む。


「ふぅ……何とか追えました」

「良くやってくれた。正直、君みたいな細身な子には無理だと思っていた。見かけによらず力持ちなんだな」

「冒険者ですから」


適当にはぐらかし、息を整える。


星三になって身体能力が一段階あげただけで、一気に強くなった気分だ。


(普段から僕がどれほど無駄な動きがあったのかもわかった)


これは収穫だ。


限られたリソースで動くことにより、僕の動きからどんどん無駄が省かれていく。


これからも多くの経験をすれば、より無駄無く効率良く動けるようになるだろう。


(効率化効率化♪)


ゲーマー魂が揺さぶられる。


いや、もしかしたら無駄を嫌うマナに感化されたのかもしれないね。


マナたちは僕から生まれたから、僕の影響を受けるけどその逆もあるのだろう。


マナからは魔法に対する熱意を。


雛からは人を助けたいという想いを。


ライアからは礼節を。


澪からはノリや勢いを。


そして時雨や空音にも今後影響を受けるのかな。


変わらないようで、案外僕は変わっていっているのかもしれないね。


でも、嫌な気分じゃない。

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