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133話 新大陸17

善は急げ。


とりあえず確認することは確認しなければ。


僕はエバン殿に尋ねた。


「エバン殿」

「な、なんだ?」

「今も前線で両国はイングリッドの攻撃を防いでいるんですよね?」

「ああ。イングリッドは最前線を魔法の使えない者たちを壁にして、背後で魔法使いをローテーションして戦う戦法を取っている。胸糞な戦法だが、この手は非常に有効だ」

「前衛は肉壁ですか……その戦法が成り立つということは、総人口なら大陸最大ということですね?」

「古い記録ですが三千万人は超えています」

「モリタイナンは?」

「千二百万人程でしょうか。ネイチャーは他国との交流が少ないので情報がございません」

「連合の前線は?」

「前線に出ているのはほぼイグトープとアイライスで五十万。イングリッドは三十万ほどだ」

「数なら連合が上回ってるんですね」

「そうとも言えない。イングリッド側には天下七賢のうち二人がこちら側に来ているんだ」

「百獣国の方は、天下七賢の四人が常に前線をローテーションしており総勢三百万人が攻めてきており、百獣国は約二百万人で防戦一方です」

「まんま数の暴力ですね。天下七賢というのはイングリッドの最高戦力でしょうか?」

「そうなるな。その上に天上三賢という奴らが居るが詳しくは分からん」


てか、本当に連合には一割なんだね。念の為天下七賢の二人は置いているけど。


「百獣国にも八傑王獣と呼ばれる完全獣化を習得した八つの武家がおり、天下七賢にも引けを取らない方々が居るのですが、如何せん数の差をカバーするのがやっとの状況です」

「いきなり聞いてきたが、この戦争をどうこうしようとしているのか? 流石に個人で出来ることには限界があるぞ?」

「ええ。存じておりますよ」


僕は個人じゃないからね。


僕は窓際まで歩いていく。


窓から見える景色は晴天。


でもこの快晴に戦争など無粋なことを仕掛けている奴らが居るなんて。


「こういう日は本を片手にミルクティーでしょうに」


背伸びをして、気持ちを切り替える。


「ちょっと出てきます。二、三時間ぐらいで戻ってくるのでスピカの面倒お願いしますね」

「何処に行くんだ? 話の途中だぞ?」


何処に行くって? 決まってるでしょう?


「ちょっと戦争を止めに」

「なっ!?」


僕は時空魔法を使い、王都の遥か上空に転移する。


「風が気持ちいい」


今、僕は空中に浮いている。


正確には固定(・・)されて落下せずに済んでいる。


「時空魔法による僕を対象にした空間固定。これによって僕は擬似的に浮けるわけだ」


よく分からないけど、マナ曰く、マウスのカーソルで画面上の僕というアイコンを掴んで振り回しているような感じらしい。


うん。やっぱりよく分からないよ。


「さてと、まずは連合の前線にひとっ飛びだ!」


僕は物理法則を無視した速度で空中を移動した。


僕を空間ごと固定していることで、周りの影響をほぼ無視しているらしくて、風もほとんど感じない。そよ風レベル。


完全に固定をしてしまうと、僕の時間すら止まってしまうから、少しだけ影響を受けるぐらいに留めている。


「みんな。魔法は構築出来た?」

『もうちょっと〜』

『前線までには完成するわ』

「流石!」


僕がエバン殿たちから情報を得ているうちに、戦争を止めれそうな魔法を考えてもらってたのだ。


そして、空を一時間足らずで推定六百キロ飛び、戦争をしていると思わしき前線に辿り着く。


「不慣れで時速六百キロかぁ」

『慣れれば音速であるマッハの世界いけるわね』

(今の倍の速度出されたら死にますよ!?)

『ですが、御主人様のデータペースには最速の戦闘機はマッハ2を超えていると記録がありますが』

(僕は人間! それは科学が生み出したやべぇ乗り物! 比べてはなりません!)

『少年。もっと加速したくないか? だね!』

(うん! したくないかな!? 人間辞めちゃうよね、それ!?)


一千分の一秒に生きるシルバーなクロウさんになっちゃうね!?


『やっちゃえよ、レインサン』

(やっちゃえじゃないよ! 僕は車メーカーかな!?)


よくネットでネタにされてるけど、やっちゃまずいのよ!


……“やれる“

(いや、ボソッと決意を固めないで!? もっと話し合おう?)


ぶっちゃけちびりそうなぐらい、早くて怖かったんです。


ふう、ふう。


すぅーーはぁーー。


「よし! 早いところ戦争を止めよう!」


僕は気持ちを切り替えて、眼下に広がる戦場を見る。


魔力領域(マナテリトリー)を展開して、リアルタイムの流れを把握する。


念の為、幻影(ミラージュ)による透明化で姿を消す。


「まずは両陣営、それぞれに人員を分けよう。時雨、空音」

……“はい。創造主“


次の瞬間。


戦場にてぶつかり合っていたふたつの勢力はそれぞれの陣営側に転移され、戦場にて真っ二つに人が存在しない空間が現れる。


「うん。最高。ヒナ」

『久しぶりだねっ! がんばるよっ』


淡い緑色の光が包み込むように両陣営の怪我人に宿り、傷がみるみる癒えていく。


「うんうん。よしっ。それじゃ、仕上げだよ。澪」

『キタコレ! まっかせてぇ〜』


僕はちょっと演出ぽく、手をかざす。


そうすると戦争に出来た空白の空間に氷の壁が横長く出現する。


全長五十メートル! 巨人でも現れない限り越えられない壁です。


『万里の長城ならぬ氷結の長城のかんっせーい!』

「パーフェクト! わわっ。もう攻撃受けてる! 雛もういっちょ!」

『うんっ』


雛は回復魔法を氷結の長城全体に付与する。


そうすることで攻撃を受けた箇所が勝手に修復されていく。


「時雨と空音!」

……“おまかせ“


そして時雨と空音で、氷結の長城その物を空間ごと固定。


これでちょっとやそっとじゃ傷つかない。耐久値はグンと跳ね上がった。


「ライアさん出番です」

『畏まりましたっ!』


だが、ただの壁だとよじ登ってくるだろうなら、迎撃システムは施さないとね!


ライアによる非殺傷殲滅光(プチオーバーレイ)を氷結の長城の至る所に設置。


自動で相手を補足して、絶妙な加減で迎撃してくれるライアさんの優しさが詰まった魔法です。


「仕上げだよ、マナ!」

『任せなさい』


そしてこの大規模な魔法の集合体は当然のように魔力喰らいだ。即興で作ってるから最適化がされてないのもある。


それぞれの魔法には僕が考案した魔力をある程度貯められる魔法陣が組み込まれており、そこにマナが更に大気中の魔力を吸収して変換する魔法陣を重ねる。


僕達全員が力を合わせて生み出した魔法だ。


「名ずけるなら」



“『『『『「永久氷結の長城(エターナル・ウォール)」』』』』“


「数年は持つよね」

『ここら辺は魔法を沢山使っているから魔力が豊富よ。だからおおよそ持つわね。魔力がもっと豊富な地形で規模を縮小して最適化出来たら、本当に半永久的に稼働出来るわね』

「流石にハードルが高いね」


一年以内とまで言わなくても、数年で戦争が終結出来れば御の字かな?


その間に元の大陸に帰る手掛かりを探しつつ、賢者とダグラスの捜索もしないと。


「うーん。しばらくは忙しくなるね」


あと、やっぱり息抜きに冒険者生活も継続したいから、アーサーとしても活動しなちゃ。


「さて、次は百獣国の方に向かわないと」

『最速で行きましょう』

『加速のその先にっ!』

『レッツラゴー!』

『光になるのです!』

……“出発進行“

「あ、やっぱりまっ」


あああァァァーーーーー!!!


さっきより早くなってないですかぁ!?



「もふもふが沢山だね」


二時間ほど掛かりした。約二千キロです。


人間って怖い。


途中から慣れて、なんも怖くなくなったよ。


その甲斐あって多少だけど、僕自身も制御できるようになりました。


もう、あんな速度出させないからな!


話は戻って、戦場では見事に獣人VS人間の構図になってる。わかりやすい。


やはり獣人は生まれ持っての戦闘民族のようで、みんな高難易度の筈の身体強化を呼吸するように使っている。一人一人の強さなら獣人族が圧倒しているけど、彼らは防戦一方だった。


『イングリッド側は、見事に肉壁ね』

『酷いよ……』


連合との前線が小競り合いに見えるぐらい、兎に角イングリッドの前衛は盾のみを持って守りに徹している。


獣人特有の身体能力を持ってしてもそれを突破するのは容易くはない。


そうして攻めあぐねているうちに、背後の魔法使いたちがひたすら魔法の雨を降らしていく。一際強い魔法を行使する連中が居るけど、恐らく天下七賢のメンバーなのだろう。


「スーニャに届かないぐらいで、ミーゼクラスかな?」


遠目だから輪郭しか分からないけど、確かに一人一人が強大な魔力を有している。魔力量だけなら普通のエルフ以上だろう。


「でも、あれだね。魔法をあんな風に扱うのは見てて……不愉快だよ」


こう、お仕置きみたいなことしたくなっちゃう。


でも、僕は戦争を止めに来たんだ。


余計な私情はやめよう。


「みんな同じ感じで行くよ!」

『あ、ちょっと待って。なんか強そうな獣人が出てきたよ』


澪に言われて、僕もその獣人を探す。


直ぐに見つけた。


白い体毛に覆われた大男だ。


「うおおおおおおおおーーーー!!!!」


戦場全体に響き渡るような雄叫び。


「卑怯な人間どもがぁ!! 今日こそその不快な面をぶん殴ってやる!! 見よ! これが八傑王獣の真の力だ!……『完全獣化(フルビースト)』っ!!!」


大男の全身が白い体毛に覆われ、その体躯が何倍も膨れ上がる。


「『獣化状態(ビーストモード) 白熊(ホワイトベア)』!!」


全長五メートルはあるだろう白熊が戦場に姿を表した。


「待って。あれ魔装じゃない?」


白熊には薄らと透けている鎧が纏われていた。


『あれは私たちが圧縮して質量を持たせた魔装と違うみたいね。あれは身体から漏れ出る魔力を身体の表面に留めさせているようね』

『どういうことなのマナちゃん?』

『簡単に言えば、身体に魔力を付与(エンチャント)させているのよ。武器に属性を付与させている要領で。それを固有化させた訳ね……面白いわね。機会があったら解析したいわ。あの『完全獣化』も恐らく固有魔法なのでしょうね。それぞれの種族ごとに魔法を構築しているのかしら? そうなら、解析中の変身魔法に応用すれば、旦那様も『完全獣化』を使えるようになるかもしれないわね。うふふ……夢が広がるわぁ』

「も、もしもーし?」


あ、ダメだ。マナさんがトリップしました。


眼下では白熊さんが滅茶苦茶に暴れ回っているけど、やっぱりいくら強くても数に抑え込まれてしまう。


でも、生半可な攻撃じゃ、傷一つ付かないぐらい頑丈だし、傷を負っても直ぐに再生してしまう。タフネスの塊だ。


『なんか澪さん。アイス食べたくなってきた』

『私は激辛ラーメンを御主人様に召し上がって欲しいです』

「そっかぁ……って、僕が食うのかよ!?」


辛いのは好きだけど、激辛は流石に無理かなぁ。ピリッとくる程度が一番美味い。


『そう言えばお兄ちゃんのカップ焼きそばコーナーに、地獄? 辛みたいなヤツあったよーみんなも食べよー!』

「雛さんストーップ! それはアカン!」

……“こなたたちも食べたい“

『今お湯入れますね〜』

『あ、私も食べるー。どうせステマの微妙な辛さのやつでしょ?』

「話聞いて? ねっ! お願いだよ! それは本当にヤバいんだって!! 興味本位で挑んで死にかけた僕が言うんだから!!」


完食するのに四リットルぐらい水飲んだし、しばらくお腹の中が熱くなって、吐き気が止まらなくなったんだ。


断言してもいい。あれは人が食べていいレベルを超えている!


「せめて、この戦場を鎮めてからに」

『いっただきまーす!』

『いただきまーすっ』

『頂きます』

……“いただきます“


あ、あぁ……。


“『『『!?』』』“


『げっ……げほっげほっ……な、なにごげぇ〜』

『ぁ……うっ……えぅ……ぐすっ……ばなみずがどまらないぃ』

……“先立つ不幸をお許しください“

「だから言ったのにぃーー!!」


あぁ。ダメだ……おしまいだぁ。


『お、おいしいですぅーー!!』

“『『「!?」』』“

『このピリッと舌に届く刺激! 喉を通過していく過程を楽しめて! お腹の中をジンジンさせるイタズラ心! サービス精神に溢れた一品ですね! 病みつきになりそうです! あれ? 皆さんもうよろしいのですか? なら、私が召し上がらせてもらいますねっ!』


……えっ。君、本当に僕から生まれたん?



その後、帰ってきた何も知らない一般人(マナ)にライアが純粋な好意からオススメして、一口でマナが気絶しましたけど、僕たちは元気です。





「ぜーはーぜーはーただいまです」

「だ、大丈夫か!?」

「きゅっ?」

「おかえりなさい」


あ、イヴ殿。スピカの手を掴んで振らせるの滅茶苦茶可愛いですね。その可愛いのウチの子なんで、返してくださいね。


あと、王子!


今度は何のお肉食べてるんですか!


辛くないですよね!? 辛くない? 良かった。


美味そうなので一口下さい!


今の僕。魔力がほぼカラなんです。


帰りの転移で魔力を使い切っちゃった。

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