127話 新大陸11
「ああああああああぁぁぁ…………っ!」
部屋を魔法で防音にして、枕に顔を埋めて叫ぶ。
「恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいっ!!」
一生分の恥をかいた気がするぅ!
イキリすぎだろ! 厨二入りすぎだろ!
「暴走したぁーーっ!!」
顔が真っ赤なのは鏡を見なくても分かった。
だって、暑いもん。
自分から発する熱で暑くなってるもん。
『あれを厨二の夏、仮面の君と名付けます』
『異議なし!』
『右に同じくだよ!』
『素敵でしたっ!』
……“かっこよかった“
「追い討ちをかけるようなマネはやめてぇぇぇーーーーっ!!」
途中から、自分が何を言っているのか半分分かんなかったもん。
場の空気に流され過ぎて、ハイ! になってました。
「次の時、シャルルにはどんな顔で会えばいいんだろう……」
『やあ。久しぶり。寂しくなかった? 私は寂しかった、ぞ☆』
「いぎゃあああああああああぁぁぁ!!!」
『それとも、子猫ちゃんのほうが寂しかったのかなぁ〜?』
「ぐぼぉぉぉぉっ!?」
『緊張してるの? 大丈夫。痛くしないから』
「雛!? それはアウトだよーーっ!?」
『言ったでしょう? 幸せにするって』
「何様だぁーーー僕様ですぅ!?」
……“こなたたちは楽しかった“
「そいつは良かったですねっ!!」
うわぁぁーん! みんながいじめるぅ!!
自業自得なんだけどねぇ!!?
「あぁ…………もう何もしたくない」
固いベッドが逆に、心地よい。
この冷たさもヒンヤリとしていて良き。
色んな意味で疲労困憊の僕はそのままうつ伏せで眠った。
早くに寝たからか、日も上がりきっていない、早朝に起きてしまった。
寝ている間に、魔力のベッドに変わっていた為、快眠できたみたいだ。マナたちに感謝を。
王都の件については数日は様子見だね。
心癒すためにも。
本当はもっと穏やかに済ませるつもりだったのに。
強引に進めちゃったなぁ。
ベッドでゴロゴロしながら色々考える。
この先のこと。やるべき事。
そしてふと思い出す。
「この街に入る時に使った魔石……回収しなきゃ」
流石にほったからして、身元を特定されるのは間抜けすぎる。
最低限、あれは貰い物だと伝えないと。
善は急げ。僕は体を起こし、布団を整えて下に行く。
スピカはお眠で、肩に乗せて魔力を与え続ける。
既に宿の人は起きており、食堂からほんのり匂いが。
宿の女性に料理をお願いして、いつもの黒パンと透明スープを食す。
なんかこの質素な食事にも慣れたなぁ。
舌が敏感になったのか、スープから少しだけ味を感じるようになりそこまで苦にならなくなった。
食事を召し上がり、宿を早々に出る。
今日の門番さんが魔石を渡した人ならいいんだけど。
そこまで慌てるようなことでは無いので、のんびり行くことに。
早朝から働き始める人達が道を行き交う。
冒険者の人達もチラホラと見かける。
街の門まで辿り着くと、既に門番さん達が働いていた。
夜には宿に戻って寝ちゃうけど、二十四時間開きっぱなしなのかな?
その場合は交代制になるね。日勤と夜勤みたいに。
そして運良く見覚えのある門番さんが当番だった。
「おはようございます」
「ん? ああ、君か。どうだ? 街には慣れたか」
「はい。お陰さまで」
「それは良かった。これから出掛けるのか?」
気さくに接してくれる。やはり、街の顔と言われる門番を務めているだけのことはあって、人格者だ。
「少しお聞きしたいことが……僕が街に入る際に渡した魔石のありかって分かりますか?」
「ん? ああ、あれか。あれは物珍しさに領主様お抱えの魔導具職人の人が持っていったよ。その人は鑑定士もやっていて、その日も担当だったんだよ」
ああ。あの、魔石の出処を知りたがっていた人か。
「その人の住所は分かりますか?」
「分かるけど……何か用でも?」
怪しまれないように、言い訳をせねば。
「実は、冒険者になったのは良いのですが、中々稼げなくて……それで、なにか他に仕事がないかと。もう、黒パンと透明スープだけの食事は辛くて……」
「ああ……あの安宿に泊まっているのか。俺も興味本位で食べてみたが……あれは確かにキツイよな。分かった。確かに君は若いし、冒険者以外の職を考えるのもいいだろう」
「あ、ありがとうございます」
「鑑定士をしてもらう都合上、門の傍の家に住んでいるんだ。ほら、ここだよ」
「目の前にあったのですね?」
指さされたのは、ありふれた一軒家だった。
「少し変わり者だから気を付けて」
「はい! ありがとうございました!」
お礼を言い、一軒家に向かう。
ドアをノックして、暫く待つ。
出てこないよ?
コンコン。
…………出ないよ?
(少し失礼だけど……マナ)
『了解。……家には居るみたいね。ぐぅーぐぅー寝てるみたい』
(まあ、早朝だもんね)
もうしばらくは起きないと雛が言っていたので、冒険者組合に向かい、朝の恒例行事を眺める。
なんか冒険者の人達が年齢より少し若くなった気がする。
その原因はやはり、ミサさんなのだろうか?
ある程度時間が経ったので、冒険者組合を後にして再度、一軒家に。
『今は起きてるみたいね』
マナの助言により、安心してノックをする。
コンコン。
出てこないね?
『集中し過ぎて、気付いていないみたいね』
め、面倒な。
『そもそも、あの魔石の反応がないわね……もう使ったのかしら』
(まあ、六等級だし。一回限りの使い捨てだからね)
『物がないなら、いくらでも言い逃れが出来るわね』
(そうなんだけど。やっぱり万が一を考えるとね)
『それもそうね。なら、気付いてもらいましょうか?』
マナが何かをするらしい。
魔力領域に意識を向けると、テーブルに置いてあった紙の束を、マナがズラして地面に落とした。
かなりの量で、大きな音が僕の所まで響く。
流石にその人も気付いたのか、あちゃーと頭を抱えて席を立つ。
そのタイミングで、僕はノックをする。
コンコン。
気付いたようで、こちらに近づいてくる。
「はいはーい。どなたぁ?」
「あ、おはようございます!」
扉を開いて出てきたのは、長い髪を適当に束ねた男性だ。
白衣を身に付けているし、科学者みたい。
眠だけな目を僕に向ける。
あ、魔視を使ってる。
肌でそれを感じ取りながら、気付かないふりをする。
普通の人は気付かないからね。
「そのトカゲを配達しにきたのか?」
「えっ。ち、違いますよ!」
「ちっ。そっかぁ……で? 何用だ」
舌打ちした。
スピカは実験動物じゃないぞ!
「少しお聞きしたいことがありまして」
「なんだ。こっちは忙しいから手短にね」
「紫の魔石はどうしましたか?」
「お前だな! あの魔石を持ってきたって言う旅人は!」
興奮するように、僕の腕を掴む。
そして、返事を聞かずに家に引っ張りこまれた。
「さあ! どこで手に入れたんだ! あれはもう一度手に入るのか!?」
あまりもの剣幕に、一歩引く。
「あ、あれは全身黒ずくめの仮面さんに、餞別代わりに、貰ったもので詳しくは分からないんですよ」
ごめん。もう一人の僕。
全てを厨二の夏、仮面の君になすり付けることに。
「ちっ。まあ、ならいいや。それが要件か?」
「はい。貰い物でしたから、どうなったのか気になっちゃって」
「律儀だねぇ。まあ、いいか。使っちゃったよ。星一つの魔石だからね。すぐに空になった」
「あ、そうなんですか……お役に立ちましたか?」
そうか。なら、もう不安はないね。
適当に切り上げよう。
「役に立ったさ! もう少し上のランクならね! あの魔力に無限の可能性があった! でも、もう手に入らない! あれを元にした魔導具を作りたくても、原料が無いんだから」
心底ガッカリしたらように肩を落とす。
「新しい玩具のレプリカを貰った子供になった気分だよ。本物は手に入らないのが、分かったうえで」
なんか可哀想だなぁ。
だから、つい言ってしまった。
「その仮面さん曰く、王都に着いたら同じモノを売るみたいですよ。その宣伝で僕に魔石をくれたんだと思います」
「本当か!? 王都だな! 行きたい! 今すぐ無性に行きたい! あ〜っ! 契約が無かったら、今すぐにでも行くのにぃ〜!」
悔しそうに、髪をクシャクシャに掻き回す。
「あ、あはは。では僕はこれで」
「待ちなさい!」
回れ右して、ドアノブに手をかけたら、スピカが乗っていない肩に手を乗せられた。いや、掴まれただね。
「な、なんですか?」
「こんなにも興奮させたんだ。責任取りなさい」
「え〜っ! そんな横暴な」
「問答無用! 断念していた魔導具作りに付き合ってもらおうか!」
「僕は、その分野はノータッチですよ!?」
多少は知識があるけど、そこまで深くない。
「安心しろ。素人に魔導具を触らせるわけないだろ。お前は片付けでもしろ。金は出す」
「はぁ〜」
引っ張られる形で、工房みたいな所に辿り着く。
すんごく、汚いです。
紙の束が散乱して、テーブルの上には所狭しとフラスコやら試験管やら魔石やらと、色んなものが適当に積まれていて、もはやゴミの山。
マナが紙の束を崩す前から、既に散乱していたからか、そこに関しては良心が痛まずに済んだ。
「こ、この部屋を片付けるんですか?」
足の踏みどころすらないやん。
「ああ。私が魔導具の図面を描いている間に片付けろ」
「はぁ……分かりましたよ」
お金も払うって言っているし、やるかぁ。
「そう言えば、お名前はなんと言うんですかか? 僕はアーサーと言います」
「ん? ケビンだ」
「ケビンさんですね」
「……」
あ、もう聞いてないや。
テーブルに大きな羊皮紙を敷いて、羽根ペンで一心不乱に書き殴り始めた。
こちらに背を向けているので、顔を見えない。
僕はため息をついて、いそいそと片付けを始める。
まずは、大雑把に分類しよう。
紙の束を一箇所に集める。
書き殴られた文字の羅列。
読めないから、気にならない。
次は散乱している小物。
これは頑丈そうなやつを下に置いて、その上に軽いものを重ねてスペース確保。
「あれ、これ……カメラ?」
一昔前の、大型のカメラみたいなやつがあった。
どうやら魔導具のようで、魔力を僅かに感じる。
「ああ、それはつい最近作ったやつだ」
「用途はなんですか?」
ケビンさんがいつの間にか僕の背後に立っていた。
ヒョイとカメラを手に取り構える。
「光魔法を用いての、光景の保存を目的にした魔導具だ。最近、質のいい光属性の魔石が手に入ってな」
それ、僕が売ったやつでは。
「残念ながら保存出来ても、それを取り出す方法が無いんだ」
「紙とかに投影させたりは」
「ふむ……それには複数の構造を構築する必要があるな。それに単一の属性だと、やはり無理がある。だからと言って複数の属性を組み合わせると費用が馬鹿にならない。私は使える魔導具を作っているんだ。使えない魔導具は作れない。それが契約条件でもあるからな」
「ままならないものですね」
それだけの才能がありながら、自由に物を作れないなんて。
「無理は言えん。私みたいに金を出してくれる魔導具職人は恵まれているんだ。大抵は自分で稼ぎながら合間に作るものだ」
変人だけど、大人なんだなぁ。
僕は片付けに戻り、ケビンさんもテーブルに戻って、ウンウン唸りながら描き続けた。
早朝から始めて、日が暮れる前に何とか片付けを終える。
綺麗になった部屋はやはりいいものだ。
モップ掛けもしたし、分類も済ませて棚に収められるやつは収めた。
小物も木箱の中に入れて、積んでいる。
「ほう。中々手際が良いじゃないか」
「頑張りました。もう散らかさないでくださいね」
「善処しよう」
あ、また散らかるな。
「では代金だ。受け取れ」
「こ、こんなに!?」
手のひらに乗せられたのは、大銀貨。十万円相当だ。
「気にするな。あの魔石が手に入るかもしれないという情報だけで価値があるんだ」
「そう、ですね。有難く受け取らせてもらいます」
そうだよね。
人によって、情報の価値は変わる。
だから、僕は情報を集めようと決めたんだ。
『忘れてるかもしれないけど、ギルドで使った魔石はどうするの?』
(あっ……忘れてた。ま、まぁ、ミサさんの事だから秘密にしてくれるよ。うん!)
『めんどくさいのね……』