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11話 両親とのお別れ

それから1時間置きに1人治し、1日6人。


それを10日繰り返して騎士様御一行を治しきる。


治す度に感謝を言い渡されて照れくさい。


騎士様はその間僕の傍らに立ち僕を護衛する。


護衛する必要ないんだけどなあ。


傷が浅い人達はアレックのおじ様に治してもらった。


何故か残念そうに僕を見つめたのが印象的だ。


傷が治るなら誰でも良くない?


治す中で貞操の危機を感じる視線を向ける人も居たけど、僕はノーマルなので丁重にお断りしたい。


その夜その人にアーッ! される夢にうなされたのは言うまでもない。


トラウマになりそうだ。


「これで全員ですね」


「はい。何までありがとうございます神子様」


「その呼び方変えられないものですか?」


「滅相もございません」


何度も同じやり取りしてる。


「そもそも神子とは何なのですか?」


密かに抱いていた疑問をぶつける。


「神子とは神聖国が認定した神の使いを指す別称ですね。神に見初められ奇跡の所業をなす方が該当します」


「僕の力が神のものだと?」


「はい。歴代の神子様方は多くが常人には出来ない奇跡を起こしてきています。アンデッド蔓延る戦場跡を1人で浄化したり、上位竜のブレスを1人で受け止め切ったり、一撃で大陸亀を討伐したりと奇跡のような行いばかりなのです」


どれも戦闘系の能力やんけ。


「なら僕は見落ちするんじゃないですか?僕にはそのような力はありません」


僕もそんな力が欲しかった。


「確かに歴代の神子様方には神子様のような癒しに特化した方はおりません」


「な、なら!」


「ですが、その力は間違いなく歴代の神子様方にも比翼する力だと具申します」


僕の言葉を遮って断言する騎士様。


「本当にそうでしょうか?」


「はい。万人を救うという点では、間違いなく並び立つと思います」


「そ、そうですか……」


どうやら神子認定からは逃れられないらしい。


ふと思うのは、今後だ。


まさか何事もなく普通の日常に戻れるとは思ってない。


「あの……僕はどうなるのでしょうか?」


「はい。つきましては神子様には我々と共に王都に向かい、その後に神聖国に身柄を預けることになります」


「確定事項ですか?」


「……はい。申し上げにくいのですが、神聖国からは神子様が発見されたらすぐにでも身柄を確保するように各同盟国に通告しております」


「そうですか……」


村とのお別れは近いようです。


そう言えば、名前知らないや。


「ところで騎士様のお名前はなんと言うのですか?伺っていりませんでした」


「これは失礼致しました。私はライオットと申します。庶民の生まれて騎士任命時に、騎士爵とシュガーの性を頂きました」


貴族様じゃないですか。


「貴族だったのですね」


「騎士爵は1代限りですので、厳密には貴族程の権力はありません。騎士の称号を剥奪されたら共に奪われるものなので、そこまで気にしなくても構いません。それに立場なら神子様の方が遥かに上ですので」


名誉貴族みたいなものかな。


「神子とはどれほど偉いものなんですか?」


他国の騎士様に様付けされるぐらいだから伯爵ぐらい偉そうだ。


「神子様の地位は神聖国において、トップに位置する教皇と聖女に並び立つ称号になります」


「国のトップじゃないですか!! 無理無理、僕には無理ですよ!」


伯爵ところじゃない。


王様クラスだよ。


「そこまで自分を卑下するものではありませんよ。それに神子とは神聖国の代表である教皇や、教会の代表である聖女と違って、政には関与しないのでそこまで気張らなくてもいいのです」


「神聖国の代表? 教会の代表?」


「はい。教皇は神聖国の中では聖女を超える権限を与えられ、他国では聖女の方が権限が上になります。これはそれぞれ男性のトップを教皇。女性のトップを聖女に決めた神聖国誕生時の古い慣わしになります」


男女平等をうたってるわけだ。


「またそれに伴い、教皇の最高戦力は『聖騎士(パラディン)』であり、聖女の最高戦力が『戦乙女(ワルキューレ)』になります。そのどちらも仕えるトップ以外の命令を受け付けません。教皇が『戦乙女(ワルキューレ)』を動かせないように、聖女は『聖騎士(パラディン)』を動かせません」


絶対化け物揃いだよ。


会うことがあっても喧嘩売らないようにしよう。


「神子には私兵はないのですか?」


もしかしたら僕にもカッコイイ専属部隊が居たりするのだろうか。


「残念ながら神子様には私兵はございません」


そっか〜。まあ普通に考えていつ現れるかもしれない神子の為の部隊なんかあるわけないよね。


「ですが、神子様には私兵を持つことを許されております」


「と言うと、自分で選ぶ感じですか?」


「はい。神子様がお目にかかった者を私兵にすることが出来ます。その際は神子様自身が私兵の役職を名付けることになります」


ワクワク。


どんな名前にしようかな。


「名付けて思い出しましたけど、ライオット様は僕の名前をご存知ですか?」


「えっ」


さっきまで澄まし顔で語ってくれた騎士様の額に汗がにじみ出る。


あれ、もしかして知らない?


「……ご存知ないのですね」


「も、も申し訳ございません!!」


ガバッとその場で土下座をする騎士様。


え、えぇ……。


そこまでのことですか?


「知らなくても無理ないと思いますよ?何せ僕は一般の村人ですから。ええ。気にしないでください」


「そうはいきません! このような失態を犯したのは私の未熟ゆえ、何卒処罰を下してください!」


そんな大事じゃないでしょ。


処罰も何も、僕が本当に神子かも分からないのに、そんな勝手なことやったら僕の首が飛ばされるよ物理的に。


「なら、僕の名前を当てたら許しますよ」


無難な回答じゃない?


これならいける筈。


「分かりました。私、ライオットは全力を持って神子様のお名前を当てにいかせてもらいます」


「はい。楽しみにしてますよ」


これにて1件落着


「騎士様〜! レインちゃん〜! ご飯出来ましたよ〜」


「「あ」」


ママ様のご活躍にて処罰を終えた騎士様でした。


なお、その後は無効だと言い張り、何かと処罰を求める騎士様は最高にウザかったです。







それから数日が流れ。


場所は我が家。


リビングにてテーブルに4人が座っていた。


正面に両親が座り、僕の横に騎士様が座っている。


「レインが神子……ですか?」


「う……そ……」


両親が騎士様から説明を受けていた。


「はい。一足先に早馬を走らせ、王都にご連絡致しました。そして今朝、伝書鳩が送られて来ました。至急王都にご案内せよとの言伝です」


「か、勝手が過ぎます! 両親の私たちに何も言わないなんで!」


いつもニコニコしているママ様が怒りを露わにする。


「申し訳ございません。ですが神子様を放置することは出来ません。それに私が見なかったことにしても、他の者が手柄を求めて国に報告するのも時間の問題でした」


騎士様の言葉にママ様は発言を失う。


僕も尋ねたから分かる。


騎士様曰く、神子発見というのは凄い手柄になるらしい。


だから騎士様が報告しなかったとしても、今回の兵士さんの中に出世を狙って報告するのは目に見えてたとのこと。


「ですので、恨まれてもしかたないと思っております。まだ幼いお子さんを親元から引き剥がすのですから」


頭を深々と下げる。


どんな罵倒も受ける覚悟でこの場を設けたのだ。


その気になれば1村人の意見など無視して、僕を強制連行することすら出来るのに。


真面目で誠実な人柄だから僕も騎士様を信じたんだ。


そして僕の両親もそれを感じとったに違いない。


「頭をお上げください騎士様」


ずっと沈黙してたパパ様が口を開く。


その言葉に従い騎士様が顔を上げる。


次の瞬間、大きく拳を振りかぶったパパ様の拳が騎士様の頬にぶつけられる。


「……っ」


椅子から転倒する騎士様。パパ様は出血するほど握りしめた拳を解く。


「納得したわけではありません。もしもこの子に万が一があったら僕はどんなことを犠牲にしても貴方を、国に復讐しに行きます」


そして頭を下げる。


「どうか僕達の息子を、宝物をよろしくお願いします」


「……この命に変えて、レイン様の命はお守り致します」


……っ。


思わず泣きそうになった。


というか泣いてる。


嬉しくて、たまらなく嬉しくて。


胸が幸せで満たされる。


「あなた……」


「ミレイユ。ごめんね。勝手に決めてしまって」


「ううん。あなたはいつも私の代わりに決めてくれたもの」


ママ様は僕に向き直ると、おもむろに立ち上がり僕の傍にやってくる。


「レインちゃん」


「うん」


「もっと一緒に居たかった」


「うん」


「もっと一緒に傍に居たかった」


「うん」


「もっともっとあなたを見守っていたかった」


「ゔん」


ママ様は僕をギュッと抱きしめる。


「あなたがとこで何をしても、私はあなたの母です」


「ゔん!」


「あなたをいつまでもどんな時でも、ずっと永遠に愛しているわ」


「ゔん!……ゔん!」


僕は生涯この瞬間を忘れないだろう。


愛してもらったぬくもりを。


「僕も参加してもいいかな?」


タイミングを逃したパパ様が少し可愛かった。







別れがこんなに早いものだとは思わなかった。


別れがこんなに辛いものとは思わなかった。


でも、まだ会える。


だから立ち止まらない。


いつか立派な姿をママ様とパパ様に見てもらう日までは。


村の人達に見送られ、僕は騎士様御一行と一緒に村を出る。


騎士様の馬に跨り、後ろから騎士様が支えてくれている。


みんなが見えなくなるまで手を振り続ける。


「……神子様。もう我慢なさらなくてもいいですよ。誰も見てませんから」


騎士様の言葉通りに、周りの兵士さん達は、こちらを見ないようにしてくれている。


優しい気遣いだ。


「…………うっ…………ぐす」


僕は溢れて止まらない涙を流し続けた。


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