119話 新大陸3
おはようございます!
いつの間にか寝ちゃった。
精霊の箱庭に行った気がするのだけど?
今日こそ双子に会わねばと二度寝を決行しかけたけど、よく考えたら、他人の家でした。
早起きして、恩返しせねば。
そして、最寄りの駅ならぬ、最寄りの街に向かい冒険者登録!
冒険者デビューですぞ! オラ、ワクワクすっぞ!
なんだろう。
すんごいテンションタカシ!
あはは! タカシって誰だよ! あはは!
「って、さすがにハッスルし過ぎ……ふぅ〜クールダウン」
深呼吸して、夜間テンションみたいな気持ちを落ち着かせる。
双子に関しては、起きた時でも良いかも。
「ずっと魔法を掛け続けてくれてありがとうライア」
『いえ。お役に立てて至上の喜びでございます』
「んな大袈裟な……街に着いてぇ冒険者登録してぇ依頼を受けてぇ報酬を得たら服を買おう」
指折って、目標を定める。
そうすればライアの負担も減るだろう。
部屋を出る。
日は登り始めたばかりで薄暗い。
「おはようございまーす」
恐る恐る居間に顔を出すと、もう既にお二人揃って、ボードゲームに興じていた。
「早起きだねぇ。もう少し眠ってもいいんだよ?」
「そうそう。早起きは年寄りの我々に任せなさい」
「だあれが年寄りだって?」
「うそうそ。母ちゃんはいつまでも若々しいよ」
「んまぁ! 口が上手いんだから!」
「あ、あはは……」
朝から二人の仲睦まじいやり取りを見て、息子さんが早くに家を出た理由の一端を知った気がする。
「昨日から気になってたのですが、そのボードゲームはなんですか?」
「これかい? これに正確な名前は無いよ。暇つぶしに作ったもんさ」
「この駒はわしが作ったんだ」
「へ〜凄いですね!」
「その駒を作る時間を家の手伝いに使ってくれたらあたしも助かるんだけどねぇ」
「あたたっ、持病の腰が……」
「だ、大丈夫ですか」
「放っておきな、嘘だから」
なんだ。嘘か。
「少し早いけど、朝食を作ろうか」
「あ、手伝います」
「聞いたかい! あんた! この子凄く良い子だよ!」
「聞いたよ母ちゃん! この子は良い子だなぁ!」
何この褒め殺し! 恥ずかしいんですが!?
その後も恩返しとして、肩もみをしたり、水汲みをしたり、まきを割ったりして、沢山お世話になってお別れの時間。
「本当に良くしてくれ、本当に……本当にありがとうございました」
込められる限りの感謝の気持ちを言葉にのせる。
「アーサーちゃん! 遠くに行っても元気でね!」
「うおおおお!!! アーサー! いつでも帰って来いよ! 待ってるからなぁ!」
気が付いたらめちゃくちゃ馴染みました。
トータルで一日も居ないんだけどね。
でも僕も、少し寂しい。
「はい。いずれまたお会いしましょう」
「そうだ。あんた! ヤンが使ってた剣! あれを持ってきて」
「おお、あれか。確かに隣町とは言え、危険が無いわけじゃないからな!」
スコーンさんが慌ただしく家に入っていく。
そして一分も経たずに帰ってくる。
その手には一本の剣。
「お古だが、まだ使えるはずだ。お守りがわりに持って行ってくれ」
「……度々、面倒をお掛けします。有難くいただきます」
「面倒じゃないさ。楽しい時間をありがとう」
スコーンさんから剣を受け取る。
ベルトが付いていたので、肩に斜めがけだ。
「うん。似合うねぇ。行ってらっしゃい」
「……行ってきます」
ムギさんは僕の前髪を直して、優しく言う。
僕は照れくさくも、言葉を返す。
二人に頭を下げ、村の出口に向かう。
度々ふり向かっては手を振る。
二人が見えなくなるまでそれを繰り返した。
『あたたかいわね』
「うん。あったかい」
二人の優しさのおかげで、僕はかなり救われた。
「さあ、急ごう」
お昼ぐらいからの出発で、夕方には着く予定だ。
もう一晩と誘われたけど、僕にはやるべきことがある。
のんびりしてられない。
「それに」
村から出て、しばらく歩いたところで、僕は軽く屈伸をする。
「僕なら一時間で着く」
闘気を使い、身体能力を大幅に上昇させる。
軽く足を曲げ、一気に踏み出す。
全開じゃないけど、それなりの速度で駆ける。
これなら一時間も掛からないかも。
辿り着きました。
村と違い、立派な外壁に囲まれた街だ。
「街に入るのに、身分証明書とお金がかかるのか……」
両方持ってないのですが?
「困ったでござる」
むむむと草むらに隠れて唸っていたら、お金だけ渡して、街に入る人。お金じゃなくて物を渡して街に入る人など、色んなパターンを見た。
「お金に相当する物があれば身分証明書は無くても街には入れるのか……その場合割高になる感じか」
身分証明書は割引されるとみた。
「ならば、あとは物か……この剣は手放すわけがない」
貰い物だし。
そしてふと、トースト先生……錬金術師のトースト先生を思い出す。正確には先生じゃないけど、細かいことはいい。
「小遣い稼ぎには魔石。そして魔石は石から作れる」
足元に転がる爪先ぐらいの大きさの石をつまみ上げる。
「マナ。込めてみて」
『了解』
僕が込めるより、マナの方が正確な数値を把握できるだろうという思惑。
石が徐々に紫色に染まっていく。
僕の魔力は白色なんだけど、関係ないみたい。
『あ』
パキッ! と小石が粉々に弾けた。
「上限はこれで分かったね」
『ええ。……悔しいけど、これでもう失敗しないわ。それにしても上限が低すぎるわ』
『マナちゃん……お忘れでしょうが、御主人様の魔力は桁違いですので……』
『わ、分かってるわよっ……少し手元が狂ったの』
「あはは」
まあ、僕が基準だと色々狂うよね。
同じぐらいの大きさの小石をいくつか手のひらに乗せていく。
「一個じゃ足りないみたいにならないようにね」
十個ぐらい乗せる。
「お願い」
『ええ』
小石が紫色に変わっていく。
今度は弾け飛ばなかった。
十個全部、魔石にチェンジ完了だ。
『普通の錬金術師だと小一時間ぐらいだっけ? それを一瞬って、割とヤバくない?』
『……人前で魔石を量産するのはやめましょう』
「……うん。賛成」
間違いなく目立つね。
常識大切。
僕は魔石を、ポケットに押し込み、門に向かって歩いた。
なんだろう。ドキドキする。
あ、そっか。
初めてなんだ。
こういうイベント。
基本的に馬車に乗っていたら街に入ってましたみたいなパターンばかりだった。
本当に異世界に転生した序盤みたいだ。
ドキドキしながら自分の番を待つ。
「次」
来た!
「は、はい」
「身分証は?」
「あ、ありません……」
「街に入るにはお金が必要だが、身分証があれば冒険者なら免除、商人や本国の国民なら割安になるから、用意できるならすることをオススメするぞ。金額は銅貨五枚だ」
「分かりました。お支払いは魔石でいいですか?」
「いいぞ」
「それではこれで」
僕はとりあえず一つ取り出してみた。
「見たことの無い色だな」
「だ、ダメですか?」
ここに来てダメとかないよね!?
ドキドキしながら返事を待つ。
「ダメじゃないが、素人目じゃ判別つかないな。少し待ってくれるか?」
「分かりました」
「それじゃ、横に逸れてくれ。これ頼む」
「分かった」
もう一人の門番の人に魔石を渡して、次の人に移る。
「今、鑑定士に見せてくるから待ってくれよな」
「分かりました」
門番さんが街の中に入っていく。
『まさか色で難癖付けられるなんて……』
(いやいや。難癖じゃないよ。僕も紫色の魔石ってみたことないもん)
『何も調整しなかったらこうなったの。調整して単一属性の魔石にした方が良かったわね』
(そこまで頭が回らなかった僕も悪いから反省だね)
よくよく考えたら、僕には希少な光、回復、氷、そして時空という、普通の人が持っていない属性ばかりだ。
それで一般的な魔石が作れるわけがなかった。
『もしかしたらマナちゃんが、悪さしてるかもね〜』
『そ、そんなわけ……ワンチャンあったりするかしら?』
『世界で恐らく唯一無二の魔力の精霊だと思いますよ』
『希少度は、マナちゃんが一番レアってことだね! オレンジ色だね!』
『君、最近洋ゲーにハマりすぎだぞ〜』
『あははっ。くすぐったいよぉ〜』
『夜更かしする悪い子はこちょこちょの刑だぁ!』
『あははっ。あぅん』
みんなの会話に耳を傾けていたら、門番さんが帰ってきた。
「お待たせ。本物だと確認が取れたよ。鑑定士が出処を知りたがってたから、ぼかしておいたよ」
「わ、わざわざありがとうございます!」
いい人ばかりだ。
「一応念の為に……その眠っているトカゲ? は君の使い魔ってことで良いんだよね?」
「あ、はい」
「よし。ならこっちのダグを腕とかに付けても? 付けないと騒ぐ人がいるからね」
「分かりました」
スピカの首に紐に通したダグがかけられる。
「これで魔物だーって騒ぐ人が居ても、うるせぇー! って言えるから安心してね」
「あはは。度々ありがとうございます」
深々とお辞儀をして、街に入る。
取り敢えず、冒険者組合に行こう!
って、門番さんに場所聞いとけば良かった。
……そうでも無さそう。
何せ、入ってすぐの大きな建物に冒険者の格好をした人達が出入りしている。
うわ〜。アクセスしやすい場所だこと。
本音を言わせてもらえば、街を少し散策してから見つけたかった……!
視界に入った以上は、向かうしかあるまい。
僕は冒険者組合の建物に向かった。
開閉扉を通ると、汗臭い匂いにうってなる。
エントランスと思われる場所は、奥行があって奥側にカウンターが横に広がっており、それぞれ一つのカウンターの横に大きなスペースが設けられており、恐らくそこに採取したものや剥ぎ取った部位などを乗せるのだろう。
左右には椅子とテーブルが並べられており、それぞれ冒険者たちが座って談義してたり、ボーッとしてたりと自由だ。
壁にはズラリと並んだ依頼書。
その前を冒険者たちが屯していた。
(ザ! 冒険者組合!)
これこれこれ! このファンタジー感!
こうして一人で冒険者ギルドもとい組合に入ったのは初めてだ。
今から冒険者登録するんだ、僕!
それだけでワクワクが止まらない!
テーブルで座っていた冒険者たちの中には僕をチラチラ見る人も居るけど、見慣れない顔だからだろう。
幻影によって、地味な出で立ちだから、容姿が気になるということは無いはず。
僕は目立たないようにひっそりとカウンターに向かう。
列が出来ているカウンターと、人が並んでいないカウンターがある。
列の方は、美人な受付嬢さんが冒険者の人達の依頼を申請したり、報告を聞いているようだけど、冒険者の男性はさっきから、飲みに行こうとか食事に行こうとか、ナンパ紛いなことばかり宣って、受付嬢さんはにこやかに聞き流して事務的に処理している。
後ろに並ぶ人達もみんな男性で、同じ目的なのかも。
空いている方は、三十代ぐらいの女性の受付嬢さんで、隣の賑やかさなど気にしないように、淡々と事務仕事をこなす。
僕は仕事の邪魔にならないかな? とか、そっちは別口なのかな? とか思いながら、恐る恐る空いているカウンターに向かった。
「あ、あの……」
「ん? いらっしゃいませ、依頼の受付ですか?」
僕の声で顔を上げて、親しみやすい笑みで対応してくれる。プロだ。
「冒険者の登録を、お願いしたいのですが」
「ああ、登録ですね? 手続きに料金が発生しますけど宜しいですか?」
だよねー!
手持ちの魔石しかないや。
僕はポケットから魔石を取り出す。
「魔石で代行出来ませんか?」
「可能ですよ。お預かりしますね」
僕から魔石を受け取り、カウンターにより見えないところでゴソゴソ。
「本物だと確認出来たので、こちらを手数料として受け取ります」
「はい。ありがとうございます」
どうやら本物か分かる魔導具があるみたいだ。
と取り敢えず一難去った。
「ではこちらに、お名前、性別、年齢、職業もしくはなる予定の職業を記載してください」
「はい……」
手渡された紙を見て、僕はようやく気付いた。
(文字が読めん!)
言葉がナチュラルに通じたから気づかなかったよ。
そう言えばここは別大陸だった!
「もしかして、書けませんか?」
「はい……」
「ならば代筆しますよ」
「お願いします」
紙は受付嬢さんの元に戻る。
「名前はアーサーです。性別は男。年齢は……十五歳です。職業は〜剣士です」
「アーサー様ですね……はい。後はそちらの使い魔の登録も致しますか?」
「はい」
「ではその子のお名前と種族を教えてください」
「名前は……スピカで、種族は〜ブラックリザードです」
「うぅ〜ん。聞いたことがない種族ですね。……希少種っと。それでは全ての手続きが終わりましたの、証明書を発行します。少々お待ちください」
「分かりました」
歳はサバを読みました。未成年だとダメとか困るからね。
職業は、背中に剣を背負ってるし、魔法使いがこの大陸でどのぐらい希少なのか分からないから念の為。
スピカは、読み間違えが起きないようにそのまま。スピカが混乱しない為にもね。種族はでっち上げ。理解のある受付嬢さんで助かった。
数分待っている間、隣の受付のやり取りを聞いてるけど、みんな好きな女の子に話しかけている思春期の男子みたいになっている。
そして受付嬢さんもにこやかに笑みを崩さずに、テキパキこなしていく。この人もプロだ。
「お待たせしました。こちらが冒険者証明書ですね。ご確認ください」
「はい……問題ないと思います」
「基本的に冒険者の皆様が読めるのは、名前の欄と職業欄だけですのでご安心ください」
「ありがとうございます」
僕が読めないことを察して、すかさずにフォローしてくれた。本当に優秀な人だ。
「次は受付の手順ですね。基本的に掲示板に貼られている依頼は示されている星の数以下の依頼しか受けられません。星が記載されていない依頼は受付をする必要のない常設の依頼ですので、ご自由に。アーサー様の場合は薬草採取や、街の住民からの依頼などが受けられます。魔物の討伐に関しては星二以上の冒険者を対象にしておりますので、御理解願います。ここまでで何かご質問はございませんか?」
「星二に上がるには星付きの依頼を受ける必要がありますか?」
「ありません。星一は言わば、冒険者がどのような職業かを体験するものですので、いくつか依頼を達成すれば自然と上がりますのでご安心を」
「なるほど……ご丁寧にありがとうございます。取り敢えず気になる質問はありません」
「良かったです。アーサー様のように礼儀正しい人ならば、すぐにでも星を上げられますよ。応援しております」
「あ、あはは……ありがとうございます」
不意打ちの褒め言葉に照れくさくなってしまう。
受付を済まし、取り敢えず薬草でも摘みに行くかと、冒険者証明書を二つ折りにして、ポケットにしまい込む。
開閉扉に向かうと、酒瓶を片手に顔を赤らめたスキンヘッドの大男が道を塞いだ。
え?
そんな……まさか!
「ひっく……ここぁ〜がきぃのぉ〜! ぐるばじょじゃあ〜ねぇ! そのぉ〜けんをぉ〜おいてけぇ〜ひっく」
要約。子供が来るの場所じゃないゾ! その剣はオイちゃんが預かるね☆
(か、か、絡まれたぁー!! す、凄いよ! 絡まれたよ! テンプレキタコレ! だよ!)
普段ならオタオタしてしまうけど、あまりにもテンプレ過ぎてむしろ興奮してきた。
「お? そのぉ〜とかげ? トカゲ! も〜おいてけぇ〜」
それはダメです。
スピカに目をつけるとは中々見どころのあるやつ。だがしかし! 死んでも家族は売らねぇー!
肩に乗っていたスピカを両手で抱きしめ、酔っ払いの視界から隠す。
「今日も酔っ払ってんなあ〜。いいぞ! もっとやれぇ〜」
「あのガキが裸で放り出されるのに銅貨三枚!」
賭けやら、ヨイショやらで大騒ぎ。
ここは酒場じゃないんだよ?
場の空気に浮かれたのか、酔っ払いは手を伸ばしてくる。
ふっ……やれやれ。ここは僕もテンプレに乗っかって、少し懲らしめてやりますか。
と、テンション高く、闘気を使う。
今の僕の腕力はクマさん並だぜ?
「ストーップ! そこまでだ馬鹿野郎!」
「あ痛てぇ! てめぇ〜!」
「あ? やんのか」
「……ちっ。覚えてろよ!」
(酔っ払い弱い! 弱すぎる! もっと粘ってよ! なんでいきなり現れた四人組の人達に臆して逃げちゃうん? 僕のこのやる気溢れる左腕はどうなるの? 責任とってよ!)
と、やるせない気持ちを堪えて、助けてくれた人達に頭を下げる。
「この度は助けて頂き誠にありがとうございます……」
「おう! 見たことない顔だな。新人か?」
「あ、はい。今日登録したばかりです……」
「そっか! なら、これから薬草を摘みに行くんだな! 俺たちがついて行ってやるよ!」
「えっ」
「このお馬鹿!」
四人組の一人、弓を背負ったボーイッシュな女性が男性の後頭部を叩いた。
「痛てぇ! なにすんだよ〜モイ」
「ごめんね。いきなり」
「あ、いえ。大丈夫です」
「って聞けよ!」
「うっさいわ。あんたはデリカシーがないんだよ! いきなり初対面の子に馴れ馴れしいわ!」
いきなり目の前で痴話喧嘩が始まった。
「いつものことさ。気にすんなよ少年」
盾を持って、軽鎧に身を包んだ男性が苦笑しながら言った。
「アイツらは場を弁えないからねぇ〜ひひっ」
いたずらっ子の雰囲気を抱かせる女性が面白そうに笑った。
「ほら! 取り敢えず受付済ませるよ!」
「痛て! 耳を引っ張んなよ! ち、ちぎれる! ちぎれるからぁー!」
二人が僕を担当してくれた受付嬢さんの元に向かう。
残った二人は僕の横に。
「あの、行かないのですか?」
「俺はバカだから行っても意味無いんだよ」
「コイツ脳筋だからね〜殴る食う寝るしか頭にないんだよ〜ひひっ」
「はぁ……」
変な人たちだ。でもいい人たちだと思う。
僕はもう行っても良いのかな?
何となく一緒になって待ってるけど。
『レイン君ちょっといい?』
(どうしたの? 澪)
『この大陸の言語さ。私に解析させて?』
(えっ? 助かるけど……)
『ふふーん。この文系の澪さんにお任せなさーい!』
(澪って文系だったんだ……)
脳内でドタバタと駆けていく音がした。
『彼女も自分の出来ることをやりたいのよ。少しでも役に立つ為に』
(気にしなくていいのに……というのは酷だね。素直に嬉しいよ)
澪も思うことがあるんだろう。
彼女たちだって人並みに考えて、動けるんだ。
彼女たちの気持ちを尊重しよう。
そうして考え深く思っていたら、二人が戻ってきた。
「悪ぃ悪ぃ待たせたな! んじゃ行くか!」
「ごめんね! ほんっっっとうにごめんね! 今回は私の顔に免じて一回だけ付き合ってあげて!」
「は、はい。分かりました。僕も助かります」
「よぉーっし! んじゃ、レッツゴー!」
名前を分からない青年に肩を組まれて、冒険者組合を後にした。