132話 新大陸16
「狂人の妄言というには、あまりにも堂々としているな……本当のことなら、貴殿は一体どのようにこの大陸に来たのだ? 貴殿の国では他の大陸に移るすべでもあるのか?」
気を取り直したエバン殿は僕に質問攻めだ。
僕は取り敢えずことのあらましを出来るだけ簡易的に伝えた。
「そのようなことが……災難だったな。故郷を離れ、一人天涯孤独か」
「いやいや。戻る気まんまんですから! あとスピカと……兎に角一人ではありませんから」
マナ達、みんなが僕の傍にいるから。
「だが、帰る算段はついてないのだろう?」
「ええ。取り敢えず沖合に行って、なにか情報がないか探すつもりです」
海に詳しい人なら、別大陸を見たことがあるかもしれない。
確率が低くても試してみなければ可能性はゼロだ。
そう、ガチャと同じように!
「時期が悪いな」
「どうしてですか?」
エバン殿はローストチキンにかぶりつきながら呟く。
「戦争の真っ只中だからな。漁も近場でしか取ってないだろうし、貨物船など戦争に乗じて海賊どもが襲うからまともに出航していない」
「…………え? 戦争?」
「なにっ! まさか、知らないのか?」
初耳ですけどぉーー!?
「……ちっ。そうか。そういう事か」
「どういうことですか?」
「貴殿はこの大陸に来てからこのベイトール王国から一歩も出てないのだな?」
「は、はい。最低限の常識と……出来れば、拠点を築きたかったですから」
「っはぁ〜。自国のことながらここまで危機意識が無いとは、呆れたものだ。貴殿が知らないということはこの国にはそれほど戦争をしている自覚が欠如しているわけだ」
エバン殿が一気に老けたように感じるほど疲れ果てていた。
ずっとスピカを愛でていたイヴ殿が言葉を発した。
「やはり、第一王子に王位を継がせるわけにはいきませんね」
何か凄いこと言わなかった? なんか聞いただけで牢屋にぶち込まれそうなこと。
「ああ。このまま兄上に継がせるとますます不味いことになる」
なに密談始めてるのー? 僕は部外者だからねっ!
「……なるほどな。これが、レイン殿との出会いが俺にとっての好機だったわけか。魔石はオマケだな?」
「兄様がそう捉えるならそうなのでしょう。私は見えたままをお伝えしているだけですから」
やっぱりこの姫様も何かしらの天武を持ってるぽいよね。
「あ、私の天武は『好機予知』。自分もしくは親しい者の良き未来が断片的に見えるというものです。ちなみにこの事を知っているのはエバン兄様と……貴方だけです♪」
「聞きたくなかったんですけど!? 僕を巻き込むつもりでしょ!? ねぇっ!?」
マジかよ。国を左右するようなことに巻き込まれたよ!
「それで! 第一王子殿下が王様になると何がマズイのですか!!」
「おお。協力してくれるか! 別大陸とはいえ、その長が手を貸してくれるなら百人力だ」
「ふふふ……そう言うと解ってました」
都合のいい未来を手繰り寄せる能力とか反則だろう。
でも。
『上手く行けばその能力で私たちが帰れるヒントを得られるわね』
そう。その通りだ。
エバン殿達にとっての好機は僕にとっても好機なんだ。
「その通りです。私たちに協力して信頼を得られれば、きっと貴方の目的を果たせるでしょう」
「……っ。ちょっと未来の僕が何か言いました?」
「ええ。私を口説いてました」
「嘘をつくんじゃあない!?」
確かにイヴ殿に親しい相手にしか能力が作用しないのなら、仲良くなっとこうとは思ったけど。
「あらっ、何故嘘だと?」
「レイン殿はイヴのような娘は好かんのか?」
「そうではありません!」
イヴ殿が不満ですと言いたげに頬を膨らませ、エバン殿がシスコン丸出しの殺気をぶつけてくる。
「僕は女の子を口説けるほど肝は太くありませんからっ!!」
「「あ……うん」」
なんか二人してしんみりと頷かないで!?
僕が小心者なのは事実だけどさ。
「こほん……話を戻すぞ? 現在、戦争を仕掛けてきているのは西の大国 イングリッド魔帝国だ。それを迎え撃つのは我が国ベイトール王国含めたレギオス連合。つい最近、最前線であるライピア王国が滅び、今はレギオス連合で最も戦力が高い二国……炎国イグトープと氷国アイライスだ。この両国は双方、強力な精霊が付いており前線を支えてくれている。精霊の力は強大だが魔力の消費が激しく、魔石による魔力回復をおこなっている。その為、魔石の大半は前線に送られ生活に使う魔石の供給が追いついていないのだ」
スケールデカすぎだろ!
魔石不足にそんな裏があったなんて。
「我が国はレギオス連合の中でも南に位置する為、物資の提供で済んでいるが、それを楽観視した一部の貴族共が第一王子を誑かし、物資の提供を減らし自国の軍備強化に回そうと画策している。あろう事か味方のレギオス連合とイングリッド魔帝国の共倒れを想定して、その混乱に乗じ自分らが戦争を起こそうとしている」
「少しでも情報に聡いならそうは考えられないでしょうけど、オツムの足りない第一王子派は自分たちの力を過信して天下統一を夢見て準備を推し進めております」
うん。イヴ殿が第一王子の事が、大っ嫌いという感情は伝わったよ。
「正直なところ……この戦争はどうなると思いますか?」
二人は現状そんな楽観視出来る場合ではないと考えているのは分かった。
レギオス連合は既に一国を落とされている。
猶予はそこまで無いのだろう。
「イングリッドが本気を出せば、連合など直ぐに蹴散らせるだろう」
「そんなに差が?」
「ああ。現在イングリッドは二面戦争を仕掛けており、戦力の大半は北の大国 モリタイナン百獣国に割けている。正直、連合に仕向けられた戦力など本来の一割にも満たないだろう」
ああ……目眩が。
「むしろ何故レギオス連合にも手を出したのか分かりませんね」
「簡単ですよ。遊び相手に持ってこいだからです」
「えっ」
「イングリッドにとって、私たち連合は百獣国で使う戦術のテスト相手なんですよ。可笑しいでしょう? 戦術を試してたら一国を滅ぼしてました、なんて」
ちっとも笑っていない笑みを浮かべるイヴ殿にぞわりと背筋が冷える。
「つまり、勝ち目は無いと?」
「はっきり言って、百獣国がイングリッドを倒してくれるのを祈るばかりですね」
「その前に、こちらが滅んでなければいいのだが」
絶望的じゃないですか。
イングリッド魔帝国は何が目的なの? そんかに戦争を仕掛けて。魔帝国とか言っているからトップは魔帝さんだろうし、魔法使いが多そうな国だなぁ。
モリタイナン百獣国は名前的に、獣人の国ってイメージ。
この大陸の獣人も魔法を苦手とするなら、身体強化による肉弾戦が得意だろうし……。
ん? 魔法使いの国? 魔法を苦手とする獣人の国? 多種族国家の連合?
まさか……!
僕は辿り着いた答えに動揺を隠せない。
(んな理由で本当にここまでやる?)
「魔法使いによる大陸完全征服……そして、魔法使いによる完全支配ですか」
「よくその断片的な情報でその答えに辿り着いたな。その通りだ。奴らは魔法を扱える者とそうでない者とて分けている差別主義者の国だ」
「竜の顎と呼ばれる峡谷を挟んだ反対側、東の大国、ネイチャー自然国はハイエルフとダークハイエルフの二大王政による統治が成されており、イングリッドは手を出しません」
「と言っても、百獣国か連合を倒さない限り攻めれないだけだ。奴らは人間が至高とも考えているから、エルフはせいぜい奴隷にして飼ってやろうとか思ってんだろう」
なんかイングリッド魔帝国のイメージ最悪なんだけど。見境ないじゃん。
『今の話を纏めると、北に獣人の国、モリタイナン百獣国。西の人間と魔法使い至上主義の国、イングリッド魔帝国。東にエルフの国、ネイチャー自然国。そして、南に小国の集まりであるレギオス連合というわけね』
この大陸のおおよその戦力図だね。
『そんでぇーイングリッドは自分たちの理想の国を作り上げるため、天下統一をしようと戦争を仕掛けまくってるわけだね』
人間で魔法使いの自分たちだけが幸せになるための国を作ろうとしてるわけだ。
『連合は弱いけど、倒したらエルフさんの相手をすることになるかもしれないから、手を抜いているってことなのかなぁ?』
(あ、そっか。隣接する国があるからネイチャーは静観しているわけだ。もしレギオス連合という緩衝材が無かったら、ネイチャーは自分たちが次に攻められるかもしれないと、逆に戦争を仕掛けてくる可能性があるのか)
ある意味、レギオス連合を盾にしているとかあくどすぎるよ。
『現状、レギオス連合が滅ぼされる猶予は、モリタイナン百獣国が陥落するまでということですね。そうなったら北と南から同時に攻められることになります』
流石にエルフの国とは言え、絶対数は人間には遠く及ばないだろうから、遠く離れた二ヶ所が同時に攻撃されたら、突破されるよね。
……“なら、おいたが過ぎるお国さんを創造主が潰す?“
(いやいやいや! 僕は悪の魔王様かなにか!? そんな事はしないよ。そもそも僕はこの大陸では部外者で異邦人みたいなものだし)
……“創造主が望むならそれが世界の意思“
(それは……言い過ぎだよ。僕は確かに神子という地位に居るけど、世界をどうこうするつもりは無い、かな? 人より強い力を持っているのは確かだけど、だからこそ考えて使わないと。そうじゃないとイングリッド魔帝国と同じになっちゃうよ)
……“ごめんなさい。こなたたち間違ってた“
(ううん。時雨と空音は僕が苦しい思いをしていると考えて、楽出来そうな方法を考えてくれたんだよね? ありがとう)
そう想ってくれているだけで僕は幸せだし、どんな困難にでも立ち向かえるんだよ。
僕のすべきこと。
戦争を止めること? 元いた場所に帰ること? 賢者やダグラスを捕まえること?
「うふふ……うふふふふ。全部やろうかなぁ」
「レイン殿?」
「レイン様?」
「きゅ!」
(みんなごめん。やる事増えちゃった。付き合って)
『うふふ。片手間にこの大陸でも救いましょう? 旦那様』
『いっぱい助けたら、沢山の笑顔の花が咲くよね! お兄ちゃんっ!』
『レイン君が楽しめるならそれでいいかなぁ。あ、この澪さんにもちゃんと頼ってよ〜』
『何時でも、何処でも、私は御主人様と皆様と御一緒させていただきますっ!』
……“こなたたちに出来ること。なんでもする。その為に生まれたから“
「きゅーう♪」
僕一人じゃ成し遂げられなくても、みんなとなら成し遂げられる。
だって僕は……僕達は『救済』の神子だから!