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134話 新大陸18

少々の食事を頂きます。


朝早くに王都に来て、もう既に夕暮れにさしかかろうとしてる。


僕一年分働いた気がするけど、まだやる事がある。


「それで何をしてきたんだ? 戦争を止めるとか言ってきたが」

「あ、それならもう止めました」

「なにぃ!?」


このチャーシューみたいなの美味しい。


マナたちはしばらく食べ物を受け付けないみたいで、ライアだけが元気に介抱している。


「ごくっ。正確には暫くは戦争が出来ない地形にして来ました」

「だから何をしてきたんだ!?」

「壁を形成して、互いに干渉出来ないようにしたんです。お二人だから教えますが、いくつかの魔法を複合して一つの魔法ぽくしているんです。それぞれの魔法陣の一部を外側に描いて、複数の魔法陣が重なった時に追加の魔法陣の効力が発動されるように、構築するんです。言わば連結魔法という感じでしょうか? 連鎖魔法も捨て難い? これは僕が魔導学園の図書館の一件で推察して外れた考え方なんですけど」

「いや、もういい。それ以上言ったところで理解出来んからやめろ」

「そうですか? この理論から更に導出される新たな魔法陣もあるんですが、現状の僕では脳の処理能力が足りなくて……」

「だからもういいって。勘弁してくれ」


ちょっと熱くなっちゃった。


こうやって魔法談義出来る相手って、星騎士団のみんな以来だから。


神子だから守秘義務が多くて。


マナたちが僕の考え方をペースに作ってくれた魔法だから、自慢したかったんだ。


「ごめんなさい。仮面越しに」

「いやそれもあるが、仮面のまま食事をするのも大概だけどな」

「あ、顔晒しておきます?」


ちょっとめんどくさいんだよね。


変身魔法は解析中だから、あんまり今の姿を弄りたくないし。そもそもマナがダウンしているから、変身魔法が使えない問題もある。


仮にも大陸最高の魔法使い、賢者の魔法だからね。僕だけじゃ扱えないのです。


「少し本来の姿と違いますがおおよそ一緒ですよ」

「……いや、それは別の機会にしよう。もう俺もお腹が一杯だ。取り敢えず猶予が数年出来たという認識で良いんだな?」

「はい。直に情報がここまで届くと思いますよ」

「そうか……ここまで規格外な相手だとは」

「味方何ですから、素直に喜びましょう? 兄様」

「そう、だな。この件のお礼だが」


僕は座っているこのソファーの肌触りを楽しみながら、言う。


「このお家下さないな」


これで十分ぐらいだ。夢のマイホームです。


だけど、エバン殿は困った顔をする。


「元々やるつもりだったものだ。それは構わないが流石にそれだけだとこちらが得しすぎだ」

「僕は構いませんよ?」

「俺が構うんだ! だから、追加でなんだがレイン殿……この場合はソロモン殿か。貴殿が奴隷を買い集めたり、浮浪児や貧民街の住民から手当り次第に情報を買い集めていると聞いている」

「そうですね」

「レイン様は裏ギルドのような情報組織を作るつもりなのでしょう?」

「半分当たりです。残り半分は純粋に……気まぐれです」

「うふふ。兄様ではありませんけど、嘘がお下手なんですね」

「……」


だって、シャルルみたいな子が嫌な目に合わされるの嫌だし、奴隷にはもう少しいい生活させてやりたいし、お腹を好かせた子供たちや死んだ目で地べたに座り込んでいる人達にはお腹いっぱいのご飯を食べて明るい未来の話をして欲しい。


「僕の健康的衛生上の為には、笑顔が欲しいんです。出来るだけ多くの……そう、沢山の笑顔の花が咲くような」


僕より不幸な人がいるのが嫌なんだ。


僕みたいなやつすらこうやって幸福なことに、二度目の人生を貰ってるんだから。


「それは、それはとても素敵なことですね」

「ああ。俺たちが夢見た理想そのものだ」

「きゅきゅぅー♪」


なんかお二人の気配が凄く優しくなった。


恥ずかしいこと言ったかな?


『そんなことないよっ。お兄ちゃん! うん。やっぱりお兄ちゃんは雛の大好きなお兄ちゃんだよっ! 大大大好きっ!!』


ごほっ!? もう死んでもいいかも。幸せすぎて。


『そうですね。もしかしたら御主人様はこの大陸の人々を救う為に求められて来たのかもしれません』


そうだったなら素敵だね。


『マイナスをゼロに。ゼロをプラスに。流石ハッピーエンド厨。澪さんそういうの嫌いじゃないぜ〜?』


ハッピーエンド厨。悪くない響きだね!


ーー“沢山の笑顔。それはきっと素晴らしきこと。こなたたちも見たい“


きっと見れるさ。遠くない未来に。きっと見れる。


『そうね。取り敢えずライアにお仕置したら私は最高の笑顔の花を咲かせれそうよ?』

『わ、わざとじゃないんですぅ〜!』

『問答無用! しばらくは光合成出来ると思わない事ねっ!?』

『ひぃー!マナさん、目が本気ですぅ!?』『あ、あはは。雛が見つけちゃったから、庇えないや』

『私たちはシロクマ……おっと、アイスでも食べよっか?』

……“あたりは入っていますか?“

『入って……ない、かなぁ』

『ガリガリしたアイスなら付いてるかも!』


あはは。いつも通りだ。


でも、最近はガリガリさんもあたりが入ってないんだよねぇ。原価を取るので精一杯みたいだから。


「そこで、どうだろうか。国が管理している犯罪奴隷が何人か居るんだが……貰ってはくれないか?」

「それが報酬ですか?」

「兄様が言った犯罪奴隷というのは冤罪の可能性がある方々なんです。兄様が話を伺って、恐らくは白だと判断された方々なのですが、そういう方々は貴族から罪を被らせられたり、口封じする代わりに犯罪奴隷に落としたりと訳ありでして」


なるほどね。解放しようにも、色々裏があるから現状そのままにするしかないと。


「解放すればすぐにでも消されるような者たちだ。奴隷にしておくしかない訳だが、このまま牢屋で腐っていては惜しい。だからソロモン殿に引き取って欲しいんだ。皆、非常に有能な者たちだ。多少、性格に難があったりするが必ずや役に立つだろう」

「随分肩入れするんですね?」

「王族の俺が奴隷に肩入れするのは可笑しいか?」

「いいえ。ちっとも! 貴方が王様ならきっと素敵な国が出来るなぁと思っただけです」

「それは私も同意見です。兄様こそ次期国王に相応しいです」

「お前たち……」


エバン殿は少し驚いて、そして嬉しそうな笑みを浮かべた。


「そうだな。兄上の暴走を止められなかったら、俺が王になるか」

「なりましょう! 私もこれまで以上に兄様をお助け致します」

「僕も微力ながら手を貸しますよ」

「貴殿の場合は微力ではすまないだろうが、頼む」

「任されました。そうだ、せっかくならお友達になりませんか? 僕は協力者よりお友達の為の方が力が出るんです。エバン殿、イヴ殿。僕のお友達になってくれますか?」


僕はそれぞれに手を差し出す。


エバン殿とイヴ殿は互いに顔を合わせる。


そして笑った。


「ああ。これからよろしく頼むぞ、レイン」

「ええ。兄妹共々よろしくお願い致します。レインさん」

「うん! エバン君、イヴちゃん」


2人が差し出した手をそれぞれの手で握手をする。


この大陸で初めてのお友達だ。


高尚な理由より、友達の為。そっちの方が僕はしっくりくるなぁ。


「あ、そうだ。お友達の為に出来ることを思いつきました」

「なんだ?」

「ふふふ。きっと素敵なこと……えっ!?」

「どうしたイヴ!?」

「そ、そんなことが可能なんですか?」


流石イヴちゃん。僕のしようとしている事を予知で見たね?


「できると思いますよ」

「ですが私のは先天性ので、病気や怪我では無いのですよ……?」

「きゅう……」


イヴちゃんは少し声が震えるように言った。


抱きしめられていたスピカはイヴちゃんに懐いたようで、心配そうに鳴く。


「僕の知識ならそれは先天性の障害なんです。つまり病です。治ります。治します」

「その話は本当か!? そんなことが……頼む! 妹を! イヴを救ってやってくれ! この子に空の青さを! 世界の美しさを見せてやってくれ!! この通りだ!」

「お、お止め下さい兄様!」


エバン君は地べたに頭を擦り付ける勢いで土下座をする。


そこには王族とか関係なく、一人の妹を想う兄の姿であった。


ふぅー。食事を貰って、ある程度休憩も挟んだから……魔力は足りるだろう。


「そんな事しなくても、元から治すつもりですよ」

「本当かっ!? この恩はこの生涯に掛けて払う!」

「それは私の台詞です! よろしくお願い致します。レインさん」

「いや、だから。僕は言ったでしょう? 友達の為なら頑張れると。これは友達の為にすることなので恩とか払うとかの話ではないです。もし貰うなら……お二人のとびきりの笑顔をくださいな♪」


まったく、友達になったばかりなのに、いきなり友達じゃいられなくなるような事言わないでよね!


「わ、分かった。え、笑顔だな? 自信はないが頑張ろう」

「は、張り付けた笑顔ではいけませんよね? ……ど、どうしましょう!? 笑顔ってどうなるんでしたっけ!?」

「いや、真に受けなくても……こほん! では治しますから、イヴちゃんは座ってじっとしてくださいね。エバン君は騒がず、じっと見守っていてください」

「かしこまりました」

「あ、ああ。頼む」


二人が静かになったので、僕も意識を集中させる。スピカは邪魔にならないようにって、自分から離れた。


大丈夫。目だけだ。そんなに負担はない。


僕はイヴちゃんの正面に立ち、イヴちゃんの両目に手を当てる。


「すぅーー。『ハイヒール』……『過大深化(オーバーアップグレード)』」

「っ!」


淡い光が強い光に変わり、魔力の密度が変わる。


「すぅ…………はぁ…………『運命改変(モイラ・シフト)』!」


その密度が爆発的に膨れ上がり、ちょっとした地震が起きる。


『制御する魔力が足りないみたいね』


そのせいで地震を起こしてしまったことを反省します。もうちょっと休んでからにした方が良かったかも。


でも、見せたかったんだ。イヴちゃんに色のある世界を。見たかったんだ。友達二人の笑顔を。


だから、僕は変えるんだ! 運命を!


「……っ! …………ふぅ。終わりました」

「本当か!? イヴ! イヴ、どうだ!?」

「うぅん……特に変わったような気はしないのですが」

「失敗したのか!?」


わわっ! 僕の両肩を揺らさないでよー。


「せ、成功してますよ! イヴちゃん。ゆっくり目を開けてみてください」

「は、はい…………あ」


ゆっくり開かれた瞳には光が宿っていた。


イヴちゃんは部屋の中を見渡す。


見渡し続ける。


「ど、どうだイヴ」


エバン君に聞かれて、エバン君の方に視線を向けるイヴちゃんは目を見開き、そして涙を堪えた瞳を細める。


「私の思い描いていた通りの兄様です」

「見えるんだな? 見えるんだなイヴっ!」

「はい! 兄様っ」


エバン君が抱き締め、イヴちゃんも応えるように抱き締め返す。


「うん。素敵な笑顔だよ。二人とも」

「きゅう♪」


泣き腫らしながらも笑みを浮かべるイヴちゃん。


号泣して鼻水でビチョビョだけど、満面な笑顔のエバン君。


僕はね、それが見たかったんだ。

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