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123話 新大陸7

街に住み着いてから、早くも一週間。


毎日、早朝に冒険者組合の喧嘩を鑑賞して、午前中に薬草を摘み、魔物を一匹ほど倒す。

そして、心のケアの為にお昼は川沿いでぼーっとして、夕暮れ前に街に戻る。

冒険者組合で薬草を納品して、ソフィーさんが暇そうなら、ジェスチャーやここら辺一帯の地理を教えてもらう。

日が沈んだら、宿に戻り黒パンとスープをマナたちの力を屈指して平らげる。部屋に戻り装備のメンテナンスをして、魔力の布団に飛び乗り、ふかふかな感触に包まれながら、スピカを愛でて眠りにつく。


かなりのんびりした日々を送ったお陰で、魔力も全快したし、身体も問題なし!


心身ともに復活!


と、言うタイミングで。


「おめでとうございます。アーサー様。星二に昇級しました」

「あ、ありがとうございます!」


日に日に魔物を殺めてから、立ち直るまでの間隔が短くなり、今日は久しぶりにミサさんに受付をしてもらっている。


これで晴れて、魔物の討伐依頼を受けられる。


本格的な冒険者として活動する時が来た。


期待と不安を抱きながらも、前向きに捉えられる。


「隣の彼女からお伺いしております。随分頑張っていらっしゃるとか」


隣でナンバしまくる冒険者の男性たちを捌きながら、こちらに小さくピースサインするソフィーさん。器用だ。


「頑張ることはよいのですが、少しは休んだほうがよろしいのかも知れません。無理をして怪我でもしたら大変ですから」

「そう、ですね。明日は休むことにします」


言われて気付いた。


僕、休んでない。


前世はかなり惰性に過ごしたのに、転生してから割と働き者になったかも。やっぱり、自分の出来ることがあるとやる気が湧くね。


有難い申し出を受けて、休むことに。


「差し出がましい申し出でしたね……申し訳ございません」


ミサさんがハッとしたように頭を下げる。


ソフィーさんが言っていた通り、ミサさんは冒険者と親しくしないようにしているのだろう。


「僕はミサさんに心配されて、嬉しかったですよ? 故郷を離れてひとりぼっちの僕からしたら、そういう風に心配してくれるだけで心の支えになります。ありがとうございます」

「…………」


僕の素直な言葉にミサさんはポカンとした表情を浮かべた。


「ふ、ふふ……そうですね。心配なのでちゃんと休んでください。これはお母さんの言葉だと思って受け止めてください」


少し胸を張って人差し指を立てて言うミサさんは少し、若返ったように感じた。


僕もミサさんの冗談に付き合う。


「お母さんの言葉なら言うことを聞かなちゃ!」

「……ふっ」

「……はっ」

「ふふふ」

「あはは」


二人して吹き出してしまう。


冒険者の人達が珍しいものを見たと言わんばかりにこちらを凝視している。


正確にはミサさんをだ。


朗らかに笑うミサさんは、人妻でありながら母性と色気を兼ね備えており、冒険者一同の心を鷲掴みにした。


元々はここの看板受付嬢だったのだから、当たり前である。


若い頃にミサさんに恋をした冒険者の人達も多いのだろう。


いつも空いているミサさんのカウンターに、受付をしている僕の背後に冒険者たちが並び始める。


「みんなミサさんとお話がしたかったみたいですね。僕はこれで失礼します」

「えっ……あ」


今、自分が注目を受けていると知ったミサさんは戸惑うようにたじろぐ。


その仕草は、可愛らしいものでまたしても、冒険者たちは顔を赤らめる。


「先輩! ほらほら、早く捌かないと間に合いませんよ〜!」

「ま、待ってください。皆さんっ」


冒険者が我先にと、カウンターに殺到する。


「ミサさん! 俺……俺、やっぱり、あなたのことが……!」

「人妻になってもやはりお美しい……是非、この後お茶にでも」

「今の旦那はミサさんを幸せにしてますか!? もし御不満があるのなら、言ってください! ビシッと叱ってやりますよ!」

「お互い歳をとり、既婚者同士になりましたね。それでも貴女は私の青春そのものでした」


みんな、ようやく母親に構ってもらえる子供みたいに、話しかけまくる。


これにはミサさんも苦笑いだ。


「はいはい。一人づつ聞きますから、列に並んでください。大人なら言うこと聞けるわよね?」

「「「「はい!」」」」


みんな目をハートにして、大人しく列になる。


僕はとんでもないものを目の当たりにしたのかもしれない。


「なんか、こっちが暇になっちゃった」


カウンターからいつの間にか出てきて、僕の横で不満そうに言うけど、その顔はオフの時の顔で、凄く嬉しそうにミサさんたちのことを見ていた。


「ありがとね」

「僕は何もしてませんよ」

「そんなことないよ。みんな先輩が壁を作っていたのを知ってたから、話しかけられなかったの。そのせいで先輩もいつの間にか、冷たい態度が当たり前になっていったの。でも、アーサー君の素直で真っ直ぐな一言が先輩を救ってくれたんだよ」

「お役に立てたなら光栄ですね」


僕は嬉しかったから、嬉しいと言っただけだ。


そこにこんな結果になるなんて、想像すらしていなかった。


「不思議だよね。あんなに冷めきっていて、もう見れないと思っていたのに、だった一言。小さなきっかけ一つで、こんなにも凄いことになるんだから」

「……はい。でも多分それは、ミサさんの積み重ねてきたものがあったからこそですよ」

「うん……うん。知ってた? 先輩って、すんごく優しいんだよ?」


嬉しそうに言うソフィーさんの顔は、大好きな人を語る顔そのものであった。


「現在進行形で、知り始めましたよ」


大騒ぎだけど、みんな笑顔のとても素敵なこの空間を見たら、嫌でも分かるよ。


ちゅ。


えっ!?


頬に何か温かいものを感じたよ!?


僕は驚いてソフィーさんを見ると、照れくさそうに笑っていた。


「あはは。お礼だよ? どう? 嬉しい?」


おちゃらけているけど、顔真っ赤すよ?


あ、僕もか。


『青春過ぎて、悶えそうだよ』

『雛も〜』

『胸焼け起こすわね、これ』

『私も恥ずかしくなってまいりました』





なんだかんだ長居したので、冒険者組合を後にする。


まだ夕方になるのに時間があるので、少し散策しようかと、目的なく歩く。


屋台の焼き鳥が美味そうだ。


薬草を摘みまくったから、お金には余裕がある。


買おっかな〜と悩んでいると、雛から慌てたように呼びかけられた。


『お兄ちゃん! お、起きたよ! 二人とも起きたよっ! 早く来て!』

「なに!?」


つい大声を出して、街ゆく人たちに注目される。


僕は慌てて駆け出して、その場を離れる。


(宿に戻るから少し待って!)


きたきた! 起きた! 双子が起きたよ!


ワクワクする心を抑えるように、駆け足で宿に向かう。





宿に戻り、直ぐに部屋を借りて、いつもの部屋に駆け込む。


ベッドの硬さなんか気にする余裕もなく、横たわり目を瞑る。


意識が沈み、精霊の箱庭に降り立つ。


みんなの居場所は何となく分かるため、駆けて古城の中に入る。


一室の扉が開いており、中を覗き込むとマナたちが勢揃いしてベッドに上半身だけ起こした和洋折衷の装いをした双子を見つめていた。


「お兄ちゃん!」

「うん」


雛に頷き、ベッドに近付く。


するとぼーっとしていた双子が全く同じタイミングでベッドから飛び降りて、僕の前までやってきた。


「えっと、僕のこと分かる?」


こくんと、紫色の左右対称のサイドポニーを揺らして頷いた。


そして、おもむろに僕の手を互いに掴み、己の頬に当てた。


彼女たちの頬っぺたの柔らかさと温かさがダイレクトに手に伝わる。


マナたちは何も言わず見守る。


すると、僕は意識の端ぐらいに何かを感じ取った。


……“はじめまして“


これは言葉?


そんな一言が脳裏に浮かんだ。


……“こなたたちは創造主が見つけてくれることを待っていた“


また、今度は長めだ。


……“こなたたちは名前が欲しい。創造主に与えられる唯一無二の名前を欲する“


ず、随分、ハードルを上げてきやがるぜ。


でも、抜かりない!


今回は、しっかり寝る前に考えに考え抜いたから!


多分! いや、恐らく! 気に入ってくれるといいなぁ!


「分かったよ。君たちの名前は……“時雨“と“空音“だよ」


彼女たちは静かに涙を流した。


「えっ!? 気に入らなかった? 一応、時空から一文字づつ取って、僕の名前を漢字変換して、一文字づつ付けたんだけど……」


時空と雨音。


(レイン)(ノーツ)。あと(ステラ)


三つ子なら、星を使ってたのかな?


あっ、でもそれはスピカが該当するのかぁ。


双子は首を横に振る。


でもそれは嫌だというよりも、僕の気に入らなかった? という部分を否定するような気がした。


「気に入ってくれた?」


コクコクと頷いてくれた。


クイクイと袖を引っ張られ、しゃがめと言っているように感じた。


しゃがむと、左右から顔が近付いてきて、避ける暇もなく、両頬に柔らかくて温かい感触が!


って、本日二度目じゃないですか!?


「あー! 新入りがほっぺにちゅーしたぁー!」


澪がコミカルな言い方をする。


「おませな子達みたいね」


やれやれとマナが頬に手を当てる。


「思ったより元気そうで一安心ですね〜」


ライアはホッとしたように胸をなでおろした。


「ねぇねぇ! しーちゃんとあーちゃんもお兄ちゃんが大好きなのっ!?」


こくこくこくこく!


雛の問いかけに、すごい速度で首を縦に振っていらっしゃる!?


てか、早速愛称で呼んでいる!


「そうなんだっ! 雛もなんだー! これからよろしくね!」


こくこく。ぎゅっ。


「わー! 二人にハグされちゃった! えへへ〜」


幼女が……幼女が三人くっついている……目の保養が凄まじいぜ。


おっと、鼻血さんがログインしようとしているぞ? ブロックだ! ブロック!


人懐っこいのか、マナにも澪にもライアにもハグしに行く。


その為か、一瞬でみんなに馴染んだ。


みんなでテラスに向かい、そこでテーブルを囲む。


ライアがあくせくとお菓子と飲み物を用意する。


「麦茶? ですね。分かりましたっ」


どうやら、僕だけでなくみんなにも、脳に浮かぶ言葉があるようだ。


それは全員ではなく、一人にだけ伝えられるようで、今のは僕には伝わらなかった。


ライアにより、冷たい麦茶が二杯用意されて、時雨と空音は全く同じモーションで、コップを持ち、仰ぐ。


ごくごくと飲み、至福の一時みたいな幸せそうな表情を浮かべた。


なんか歌姫シャロンみたいだなぁって思った。


彼女はもう普通に喋っていいからね。


みんなで、穏やかな一時を過ごす。


「さて、それではあなたたちが目覚めたことで、本格的に時空魔法を運用できるようになったわ。協力してくれるかしら?」


グッ! と、サムズアップで応える双子。


「うふふ。頼もしいわね。それなら色々尋ねたいのだけど……」


それからはマナが主体になって質問して、他のみんなは時々質問するみたいになり、数時間が過ぎていった。


結論! すんごい。以上!


やっぱり数多ある能力の中でも最強クラスとして、オタクたちに知られているだけの事はあって、もはやなんでもありやん。


まあ、古竜様から前もって知識としてやれることやれないことを知ってたから、ただの確認なんだけどね。


やはり、過去に戻るみたいな使い方は出来ないみたいだ。


一つの物質を、生まれる前まで巻き戻せるけど、それはその物質だけの時間を巻き戻すだけで、タイムパラドックスみたいに、何か過去が改変することは無い。


あくまで、能力は使用した対象のみに完結する。


それに魔力消費も非常に多い。


賢者クラスでもなければ初歩的な魔法で直ぐに魔力が枯渇するレベルだ。


使い手が少なかったのもそういう背景があって、魔力消費をどうにかしようとした結果、時魔法と空間魔法という別れ方をしたらしい。


そういう影響もあり、時雨も空音も双子として生まれたみたいだ。


マナ曰く、彼女たちの力を借りれば魔力領域(マナテリトリー)の精度が飛躍的に上がり、擬似的なシュミレーションすら可能になるという。


つまり、高度な計算の元に再現された未来が少し見れるということかな?


もはや未来視やん。


マナの領域。雛の観察眼、ライアの模倣、澪の造形、そして時雨と空音の空間の掌握。


これらを組み合わせれば、数秒後の仮想未来を見れる。


もちろんこれはマナたちからしても、非常に難易度が高くて、実現するのに年単位、常時展開するのに数十年単位かかるかもしれないけど、ロマンのある話だ。


そして彼女たちの目覚めにより、僕は一つ行動に移すことにした。

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