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141話 新大陸25

僕は早朝早くに街を後にした。


アーサーとしての稼ぎではポーションは買えないし、防具もキツい。


いつものラフな格好に貰い物の鉄の剣を背中に背負って、踏み締められた道を進んでいく。


時折、獣の呻き声とか聞こえてくるけど襲っては来ない。


左右の生い茂る草木ととこまでも続く道を歩いていくのは、冒険者日和に尽きる。


適当に木の棒を手に取ってみたり、鼻歌を歌ったりと僕なりに満喫。


そうして、ミサさんやソフィーさんが言った通り半日ほど、日が高くなる頃に村が見えてきた。


大きな畑に囲われた農村だ。


畑にはチラホラ畑仕事をしている人達が居る。


それを眺めながら、建造物に密集している村の中心に向かう。


そこに来てようやく村の入口となる門とコッコ村と書かれた看板がセットでお出迎え。


特に門番などは居らず、そのまま門を潜り村におじゃまする。


村に置かれた井戸を中心に女性達が洗濯板と桶で衣服をゴシゴシ擦っていた。


女性達は世間話に花を咲かせており、話しかけるハードルが少し高い。


マナたちも引っ込んでいて、スピカもシャルルに懐いてここには居ない。完全なるソロプレイ。


自分が望んた事だけど、心細い。


(贅沢になったもんだよ。前世は一人でいることが当たり前だったのに)


一生独身かなぁ。とか思ってたし、誰かがそばに居る生活とか無理! とか今どきの若者の考えに感化されたりもしてた。


人見知りで口下手。俗に言うコミ障。


そんな僕は今や……なんだ? 神子で冒険者で商人? ほんっと。やることが増えたよ。


少し懐かしんでぼぅっとしてたら、太ももに衝撃が。


「いたっ!?」

「おい、おまえ! よそ者だろ! なにしてんだ!」

「や、やめようよ。かっちゃん」

「お前は引っ込んでろモクズ」


二人組の少年が僕の前に現れた。


一人は気の強そうなつんつん頭の少年で、恐らく彼が僕を蹴ったのだろう。


もう一人は気の弱そうな、僕みたいの少年だ。シンパシーを感じます。


「そもそもお前がコイツを蹴ったんだろうが!」

「だ、だっと、お父ちゃんが怪しいヤツは追っ払えって」

「君が蹴ったんかよ!?」


気弱そうとかシンパシーとか、全部僕の勘違いかよ!


「お、おじさんは誰? 何しに来たの? 蹴るよ?」

「3つ目のは質問じゃなくて脅迫だよね!? あと、僕はまだ十代だよ!」


精神年齢は違うけどね!


「おうおう。モクズの蹴りやべぇんだぞ! 俺はいつもコイツに泣かされてるかんな!」

「まさかの攻守逆転!?」

「お父ちゃんが言ってた。生意気なヤツは蹴っとけって」

「君のお父ちゃん物騒だな!?」

「俺の親父は言ってた。モクズの親父には逆らうなって」

「もはや上下関係が確立されてるぅ!?」


世知辛いよ! そりゃあ、田舎は年功序列がすごくて、新参者などは下っ端の使いっ走り扱いだもんね。


「えっとね。僕は冒険者です。依頼を受けてこのコッコ村に来ました。村長さんのお宅はどちらかな?」

「嘘だ!!」

「えっ!?」


いきなりヒステリック起こした可愛いもの好きな女子学生にも負けない怒声による否定。


「お前みたいなモヤシが冒険者な訳ない! 嘘をつくな!! お父ちゃんが言ってた! 嘘つきは蹴り殺しても許されるって」

「お、おい! 謝っとけ! 本当にやべえって! モクズの親父は元冒険者で、モクズも鍛えられてんだ! 本当に蹴り殺されるぞ!」


つんつん頭君は良い子だった!


人は見かけによらない。


「僕は冒険者です。嘘は言ってません」


故に僕も誠実でありたい。


嘘をつくなと言われたら真実を告げるだけです。


「なら……死ねぇ!!」


モクズ君が見かけによらない速さで僕のすぐそばまで接近。


そして恐らく普通ではない速度の蹴りを食らわせてくる。


(凄い。身体強化まで言わないけど、僅かに魔力が脚に集中している)


その爆発力が蹴りの威力を引き上げている。


でも、子供の蹴りが大人の蹴りにパワーアップした程度だ。


僕は少しだけ闘気を発動させて、身体能力を引き上げる。


「うそっ!?」


パシっ! と蹴りは僕のお腹に叩きつけられるけど、僕は微動だにしない。


「いい蹴りだね。頑張れば良い冒険者になれるかもね」


冒険者歴二ヶ月ちょいの野郎の戯言になります。せめて星三に昇格してから言いたかった。駆け出しが言うには青二才にもほどがある。


「このっ! 絶対に倒す!」

「よせ。モクズ」

「お父ちゃん!」


いつの間に井戸端会議をしていた奥様方も注目しており、建物の壁に寄りかかった強面の中年がモクズ君を止める。


「でも!」

「モクズ。俺は確かに言った。その力は生意気なヤツに使えって。でもな。そいつは自分より弱いやつにつかうものだ!」

「クソ親父かお前は!?」


僕は気が付けば助走をつけてドロップキックを初対面の中年にぶつけていた。


「ぐぼっ!?」

「お父ちゃん!?」

「っしゃあーー!! おらぁ!? しっ!」


ぶっ飛ばされた父親に駆け寄るモクズ君と、ガッツボーズをかまして全力の喜びを露わにするつんつん頭君。


奥様方も何故かハイタッチを交わしあって楽しそう。


やらかした僕が言うのもなんだけど。


「……うんカオス」




「いやぁ〜お強い! 兄貴と呼んでも」

「やめてください。僕の方が遥かに年下です」


精神年齢は除く。


何故かドロップキックをかました僕にヘコヘコする中年の強面。


「お父ちゃん……」


その父親を複雑な面差しで見つめる息子のモクズ君。


「へへ。いいもん見れたぜ」


鼻を擦りながら、いい笑顔を浮かべるつんつん頭君こと、カジ君。


そんな彼らに村長宅に案内されております。


僕は改めて中年親父さんを見る。


(この農村には不釣り合いなぐらい強いね)


割と容赦ない僕のドロップキックを受けて、大した傷は負っていない。


恐らく身体強化が使えると思う。


あの一瞬、僕の攻撃が届く時に中年親父さんの魔力が高まった。咄嗟だから不安定だったけどほぼ身体強化のそれだった。


(少なくてもBランク冒険者……こちら風に言うなら星六つ以上の実力者だろう)


僕が出会った星六冒険者のアレスさんクラスだと思う。


しっかり装備をして、真正面からぶつかり合ったら、それ以上の実力を秘めてるかも。


「どうして貴方のような方がこの村に?」

「……」


それに彼は応えなかった。


その眼差しはどこか鋭い。


「お父ちゃんはお母ちゃんに一目惚れしてこの村に居るんです」

「じゅるり……今でも思い出される妻との初夜」

「勘違いさせるような顔してんじゃねぇー!」

「ぐぼっ!?」


こっちが実は何か大きな過去が! とか脳内で盛り上がってたのに、初夜を思い出して発情してたとか、最低だわ!


「ちなみに、モクズのおっかぁは俺の親父の幼なじみだったみたいだよ。本当は俺の親父と結婚しようとしてたらしい」

「いやぁ〜依頼で村に立ち寄ったら、えらいタイプのケツのでかい女が居たからさぁ〜つい、ズボッとね☆」

「寝取られじゃねぇーか!! この人間のクズ!!」


僕は蹲っている中年親父を何度も踏みつける。もちろん闘気を発動させて。


(やっぱり身体強化出来るし! かったぁ!)


石を踏んづけてるような感触だった。


「いいよ、兄ちゃん! 親父は知らないけど、俺は今のおっかぁが大好きだ! だから気にしてない! 俺を産んでくれたおっかぁに感謝してるんだ」

「君はいい子すぎませんか!?」


カジ君のいい子っぷりに僕は胸がほっこりする。


「あ〜そう言えばカジのお袋もケツがデカかったなぁ……じゅるり」

「お父ちゃん……さすがに酷いよ」

「兄ちゃん……このクズに地獄の苦しみを」

「……任せてよ」

「げぼっ!!?」


その後は、実の息子にも見限られたボロ雑巾をゴミ捨て場に捨ててきて、村長宅に向かった。


何故、依頼を受けにきただけなのに、受ける前からこんなに疲れるのだろうか。


カジ君とモクズ君が先行して村長の家の扉をノック。


開かれた扉から初老の男性ことコッコ村の村長。


依頼を受けた旨を伝えると、了承してくれてカジ君たちが被害のあった場所に案内してくれる。


途中でボロ雑巾が奥様方に火をつけられて走り回ってたけど、きっと気のせい。あれは可燃ごみの妖精なのだろう。


「ここだよ。兄ちゃん」

「案内ありがとう。これ二人にあげるね」

「なんだ? これ」

「飴って言って、その包装を取ると甘いお菓子が出てくるから口に入れて舐めてね」


二人が包装を開けて、まん丸い飴玉を太陽に透かす。


「綺麗だ」

「うん……キラキラしてる。宝石みたい」

「食べ物だから、食べてね?」


二人揃って口の中に入れて顔が蕩ける。


気に入ってくれたようで良かった。


「後は僕のお仕事だから、気を付けて帰ってね」

「「うん!」」


素直になった二人の頭を撫でて、お別れ。


一人になった僕は被害のあった現場を見る。


「見事に荒らされてる……」


村長曰く、近場で目撃された足跡が昨日の今朝、畑を荒らした足跡と同じものだという。


村長は元冒険者のボロ雑巾から情報を聞いて、これはコボルトの仕業だと判断。


ゴブリンより知恵が回らない分、身体能力は上の討伐等級星二の魔物だ。


僕は一度もお目にかかれていない。


嗅覚に優れており、夜目もゴブリンより効くため厄介度はゴブリンより上だと言われる。


唯一の救いはゴブリンほど繁殖能力は高くないから、そこまで大きな群れにはならないことらしい。


僕は畑の足跡を見る。


「ここからは冒険者の感覚的なやつを発動して追跡するか」


いや、無いけどね? そんな感覚あっても百年単位で怪物退治を生業とした白髪のおじ様にしか使えないからね。あ、馬とか買っとけばなりきれたかな? ローチ! なんつって。


「魔力に頼らないと決めた以上は、地道に痕跡を辿るしかないよね」


僕の冒険者としてのスキルアップの為に持ってこいの依頼だ!

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