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137話 新大陸21

小一時間ほど殴り合いを果たして、クマさんは拳を止めるので僕も止める。


「もう満足したの?」

「うんっ! いっぱい遊んでくれてありがとうっ!」


満ち足りた笑顔のミゥさん。


「お疲れ様! バイバイ!」


ミゥさんが手を振るとクマさんも手を振り返して、スっと消える。


てっきり、ここからは本気を出して僕をバイバイするのかと思った。ちょっとビビった。


「さて、聞きたいことが沢山あるんだ」

「なぁに? なんでも聞いてー」


ホクホクしているから、本当になんでも答えてくれそう。


「お友達はあの子だけ?」

「違うよー。ミゥがねぇーこういうのがいい! ってお願いするとぉーああなるの!」

「なるほどー。じゃあ、いっぱいお友達は呼べるの?」

「呼べるよ! あ、でもねぇーみんなちっちゃくなったりぃー元気が無くなったりするの〜」

「そっかぁー。もしかしてだけど、ミゥさんはクマさんを見たことがない?」

「う? うん! 見たことないよ〜お父さんがねー危ないからぁー森に入っちゃダメー! って言うからぁ。ミゥ約束守ってたのー」

「そうだよねー。約束は大事だよねー。それでさ、ミゥさんはいつからお友達を呼べるようになったの?」

「えっとね〜。お父さんとお母さんと一緒にぃ〜街にね、遊びに行ったの! でもねぇ〜知らないおじさんたちがミゥたちを襲ったの! 怖いよねぇ〜。それでね……お父さんもお母さんも死んちゃった」

「そう、なんだね」

「でね〜ミゥ怖くて、たすけてーってお願いしたら、お友達がねー助けに来てくれたの〜。それからはね〜いっぱいおじさんたちがミゥを連れていこうとするから〜お母さんに知らない人について行っちゃダメーって言われているからねぇ。やだーって言ったらおじさんたちが怒ってね〜ミゥをいじめようとするからぁーお友達にみんな殺されたよ?」

「うん。教えてくれてありがとうね」

「どういたしましてぇ?」


要約するに、両親と街に出掛ける途中で、盗賊に両親を殺害され、自分の命の危機を感じて天武が発現。その盗賊たちを殺してしまう。


そして、生き残りが仲間を引き連れて、ミゥさんの力を利用しようと連れていこうとして、返り討ちにあったと。


恐らく、そのあと国の人がミゥさんは危険だと判断して奴隷の首輪を嵌めたんだろう。


ミゥさん個人に善悪はないんだ。


両親の死も現実味が無くて、もしかしたらその時に心が歪んだのかもしれない。


僕はミゥさんに視線を合わせるようにしゃがむ。


そしてミゥさんの頭を撫でる。


「うぃ?」


首を傾げながら、僕をじっと見詰める。


その瞳は何処か仄暗い。見続けたら吸い込まれそうなくらい。


「ミゥさん。今度クマのぬいぐるみ買ってあげるね」

「ほんとっ?」

「約束するよ」

「やったぁ! お父さんとお母さんにお誕生日プレゼントで買ってもらうはずだったんだ〜」


そっか。だからその日は……。


「クマさんのぬいぐるみだけじゃない。他にも沢山のぬいぐるみ買ってあげるからね」

「わーい! やったぁ! あ、あのねあのね!」

「ん? なぁに?」

「ミゥね! 本当はもっと欲しいものがあるの!」

「なにかな?」

「お兄様!」

「お兄様?」

「うん! 絵本にねぇ。出てくるの! 妹のお姫様に凄く優しくてぇ、いつも守ってくれるの! ミゥお兄様が欲しい! お兄ちゃんがミゥのお兄様になってくれる?」

「……うん。いいよ。僕はミゥのお兄様だ。これからはうんと甘えていいからね?」

「お兄様……お兄様……お兄様! わーぃ! ミゥだけのお兄様だぁー!」

「わわっ」


懐に飛び込んできたミゥを受け止めて、優しく撫でる。


「お兄様お兄様お兄様ぁ!」

「うん。なぁに」

「お父さんもお母さんも死んじゃったぁ〜」

「……うん」

「お兄様は死なないよね〜?」


少し潤んだ瞳で僕を見上げる。


それはきっと誓いだ。


この子を独りにしない誓い。


「死なないよ。死ぬもんか。僕は……世界一のお兄様だからね」

「えへへ」


ミゥは無邪気な笑顔を浮かべる。


今日初めて見る屈託のない笑顔だった。


『お兄ちゃんが! 幼女にぃ! と〜ら〜れ〜た〜。うわーん。お兄ちゃんの浮気者ぉ〜!』

(あ、雛待って! 誤解だよぉ! カムバック雛ぁー!!)


雛が走り去っていく足音だけが僕の脳裏に響き続けた。


絶望したぁ!


『あれはちょっと拗ねてるだけよ。直ぐに機嫌直るわ』

『うんうん。義理の妹より、実の妹の方が大好物のレイン君のことだからね〜』

(ちょっと? 語弊を招くような言いがかりはよしたまえ!)

『ですが、御主人様のライトノベルやゲームの大半には妹さんキャラが登場しているのも事実です……メイドさんはあまり出てきません』

(いや、妹は大抵の作品に出てくるから! メイドさんはレア過ぎて出せる機会が少ないだけだから!)

……“こなたたちも妹きゃら?“

(……ノーコメント)


多分そうです。


「ご主人様。女の子にベタベタしすぎです」


シャルルがジト目で注意してくる。


「お姉ちゃん妬いてるのぉ? 大丈夫だよぉ? ミゥはねぇ〜そくばくしないの! お母さんみたいに!」

「や、妬いてなんか……あと、ミゥちゃんの闇を少し聞いちゃった気がします」


うん。僕も。


願わくばその遺伝子がミゥに遺伝してないことを。


「それでどうする? ヒュースさん。今からやろっか?」

「勘弁してくれよ〜全盛期の俺ならともかく、今の片腕じゃ勝負に何ねぇーよ。……あんなに動き回って息一つ乱れてねぇとかバケモンかあんた」


手をヒラヒラさせて降参のポーズを取るヒュースさん。


戦場を渡り歩いたその技術を体験したかったけど、残念。


「全盛期は凄かったの?」

「そりゃあ、一騎当千の英雄だぜ」

「自分で言うかな?」

「事実だしな。それに確かめようも無いだろ?」


ヒュースさんは少し寂しそうに笑った。


もしかしたら遠い過去を思い出しているのかもしれない。


確かに。確かめられないね。


本来なら。


「なら確かめてみようか?」

「は?」


(雛さーん! 僕の世界一可愛くて優しくて、最愛の雛さーん。僕一人では心細いので助けてくださーい!)

『も〜! しょーがいおにぃーちゃんだね〜♪』


本当だ! 少し拗ねてただけだから、直ぐに機嫌が直った。


(いくよ雛!)

『違うよお兄ちゃん!』

(えっ……あ! なるほどね〜)

『せーの!』

『(いっくよー!)』


僕はヒュースさんの肩に手を乗せて魔法を発動させる。


「動かないでね? ……『ヒール』……『過大深化(オーバーアップグレード)』!」

「うお!?」


ヒュースさんの失った右腕が凄まじい速度で再生していく。


骨、繊維、筋肉、血管、皮と最新のCGみたいに詳細に再生されていく。


ちょっとしたサービス。


自分の腕が蘇っていく過程をお楽しみください。


「す、スゲェ。お、俺の腕が帰ってきた……帰ってきたぞぉーー!!!!?」


治りきった右腕をグーパーしながら崩れ落ちて、咽び泣くヒュースさん。いや、これじゃ絶望してるようじゃん!


普通に雄叫びを上げるぐらい喜んでくれている。


「この御恩は! この御恩は忘れません!」


地べたに頭を擦り付けて感謝を述べるヒュースさん。


ガバッ! と顔を上げて、僕をキラキラした瞳で見詰める。


「貴方に一緒の忠誠を捧げます……君主(マイロード)!」

「いや、誰だよお前!?」


アルシアさんのツッコミが的確だった。


「いや、そこまでは僕も望んでいないかなーなんて」

「お構いなく。これは俺なりの誠意ですから。勝手にお仕えします!」


主人の意向無視する気満々だぁ!


「ごぉらぁ! 貴様! なに君主(マイロード)より頭高くいやがる! しゃがめ馬鹿者ぉ!」

「いや、チンピラじゃん!? 兄貴に媚びるチンピラじゃん!? あと、普通に立ってるだけだから! コイツが私よりちっさいだけだから!」


アルシアさんのツッコミが冴え渡る。


でも、僕にはダメージががが。


「なに訳の分からないことをほざいてやがる!」

「お前だよ!? 訳の分からないことほざいてるの、お前だからな!?」

「申し訳ございません君主(マイロード)。今すぐにこの無礼者を黙らせます」

「いや、ちょっと」

「そうですそうです! ヒュースさんやっておしまいなさい! その芋臭い方にはお灸を据える必要があります!」

「御意」


いや、シャルルの言うことも聞くの!?


あと、スピカはシャルルの頭が気に入ったみたい。


「ああ! やってやるよ! かかってこいよ!」


アルシアさんがヤル気満々だぁ!?


「ストップ! ストーップ! 許可しません! 仲間内での戦いは不許可です!」

「……ち。命拾いしたな」

「はん。お前こそ」

「私が許可します! ヒュースさんやってあいたたた!?」

「シャルルは少し黙ろうねぇ?」

「ごめんなさいごめんなさい! 反省しましたので離してくださーい!」


直ぐに調子に乗るんだから!


「でもそうだな。一回それっぽいことしても良いんじゃねぇーか?」

「それっぽいって、忠誠云々のことかしら?」


比較的大人しいトムさんとトワさんさんが何か話し合っていた。


「何の話?」

「いや。俺たちは既に旦那の所有物ですけど、一回この先どういう風に接していくか。決めていこうかと思いまして」

「僕は別に気にしないんだけど」

「わたしたちの問題よ。犯罪奴隷になった以上、この首輪が外れることは無いわ。ならば、奴隷として浅ましく生きるか、少しでも人間らしく生きるか。その選択肢なのよ。今回の契約は」


エバン君が彼らを任せたのは、ひとえにどう生きるか決めさせる為だったりするのかな?


僕の奴隷として生きるのもよし、牢屋に戻って余生を過ごすのもよし。そんな感じ?


「流石に早くない? もう少し猶予とかないの? 僕的に一年ぐらいあっても良いんだけど」


別に本当に奴隷として扱うつもりは無いんだけど。普通に従業員みたいに雇う感覚だった。


「それじゃ示しがつきませんよ。それにエバン様からは一目で気に入るかどうか分かるからさっさと決めろと言われてますんで」


やだ。エバン君ってせっかち。


「そっか……本当ならもっと話し合いとかしてからが良かったんだけど。分かった! みんなの答えを聞かせてください。僕と一緒に行くか。それとも元の場所に戻るか」


僕の言葉に騒がしかった庭は静かになり、トムさんたちは顔を見合わせる。


そしてアルシアさん以外が一斉に跪く。


「俺は旦那が気に入りました。是非、俺の力を使ってやってください」


トムさん。


「俺の気持ちは固まりました。この命を掛けて君主(マイロード)に尽くします」


ヒュースさん。


「わたしも。あなたのような理解者の元でなら、わたしは楽しくものを生み出さる気がするわ」


トワさん。


「ミゥはお兄様と一緒がいい! その方が楽しいと思う!」


ミゥは跪くというよりベタりと座り込んでいる感じだね。


「なんていきなりそんなムードになれるんだよ!? 会って早々な奴に、奴隷を買うような変態に何期待してんだよ! 仮面も取れないような臆病者なんかに」


パカッ。


「って、何さりげなく仮面外してんだよ!?」

「いや、外せるけど、外すタイミングが無かったから」

「そこは、なんか火傷の痕とか、醜いからとかそんな感じの匂わせじゃん!? 普通の顔ってなんだよ! あと、その前髪鬱陶しいわ!」


アルシアさんの怒涛のツッコミが炸裂。


「ふふふ……僕にはまだ三つほど変身を残しているのですよ」

「お前は本当に人間か!? 人間の姿をしたナニカなのか!?」

 「嘘です。あと一段階ぐらいがやっとです」

「なんで嘘ついたし!? しかも一回はあんのかよ!?」


ぜーぜーと肩で呼吸するアルシアさん。


うーん。ツッコミが居るとボケが捗るなぁ〜。


「アルシアさん」

「……なんだよ?」

「是非、その力 (ツッコミ)を貸してください」

「なぁ。なんか変なこと言わなかった?」

「えっ? 気のせいだよ〜」

「う、嘘くさい……はぁ、まあいいっか。どうせあの臭い牢屋で燻っていてもアレだし、なってやるか。お前の奴隷に」

「ご主人様。芋臭い女性はお引き取りしてもらいましょう。屋敷が芋臭くなります」

「っておい! お前は私になんか恨みでもあんのか!?」

「僕は芋、好きだよ?」

「私があたかも芋臭いことを肯定するような発言はやめろよ!? 芋なんか食って」

「そう言えば今朝の牢屋の飯に芋入ってなかったか?」

「入ってたわね〜」

「ミゥも〜」

「俺もだ」

「……私もだぁ!?」


みんな芋臭かったんだね。


「もしかしてシャルルって嗅覚が無駄(・・)に良いの?」

「ふふーん。だから芋臭いと言ったじゃ……ん? 無駄と仰いました!? 私の数少ない特技を無駄だと!?」

「それじゃ、みんなこれから宜しくね!」

「無視しないでくれますか!?」


これからは賑やかになりそうだね。

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