12 適正診断
初の外の世界に心が躍る。
見渡す限り草原を横断し、いくつかの村と町を経由して王都に向かう。
残念ながら初めて見る大きな町を観光! は許されなかった。
昼に町に着けば部屋で大人しくし、夜に付けばそのまま就寝。
最初こそ興奮した風景もさすがに似通った場所ばかり通るので飽きてくる。
近寄ってくる魔物も居ない。
僕達が進んでいるのは活発に町同士が行き来する道なので、定期的に冒険者が雇われて討伐が行われる為だ。
暇つぶしに騎士様に色んな話を聞いていた。
「騎士様は魔法が使えますか?」
「はい。嗜む程度ですが風魔法を」
「そうなんですね! もしも宜しければ教えてはくれませんか?」
騎士様がなんと魔法を使えることが発覚。
早速僕の魔法バリエーションを増やすの力を貸してもらおう。
だけど騎士様は渋い顔。
そうか。普通に考えておいそれと他人に魔法を教えないよね。お金とか取るのかな。
「失礼しました。そうですよね。無償で教えるのは無理ですよね」
「いえ。神子様にならいくらでも教えても構わないのですが」
「それじゃあ。ほかに原因が?」
「はい。私は齧った程度ですので、詳しいことはお教え出来ないのです。それに、私には風属性の適正しかありませんので」
え? 適正?
「あの……。魔法に適正などあるのでしょうか?」
僕の質問に珍しく驚く騎士様と周りで聞き耳を立ててた兵士さん達がぎょっとこちらを見る。
もしかして常識!?
知って当たり前みたいだから、おじ様も教え忘れたのかな?
「そもそも魔法は適正判断を受けた後に、自分が使える属性魔法を勉強して、初めて魔法を使うのですが……神子様はどのように?」
おぉ……早速常識踏み外してるやん。
「…………おじ様の魔法を見て、独学で使えるようになりました」
「…………」
「…………」
騎士様も兵士さん達も無言だ。
「す、凄まじい才能ですね」
「そ、そうなんですか?」
「はい。回復魔法に関しては属性魔法以上に適正者が少ないので。しかも唯一人体を破壊するのではなく癒すという特異性から、適正があったとしても習得するのに5年はかかると言われる高難易度魔法なんです」
医療が進歩していない異世界だから人の治し方が極端に少ないせいか。
そして想像以上に回復魔法はレアだった。
「まあ。それは置いといて。適正は1人いくつぐらいでしょうか?」
重要な案件です。
1つオンリーですとか言われたら、ヒーラー確定です。
頼みます。僕に攻撃魔法を使わせてください!
「そうですね……。1人につき最低でも1つはあると言われております」
「最高は?」
「分かりません。ですが英雄と言われる方々は3つから5つぐらいあると言われています。例外として賢者と言われる世界最高峰の魔法使いは全て扱えるとか」
賢者チートやん。そしてやっぱりいるんだね。
「適正はどうやって分かるんですか?」
「シンプルに4属性なら冒険者ギルド。4属性と希少な光、闇、回復は魔術ギルドですね」
「それ以外の適正は?」
「適正を診断するのは属性魔石と言われるものなので、希少性が高すぎるものはおいそれと入手出来ないのです」
「属性魔石を使って調べるんですね」
「はい。手のひらに各属性魔石を乗せると自然と適正がある場合は光を発するのです」
「発光しないなら適正はないと」
「そうなりますね」
「後天的に適正を増やすことは?」
修行でどうかなるのなら、頑張れるんだけど。
「前例がありません。高名な魔法使いによると、『魔法の適正は産まれたときから魂に刻まれた不変のものでどのように努力しようが適正は絶対に増えない』とのことです」
「マジですか……」
「マジ?」
「あ、いえ残念だなあって思いまして」
「そうですね。魔法を学ぶのにも多額の資金が必要になりますし、魔法は貴族のものと世間では思われている程ですよ。はは」
乾いた笑いをする騎士様は余程苦労しているご様子。
適正か。努力でどうにもならないとは、世知辛い。
どうしよう。僕の適正が回復魔法だけだったら。
モチベが下がる。
さすがに賢者みたいに全属性あります! とかはないだろう。
せめてもう2つ適正が欲しい。
1つだと詰む可能性があるし、2つなら組み合わせ次第で色々出来そうだからね。
「なんなら次の町で適正診断受けますか?」
「ぜ、是非!」
不安もあるけれど、ワクワクはやっぱりあります。
*
町に着いて早々にせっかくなら本格的な方の診断を受けようと魔術ギルドに乗り込んだ。
騎士様は謙遜してたけど、やっぱり貴族なので顔パスで診断を受けることが出来た。
冒険者ギルドも気になるけど、神子になることが決まってる僕には無関係だと、行くことを我慢した。
魔術とは魔法の古い言い方で、今は魔法で統一されている。
魔術ギルドはその古い名残だ。
魔法ギルドより語呂がいいのもその要因なのかも。
そんなわけで、別室でワクワクと待機してたら、職員の人が宝石を乗せるような箱を持ってきた。
中にはそれぞれ赤、青、緑、黄、黄金、黒、そして透明の7種の魔石。
回復魔法は緑色だけど魔石は透明だ。
職員曰く回復魔法は人によって色が変わるので決まった色はないらしい。
その気になれば色を変えることも出来るとのこと。
僕は緑色固定かな? 1番癒している色してるし、雛ちゃんもイメージは緑色だし。
「では順番に試していきますか?」
「それでお願いします」
僕の護衛兼付き添いの騎士様が代わりに答える。
「かしこまりました。ではまず、火属性の魔石から。……失礼します」
僕の手を取り、手のひらに赤色の魔石を乗っける。
「…………」
しばらく無言が続く。
嫌な予感。
「残念ながら火属性の適正は無いようですね」
「そ、そうですか」
思った以上にショック。
火属性なんかよく主人公のメインの魔法になる王道じゃんね。
それが使えないとなると色々妄想の幅が狭くなる。
「次、お願いします」
「かしこまりました」
青色の魔石を乗せられる。
「…………」
「…………適正がございません」
「……はい。次、お願いします」
緑色の魔石。
回復魔法でも使っている色なんだから適正あるんじゃ
「ありませんね」
ですよねー。
ワクワクの気持ちはいつしか不安に変わる。
期待が絶望に変わる。
例えるならソシャゲで100連分のガチャを引く時のワクワクから、最後の10連まで何も出なかった時に似ている。
違うことがあるなら、ガチャはいくらでもリトライ出来るけど、この結果は一生覆らないことだ。
「……あ、ありません。ごめんなさい」
美人な職員さんに謝られちまったよ。
黄色の魔石はうんともすんとも言わない。
「次はどれにしましょうか?」
もはや選択を委ねてきたよ。
回復魔法の適正は既にあると見て間違いない。
なら残るは希少と言われている光属性と闇属性のみ。
「両方同時にお願いします!」
腹括った。
これで駄目ならヒーラーになる。
両手に黄金の魔石と黒の魔石がそれぞれ乗せられる。
「…………お願い来て!」
美人職員さんの必死の懇願。
騎士様は祈るように僕の両手をじっと見つめる。
僕は既に凪のようだ。
諦めと言うやつだ。
変化は訪れた。
「……っ」
「……神子様!」
左手に乗せられていた黄金の魔石が眩い光を発した。
「来ましたわあああ!!!!!」
思わずの絶叫である。
100連敗北後のやけくそ単発で引き当てた感じだ。
「おめでとうございます!!」
「神子様! おめでとうございます!」
「お二人共! ありがとう! 本当にありがとうございます!」
感極まって涙が溢れる。
心無しか村を出た時よりも涙が流れている。
その後は約束された透明の魔石を輝かせてルンルン気分で魔術ギルドを後にした。