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142話 新大陸26

余談だけど、僕は魔力関連を縛って冒険者アーサーとして活動予定だけど、もちろんマナたちがそれを良しとはしない。


その為、僕には認識出来ない魔力に変質させて、魔力領域(マナテリトリー)を展開している。


でも、本来の僕の魔力が最高級のソナーなら、変質させた魔力は安価のソナーみたいなもので、そこまで制度も高くないし、いざって時に迎撃とかに手間がかかるらしい。


あくまで、今の僕の手に負えない相手の索敵に備えての対策だ。


その為、僕は闘気に使う魔力以外はほぼ全てマナたちに制御を任せている。


本当にやばそうなら、自動的に魔気が発動するし、勝手に魔法が発動して僕の生存を最優先に動く。それがマナたちが僕を冒険者として好きにさせてくれる理由だ。


それなのに、早々にマナたちに頼ったらかっこ悪いじゃないか。


ということで、僕は現在途切れた足跡のそばで黄昏ている。


「川に挟まれたらどうすればいいんだろう……」


足跡は川を渡ったとされる辺りで消えていた。


追跡するには、僕はあまりにも無知であった。


「ダメだなあ。でも諦めたくない!」


僕は何かいいアイディアは無いか、頭を働かせる。


(そう言えば、川って川下と川上があるんだよね)


流れがある。


平面に見えても、流れは一方通行。


つまり川上……高い位置から吹き出る水が下っていって、川下に向かう。


「えっと……だから?」


なんだ? それだけでしょう?


いやいや。


「確か、あ〜そうだ! 生物は基本的に川の上側に住み着くとかだ! 川下だとなんかなんやかんやあるからとかで!」


理由は思い出せないけど、そんな感じだった筈だ。


ということで、川上に向かい進んでいく。


前世のくだらない知識もたまには役に立つ。


川上にはコボルトが数体居た。


(おかしいな。昨日盗んだ野菜が手付かずだ)


でも、コボルトたちは野菜を一箇所に集めて、その周りを守るように座っている。


(なんか、貢物みたいだ。上位者が居たりするの? コボルトだから……ハイコボルトとかホブコボルトとかそんな感じの奴。流石にジェネラルやキングクラスは居ないだろう)


ジェネラルなら一ランク。キングなら二ランクは討伐等級が上がる。討伐等級が上がれば危険度も高い。


冒険者になってから得た半端な知識だ。


上位の討伐等級の魔物ほどそれが当てにならないらしいけどね。突然変異などもいるらしいから。


(どうしよう。あのコボルトたちを倒しておく? それとも親玉みたいのが戻ってから倒すか……)


コボルトは嗅覚が優れるから血の匂いなんかさせたら、警戒して逃げるかもしれない。


(少し粘ることになるけど、待つか)


ここら辺一帯のコボルトを一網打尽にしないと、今後も村の作物を盗むだろうし、下手したら農民が襲われるかもしれない。


あのボロ雑巾が護ってるだろうから不安はあんまりないけど、依頼を遂行するならしっかりやり遂げないと!


僕は決意を強くして、じっとしゃがみこんで親玉の帰還を待った。



しばらくしてコボルトの数が増えた。


二十匹ほど。


……多くない?


でも、その疑問も直ぐに納得のいくものになった。


(あのまん丸いお腹。短めの両手両足……そして豚みたいな鼻。オークさんか)


オークログイン!


確か討伐等級は星四! 二つ格上です。


行けるか?


僕は剣に手を添える。


(いや、行くしかない!)


僕は気を伺う。


オークはノシノシと真っ直ぐ貢物に向かい、そして野菜を躊躇いなく口に運び頬張る。


周りのコボルトはそれを涎を垂らしながらも手を出さない。


「ブホォブホォ」


コボルトたちの姿を見て、愉悦に浸りブサイクな笑い方をするオーク。


(油断しきっているなぁー。……今です!)


僕は草藪から飛び出し真っ直ぐオークの元に駆ける。


闘気はそこそこ。推定身体能力は星二冒険者相当。


これも縛りの一つ。


ある程度、身体能力の上限を決める。


冒険者の等級が上がれば上がるほど、その上限を上げていく。


こうでもしないと大抵の魔物は相手にならないからね。


星二相当だと、星四の魔物と真正面からぶつかり合ったら、押し負けるだろうなら奇襲戦法。


(卑怯だとは言うまい!)


背後からオークの首目掛けて思いっきり剣を振り下ろす。


フルスイング!


グサッ!


「硬いなぁ!?」


少し切り込んだところで剣の勢いが止まってしまった。


「ブホッォォーー!!」


こちらに殺意を滾らせる瞳を向けてくるオーク。


「「「オオーン!!」」」


そして動き出すコボルトの集団。


(絶対絶命ってやつ?)


冷や汗をかく。


オークが持っていた棍棒による横殴り。


「っと!」


間一髪、躱し剣を正眼に構える。


少しづつ後退りしながら辺りを見渡す。


(コボルトによる包囲網。そして正面から迫ってくるオーク……)


普通なら諦めるところ。


でも挑戦したくなった。


今の僕がどれだけやれるのか、そして強くなれるか。


「試させてもらいます!!」


自分を鼓舞してコボルトに向かって駆ける。


(ボス戦の基本! 最初にワラワラ湧く雑魚の処理!)


一瞬で間合いに入った僕にギョッとした顔をする犬づらの魔物コボルト。


「ふっ!」


剛の剣撃により、首をはね飛ばされ絶命。


視界の端に映った槍の残像に反射で顔を引くと真横から粗末な木の槍の先端が通過していく。


振り上げた剣を袈裟斬りに振り下ろし、槍のコボルトを切り裂く。


だけどゴブリンより丈夫だからか剣の刃はコボルトの身体の途中で勢いを失う。


剣を抜くのに手間取っていると背後から風きり音。


咄嗟にしゃがむと頭上で棍棒が横薙ぎ。


急いで剣を引き抜き、オークから距離を取る。


(ひゃ〜ギリギリじゃんか)


心臓がパクパクしている。


「ブホッォ!!」


避けられたのがご立腹だからか、コボルトの死体を棍棒でやたらめったら叩きつける。


挽肉になっていくコボルトの死体。


「死者を冒涜するな!」


命を奪ったのは僕だ。


僕のわがままであり、人のわがままだ。


でも、苦しめたり痛めつけたりするのは間違っている!


「命は等しくはない! お前たち魔物の命は僕達人間にとっては軽いものだ! でもそれはお互い様だ。だからこそ、せめて奪った命を貶めてはダメなんだ!」


僕は通じないと知りながら、剛の剣撃をオークの腕に叩きつける。


「グボッ!?」


棍棒が手から離れ、オークの手は血塗れだ。


「お前の八つ当たり相手はここに居るのぞ! 掛かってこい! 豚しゃぶにしてやる!」

「ブホッォォォーー!!!!」


棍棒を拾うこともせずに僕に正面から突進。


僕は躱しきれずに吹き飛ばされる。


「くっ!」


何とか衝撃を逃がすように転がりながら体勢を整える。


(身体中痛ってぇ……でも、マナたちはまだ見守ってくれている)


まだ、僕が負けると判断していない。


していたらもう、勝負を終わらせてしまうだろう。


「なら……べっ! 期待に応えないとねぇ!」


口の中の異物。血を吐き出し僕は獰猛に笑う。


「行くぞぉ!!」

「ブホッォ!!」


互いに駆ける。


僕は考える。


どうすればいいのか。


「格上の魔物……モンスターと戦う場合、大抵は異常状態にしてじわじわ削って倒すんだよね。狩りゲーは!」


だが、生憎と毒も麻痺も睡眠も何一つ持ち合わせてはいない。


でも、一つだけある。


僕はオークの真横をスライディングですり抜け、周りで包囲網を囲っていたコボルトを切りつける。


「キャン!?」


倒れたコボルトから石斧をかっさらい、こちらに向かって方向転換しようとしているオークに向かって駆け寄り、石斧を無造作に叩きつける。


オークの身体に刺さった石斧をそのままにして、他のコボルトに襲いかかる。


今度は木の槍。


それもオークの攻撃を躱したすれ違いざまに腹に突き刺す。手放す。


(鋭利なもの!)


コボルトの中で鋭利な武器を持つヤツを優先的に倒し、武器をかっさらいオークに突き刺し続ける。


するとオークは徐々に動きが鈍くなっていく。


(きた! 出血効果!)


動けば動くほど、傷穴から血が流れていき体力を奪っていく。


(某有名死にゲーの最適解! 出血ゲーじゃ!)


オークフェスティバール!


誉れ高き英傑たちよ!


かの神話の英雄に挑まん!


なんちゃって!


僕のテンションが最高潮に達する。


アドレナリンがドバドバ流れ、身体の動きが重たいのに、更に機敏に動く。


視界は狭いのに広く見える。


オークは格上なのに負ける気がしない。


デタラメに拳を振りまくるオーク。


そしてそれを躱し続ける僕。


(鉄の剣じゃ、コイツの脂肪に覆われた筋肉は断ち切れない。それに剣の耐久値が持たないだろうから、下手したらへし折れる)


貰い物の剣をそんなぞんざいに扱えない。


魔気によるコーディングや時空魔法による状態の固定や、付与(エンチャント)による耐久値上昇。


魔力と魔法関連ならいくらでもやりようは思い付くけど、それ以外だとさっぱりだ。


本当に僕は魔法以外てんでダメだ。


苦笑いをしてしまう。


(確か、剣道において突きは経験者じゃないと使っちゃダメとか、中学生以下は使っちゃダメとかそんな感じじゃなかったっけ?)


それぐらい突きの殺傷力は高い。


僕はふとそんなことを思い出し、それを実戦に使うことにした。


オークの動きが鈍くなってもコチラは身体能力では劣るから次第に攻撃を躱しきれずに擦り傷を重ねていく。


それでも僕は戦意を滾らせ、勝機を待つ。


(勝負は一瞬だ。自分の殻を破れ!)


思考が加速する。


世界が徐々にゆっくりに感じられる。


オークの動きが読めるようになった。


痺れを切らしたオークは大きく拳を振り上げる。


(今だ!)


僕は身体を思いっきり捻り、剣を逆手に持って投擲する構えで、オークの懐に潜り込む。


「行けェ!!!」


グサッ!!


剣を叩き込む。


「ブホッ……!?」


振り上げた拳を僕を引き離そうと振り下ろす。


だけどその威力は大きく減少しており、少し骨が軋むだけだ。


(でも痛いのには違いないよ!)


堪える。


オークの攻撃を何度も受けながらも剣から手を離さず堪える。


(早く……倒れろ!)


矛盾している。そう感じた。


人々を救うために力を付けたのに、今は逆に命を奪うために力を振るう。


生物の死を望んでいる。


あまりにも矛盾している。


でも。それでも。


「それが僕の業だぁぁ!!!!」


守りたいものがある!


助けたいものがある!


だから矛盾してても、僕は命を奪う!


救いたいもののために!


剣を捻じる。


「…………」

「はぁ……はぁ……」


オークは一切動かなくなった。


僕もその場に崩れ落ちる。


周りの生き残りコボルトが慌てるように逃げ出す。


それを尻目に僕は脱力していた。


(出し尽くした)


その場に倒れ込む。


強い達成感。


そして強い苦しみを胸に抱いた。


(オーク。お前の命を糧にさせてもらうよ)


僕は少しだけ強くなれたかな?


なれたなら良いなぁ。

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