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10話 神子に選ばれました?

騎士様はいい人だった。


威張らないし、暴力も振らない。


こういう村に駆けつける騎士って、クズって相場が決まっているのにね。


兵士の皆様も気のいい人ばかりで、貧相な食べ物しか出せなくてもありがとうって言ってくれた。


お手伝い偉いねって頭も撫でられた。


えへへ。


なんて子供みたいに素直だったのなら良かったのになぁ。


どうも社会の闇に染まりすぎたみたいで、本当は悪い人たちなんじゃないかと勘ぐっちゃう。


騎士様と兵士の皆様は連日森にローテーションで行ってはオークの住処を探してあるらしい。


オークを発見しても倒さず、後で一網打尽にする掃討作戦とのこと。


村サイド的にはすぐにでもオークを殲滅して欲しいのが本音。


冒険者に詳しいアレックのおじ様曰く。


「そう簡単にオークを倒せたら、あやつらとて一兵卒のままなわけないじゃろう」


最もだ。


オークの群れを倒せたらBランク冒険者相当の戦闘能力になる。


オーク単体でもDランク上位の冒険者が倒せるレベルらしい。


Dランク冒険者の時点で、既に1兵士さんのお給料を大幅に上回るとのこと。


「あの騎士は中々の腕前じゃ。そこまで不安になることもなかろう。いわばこれは国の兵士の質を上げるための実践訓練のようなものじゃな」


確かによく見ると、兵士の皆様の半数以上が20代だ。


それをベテランな兵士の人達がフォローしてるのだろう。


村にとっての一大事も、国にしてみればちょうどいい実践訓練になる訳だ。


しょうがないっちゃ、しょうがないよね。


僕はオーク発生してからは、外出を許されてないし、魔力量の底上げと魔力操作の練度を上げるぐらいしか出来ないし。


あー忙しい忙しい。


うん。規模が小さくなっただけで、やること変わってないや。


こういう点でも魔法はコンパクトに修行出来るから最高だよね!


オークの脅威すら忘れて修行に没頭してしまう。







騎士様御一行滞在12日目に変化はあった。


騎士様は村人達に召集令状を発令。


広間に村人が集結した。


以外と居るんだなあと少しビックリする。


300人ぐらいいるだろうか。


僕はママ様とパパ様に手を握られており、身動き取れません。


研究員に連れていかれる宇宙人みたいだ。


広間の中心に高台にのり騎士様が周りを見渡す。


「どうやら全員集まってくれたみたいですね。今日集まってくれたのは他でもない。ようやくオークの群れの住処を突き止めたからです」


おお。と歓声が上がる。


僕も嬉しい。これですやすや眠れる。


「明日を準備日として、明後日にはオークの群れを殲滅致します!」


わあ!と村人達の歓声が高まる。


てっきり見つかってから更には、準備に時間をかけると思っていたから、その迅速な行動に感謝だ。


「では私たちは準備に取り掛かります。本日は集まっていただきありがとうございました」


その言葉を最後に騎士様は高台から降りた。


広間も久々の吉報に、村人達の顔にも笑顔が浮かぶ。


僕も『魔導騎士(マジックナイト)』を召喚出来るのが待ち遠しい。


ランスロット君はあれ以来召喚出来てないし、その上位タイプのアーサー君も構想だけ膨れるばかりだから早くオークさん達をけちょんけちょんにしてほしい。







騎士様御一行が朝日が登る前の真夜中に森に総出で出かけて行きました。


それを朝起きてパパ様に教えてもらいました。


村人達も早起きだけど、騎士様も早起きだなあ。と他人事。


もう既に僕にとってオークなんざ討伐済みなのさ。


既に気持ちは魔法に傾いている。


騎士様御一行がオーク殲滅の報告に帰ってきたら、僕はひと月ぶりの自由を得られる。


ついニヤニヤしてしまいそうなる。


ママ様もパパ様も気を張りつめていたけど今はリラックスしている。


うむ。平和が1番!


そのあとは、両親と一緒に畑仕事に精を出して、お昼ご飯食べて、畑仕事を手伝って、夕ご飯を食べて、最近与えられた1人部屋で日課の魔力の底上げで気絶寸前まで魔力を消費して、ぐっすりと眠った。


騎士様御一行はまた帰ってこない。







翌日の昼過ぎ、自警団の方から村に向かってくる集団を目撃したとのこと。


騎士様御一行のご帰還だ。


皆労いと感謝の言葉を言いに村の広間に集まる。


誰もが騎士様御一行の生還を喜んだ。


だが笑顔で溢れる広間は騎士様御一行が姿を表すことで失われる。


なにせ、100人以上の騎士様御一行はその半数が居なくなっており、騎士様自身も頭に包帯を巻き、片目も大きな切り傷で酷い状態に。腕も片方失っており、全身に纏っていた鎧は至る所が凹み血に染まっていた。


「騎士様! 一体どうなったのですか!」


村長が顔を青ざめながら尋ねる。


明らかに満身創痍な騎士様は顔に影を落とし何があったかを報告する。


「オークの掃討作戦は順調に進んでおりました。ですが、途中から……王が。オークの王が出現しました」


「と、オークの王ですか……」


村長が首を傾げながら尋ねる。


どうやら村長も知らない魔物らしい。


「ええ。オークを纏め指揮する強化個体です。この魔物の出現により我々も大きな被害を受けました」


沈痛な面持ちで後ろで待機してた兵士達に視線を送る。


「つ、つまり! オークはまた生きてるのかよ!?」


「そんな! 嘘でしょ!?」


「おしまいだ。騎士様にも倒せなかった怪物相手に俺たちに何が出来るんだよ……」


「に、荷物を纏めて早く逃げないと!」


早とちりした村人達が慌てふためく。


「いえ! オークの王は討伐して、他のトロール共も既に殲滅しました! 落ち着いてください!」


騎士様の一斉により、慌てふためく村人達は落ち着きを取り戻す。


「本当ですかな? 騎士様」


疑うように尋ねる村長。


無理もない。


騎士様御一行はボロボロだ。


敗北して逃げ帰ってきたと思われてもしょうがない。


「ええ。本当です。オークの王がこの近隣に現れたのは異常事態ですので、その死骸は荷車に運んできております。ご確認しますか?」


村長は頷くと、騎士様が片手を上げると、兵士達が割れて血に染った布に覆われた荷車が引かれてきた。


騎士様がその布を取り除くと、そこには全身鎧のようなものを身にまとっていた4メートル級のオークの死骸があった。


「……っ」


皆、息を呑む。


たとえ死骸でも、その存在感は他の追随を許さないほどに圧倒的だ。


僕も気がつけば体が震えてた。


もしあんな化け物が村にやって来てたら、為す術もなく殺され食われ犯されていただろう。


脳裏に村の地獄絵図が浮かび上がる。


「うっ……」


喉の奥から吐瀉物が湧き上がる。


両手で口を押さえて無理やり飲み込む。


勝てる気がまるでしない。


強くなった気になっていただけで、僕は全然弱い。


その現実を突きつけられた気分だ。


そしてそんな地獄を未然に防いでくれた騎士様方には感謝しかない。


僕と同じ結論に至ったのか、多くの人が騎士様御一行に感謝をおくる。


「この度は本当に……本当にありがとうございました!!」


村長が代表して頭を下げるとそれに見習うように村人一同が頭を下げる。


僕も深々と頭を下げる。


感謝で胸がいっぱいだ。


だから、騎士様御一行に恩返ししたかった。


視線を両親に、そしてアレックのおじ様に向ける。


両親は何も言わず頷く。


おじ様は渋い顔だけど、反対はしなかった。


僕はみんなから1歩前へ踏み出す。


騎士様の前に立つ。


僕が何をするのかを察したのか村長が代わりに説明してくれる。


「良かったらこの者に騎士様方の治療をさせていただけないでしょうか」


「えっ……この少年にですか?」


「はい。この者は卓越した回復魔法を使えるのです」


騎士様と兵士の皆様が驚く。


無理もない。


いきなり幼子が現れて、傷を治すからと言われても戸惑うだろう。


「お願いします。騎士様方に恩返しさせてください!」


僕は頭を下げてお願いする。


この人たちを癒したい。


「それは助かる申し出ですね。是非お願いしたい」


子供の戯言と思っているのだろう。


驚かせよう。と悪戯心がくすぐられる。


「では横になってもらえますか?」


「ああ。分かったよ」


柔らかい笑みを浮かべていつの間にか村人達が引いたシートに横たわる。


僕も側面に座り込み、いつも通りに『魔力圧縮』を始める。


両手に魔力が集まり発光しだす。


「そ、それは……」


騎士様が驚き、兵士の皆様もざわめく。


脳裏に騎士様の正常な状態をイメージして、それを明確にしていく。


機能を失った片目を再生させて、欠損した片腕を生み出す。


準備は整った。


「……いきます」


両手を騎士様に向けて慣れ親しんだ回復魔法を発動する。


「『回復(ヒール)』!」


緑色の光に騎士様が包まれる。


変化は劇的に、失われた腕は再生していき、機能を失った片目はその傷を癒し、元の機能を取り戻す。


全身にあった傷がひとつ残らず癒えていく。


数分経ち、光が収まればそこにはボロボロの鎧を身につけた無傷の騎士様が姿を表す。


「これは……もしかして、『神の秘跡(サクラメント)』!?」


神の秘跡(サクラメント)』?


回復魔法の上位魔法かな?


「神聖国にて、教皇及び聖女しか行使出来ない最上位回復魔法……!」


…………え?


騎士様は体を起こし僕に片膝つく。


「まさかこのような場所で神子様を見つけることが出来るとは」


その一言を発した後に、兵士の皆様も僕に膝をつく。


「あ、あの何かの間違いでは?僕はそんな大それた者じゃないです」


「いえ! 間違いありません。肉体の欠損を再生出来るのは神聖国が保有する聖典に記載された『神の秘跡(サクラメント)』しかおりません。それを用いらずに行使出来るのは、歴史を見返しても神の力を宿したとされる神子様に他ありません!」


慌てふためく僕に追い討ちをかける騎士様。


その様子は非常に興奮してらっしゃる。


「騎士生命を絶たれたと思われた私をお救いして頂き誠にありがとうございます。どうかその神の御業を他の者達にもお使いになっていただけませんか?」


頭を深く下げてお願いされる。


頭が混乱してるけど、元々そのつもりだったので頷く。


「は、はい。元からそのつもりです」


「感謝致します神子様! つきましてはその神の御業は非常に消耗することでしょう。ですので数日に渡り癒してもらえたら幸いです」


「は、はい。そうして頂けると助かります」


もう数人行けそうだけど、思った以上に大事になりそうだ。


なんだよ神子って。


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