118話 新大陸2
光が解かれ、視界が開く。
「ここは……森?」
僕は地面の感触と、視界に映る生い茂る木々からここは森だと判断した。
「すぅ〜はぁ〜。空気が美味しい」
生きているって素晴らしい。
『ここが何処なのか調べないといけないわね』
「うん。早く魔導国に戻らないとみんなが心配してるだろうし」
時空魔法で転移出来そうなものだけど、ここの座標が分かっても、魔導国の座標が分からないから、跳べないんだよね。
ここからマッピングしないとな。
『今、簡単にUIを構築したわ。これで時空収納も使いやすくなるでしょう』
「……いや、ゲーム画面みたいになったよ!? いつ作ったの、これ」
『ふふ。サプライズよ。この方が異世界転生した気分になるでしょう?』
「うん……ありがとう」
優しさを噛み締める。
僕の視界に、ファンタジー系のゲームなどの画面みたいに、左上に三つほどのゲージがある。
右下には、丸い形したマップが映されている。
試しに、インベントリを開くように念じると、画面に項目別のダグ。
左から、ステータス、装備、収納と並んでいる。
さすがに設定項目はないか。
グラフィック設定があったらむしろ驚くよ。
ステータスをワクワクしながら開くと。
「……なんかアバウトな表示だね?」
『……何を基準に数値化するか分からないもの』
「確かに」
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HP……即死もありえるわ
MP……測定不能ね
ATK……子供パンチ並ね
DEF……紙装甲よ誇って
INT……うちの子は天才だわ?
MID……ガラス? ダイヤモンド? のハートね
SPD……かけっこ一等賞! は無理ね
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「……ボロくそだな」
魔力と知能だけ評価が高いけど、他の項目は人並み以下ということじゃないか。
精神力に関してはどっちだよ! と言いたい。
『次に装備だけど』
「ワクワクするね!」
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頭……髪結びのリボン (白)
上衣……魔導学園の制服
腕……無し
下衣……魔導学園のズボン
靴……魔導学園の革靴
装飾品……魔導学園のマント・変身のブローチ
合計防御力……無いよりマシじゃない?
合計魔法防御力……下級の魔法ぐらいなら防げるかしら
武器……無し (素手)
合計攻撃力……お前も家族だパンチは無理ね
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「う〜ん。思ったよりワクワクしない」
『数ヶ月身に付けてた装備だもの』
それもそうか。
こういうの見ると、シリーズ効果とか、セット効果を期待しちゃうよね。
洋風のゲームのやりすぎだね。
「次は収納だね」
『つまらないわよ?』
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・古竜の血 ×1 ……古竜の血。または*#!?の血。世界で最強かつ最古の竜。その力は神にも比肩するという。この血を#*:&@は、¥$#&を得られるという。
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「文字化け酷いよ!?」
『おかしいわね? こんな詳細は設定してないのだけど』
「不思議なこともあるもんだね」
なんか深く考えないほうがいい気がする。
世界の秘密ということにしておこう。
「それでこの通常画面みたいな表示は見た目通りなの?」
インベントリを閉じて、常に表示されているRPGをやったことがある人は見たことあるだろインターフェースについて尋ねる。
『そうね』
「この緑のバーがHP?」
『あなたの場合は、ホラーゲームにおける即死レベルのHPね』
「HP1かよ……それじゃ、この青のバーはMP?」
『ええ。でもこのバーが減る時は凄くピンチの時とか、気絶してるから見る余裕はないわね』
「まあ、正確な数値は僕もマナも把握出来ないもんね。この白いバーはスタミナ?」
『正解。でも戦う時は闘気を纏って身体能力を上げて、回復魔法で疲労を回復し続けるみたいな戦闘態勢に入るから、その場合バーは減らないわね』
「舐めプする余裕ないもんね」
死ぬ可能性があるのに手を抜けないよね。
「最後に、これミニマップだよね?」
『ええ。でもあなたには魔力領域によるリアルタイムの情報が得られるから見る機会がほぼ無いわね』
「うん……今がそうだね」
『つまりはフレーバーよ。雰囲気を楽しむだけの代物だわ』
「そっかぁ……でも作ってくれてありがとう。お陰で気持ちが楽になったよ」
『無理しないで。本当に……あと一歩で、あなたを失うところだったのよ……』
「うん。僕もみんなを失うところだった。……約束するよ。もう油断なんかしないから」
『ええ。私も、こんな失態はこれで最後よ』
お互い決意を新たにする。
「そういえば澪たちは?」
さっきから静かだ。
『双子の子と一緒に眠ってるわね。あなたが起きるまでみんな泣き腫らしてたから』
「うっ……後で顔を出そう」
『そうしてちょうだい。双子の名前も決めないといけないのだから』
「了解。取り敢えず、人の居る場所に行こう」
僕はスピカを抱き直し、魔力領域の範囲を広げる。
「ここから二キロ先に、小さな集落……村があるね」
僕は地面を踏みしめて村を目指した。
早いところ現在地を特定せねば。
僕は村のそばまで辿り着いた。
道中、魔物を避けて向かったから、倍近く歩いた気がする。
今の僕は、肉体こそ傷はないけど、精神的な疲労などは全然取れていない。
そのため、万全を期して戦闘を避けたのだ。
近くに賢者やダグラスが居るかもしれないから、闘気を全開にしてたら、魔物たちも近寄っては来なかった。
「一応変装していく?」
『なら私の出番ですねっ!』
『ライアの光魔法の一つ、『幻影』を使えば、姿形を変えられるわね』
「スピカをトカゲに変えた魔法だね」
『念の為、スピカにも引き続き黒いトカゲさんになってもらいましょう』
「きゅう!」
ライアたちも、スピカも起きて賑やかになった。
それでも、双子は起きてこないらしいけど。
『双子に関しては、もしかしたらあなたの魔力と疲労が取り切れないと目覚めないかもしれないわね』
「どういうこと?」
『私たちはあなたの魂の欠片から生まれたのよ? それって生半可なエネルギーでは無いわ。ようは姿だけ生み出せたけど、その器に宿す魂の欠片はまだ与えきれていないと考えられるわ』
「僕が元気百倍、レインパンマンにならないと魂を分け与えられる余裕が生まれないわけか……」
『レイン君……寒い。氷の精霊の私が寒いんだよ?』
「……ごめんなさい」
自分でも言わなければ良かったと後悔してる。
『つまりは、気長に気楽に行くのが一番の近道ということよ』
「なるほど。能天気にのほほんとすればいいのか」
『雛も賛成! お兄ちゃんのバカンスだね!』
バカンスかぁ。この場合は夏休み延長戦という感じだね。
「それじゃあライア。地味な感じでお願いするよ」
『かしこまりましたっ。髪色は茶髪で前髪で顔上半分が隠れるぐらいで、村から出稼ぎに来ましたみたいな素朴な平民服でどうでしょうかっ』
「うん。悪くないね。変に顔立ちを変えすぎると違和感とかあるかもしれないし、髪で顔を隠すのは賛成。あと服装は魔力領域で得た村の人達の服装を参考にしよう。髪はこのまま後ろに結び、服の中に隠しちゃおう。スピカは普通に肩に乗せて、使い魔の設定を継続」
『了解致しました。その条件で魔法お使いしますっ!』
了承と同時に、魔法により身体が光のに包まれる。
魔力領域で客観的見ると、確かに普通の青年に見える。
『盛ったね? せいぜい少年だよ?』
(人の心を読まないで!)
見栄を張りました。
身長がほんっっっとうに伸びない!
155cmって、女の子の身長やん。
僕、あと一年で十五歳だよ? 青年と呼ばれるお年頃だよ?
まあ、いいや。半分諦めました。
『お兄ちゃん!』
「ん? どうしたの?」
『エロゲの主人公みたいだね!』
「雛さん!? めっ! そんな言葉使ってはいけません!!」
『どうしてファンタジー系のエロゲって、女の子を酷い目に合わせたがるの?』
「……それはね。エロゲを作っている人達が変態さんだからだよ」
『プレイしている君も変態になるね?』
「やめてぇ! 若気の至りなの! あんなジャンルちっとも楽しくなかった! バッドエンド嫌い! 僕はハッピーエンドが好きなの!」
「きゅきゅう♪」
「ああ! ごめんね。行こうね」
スピカが鳴いたことで、現実に引き戻される。
こんな所で油を売ってる場合じゃない。
僕は意を決して、村に向かって歩いた。
「こ、こんにちは」
「ん? なんだ坊主。一人か? 親とかと一緒じゃないのか?」
「僕は一人です。各地を旅している旅人ですよ」
「はぁえ〜若ぇーのに、すげぇなぁ。俺なんかこの村から出たことねぇーのに」
「あ、あはは。無計画に出てしまって、道に迷ってしまいました。村に寄らせてもらえませんか」
「おう! いいぞ。なんもねぇー村だがゆっくりして行ってくれ!」
「はい! お言葉に甘えさせてもらいます」
ゆっくりしていってね! を頂きました。
優しい門番さんで助かった。
村に足を踏み入れて、周囲を見る。
疎らに立ち並ぶ民家があるだけで、お店と呼べるものは見当たらない。
取り敢えず、歩いている村人に話しかけてみた。
「あの、冒険者ギルドはどこにありますか?」
小さい村だから無いかもしれない。ダメ元で聞いてみる。
「冒険者ギルド? 冒険者組合だろう? それならあそこだよ」
「あ、ありがとうございます」
少し名前が違うのか。
地方によっては、呼び方が変わることもあるのだろう。
僕はそう考え、目的地の明らかに普通の民家に向かい、扉をノックする。
「ごめんください。冒険者組合の建物で合っているでしょうか?」
中から物音がした為、一歩引いて扉が開くのを待つ。
ガチャリ。
扉が開き、中から中年の女性が姿を見せる。
「あんた見ない顔だね。冒険者かい?」
「あ、いえ。お聞きしたいことがありまして……」
「なら中に入んな。久しぶりの客だから、茶ぐらい出すよ」
「は、はい」
招かれて家に入る。
『田舎で親切にしてくれる人って、大抵サイコパスという……』
『それこの前見たホラー映画だね!』
『それにしても、冒険者組合にしては看板もありませんでしたよね?』
『もはや普通の民家よね』
ついに僕のホラー映画コレクションに手を出したのか……。
ライアが言う通り、少し違和感を感じる。
襲われないように、警戒を怠らないようにせねば。
入って直ぐに、居間になっており中央に大きめなテーブル。
そのテーブルの上では地図みたいのが置かれており、その上に木製の人形みたいのがいくつも置かれていた。
その迎えに中年の男性がウンウン唸っていた。
「あんた。客だよ」
「お? おお。いらっしゃい。この冒険者組合ラコタ出張所の長のスコーンだよ。こっちは妻のムギだ」
「初めまして……」
あれ? 偽名使った方がいい?
(クロエでいいかな?)
『近くに賢者やダグラスが転移してる可能性を考慮すれば、その名前も危ないわね』
『ご主人様も万全ではありません』
『新しい偽名でも名乗れば、四文字で』
一昔前のRPGかよ。
「……アーサーと申します」
『とか言いながら四文字には収めるのね』
『そういうところ……嫌いじゃない♪』
た、たまたま四文字になったんやい!
RPGで一番最初に浮かんだのがアーサーだっただけという。
「随分凛々しい名前だねえ。ほら席につきな」
「はい」
誘われるまま、席に座らされる。
ムギさんは台所に向かい、湯を沸かす。
「して、要件は?」
ボーッとしてたらスコーンさんに本題を切り出された。
「は、はい。この村はどの国の所属なのでしょうか? 実は道に迷ってしまって……」
「なんだそういうことか。ここはレギオス連合所属のベイトール王国のラコタ村さ」
「……? あ、あの……エディシラ神聖国って、ご存知ですか?」
「ん? いいや、聞いたこともないねぇ。母ちゃんは?」
「あたしもないよ〜」
「……」
楽観的に考えていた僕は、予想外のことに汗が滝のように流れた。
レギオス連合もベイトール王国も聞いたことがない。
一応大陸に存在する国の名前ぐらいは全て把握しているのにだ。
僕の脳裏に最悪の考えが過ぎった。
『別……大陸なのかもしれないわね』
そう。
この大陸は僕の生まれ育った大陸とは別の……新大陸なのかもしれない。
不味いことになった。
これじゃ、どうやって帰ればいいか分からないぞ!?
僕は一縷の望みを掛けて尋ねた。
「あの、他の大陸との交易とかは聞いたことは?」
「他の大陸? そんなもん存在しないだろう? 母ちゃんはどうだ?」
「聞いたことがないね〜」
「そう、ですか」
コロンブスの時代かよ! いや、もっと古いか?
どうする? 海に面する方向に向かって、海岸沿いから船に乗って、元の大陸を探すか?
何年掛かるんだよ。
それに方向も分かりやしない。
経度と緯度なんざ覚えてないし、そもそも僕自身も、自分が居た大陸以外の存在など、考えたこともなかった。
『この星の大きさも分からない以上、航海は最終手段になるわね』
『下手したら、地球の数倍の大きさでした……みたいなオチになるもんね』
(うん……転移は現在地点と転移地点の正確な位置を把握してないと跳べないもんね)
八方塞がりだ。
「さあ、お茶ができたよ。そのおちびちゃんも飲むかい?」
「きゅう!」
「あら、返事が出来るお利口さんだねぇ」
「賢いトカゲだなぁ」
「あ、頂きます」
僕が考えて込んでいる間に、お茶を前に置かれていた。
僕は手を伸ばし、一瞬震える。
『雛。毒物があるか調べて』
『うん……大丈夫だよ!』
(ありがとう)
僕はコップを持ち上げお茶を啜る。
「暖かくて落ち着きます」
「そうかい? なんもない村だけど、この茶葉はちょっとした自慢さ」
「気に入ったなら遠慮なくおかわり貰うといいよ」
「きゅ〜!」
「おっと、ご主人様より早くおかわりを求めてきたぞ? がはは」
「す、すみませんっ。僕もいいですか?」
「いいよいいよ。沢山お飲み。なんなら夕食も一緒に食べよう」
「えっ、そ、そんな厄介にはなれませんよ」
親切すぎるよ。
二人ともニコニコしてるし。
「この村には宿もないし、もうすぐ夕暮れ時だ。今日はうちに泊まりなさい。それに……息子が村を出てから家が静かでねぇ。家内が物足りなさそうなんだよ」
「二人分作るのも、三人分作るのも大した違いはないさ。泊まっていきなよ。お代はあたしと旦那の雑談に付き合ってくれたらいいさ」
「……はい。お気遣い感謝致します」
涙が零れそうだった。
温かい。
凄く温かい。
賢者に裏切れたことで、僕は少し人間不信になっていた。
でも、そうだよね。
人間というのは基本、善人なんだ。
悪人の方が絶対に少ないんだから。
そのあと、お茶をおかわりして、夕食を一緒にした。
二人は良く喋るから、こちらから聞きたいことも、喋ってくれた。
曰く、この出張所は小さい村ならどこも普通の村人が片手間に兼任しているという。
そういう出張所は、主に村人などの依頼がない時、最低限の買取しかしない。
肉や薬草ぐらいは何時でも買い取ってくれるけど、もちろん限度というものがある。
魔石も買い取るけど、大元が一緒の、商人組合の方が高く買い取ってくれる。
冒険者登録は、大きな街にある支店規模でなければ、受け付けていない。
この村から歩いて半日の場所に、大きめな街があるから、そこなら冒険者登録が出来る。
冒険者登録したら、最初は星一つ付いた証明書が配られる。星の数イコール信頼度、達成率、人格など、総合的な能力により、数が減ったり増えたりする。
もちろん、一番大事なのは実力だ。
これが欠けていたら、どれほど優れていても、星は増えない。
星は一つから十つまで。
一つから三つは初級冒険者で、最低限の依頼しか受注出来ない。
四つから六つは中級冒険者で、掲示板に貼られている依頼なら大半受けられる冒険者組合の主戦力だ。
七つから八つは上級冒険者で、貴族からも依頼が来るほどの熟達者たち。大抵の冒険者はこの位置に着くのを最終目標にする。
九つは特級冒険者で、王族や特別な依頼などを受けられ、一生お金に困らないという、選ばれし天才たちの巣窟。
十つは星級冒険者で、現在数人しか存在しない生ける伝説のような扱いを受けている英雄たち。一人一人が大陸最強クラスの強さを持っている為、常に引っ張りだこで滅多に会うことは無い。
初級冒険者は証明書。
中級冒険者は木製のカード。
上級冒険者は特別な金属で出来たカード。
特級冒険者はダマスカス鋼で出来たカード。
星級冒険者は特殊な加工がされたミスリルのカード。
それぞれが身分証明書になる。
初級冒険者は、辞めたりよく失くすので、それを兼ねて安価な紙を利用している。
嵩張るし、破れやすいので、その冒険者がどのように扱うかも密かに見てるとのこと。
これ僕に言って良かった内容なの?
スコーンさんとムギさんのお陰で、動揺していた心が落ち着いた。
そして夜になり、息子さんが使っていた部屋に泊まらせてもらう。
今日は沢山の出来事が起きたし、疲れているはずなのに、妙に目が覚めている。
「君たちは何処にでも居るね」
視界にふよふよ浮かぶ精霊たち。
彼らには、帰る場所という概念は無いのかな。
好きな時に好きな場所に、自由気ままに赴く。
自由だ。
でも、きっと孤独だ。
それをまだ自覚できないぐらい幼いだけなんだ。
くるまってスピカを抱き締める。
「大丈夫。帰れる。帰れるよ」
スピカに言い聞かせているようで、自分に言い聞かせている。
「そうだ。双子の女の子に会わなきゃ」
意識を沈める。
久しく感じる精霊の箱庭。
「なんだろう。何か変わった? ……時が動いている?」
時空の精霊が生まれたことで、この箱庭に時間という概念が生まれたのかも。
木々が揺れ、小動物がかけっこをしている。
鹿のような大きな動物も現れた。
僕に近付き頬擦りしてくる。
「わっ……人懐っこいな君」
鹿の首筋を優しく撫でる。
満足したのか、木々が生い茂る森に駆けて戻っていった。
「広くなったなぁ」
空間が広がったみたいだ。
もう、箱庭という規模じゃないな。
「小さな世界だね」
僕は少し散歩してみることにする。
暖かいそよ風に背中を押されるように、スイスイ歩が進む。
マナたちが住んでいる古城と庭園から離れて、森の中を歩く。
木の枝にリスの家族がドングリを仲良く齧ってる。
別の枝には梟さんがグーグー眠っている。
「わっ!」
草むらから狼たちが飛び出した。
僕の周りをグルグル回って、そのまま駆け去った。
「グィ!」
ムササビか僕の肩に着地して、それに続くように鳩が頭の上に着地。
右手側にさっきの鹿が寄り添い、左手側には角が生えた白馬が。
「ってユニコーン!?」
幻想動物まで存在するとか、もうよく分からないことに。
歩幅がゆっくりになっていたのか、いつの間にか背後に居た熊さんにグイグイと押されてしまう。
「あは、あははっ。動物の行進だぁ」
実っていた果物をみんなで頂いたり、ハチさんから蜂蜜を貰ったり、オウムたちのアニソンメドレーを聴いたり、カンガルーたちのボクシングで熱狂したり、パンダたちの相撲で笑ったり、ナマケモノのノロノロダンスで眠くなったり、チーターたちのかけっこに加わったり、ゾウさんの背に乗って、川を渡ったり、ヘビのみんながクレーンみたいに僕を高い木の上まで引っ張りあげて、夕焼けを眺めたり、グリフォンの背に乗って、大空を飛び回ったり、最後はみんなで湖の傍でうたた寝。
気が付けば、柔らかい何かが僕の後頭部を包み、髪を優しく撫でる。
左右の手をギュッと握られ、お腹に暖かい温もり。
目を薄らと開くと、マナたちが優しい眼差しで僕を囲んでいた。
その周囲を一緒に遊んだ動物たちが、マナたちと同じく優しい眼差しを僕に向けていた。
「今はゆっくり休みなさい」
「頑張りすぎなんだよ、君は」
「疲れたら休んでいいんだよ?」
「そして、起きたらまた頑張りましょう?」
みんなの優しい声が僕の心を癒す。
僕は人々を癒すけど、僕を癒すのはみんななんだね。
うん。
きっと、もう大丈夫。
起きたら、いつも通りの僕に戻っている。
そう確信して、僕は再び瞼を閉じた。
優しい風が頬を撫でた。