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120話 新大陸4

街から出る時に冒険者証明書を提示したら、無償で街から出られた。


冒険者特権というやつだろう。


恐らく、その代わりの対価みたいなのが、設定されている筈だ。


例えば、街に魔物の群れが接近してたら、強制的に戦うとか。


世の中持ちつ持たれつで成り立っている。


そういう点だと、僕は四人組の冒険者の皆さんに借りを作ることになる。


借りは返さねば。


移動中に彼らの自己紹介をしてもらえた。


僕にお節介を焼く青年が、四人組のリーダーで剣士のアレスさん。


アレスさんと痴話喧嘩をしていたのが弓士の女性、モイさん。


脳筋こと重戦士の青年、ペンさん。


気まぐれそうな盗賊の女性、アップルさん。


四人はこの街で生まれ育った幼なじみで、冒険者歴十年、星六でこの街一番の冒険者パーティだ。


「あ、麻袋を忘れた」


後先考えない性格の為か、アレスさんは気付いたように言った。


「はあ……予備があるから」

「お、流石!」


先程の痴話喧嘩など無かったように、アレスさんとモイさんは息ピッタリのやり取り。


「後でお金をお支払いします……」


僕自身も気付かなかった。


そうだよね。


採取には麻袋がないと持ち帰れないよね。


至らないばかりだ。


「いいっていいって。あたしん家、内職で麻袋作りまくってるから」

「モイの家の麻袋は、この街で一番頑丈で評判なんだぜ〜」

「あんたが自慢することじゃないでしょうが」


二人の仲睦まじいやり取りをほのぼのと眺めていたら、アップルさんが耳打ちしてきた。


「アレスの家、肉屋さんで良く麻袋を買ってたお得意さんなの。だからうちらの中であの二人が一番付き合いが長いんだよ〜」

「そうなんですね〜。アップルさんやペンさんのお家も何かしているのですか?」


ペンさんは胸を張って言う。


「俺の親父はこの街の治安を守る衛兵なんだ」

「うちは代々、鍵開け職人の家系でね。その鍵開けスキルを盗賊として使ってるのさ〜」

「アップルの言う盗賊は、冒険者としての盗賊で、野盗とか人を襲う盗賊とは別もんだぜ」

「ややこしいから、変えて欲しいけど根付いちゃってね〜」


アレスさん達もこちらの会話に加わり一気に賑やかになる。


街の外だと思えないぐらいほのぼのとしている。


森の入口付近に辿り着き、アレスさんたちの雰囲気が少し変わる。


「いいかアーサー。ここからは魔物が出る可能性がある。だから警戒を怠るなよ。特にお前はこれから一人で活動していくんだからな。早めにパーティを組むのをオススメするぜ」

「はい……」


一人じゃないよ。


スピカもマナたちも居る。


「きゅう!」

「おっと! そうか、おチビも居たな。悪かったな、忘れて」


スピカが自分もいるよ! みたいな鳴き声を出して、場が少し和んだ。


「それでアーサー。聞くがどうやって薬草を探す」

「どうやって……あ」

「そうだ! 駆け出しがよくやるのが、事前情報を集めずに、採取に行ってしまうことだ!」

「いや、あんたが無理やり連れてきたんだけど……」

「…………ごほん! まあ、俺たちも初めの頃は良くやらかしてたから、気にするな!」

「はぐらかした。ひひっ」


でも、多分言われなかったら、やっぱり僕も普通に何も考えずに来てただろうからあながち間違ってはいない。


『雛は薬草の形覚えてるよ!』

『錬金術の授業で実際に薬草を取り扱いましたね』

(そう言えばそうだ……あ、でも別大陸だから同じ薬草か分からないかも)

『あ、そっか〜えへへ、うっかり』


アレスさん達は言葉も通じるし、人間としての違いも見受けられない。


でも、全てが一緒ではない。


一旦、自分の持つ常識とかは横に置いて、初心に戻ったつもりで学んでいかないと。


「薬草に関しては、受付嬢さんに聞けば現物も見せてもらえるし、特徴も教えてくれるから、冒険者の格言に『困ったら受付嬢』という言葉もあるんだぜ」

「まあ、自分で調べようともせずに、何でも受付嬢に聞いていたら、星が上がらないし、受付嬢の機嫌もどんどん悪くなるから、ちゃんと調べられることは自分で調べてね」

「はい、分かりました!」

「いい返事だ少年!」

「ひひっ……いつも受付嬢に質問攻めでブチ切れさせた脳筋がコイツだよ〜」


前例が間近に!


そして、アレスさんたちに薬草の形や匂い、生えている場所など、色々教えてもらえた。


貰った麻袋に薬草を収納する。


「よしっ。ならば俺たちから教わったことを実践してくれ。俺たちは周囲を警戒するから」

「分かりました!」


今度は一人で薬草を見つけなければならない。


草むらにしゃがみこみ、目が点になるぐらい睨めつけるように薬草を探す。


(だ、ダメだ。僕には薬草も雑草も同じように見える……)

『雛に任せて! 学園で見たものと同じだったから、直ぐに分かるよ』

『雛。せっかくだからこれを使ってみて』

『マナちゃんこれはぁ?』

『マウスよ。ほら映し出されたこの画面にカーソルが現れたでしょう?』

『本当だっ! お兄ちゃん見えるぅ〜?』

(うおっ!? いきなりパソコンのカーソルが視界に現れたよ!?)

『あとは、このカーソルで雛が薬草だと思った場所に重ねれば、旦那様がわかりやすいでしょう?』

『うんっ。ありがとうマナちゃん!』

『うふふ。どういたしまして』


それからは早かった。


雛がカーソルを合わせた地点にある草をむしり取るだけの簡単なお仕事。


夢中になって採取していたら、背中をトントンと叩かれた。


「アーサー……もう、いいんだ。もういいんだよ! そんなに必死に……」

「あ、へ?」


どうやら必死に薬草を採取してることから、僕はかなり生活に困窮していると勘違いしたらしい。


実際、無一文なんだけどね!


麻袋パンパンに薬草を詰め込み、僕の初仕事は終わるはずだった。


「ん? ……みんな、近くに魔物が居るよ」


モイさんが口に人差し指を立てて、静かにと促す。


風に揺られる木々や草の音の中に、雑草を踏む足音がかすかにする。


(凄い。雑談をしている最中だったのに、しっかり周囲の事も把握している)


アップルさんは音を立てずに、スイスイと木の上に登り、ジェスチャーをする。


「魔物はゴブリンで三匹という意味だよ。冒険者が長年積み上げたジェスチャーなんだよ。興味あったら受付嬢に聞けば、一覧を見せてれる筈だし、何かしらのパーティに参加した時に必須になると思うから」

「はい」


モイさんが補足してくれた。


こういうジェスチャーって、特殊部隊感があって、ワクワクするよね。


今のジェスチャーの内容的に、鼻をつまんで人差し指と中指で、歩くモーションでゴブリン? いや歩くモーションは二足歩行の魔物で、鼻をつまむのは匂いがキツい魔物ということかな? そしてその後に横向きの三本指は、向けた方向に三匹居るということで、最後に人差し指を眉間にトントンと当てて、それ以外の方向をうろちょろし始めたことから、自分は継続して索敵しますという感じに捉えられるね。


そしてリーダーのアレスさんはみんなにジェスチャーをおくる。


でも今回は素人の僕も居たからか、直ぐに口頭で教えてくれた。


「これから俺とペンで正面、モイは側面に回り込んで攻撃を仕掛ける。アーサーはモイの背後について行ってくれ」

「わ、分かりました……!」


見学ということだな。


ジェスチャーの内容は、人差し指でアレスさんとペンさんを指して、五本指を真っ直ぐに敵の方向に伸ばし、振り下ろすというもの。

次にモイさんを指さし、人差し指を上に向けて半月を描くように動かし、最後に小指を僕に向けてそのままモイさんの方までスライド。


全部は分からないけど、部分的に何となく分かった。


動きが滑らかすぎて、僕は反応が遅れるけど、他のメンバーは即座に頷き武器を持つ。


そしてミリタリーの映画で見る、人差し指と中指だけ真っ直ぐ伸ばした握りこぶしを二度振って、動き出す。


モイさんがしゃがむように手を平面に下に下ろして、僕は従うように屈む。


頷いたモイさんは前を向いて草むらに突っ込む。


僕はその背後にピッタリくっつくようについて行く。


そしてここで気づいたけど、モイさんはほぼ無臭だった。


目の前にいるのにほぼ匂いがしない。


そして恐らくほかのメンバーもそうなのだろうと察した。


彼らはなんてことないようにしているが、生存するために出来ることはしっかりやっている。


(これが星六の冒険者……勉強にしかならないよ!)


僕の遥か先の先達者たち。


モイさんの背中がかっこいいぜ!


こうやって雑念だらけの時点で、僕の未熟さが分かる。


ダメだ。しっかり集中しよう。


……あ、あはは。


(マナさん!? 全部マップに出てまんがな!?)


味方を表す青い点。敵を表す赤い点。僕を表す星マーク。スピカ? と思わしきドラゴンの横顔マークは僕と重なっている。


それが御丁寧に視界の右下のミニマップに表示されていた。


『一人で無理しないって約束でしょう?』

(そ、そうだけど……なんかズルしてるみたいで)

『……旦那様にとって、私たちはずるい存在なのね……』

『お兄ちゃん。雛たちはお荷物なの?』

(あ、違う! 違うっ! みんなに頼りすぎると僕がいつまでもボンコツだから、少しでも立派になろうとだね!)


言葉のあやなんです!


モイさんについて行きながら、僕は汗だくになっていた。


『ふぅ……からかいすぎたみたいね。別にあなたが頑張ることを否定する訳じゃないけれど、彼らは生存率を少しでも高める為にできることをできる限りやっているのよ? ならばあなたもできる限りのことはやっておくのがベストじゃないかしら?』

(……)


驕っていた。


浮かれていたとはいえ、確かに。


僕は力を手に入れて増長して、本来ならビクビクしている状況ですら、楽天的に手を抜こうとしていた。


反省しないと。


こうやって、スーニャたちが居ないだけで、僕はどこまでも甘ちゃんだったことには気づく。


そして、いつもは甘々なマナは、こうやって僕のことを思って叱ってくれる。


本当に頭が上がらないよ。


(うん。マナの言う通りだよ。マナたちの力はズルなんかじゃない。僕の……僕の力だ。僕の才能(ギフト)だ!)

『ふふ。言えたじゃない』

『その通りでございますっ。私たちのお力は御主人様のお力そのものなんですっ! どうぞ御遠慮なくご利用してくださいませっ』

『いつでも頼ってくれても構わんのだよ?』

『止まるんじゃねぇぞ…だね!』


みんな!


僕には本当に勿体ない家族だよ!


感動のあまり滲んだ涙を拭う。


「よし! 見たかアーサー!」

「え?」

「そんなに自慢しない! ほら、アーサー君もそんなに気にしないでいいからね。コイツ、カッコつけたがりだから」


僕が他のことに気を取られている間に、ゴブリンたちは殺られていたでござる。


地面に倒れたゴブリンは皆、アレスさんが持っている剣の一撃でスパン! と殺られてしまったようだ。


『私は見てましたよ! 大丈夫です! ライオットさん達に比べれば、大したことありませんでしたよっ!』

(ライアさん!? そういう問題じゃないのよ!? あと若干毒舌ぅ〜)


わざわざ僕の為に、倒してくれた様なものなのに、見学の分際で見てないとか、ないわ〜。自分でもないわ〜。と思うよ!


「は、はい! でも、アレスさんかっこよかったですよ! 僕も剣士を目指してますけど、まだまだ精進しなければと思う所存でございまするに、素直に尊敬できるというか、憧れを抱いた〜みたいな感情もありますですよ、はい」


ぶわっと冷や汗をかきながら何とか、言葉を吐き出す。


「お、おう? そ、そうか! まあ、いずれドラゴンスレイヤーになる男の剣撃だからなぁ〜がはは!」


鬼畜な王様みたいな笑い方をしているアレスさん。


どうやらヨイショは成功したようだ。


『ピピッ。上空レーダーに飛行型の魔物の接近を確認』

(やだ。なにそのピピッって言い方。可愛い……マナさんもう一回言って)

『……アレスさんに接近するわよ……っ!』

『マナちゃん顔真っ赤っか! か〜あい〜い〜!』

『写真撮りました! 後で現像しましょうっ』

『雛も脳内フォルダーに保存余裕でした』

『あ、あなたたちぃ〜!!!』

『きゃあー! おかされるぅ〜!』

『『おかされるぅ〜♪』』

『待ちなさーい!』


マナたちの声が遠のいてゆく。


マナの照れだと! 是非僕も見たいぞ!?


って、その前にアレスさんに警戒するように伝えないと。


もしかしたら、気付いているかもしれないし、しゃしゃり出るような真似になるかもだけど、それでも万が一があるなら、伝えるべきだ。


「アレスさん! 上から魔物が!」

「あ、本当だ! アレス!」

「うお! 了解!」


コンドルみたいな鳥型の魔物が急降下してアレスさんにその鋭そうな嘴で突進してくるけど、それをアレスさんは躱すのではなく、剣でカウンターを仕掛けるようにフルスイング。


スパッ! と、嘴ごと鳥型の魔物は真っ二つになって、その勢いのまま地面に嘴から突き刺さった。


「ふぅ〜あぶねえ。助かったぜ、アーサー!」

「ど、どういたしまして!」

「本当だよ! 助かったよ。だけどアレス! 一番値打ちの付く嘴を真っ二つにするなんて、馬鹿なの!? マヌケなの!? 後輩がみてるからって調子のって! 少しは反省しなさい!」

「その流れで俺怒んのかよー!? あんまりだろ!?」

「うっさい!」


流れるように痴話喧嘩が始まり、僕はアップルさんの笑い声に釣られるように笑ってしまった。


楽しい薬草採取も終わり、街に難なく帰り着く。


スピカはお眠だ。


冒険者組合の前で別れる。


アレスさんたちからは夕食を一緒にという誘いをもらったけど、よくよく考えたら、今日泊まる宿を探してないことに気付き、御遠慮することに。申し訳ないことをした。


そのまま、笑顔で別れを告げて冒険者組合に入ると、僕が受付をした受付嬢さんが居なくて、代わりに行列が出来ていた受付嬢さんが暇そうに一人で受付でペンを鼻と口に挟んでボーッとしていた。


夕暮れ時は、冒険者の人達は酒場か装備のメンテナンスとかで宿に戻っているのだろう。


よく冒険者ギルドと合併したような酒場が作中に出てきたりするけど、普通に考えて酔っ払いがどんちゃん騒ぎ横で、受付とかしてられないよね。


そんな酔っ払いに絡まれて、星六冒険者のアレスさん達に助けられ薬草摘みにも付き合ってもらえた確率は、宝くじを当選するぐらい低いのでは?


ガランとしている室内は、何となく市役所みたいな居心地の悪さがあって、僕は開閉扉の前で立ち止まってしまう。


そんな僕に気づいた受付嬢さんが、顔を明るくして手招きをしてくる


僕は軽くお辞儀して、足音を立てずにスススッと、小走りに受付に向かう。


「君、ちょっと前に先輩の受付を受けてた新人の子だよね!」

「え、あ、はい……」


やたらテンション高い、僕の苦手なギャル感を感じて下を俯いてしまう。


僕みたいな陰キャは、ギャルさんの持つグイグイくる感じが凄く苦手というか、免疫がないのだ。


「休憩の時に先輩が凄く褒めてたよ! あんなに礼儀正しい子は初めてだって! 」

「は、恥ずかしいです……あ、あの受付嬢さんはもうお帰りに?」

「うん。子供も居るし家の家事とかもあるだろうし、夕方前には帰っちゃうよ」

「既婚者の方だったんですか」


確かに結婚していてもおかしくない年齢だったけど、僕の考えが古いのだろう。


女性の結婚イコール退職というイメージが少しあった。


現に僕が勤めていた会社では、寿退社する女性ばかりだった。


「そうだよ。まあ、結婚してるからって理由で男の冒険者の人達からは距離を置かれているみたい……本当失礼しちゃう! 結婚しているからこその先輩の色気に気付かない人達だもの!」

「あ〜人妻の持つ色っぽさというやつです?」

「そう! それだよ! ぐへへ……先輩って、少し牛乳の匂いがするんだよ。あの匂い嗅ぐとなんかムラムラしてきちゃう。いやん! ダメよ! 先輩は人妻なんだもんっ」


な、なんか一人で妄想に入ってしまった受付嬢さん。


僕、帰っていいすか?


あ、いや、ダメだ。


この薬草を売らないと、今晩泊まる宿代すらないや。


「あ、あの薬草を採取してきたので……」

「えっ? あ、ごっめ〜ん! 少しムラムラしてたぁ〜! これは内緒だよ? はい! 賄賂!」

「えっ〜!? そんなもの受け取れ……飴?」

「王都でも人気のある飴ちゃんだよ〜」


僕に賄賂代わりに、飴を手に乗せて、自分も飴を口に入れて蕩けるような顔をする。


どうしよう。


さっきのムラムラ顔と、今の蕩ける顔の区別がつかない……!


女性にとって、ムラムラした時と甘味を味わっている時は同じ感情だった……!?


『『『『それはない』』』』


ですよね〜!


「あの〜だから、薬草……」


蕩けてるところすみません。


「はっ! は、はーい。今受付スイッチ入れるね〜」


受付スイッチ?


「すぅ〜はぁ〜。……はい。承りました。どうぞ、こちらの納品エリアに薬草をお乗せください」

「お〜別人みたぁ〜い」


ついパチパチと拍手してしまった。


女性の変貌って、怖いね。


「うふふ……ありがとうございま〜す♪」

「あ、ちょっと素が出てますよ?」

「ご、ごほん……少し数が多いので少々お待ちください」

「はい」


キリッ! から、にへへみたいにたるんでいたので、ビシッと指摘しておきました!


静かになった受付で、受付嬢さんが口の中で転がす飴ちゃんのコロコロ音がだけが部屋に響く。


なんだろ。色っぽい音に聴こえてきたぞ?


沈黙に耐えかねて、もらった飴ちゃんを口に放り込む。


甘ぇ〜!?


なにこれ!?


砂糖じゃん!?


角砂糖に蜂蜜とシロップをぶっかけたの!?


吐き出しそうになるのを、口を押さえて堪える。


口の中が……口の中が、甘さで蹂躙されていくぅ〜!


「はい。全て薬草で問題ないですね。凄いですね! 駆け出しの方は大抵大半が雑草なのに。……では、精算しますね」


ソロバンみたいな道具を取りだし、カチカチ。


「精算終わりました……一束銅貨一枚で、十七束ありました。端数は切り落としでよろしいですか?」

「ふぁ〜い」


甘さに耐えて、かろうじて返事をする。


「では、代金は大銅貨一枚と銅貨七枚になりますが、全て銅貨で統一しましょうか?」

「ほへがいひまぁす」


お願いします!


「かしこまりました。では、銅貨十七枚になります。ご確認ののち、お控えください」

「ふぁい」


十七枚しっかり銅貨な気がします。


それをポケットに入れる。


「では、これにて受付は終わりになります。お疲れ様でした!」

「……ごくん。はい。ありがとうございました〜」

「あ、あはは……ごめんね? 甘すぎた、よね?」

「……はい」

「色々頭使う仕事だし、同僚は女子ばかりだから男の人が甘いのが苦手だって忘れてたよ」

「いえ。勉強になりました」


少し落ち込んだ様子だったので、慌ててフォローする。フォローになってるか?


「ありがとう。今度はちゃんと甘さ控えめの飴ちゃん用意しとくね!」

「いや、そこまで気を遣わなくても……」

「気にしないで! ちょうど、新しい飴ちゃんとの出会いに出掛けようと思ってたところだから」

「なら、いいのですが」

「って、もう日が暮れちゃった。宿は大丈夫?」


言われて思い出しました!


「あ、僕、宿まだ取ってませんでした!」


僕は慌てて頭を下げて、組合から出ようと小走りで出入口に向かう。


「なら! 出てまーっすぐ行った突き当たりの左に、組合認定の宿があるからそこなら泊めてくれると思うよーっ!」

「ありがとうございまーす!!」

「またねー」

「はい! また!」


僕はまるで、RTA走者みたいに最短ルートでその宿に向かった。


最後まで受付嬢さんにお世話になりっぱなしだった。

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