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136話 新大陸20

さてと、取り敢えず一人づつ確認していくか。


僕は一番上の犯罪奴隷さんの詳細を読んでいく。


(元裏ギルドの諜報員で人間の男性。年齢は三十六と中々の中年さん。罪状は裏ギルドの仕事を放棄して逃亡か……)


「えっと、ファントムさん?」


僕は明らかに偽名だと分かる名前を呼んでみる。


「俺です」


五人の中から一番身長が高い人が一歩前に出る。


フードを脱ぐと、そこには精悍な顔立ちの男性が現れた。


「その書類からも分かる通り、俺は元諜報員です。本来なら始末されても文句言えないような立場ですが、幸運なことに奴隷落ちで済みました」

「理由を聞いても?」

「……お答え出来ません」

「ご主人様。主人には強制的に命令出来る権利があります」


シャルルが僕をじっと見て言う。


まるで試すかのように。


「そっかー。大変だったね。後で纏めて話すけど、君のその力が僕には必要です。今後とも宜しくね!」

「……はい」


これが正解なんでしょう? シャルルさん。


シャルルは安堵したように肩を撫で下ろす。


「それじゃあ、次だけど〜」


一枚捲り、文字に目を滑らせる。


(元盗賊……この場合は盗人か。でハーフエルフの女性。年齢は二十八か。罪状はやはり窃盗。貴族に豪商などの金持ちから金品の強奪をして末に捕縛と)


「アルシアさん?」

「私か」


少しぶっきらぼうに言い、一歩前に出る。


フードを脱げばそこにはまだ十代そこらの少女に近い見た目の女性。


目付き悪っ! こう殺気がこもった眼を向けられている。


「一つ言っておきたい。私を抱くつもりなら諦めろ。忌み者になるぐらいなら舌を噛みちぎってやる」

「無礼ですよ。奴隷風情が」


ちょっとシャルルさん!? なんでそんなに貴女もオラオラなんですか!?


ビックリするぐらいアルシアさんの態度が悪いのは分かるけどさ。


「はん! 変な格好なうえに幼女趣味だとは、流石はお貴族様だっ!」

「訂正してください。私はそんなに幼くありません!」


そこ!? そこだけなの君の反感を買ったのは!? もっとご主人様のことを大切にしようよっ!!


「おいおい。ハーフエルフのお嬢ちゃん。俺たちのご主人様にそんなに牙を立てるなよ。せっかく拾った命なんだから、もっと大切にしろよ……な?」

「っ! 私に触るなぁ!!」


ファントムさん……長いからトムさんがアルシアさんを諌めようと肩に手を乗せた瞬間、アルシアさんがトムさんを背負い投げ……こほん。背負い投げぇ〜をした。


「おっと!」


だけどトムさんは流石元諜報員だからか、空中でバランスを取って軽く着地をしてみせる。


「おお〜」

「へへ。これでも若い頃はサーカス団に居たもんで」


諜報員関係ないのかよ!?


「ご主人様! あの者は無礼が過ぎます! お仕置しましょう! ご主人様のアイアンクローの出番ですっ」

「シャルルも落ち着いて? えっ、もしかしてそんなに痛かったの?」

「痛かったです!」

「ご、ごめんなさい」


マジかよ。ちょっと魔力を込めただけだったけど、普通の女の子には過剰だったみたい。反省。


「これからは半分ぐらいの威力に抑えておくよ」

「いえ、あの……何故、私がおいたをする前提なんですか?」

「いや、だってするじゃん」

「確定された未来なんですか!?」

「あはは。旦那とお嬢は仲がよろしいんですね。あ、お二人をそう呼んでも? そっちのがしっくる来るんですよね」

「それでいいよトムさん」

「トムさん?」

「ファントムさんは長いからね。だからトムさん」

「そいつぁいいや! トムさんかぁ。悪くねぇ」


気に入ってくれたようで良かった。


シャルルは何故か頭を両手で庇っている。


そんなことしても貫通して喰らわせるぜ?


「何、私の事無視してくれている訳?」

「くくく……」

「おい。今、お前笑ったな? 殺すぞ」

「いやいや。面白くてな。あとそれは無理だろ? たかが盗人風情にはこの首は落とせねぇよ」


なんか、アルシアさんがまだ出番前の人に絡んだ!?


「旦那。アイツは顔こそ美男子だが、戦場では一騎当千の強者で知られてます」

「いや、顔見えないし。名前は……この、ヒュースさんかな?」


(元傭兵で人間の男性。年齢は二十二。トムさん曰く美男子。罪状は……戦場にて人を殺しすぎたから?)


「この、人を殺しすぎたって」

「まんまだよ。俺は雇われて殺して殺しまくった。結果、片腕も失って奴隷落ちよ。意味分かんねぇよなぁ?」


バサリと豪快にフードを脱ぎ捨てた顔立ちは確かに美男子だ。甘いマスクとか呼ばれている優男っぽい感じ。そして右腕が無い。


「ヒュース! 腕がぁ!? 持ってかれたぁー!? のですか?」

「いや、なんだよその訳の分からねぇノリ」


いや、纏めてやれそうなタイミングだったのでつい。


「おい! 私を無視するな!」

「あ、アルシアさん。これから宜しくね! 君が危惧するようなことは絶対にしないから安心して!」

「……それは、私みたいな半端もんになんか興奮する価値すらねぇってことか?」


いや、めんどくさいな!? なんでそこで拗ねるの?


「ふん。貴女みたいなイモ臭い女性は、ご主人様のお口には合わないんですよ。分かったら、庭掃除でもしてきてください」

「あん?」


だから、なんで煽るのシャルルさん!?


「アルシアさん落ち着いて。アルシアさんは可愛いから、迫られたらドキドキすると思うけど、僕は人が嫌がるようなことはしないって決めてるから! あ、悪人は除くけどね」

「ほら、ご主人様がご慈悲により、貴女のようなイモ臭い女性にす (がしっ)……あ、あのご主人様? 痛いです。手加減されてますか? 本当に威力は半分になっているのか、些か疑問を抱かずにはいられないたたたっ」

「ごめんねー。この子ちょっと調子に乗る癖があるみたい。今日発覚したけど」

「……ふん」


アルシアさんは腕を組んでそっぽを向いてしまった。耳が少しピクピクしているのは、スーニャぽくて懐かしくなった。会いたい。


「くくく。本当に愉快な連中だ。で、アンタ」

「僕?」

「俺を従わせたかったら、俺より強いことを証明しろよ。俺は弱ぇやつの下につくつもりはねぇ。勝負しろ」

「う〜ん。後でいい? 取り敢えず自己紹介を終えたいんだ」

「ああ。いいぜ? せいぜい無様な姿を晒さないことだなぁ」


くくくと楽しそうに笑っている。楽しそうで何よりです。


「それじゃ、次は〜」


(元国家発明家? 人間の男性で年齢は二十。罪状は発明物の爆発による被害)


「事故ならしょうがないんじゃないかな?」

「あら? わたしのことかしら? 素敵なご主人様」

「トワさん?」

「ええそうよ」


モデル歩きで数歩前に出てきて、フードを華麗にバサッ。


現れたのは細身の色白くて、長い髪が似合う美人。声が少し低いけど、普通に女性に見える。


「これ性別書き間違えてない?」

「間違ってないわよ。わたしはオスだもの」


あ〜はい。なるほどなるほど。


「了解。さっきも言ったけど事故なんでしょう?」

「そう、あれはわたしがまだ幼かったころよ」


なんか始まった。


「要約するに、ものづくりって、男性と女性によっては求めているものも考え方も違うのね? だから、女性の気持ちを少しでも理解出来るように口調だけでも真似てみようと思ったら、しっくりきちゃったからこうなったわけよ〜」

「へ〜。凄い努力家なんだね!」


いいモノを生み出すためなら、性別すら超越するか。


「……気持ち悪がらないのね?」

「ん? みんな違ってみんな良いという言葉があるぐらいだからね。少なくでもトワさんにはそんな感情抱かないかなぁ」


口調こそ女性だし、ビジュアルも良く見たら中性的だけど、言葉の端々には相手に敬意を払っているし、不快にならないように喋り方も工夫している。本当に努力家な人だ。


「僕にトワさんの力が必要です。これから宜しくね!」

「うふふ。奴隷抜きにしても、あなたには忠誠を捧げてもいいかもね。そんなあなただから教えるけど、わたしは嵌められたのよ」

「つもり第三者による意図的な工作による事故?」

「あら、ほぼ全部言われたわ。どうして思うのかしら?」

「トワさんは努力を惜しまない人だと話してて分かったからね。そんな人が嵌められたと言ったんならそうなんでしょうし、トワさんなら危険性のある実験なら安全をしっかり確保してから挑む気がするからかな?」

「過大評価にも程があるわ……でも、そうね。その通りよ」

「旦那。トワは神童と呼ばれてたんですよ。若くしてその才覚を発現してからは多くの便利な物を生み出して、それに嫉妬するような連中がトワを嵌めたんです」

「国家発明家というぐらいだし、相手は貴族の子息だったりするの?」

「その通りですね」

「国も勿体ないことしたよね。トワさんの事を信じないで」


こんなに良い人を犯罪奴隷にするなんて。


エバン君にはやっぱり王様になってもらった方がこの国のためなんじゃないかな。


「ありがと。でもお陰で理解者を得られたんですもの。むしろ有難いぐらいね」


トワさんは微笑んだ。透き通った笑みだ。そこには自分を嵌めた人達に対して怒りも憎悪もない。この人、聖人かな?


「よし。それじゃ最後の人に行くね」


(前職はナシ。人間の女性。年齢は十? 若すぎない?)


「シャルルって何歳?」

「え、十三歳ですが?」

「なんだ、僕の一個下か」

「……えっ!? ご主人様ってまだ成人してなかったんですか!? というより一つしか差がないなんて……」

「はん。やっぱり餓鬼か。通りで乳臭いと思ったよ」

「……すんすん。シャルルからはステーキの匂いしかしないね?」

「今日の朝食はステーキでしたからね。って、ご主人様のこと乳臭いって言ってるんですよ! やはり無礼な人です! お仕置しましょう!」

「僕、牛乳好きだから」

「ならいいですね〜ってなる訳ないですよ!?」


まあ、アルシアさんの野次は置いといて。


(罪状は……天武による大量殺害と推測? 推定被害者三十名を超える……)


僕は思わず最後の外套の人物に目を向ける。


微動だにせず佇む。


「……すぅ……すぅ」

「って、寝てるんかい!」


静かだと思ったら寝てたよ!


立ちながら寝るなんて器用な子だ。


僕は彼女に近付く。


「おーい。ミゥさん? 起きてくださーい」

「うぅん……?」


目をゴシゴシしながらミゥさんが目を覚ました。


「おはよぉ〜?」

「うん。おはよー。僕のこと分かる?」

「……ミゥの飼い主?」

「いや、間違ってないっちゃ間違ってないけど……」


もっと言い方というものがね。


「ねぇ」

「なに?」

「その小さいのはなぁに?」


ゾワッ。ミゥさんが指さしたのは僕の肩で昼寝をしているスピカだった。


(えっ!? ライア! 幻影(ミラージュ)切れてる?)

『いいえ! 切れておりません。現在も有効ですっ』


マジかよ。幻影(ミラージュ)の効果を無視した? それか他の要因?


「見えるんだね?」

「うんっ。あとね〜たまに飛んでたりぃ〜走り回ってる子たちもぉ〜みるよぉ?」


精霊も見えるやんけ!


この子ハイスペックだぞ?


「君の天武はどんなものなの?」

「天武? ……ミゥのお友だちのことぉ?」

「多分そうかな?」


やはり気になるのはこの子の天武だろう。


大量殺戮の要因がこの子なわけないし、やはり天武の何かの能力が発動したんだろう。


天武。僕たちの大陸では才能(スキル)と呼ばれており、神からの贈り物なんて言われてたりする。


僕が知っている限り、才能(スキル)には色んな種類がある。


大抵はその才能(スキル)を扱うに足りる特異体質になったりする。


聖女メサイアの不老。老いない代わりに体温を失って常に冷たい肉体。


聖女候補のシリカは体液が聖水や万能薬。常に汗っかきでちょっとした事で汗を滝のように流す。その代わり、体液なら人の何倍流れても平気。


そうやって、本来の能力に付随する言わば補助スキルみたいのがある。


スピカを認識出来たのは、恐らく彼女の天武の補助スキルだ。


熱探知なのか音波によるソナーなのかはまだ分からないが空間に作用するものだと思われる。


空間。お友だち。ヒントはこれだけ。


でもゲーム好きには漠然とどんな能力なのか推測がつく。


「ねえ。君のお友たちって、呼んだら必ず来てくれる?」

「うんっ! いっつもたすけてーって言ったら、助けてくれるよ? でもね〜この首輪を付けてからは、呼んでも来てくれないの……」

「そっかぁ〜」

「旦那。奴隷の首輪には自決防止と主人に対する敵対行為禁止、そして天武の行使が基本的に禁じられてるんです」

「どうすれば使えるようになるの?」

「簡単ですよ。旦那が天武の使用を許可する! と言えば使えるようになります」

「へ〜。ならちょっと見たいかなー」


ここは御屋敷の玄関だ。つまりは室内。


ここで物壊すのは忍びないから、外に出るか。


「ミゥさん。君のお友達を呼べるようにするから、僕にその子と遊ばせてくれない?」

「え〜いいよ? でもお兄ちゃん……死んちゃうかも?」

「そっかぁ〜そんときはしょうがないよ」

「しょうがないならしょうがないね〜」

「だね〜」

「いやいやいや! ご主人様!? なに、考えているのですか!?」


シャルルがガバッと僕の腕の裾を掴み訴えかけてきた。


「あの子は子供ですけど、危険なんですよ!? そんな子に天武なんか使わせたらダメですよっ!」


ミゥさんに気を使って耳打ちしてくれる辺り、シャルルは優しい子だ。


僕はシャルルの頭を撫でて安心させる。


「君のご主人様は世界でも強い方だからなんとかなるさ」

「……そこは嘘でも最強って言って欲しかったです」

「いずれなるよ。必要なら」

「うぅ〜分かりました。死なないでくださいねっ! いきなり天涯孤独は勘弁です! 今日の夕御飯は肉汁溢れるホットサンドでお願い致します」

「さりげなく食べたいもの要求してきたね。分かったよ。一緒に食べに行こう」

「……約束ですよ。……独りにしないで」


後半はボソリと聞こえないように言ったみたいだけど、しっかり聴こえたよ。約束だ。


「それじゃあ、ここは狭いしお庭に行こうか?」


みんな引き連れて庭に向かう。


僕はこれがエバン君の課した課題なんじゃないかって思う。


この子もそうだけど、本来ならもっと色々書かれててもおかしくない詳細だった。


つまり意図的に情報を減らして、僕に彼らのことを知る為の機会を与えたんだと思う。


知ってたら、触れないし知らんぷりするかもしれない。そうしたらいつまでも心の距離は縮まらない。僕から歩み寄らないと。


奴隷とか主とか関係ない。人間と人間の話し合いだ。


だから、僕はミゥさんを理解するために、彼女の全てを受け止める。


「スピカ。危ないから少し離れてて。そうだ。あの真っ白な子。そうそう。僕に似ているでしょう? 頭の上に止まっても気付かないかも」

「きゅ!」


スピカはシャルルの頭の上に着地して包まる。


「えっ……えっ?」


頭の上にいきなり重みが生じて少しパニクってるシャルルが可愛い。


「シャルル。頭、下げたり振ったりしたらダメだからね」

「えっ……あ、はい」

「あの子可愛いね! ちょうだい?」

「だーめ。あの子は僕の家族だから」

「ぶぅ〜意地悪ぅ」


本当に子供なんだなぁ。


普通の女の子だ。


さてと。


(マナたちにもお願い。この勝負には手を出さないで欲しい)

『分かってるわ。私達だと一瞬で終わってしまうでしょうし』

『お兄ちゃんの妹は雛だけ。お兄ちゃんの妹は雛だけ。お兄ちゃんの妹は雛だけ。お兄ちゃんの妹は雛だけ……あ、うん! 分かったよっ。お兄ちゃん! 応援するね!』

(あ、はい。お兄ちゃん頑張る)


なんか雛さんの闇みたいなものを見たような気がしたけど、気の所為だね!


『レイン君は詰めが甘いんだから、無茶しないでよ〜』

『御主人様。ファイトです!』

……“見守るのも御役目“


頑張りますか!


何が出てくるか分からないのがいい。


そっちの方が実戦に近い。


マナたちがいくら強くても、僕自身がへっぽこだと、足をひっばっちゃうから、少しでも経験を積んで強くならないと。


シャルルたちから十分に距離を取ってミゥさんと向き合う。


「僕はミゥの天武の使用を許可する」

「……キタっ!」


ぶんっ!


背後から凄まじい風きり音が聴こえる。


というより、魔力領域(マナテリトリー)によりその姿を捉えている。


(ノータイムで僕の背後に召喚して先制攻撃か!)


僕は魔気を身体に纏ってそのまま受ける。


(ぐっ……結構貫通してきたよ?)


防護服みたいに大抵の攻撃を防ぐ魔気がひび割れ少し衝撃を喰らう。


「すごいすごーい! この子のパンチ受けて平気な人初めて見たぁ!」

「遊ぶんだからこんぐらい当然だよ」

「ほんとっ!? なら、もっともっーと遊んでっ」


目を子供のようにキラキラさせるミゥさんは自分の力に一切の怯えも躊躇も感じなかった。本当に純粋に与えられたオモチャを使って遊んでいる認識なんだ。


背後からまた振りかぶるモーションの人型……歪なクマさん? の見た目した半透明なお友達。


一回躱すことにする。


身体強化の僕アレンジ。闘気を使って身体能力を跳ね上がらせる。


おおよそ、獣人の僕の最大強化レベル。


Bランク冒険者クラスの身体能力だろう。


(っぶな!?)


魔力領域で動きを把握しても、躱すのが紙一重だった。


やっぱりいざって時の身体の動きに無駄がありすぎる。もっと最適化させないと。


シュ! シュ! シュ! シュ!


連撃パンチをカマしてくるクマさんの攻撃をなんとか躱し続ける。


そうすると気づくこともある。


(攻撃が単調だ。恐らく、僕の魔導騎士(ランスロット)みたいに手動操作なのかもしれない。ミゥさんが念じてある程度動かしているかも。戦闘経験の乏しい子供の彼女にはテクニックなど無く、子供の喧嘩みたいに拳を振るわせる事しか知らないんだ)


見切ってからは、もはや当たる気がしない。


でも、だからこの天武の可能性を感じた。


(この天武はミゥさんが成長すればするほど強くなる!)


この子に色々教えたい! 何処まで強くなるのか気になる! 弟子を持つ師というのはこんな気持ちなのかもしれない。


テンションは上がってくるけど、さすがに躱しまくるとミゥさんが不機嫌になりそうだ。


少し試してみたいことがあるし、試してみよう。


僕は魔気を解除して闘気だけでクマさんのパンチを迎え撃つつもりで左腕によるパンチをぶつける。


(あ、やばっ)


どうやら想像以上に力量差があったみたいで、腕がボロボロになるぐらいかなぁって、思ってたら腕吹っ飛んじゃいました。


(痛っ。腕が引きちぎれるって思ったより痛い)

「ご主人様!? 腕が……腕がぁ!」

「おいおい。止めた方がいいんじゃねぇーか? 死んちゃうぜ?」

「旦那! 中止にしましょう! 既にやりすぎです!」

「ちっ……馬鹿なのか。アイツ!」

「わ、わたしでも腕を生やすような物は生み出せないわよ!?」


みんなパニクってる。


そしてマナたちも。


『あなた! やり過ぎよ!? 何を考えてるの!?』

『お兄ちゃん!? 直ぐにな、治すからね!』

『ばかばかばか! 無茶しないって約束じゃん!』

『御主人様! 直ぐに雛さんの回復魔法を使ってくださいっ!』

……“ビックリした。大丈夫? 創造主“


うん。こっちもカオス。


(みんな落ち着いて。試したいことあるって言ったでしょう?…… あれ? 言ってなかったわ。心の中で思ってただけだった。ごめんなさい! でも、想定内だから! 僕に任せて)


「大丈夫だから。みんな落ち着いてね〜」

「お兄ちゃん。まだ続けるの? 本当に死んちゃうよ?」

「もし僕が死んだらどうする?」

「うん? 別にぃ?」

「そっかぁ」


この子には人を殺した罪悪感なんか無いんだね。子供は純粋だからこそ恐ろしいか。まったくその通りだよ。


「面白いもの見せてあげる」

「面白いもの?」


僕は分かりやすく右手の指で指パッチン。


それと同時に、時空魔法の『時戻し』を僕を対象に発動させる。


巻き戻すのは一分ほど。


それでも『過大深化(オーバーアップグレード)』を使った『ヒール』より消費魔力は遥かに多い。


「うーん。回復メインで使うのはコスパが悪いね」


僕は左腕(・・)を軽く回し、手をグーパーさせて感触を確かめる。


一切の違和感なく、腕が戻ってきた。


回復魔法より利点が一つあるとしたら一瞬で傷が治ることかな? まあ、治しているというより、傷を負う前まで時間を巻き戻しているだけだけどね。


「凄い! 腕が生えた!」


ミゥさんは素直に驚き、シャルルたちはポカンと口を開けたまま固まっている。トワさんだけはブツブツ僕の腕を凝視して何か考察しているみたい。


(結果良ければ全てよし!)

『夜に説教だから。コチラにいらっしゃいね』

『今日は寝れると思うなよ〜』

『お兄ちゃんのバカっ!』

『御主人様。肝が冷えました……』

……“こなたたちの力、役に立った“


説教が怖いけど、雛にバカって言われた。最愛の妹にバカって言われた! やらなきゃ良かった! マジで後悔しかないんだけど!?


(ごめんよ雛! わざと傷を負うなんて本っ当に僕って馬鹿だよ! もうやらないから! だから機嫌直して! ねっねっ? そうだ! 後で一緒にホラー映画観よう! きっと楽しいぞぉ〜)

『いやいや。ここでホラー映画をセレクトするレイン君がホラーだよ……』

『ぷふっ』

(あ、笑った? 雛さん今、笑った!?)

『笑ってません』

(いや、笑ったよね! そのキュートな頬っぺたを震わせたよね!)

『笑ってませんー! そもそもお兄ちゃん見えてないでしょ!』

『はい! 雛さんは笑ってました!』

『ライアちゃん!? なんて言っちゃうのぉ〜!?』

『お二人はやはり仲良しでないと、私は寂しいです』

『うっ……ずるいよ〜その言い方〜』

『うふふ。まあ、今回は雛を怒らせたことを反省しているみたいだし。許してあげましょう?』

『そうだね〜見てよレイン君のあの情けない顔。雛ちゃんに嫌われて絶望しているよ』

(いや、仮面で見えないよね! でも、確かに泣きそうではあるよ!)


腕がちぎれるより、遥かに痛かった。


『しょーがないなぁ。じゃあ、許してあげる』

(本当っ!?)

『うん。お兄ちゃん! もうあんな真似はダメだからねっ! めっ! だよ?』

(はいっ! かしこまりましたっ!!)

『えへへ。なら許してあげる♪』


うちの妹が可愛いすぎる件について!!!


って、話が脱線し過ぎた。


「ほら、お友たちの動きが止まってるよ?」

「まだ遊んでくれるの?」

「満足するまで付き合うよ」

「やったぁー!」


さあ、舐めプはおしまいです。


僕は闘気の出力を大幅にあげる。


またしてもパンチを繰り返すクマさん。


僕は先程と同じように左腕でパンチを繰り出す。


「きゃ!」


シャルルが悲鳴をあげて目を閉じた。


先程の再現になると思ったのだろう。


だが、結果は違った。


僕とクマさんのパンチはぶつかったまま静止していたからだ。


僕は微動だにせず、クマさんはブルブル腕を震わせるが、微塵も押し込めない。


「さて、満足するまで殴り合おうか?」


僕とクマさんは目にも留まらない速さで拳を交差させていく。


つい、あの台詞を言いたくなった。


「オラオラオラオラオラオラァ!」

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