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126話 新大陸10

「落としても怒らないからね〜」

「は、はひぃ!」


なんか逆に怯えさせてしまいました。


少女を引き連れて路地裏に足を踏み入れる。


っと、その前に聞かないと。


「いつまでも少女のままじゃ、あれだから名前を教えてくれるかな?」

「な、なまえ……」


何かを戸惑う少女。察しました。


君の名前(・・・・)だけでいいよ」


僕の言葉で察したのか頷く。


「シャルルです」

「可愛い名前だね」

「あ、ありがとう、ございます」


照れるというより、やはり怯えたように俯いてしまうシャルル。


歌いたくなる名前だよね。


「私が怖い?」

「……っ」


その反応が答えを言ってますね。


「手を出して」

「?」


疑問に思いながら、手を差し出す。


もう片方には、重そうに皮袋を抱えていた。


差し出された手に僕のは手を合わせた。


そして魔力を彼女の性質に合わせて、魔力を流す。


神聖国で聖女のメサイアにした技能(スキル)だ。


魔力譲渡(トランスファー)。相手の魔力を回復させる僕オリジナルだ。


シャルルは驚いたように、目を見開く。


「あたたかい」


信じるのは難しいこと。


裏切られるかもしれないから。


でも、僕は信じて欲しい。


「君を幸せにする。その言葉に偽りはないよ」

「ぁ……」


魔力を流すのをやめて、彼女の手を握る。


「いきなりは信じられないだろうけど、これから私のすることを見て聞いて感じて欲しい。その上で信じられないのなら、好きにするといい」


シャルルの手を引いて路地裏を進む。


返事を求めるには、まだ信頼関係が出来上がっていない。


だから、返答は保留でお願いします。


少し歩いたところで、気配が近付く。


「やあ。さっきぶりだね二人とも」


僕の目の前に現れたのは、案内してくれた浮浪児の二人だった。


「君たちのボスに合わせてくれない?」


僕の言葉に、二人はビクッと反応した。


「会って、どうするの、ですか?」


たどたどしくも、ことによってはという覚悟を感じる。


この絆だよ。家族の絆のような強い繋がりを、感じたから彼らに掛けてみようと思えるんだ。


「少し仕事を依頼したいだけだよ。これは前金」


僕は持っていた皮袋を少年に投げる。


「わっ! ……す、すごい!」


受け取った少年は、中身を覗いて目を見開くぐらい驚く。


「こんなに……!」


隣りの少女も確認して驚く。


「それをボスに持って行って。それで引き受けないなら返してね。一時間ほど待つから」

「わ、わかった、です」

「いこっ!」

「うんっ!」


二人で抱えるように皮袋を握って、駆けていく。


「さて、行こうか」

「えっ、待たないのですか?」


シャルルの手を握り直して歩き始める。


「場所はもうじき分かるからね。わざわざ御足労してもらう必要はないよ。それにパクられたらコトだよ」


僕の言っていることに一定の理解を示したのか頷く。聡い子だ。


魔力領域で常に場所を把握してるし、なんなら子供らが集まっている場所も分かっている。


でも、まあ普通に少し遅れて行こう。


話し合いの時間を与えないと。


「汚いね」

「はい」

「でも、それは見せかけで、その証拠に生ゴミが落ちてない」

「あ、本当です」


汚れているけど、決して不衛生ではない。


それは恐らくこの一帯のボスが、しっかり管理を行っている証拠だ。


「あとさり気ない落書きが、現在地を示しているね」

「そうなんですか?」


シャルルは目を凝らして壁の落書きを見つめるが、よく分からないみたいだ。


「貴重な色付きのチョークを使って、左右上下の色の比率で、ある程度の座標を示しているんだよ。ほら、この落書きは上辺りに赤色が偏っているでしょう。これがどの方角かまでは分からないけど、恐らく中央から少し離れた場所なんだよ」

「なら四色が均一になる場所が中央になるんですね」

「そうだよ。よくわかったね。偉い!」


なでなで。


かーっ。


これは褒められて恥ずかしいのか、この程度のことで褒められるのが屈辱なのか分からない赤面だね。


「ち、中央にボスさんの家があるんでしょうか?」

「そうかもしれないし、違うかもしれない」

「えっ、どっちですか?」

「複数あると思うんだよね」

「場所を転々としているということですか?」

「うん。大抵、組織を管理する人って、支部とか中間を作りたがるんだ。そっちの方で管理して問題あったら呼んでね〜って感じで」


前世でも、中央管理部とか、第一管理部とか、○○部署管理部とか、枝分かれしまくって、酷い時は、一月に二度も審査に来て、整理や書類の準備、不必要な物の処分に追われてしんどかった。そういうのは衛生管理の人達の領分でしょ? というところまでやらされて、上司の取り敢えずやっておけ感が凄かった。


そういう経験もあってか、そのボスもそうやって管理しているのではと思っている。


それにその利点として、現場の判断に任せることができる。


常にボスの指示をあおがないといけないと、ボスの身動きが取れなくなるからね。


それに浮浪児って、良くも悪くも気が付けば居なくなったり増えたりする存在だから、一々把握してられないだろうし。


しばらく進むと、人の気配が濃くなった。


周囲を子供たちに囲まれている。


でも、武装した男たちより慎重で、姿を表さず一定の距離を保つ。


そして突き当たりに辿り着く。


「い、行き止まりです」

「うん。そうだね〜」

「引き返しますか?」


目の前に壁。


僕は手をその壁に触れる。


「必要ないよ」


少し押すと、すぅ〜っと壁が動いた。


「えっ」

「子供たちがボスの場所まで辿り着けないように、壁を作っていたんだよ。それにこの壁、見せかけで木の板で出来ているみたいだよ」


シャルルも恐る恐る壁に触れると、表面の感触と見た目の違いに気付いたようだ。


「それじゃ進もうか」

「は、はい」


魔力領域でこの壁が薄っぺらいものだと知っていたから、こんな自信満々に言えたけど、特に魔法とか使ってないから普通なら気付かないよ。


浮浪児たちの根城にようやく辿り着く。


少し大きめな家で、門の前には子供たちがこちらを警戒するように睨みつけ、シャルルを見て顔を赤らめていた。


反応が素直過ぎて、少し泣きそう。


特に邪魔されることなく、門を潜ると、入口で椅子に跨って座っている青年と、皮袋を持たせた二人組がこちらを見つめていた。


「ど、どうして?」


二人組の少女が聞く。その顔には裏切られたというふうに受け取れた。


「ごめんね。君たちが私を信じていないことは分かっていた。てか、君たちは大人を信じていない。でしょ?」

「早いお出ましだなぁ。もう少しのんびりしてくれれば茶も沸かせたんだけどなぁ」

「その間に引越しでもされたらかなわないよ〜」

「けっ! こっちの考えはお見通しか」


吐き捨てるように唾を吐く青年。


見た目はジミー君ぐらいだから、まだ十代だろうに、そのギラついた目には常に飢えと怯えを感じさせた。


「んで? 金返せって?」


そのひと言に、囲んでいた浮浪児たちが殺気立つ。


僕はそれを無視して要件だけを伝える。


「仕事は簡単だ。この王都のありとあらゆる情報を集めて欲しい。他にも派閥があるなら引き込め。ある程度の規模のグループなら、追加の金も支払う。シャルル」

「は、はい」


えいっ! とシャルルは皮袋をボスに向かって投げる……が、腕力が足らず地面に銀貨がぶちまかれる。


「……ふはは! 拾いたまえよ! ……ごめん。拾って?」


押し通そうと思ったけど、無理でした。


「ごめんなさい! ごめんなさい!」


シャルルがガチ謝罪をするので、シュールさが増してしまった。


浮浪児たちは素早く銀貨を拾い集めて皮袋に戻して、シャルルに手渡す。


「あ、ありがとうございます!」


シャルルの感謝の言葉に、照れくさそうにする浮浪児たち。


ほのぼのとした空間が生まれる。


「シャルル。手渡しでお願い」

「は、はい!」


今度は投げつけるのではなく、コトコトと駆けてボスの傍まで向かう。


「これを受け取ってくださいっ!」


ラブレターかな?


「お、おう」


いきなりの告白に、素っ気ない返事しか出来ない思春期の男の子かな?


皮袋を受け取ったのを見て、シャルルは嬉しそうに僕の元に戻ってくる。


「よくやった! 偉いぞ〜」

「あ、あぅ……」


我が子を愛でるように髪をわしゃわしゃすると、初めてシャルルが素直に照れた。


少しは心を開いてくれたかな?


「そのお金は引き込む時にでも使って」

「どんなにくだらない情報でもいいのか? 肉屋の親父が魚屋のババアと浮気しているとかでも?」

「うわ……聞きたくなかった。まあ、そんな感じでお願い。私の願いは君たちがこの王都の浮浪児立ちを束ねること。あと、出来れば貧困層の人達にも同じことを伝えられる? お金は同じように支払うから」

「貧困層の連中にも仕事を与えるのかよ?」


追加で、僕は皮袋を収納から取りだし、シャルルに渡そうとすると。


「いや! 普通に放り投げてくれ! その女にはもう渡すな! あと、その件も引き受けるから!」

「ありがとう」


皮袋を放り投げると、片手で受け止めた。


「アンタはこの王都で、腫れもの扱いされている連中を纏めて、情報を集めろと俺に言っているわけだ」

「他の誰でもいいんだ。君はたまたま私を案内した子が所属しているグループのボスだった。それだけだよ。どうする? 乗る? 降りる?」


あくまでこちらが上だと伝える。


頭をガシガシかき、ため息をつくボス。


「わーったよ! 乗るよ! アンタなら本当にいくらでも代わりを見つけるだろうしな。そんで? 契約書でも書くか?」

「めんどくさいからいいよ。これからは対等な関係を築いていこうね〜」

「よく言うぜ。そんでアンタをなんと呼べばいい?」

「お好きに」

「んじゃ、腹黒仮面な」

「酷いよ! ソロモンでお願い」

「ソロモンの旦那だな。なげぇーから、旦那と呼ぶぜ」

「分かったよ。あ、こっちは窓口のシャルルね。私はあまり王都に居ないから、その間、彼女に情報を流して」

「え!?」

「シャルルは読み書き出来る?」

「い、一応できますけど……」

「重要そうな情報だけメモればいいから。本格的な情報収集は、ヘンリーとのやり取りで何となく、分かるでしょ?」

「は、はい。が、頑張ってみます」

「いい返事だね!」


隙あればなでなで。


「なあ、それってつまりお嬢ちゃん一人置き去りにするのか?」

「あっ」


シャルルは気付いたように僕を見上げる。


アルビノのシャルルの容姿は、間違いなく目立つ。


一人で街を歩こうものなら、その日に拉致られるだろう。


「大丈夫。対策は考えてあるよ。これから毎日、シャルルにはここまで散歩がてら来てもらって、君たちの集めた情報をメモってもらう。まあ、予行練習みたいなものだから気楽にね」

「ここまでって……俺たちガキの力じゃ、街の荒くれ共からお嬢ちゃんは護れねぇーぞ!?」

「護ってくれるの? やっさしぃ〜」

「ちげぇーよ! お嬢ちゃんになんかあったら、アンタに消されそうだって心配してんだ!」


シャルルも不安げに僕を見上げる。


さほど身長差が無いから上目遣いになってるけど。


『スピカを護衛につけるの?』

(ううん。違うよ。そうしたらアーサーの方で困るよ)


スピカは割と街の人達に見られているから、居なくなったら騒ぎになるかもしれない。


それにこの子は戦力として数えていない。


まだ成長途中だからね。


「アンタなら俺たちも想像つかないような方法を持ってんだろうけど、目に見えないと安心出来ねぇーのも分かるよな?」

「分かったよ。そこまで言うなら……驚かないでね?」


僕は人差し指を掲げて、魔力を指先に集める。


魔視を使って、精霊が見えるようにする。


指先に精霊たちがふよふよと近づいてくる。


僕は魔力を込めた言葉を精霊たちに向けて発する。


「この女の子の守護精霊になってくれる子は居る? 僕の魔力を与えるからさ」


精霊は言葉ではなく、その人の意思を読み取る。


だから日本語で言っても理解出来る。


僕の言葉が分からない為、静かに見守る周りの子供たち。


そして僕の言葉が分かる精霊たちは、フルフルと震えて、僕の指先に止まる子。離れる子で別れる。


(六体かぁ〜)


数は申し分ないけど、まだ幼い思考しか持たない子ばかりだ。


これでは僕も少し不安だ。


(少し試してみるか。みんなサポートよろしく)


僕はその六体の精霊にそれぞれ合った性質の魔力を流す。


すると、精霊たちはみるみる大きくなり、発光する。


「な、なんだ?」


周りの子達がザワつく。どうやら光が見えない人にも見えるレベルになったらしい。


『なるほどね……相変わらず、面白いことを考えるわね』


マナは気付いたようだ。


みんなのサポートにより、均一に精霊たちは同じ大きさで留まる。


「……『過大深化(オーバーアップグレード)』」


魔力の塊の精霊。


そんな精霊に魔力を込めたら? 普通なら性質が違うから、意味がなかったり、ちょっと吸収するのが関の山だ。


だけど、魔力譲渡(トランスファー)は相手の性質に合わせて魔力を流す。


つまり、本人の魔力そのものを与えるのだ。拒絶するわけがない。


結果、本来なら有り得ない精霊の肥大化。


でもこのままでは、おなかいっぱい食べただけだ。


それを、力にする。


その為に、精霊そのものを深化させる。


不思議と失敗するというイメージは無かった。


本来ならこんな万が一なことはやらないんだけど。


今の僕が、若干厨二入っているからかな?


結果、球体だった精霊が、しっかりとした形をした一個体に深化した。


本来なら長い年月をかけないといけないような深化を。


「「「「わあ……」」」」


そのに居る全員が視覚できるレベルの精霊。


少なくても中級精霊レベルだろう。


それぞれ属性がバラけている。


てか、基本の六属性じゃん。


「名前はそうだね。君は朱雀、君は玄武、君は白虎、君は青龍、君は麒麟……後は八咫烏になるかなぁ」


火属性の精霊は朱雀。名前を与える時に言葉にイメージを乗せたからか、鳥の姿に。


土属性は玄武。蛇の尾を持つ亀に。


水属性は青龍。細長い龍に。


風属性は白虎。白い虎に。


光属性は麒麟。髭を生やした馬に。


闇属性は八咫烏。一本の足を持つ烏に。


本当はもっと別の属性だったり、性質を持つんだけど、麒麟とかは土だし、玄武も水だ。


まあ、当て字みたいなものなので、イメージ優先で。


形を与えられたけど、まだ喋れるには時間が掛かるみたい。


六体が僕の前に屈む。跪いている感じ?


『あなたを主として認識しているみたいね』


やっぱり。


なら、僕から仕事を与えないと。


引き続き日本語で指示をする。


「君たちはこれからこの少女……シャルルの護衛に務めて欲しい。この少女に被害を及ぼす相手は可能なら無力化、無理そうならシャルルの安全を確保できるまで逃走して僕に知らせる。あと、出来るだけ彼女のお願いは聞いてあげて」


精霊たちは頷き、シャルルに纏わりつく。


「わっ!」


いきなり飛んできた精霊たちにシャルルが驚いて尻もちをついてしまう。


あ、見えてたんだった!


「言い忘れてた。姿は基本的にシャルル本人にも見えないようにしてね。呼ばれた時だけ姿を表す感じでお願い」


僕の言葉で、精霊たちの存在感が薄まる。


魔視を解くと見えなくなっていた。


「い、今のはなんだよ」


辛うじてボスだけが、言葉を発した。


僕は人差し指を口元に当てて言う。


「秘密」


説明が面倒臭いから、ハブらせて。


「なんだよ、それ……でも、今のがお嬢ちゃんを護ってくれるんだな?」

「ああ。それは間違いないよ。あの子たちはシャルルの護衛だ」

「なら、まあ……安心なのか?」


一応納得したらしい。


シャルルは自分の背後に隠れているのかと、自分の周囲を探し回る。


なんか自分の尻尾を追いかける犬みたいで可愛い。


「それじゃ、そういうことだからよろしくね」

「ああ。アンタの期待を裏切らないように頑張るよ……」

「おや? 素直だねぇ」

「あんなもん見せられて、歯向かう気も失せるわ」


疲れ果てたようにボスは言うので、クスクスと笑ってしまう。


「あはは。初めて子供っぽい姿を見せたね。そっちのほうが生き生きしてて私は好きだよ?」

「ばっ! 馬鹿なこと言ってねぇーで、早く行けぇー!」

「はいはい。それじゃ、行こ? シャルル」

「は、はい」


トコトコ駆けてきて、そのまま手を差し出すシャルル。


シャルルは自分が何をしているのかに気づいて、赤面してしまう。


「行こっか?」


僕はシャルルが引っ込める前に、手を握って歩き出す。


「……はひぃ」


あえて後ろは振り向かないであげよう。






そして、セキリティがしっかりしてそうな高級宿にシャルルを泊まらせることに。


本人はこんな所に泊めれないと言っていたので、銀貨百枚が入った皮袋を持たせて、また会おうと宿に残した。


日はもう沈みそうだった。


僕は、人気のない路地裏で、冒険者の時の装備に戻して、時雨と空音に手伝ってもらって転移で街に飛ぶ。


そして何食わない顔で、安宿にチェックインして、食事をパスして部屋に戻った。

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