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108話 魔導学園9

リュックを背負い、スピカを腕に抱いて山の山頂を目指す。


左右前後には頼もしいクラスメイトのみんな。


一クラスごとに固まって動いており、他のクラスに再会するのはきっと山頂に辿り着いた時だろう。


僕達、魔導学園生は現在授業の一環で登山をしている。


大自然の中、歩きにくい道をひいこら言いながら突き進む。


元々魔導学園は実験的な授業を取り入れて、生徒たちの能力を伸ばすことに注力していて、この登山もただ山を登ればいいという訳では無い。


現に僕たちの格好は制服に支給されたリュック一つ。


リュックの中は、カッパと水筒、携帯食に地図とコンパスとその他もろもろ。最低限活動出来るものだけしか入っていない。


要は快適に登山したいのなら、魔法で何とかしろということだ。


寄ってくる虫は風で吹き飛ばし、土で汚れた靴は水でキレイにして、肌寒かったら火で体を温めて、でこぼこした道を土で慣らす。


みたいなことを自分なりに考えなければならない。


だが障害はそれだけではない。


「なあ、クロエ」


少しぼーっとしていた僕にジミー君が話しかけてきた。


「はぁ……はぁ……なんです?」


並以下の体力しか持たない僕は既にぜはぜは言いながら棒になりそうな足を必死に前に動かしていた。


「近くに冒険者の気配とか魔物とかいないのか?」


「はぁ……はぁ……知りませんよ……はぁ……僕にそんな探知能力はありません」


闘気を使えば、常人離れした身体能力を得られる。


だけれどそれだと経験は積めない。


魔力ありきで活動し過ぎだと最近考えるようになった。


もし、魔力が使えない時が来たら、ただでさえ非力な僕は真っ先に約立たずに成り下がるだろう。


そうならないためにも、最低限自分の身を守れるようにならなければ。


『お兄ちゃん。身体能力が上がらないのに……素直に闘気に頼ればいいのに』

『なんかズルに感じるんでしょ。レイン君そこら辺めんどくさいから』

『で、でもご主人様の試みは素晴らしいものですっ! 現に登山開始時に比べると少しだけ体の動きに無駄が無くなっています』

『雀の涙ね。レベル98でスライムを倒しているようなものよ』


ライア以外辛辣ぅ! そりゃあ、彼女たちは魔力と魔法の精霊。僕に頼られることを望む彼女たちには、ただでさえ獣人で魔法がまともに使えないのに、追加で魔力縛りしていては面白くないだろう。


(でもね。僕は獣人になって良かったと思っているよ。だってより一層みんなの有り難さを実感したから)

『お兄ちゃん……』

『レイン君……』

(だからもう少しやらせてくれない? 僕ももっと成長したいんだ)

『ご主人様……』

『旦那様……』


僕の強い気持ちを聞いてみんな分かってくれたようだ。マナなんか小さい頃の呼び方をしてきた。雛が来てから恥ずかしいのか、あなたとか御主人様とか少し呼び方を変えてたのに。


『『『『うん。でもやっぱり無駄だと思う』』』』

(あれぇー!? 味方のライアまで!? なんでぇ!?)

『よくよく考えたらご主人様は私たちをより一層頼るべきたと結論づけました』

『感謝してるのならさ、遠慮とか頼りっぱなしじゃダメとか、私たちが望まない気遣いをしないでよ』

『お兄ちゃんの役に立つのが雛たちの一番やりたいことだよっ!』

『そういうことよ。あなたは少しばかり気を使いすぎよ。私たち……家族には遠慮は不要だから』

(みんな……僕は世界一の幸せ者だ!)


僕は思わず感涙の涙を流してしまった。


胸が幸福感に包まれ、自然と闘気が体に溢れる。


「ど、どうした!? 疲れたか? おんぶしようか?」

「クロエ君! お水飲む? 足痛い? 休む?」

「無理はよくありませんわ。ここでリタイアしても誰も文句は言いませんわ」

「君は少し頑張りすぎているからね。たまには人を頼ることも覚えた方がいい。私たちが君の力になろう」


なんか大事になってる!?


ジミー君たち、親しいみんなに心配されるのは嬉しいけど、少し違うんです! 少し僕の家族の子達がええ子過ぎてうるってしまったんです!


「俺、下山できる最短ルート調べる」

「あたしも近くで休める場所探してくる!」

「ならば、その間、クロエを俺たちが守ろう」


魔導戦以来、疎遠になっていたクラスメイトたちが僕の為にいろいろやろうとしてくれている。


ノット君も貴族たちを束ねて守備の陣形を形成していた。


「あ、あの……ちが」

「ほら! クロエ君。みんなクロエ君のこと全然怖がってなかったよ! みんなクロエ君と仲良くなれるタイミングを伺ってただけなんだよ!」


僕は慌てて大丈夫だと伝えようとしたけど、横から抱き締めてきたマリンさんが嬉しそうに、ここ最近の僕の悩みは解決したと大はしゃぎしていた。


嬉しいけど! めっちゃ嬉しいけれど! 誤解をとかせて!!


「敵襲ー!」


みんなの意識が緩むの隙を逃さず、冒険者達が奇襲を仕掛けてきた。


この授業では雇われた冒険者達が各クラスに別れて、各々のタイミングで襲ってくる。


冒険者達は予想外の事態の対処と、魔物の間引きも兼ねているため、高ランクで経験豊富な者たちが雇われた。


それすなわち、必然的に彼女たちが雇われ僕達のクラスの担当になるのは必然だ。


「子供?」


まず一人小柄で外套にすっぽり収まった冒険者が高い樹木の上から飛び降りてきた。


クラスメイト達はいち早く魔法を仕掛けようとする。だが、やはり人間相手に本気になれないのか、魔法陣を見た限りどれも足止めか拘束のものばかりだ。


その冒険者は魔法が発動するより早く両手を思いっきり地面に叩きつけた。


変化は劇的。


僕達学生の足元が隆起し、立っていられなくなる。僕は辛うじて膝をついて倒れないようにする。


身動きが取れない僕達に、今度は樹木の枝に立っていた同じぐらい小柄な冒険者が杖を向けた。


「なっ!?」


ノット君が驚きを隠せない声音を上げた。


何せ眼前に幾百の火の矢が出現したのだから。それはノット君が僕との魔導戦において、使った見せかけの技だ。それの数倍。しかも肌がひりつく熱が伝わってくることから、一本一本が最低限の殺傷力を備えているのが分かった。


振り下ろされる杖に合わせて火の矢の雨が降り注ぐ。


「防御しろ!!」


普段冷静なマイクさんが声を荒らげ、両手をクロスして火の矢を受ける。他の学生達も同じように身を固める。


「え?」


その中、呆然と座り込んだままのマリンさんが僕の視界に映った。


僕はマリンさんに向かって地を蹴った。


幸い元々そばにいて、地面が隆起してもそこまで距離を離されなかった為、ひと息にマリンさんの元に駆けつけれた。


両手で抱えたスピカをマリンさんの少し上に放り、座り込むマリンさんの膝裏と背中に手を滑り込ませて、そのまま火の矢の射程圏内から飛び退く。スピカは僕の考えを即座に理解し、マリンさんのお腹にしがみついていてくれた。


「きゃっ! クロエ君!?」

「お怪我はありませんかマリンさん」

「へ!? あ、う、うん……」


少しぼーっとしていたマリンさんをゆっくり下ろす。


もちろんまともに受けても、回復魔法であとが残らない程度に手加減されているとは言え、ヒヤリとさせられる攻撃だった。ここで追撃がないのは“彼女たち“冒険者の温情だろう。


気がつけば、小柄な二人組は姿を消していた。


「皆さん。大丈夫かしら」


でこぼこした一帯を気にせずに扇を口元で広げ、周囲の安全確認をするのはキャシーさんだ。


「大丈夫だ」「死にそう」「容赦がないよー」「一瞬走馬灯が見えたよ」 クラスメイトの各々の返事を聞いてほっとする。


彼女は少しだけ焦げた制服の端を悔しそうに見つめながら、僕の元へ歩いてくる。


「クロエは……問題なさそうですわね」

「はい」

「マリンは……少し顔が赤いですわ。熱でもありまして?」

「へ? ち、違うよ! な、なんでもないからっ!?」


両手をバタバタさせて顔を隠すマリンさん。もしかしたら、何も出来ずに僕に助けられたのが恥ずかしかったのかもしれない。


人一倍努力してきた彼女だからこそ、悔しさに苛まれているのやも。


「おーい! クロエ達も無事か?」

「ジミー君! ……土まみれですね?」


ジミー君は全身土まみれで制服もよれよれになっていた。


「ほら俺の適性、土属性だから地面が抉れた時に出来た隙間に潜り込んで自分の魔法で蓋をして隠れていたんだ」


予想以上に土が出てきて生き埋めになりそうだったと頭をかきながら付け出した。


「無事で何よりだよ。しかし予想以上の強さだね」

「ああ。俺も父様の護衛に元冒険者がいるが、正直レベルが違うように感じた」


マイクさんとノットさんが服に着いた汚れを払いながら僕の元へ。


それに追従するようにクラスメイト達も傍にやってくる。


……何故みんな僕を中心に話すの?


やだ。僕がクラスの中心みたいじゃない。


「スピカちゃん。君のご主人様はかっこいいね……年下なのに」

「きゅう〜」


マリンさんがスピカと何か話してるけど、残念ながら僕のケモ耳はお飾りで聞こえない。


「この後も第二陣はくるかな」

「それは無いんじゃないか?」

「どうしてだい?」

「彼ら冒険者は、俺たち生徒の対応力と経験を積ませるのが目的だ。今襲いかかってきても、消耗してまともに動けない俺たちじゃ、そこまで効果的ではない。現に俺たちの大半はまともに反撃すら出来なかった」

「そうだね。もしも私たちの対応力を高めたいのならば、こちらがある程度回復してから、似た手段を取ってくるだろう」

(わたくし)も次はしっかりお返ししなければマクベル家の名折れですわ」



最初はお互い干渉しなかったマイクさんとノットさんが今ではお互いの意見を言い合えるようになった。


ノットさんも今では少し丸くなって、多少平民が騒いでも特に何も言わなくなった。


「みんな凄いね。私は何も出来なかった……次が来ても……」

「そんなこと言ったら、俺も自分の身を守るのでやっとで周りのことなんか見てる余裕はなかったぞ」

「それでもジミー君は、出来ることをやれたじゃん。私なんかクロエ君が助けてくれなかったら、為す術なくやられていたよ……」

「きゅう……」


普段は明るいマリンさんが珍しく、ネガティブモードだ。


マリンさんに抱きしめられたスピカも心配そうに彼女を見る。


普段から僕は彼女に優しくされたし、ずっと味方でいてくれた。


今度は僕が彼女を支えなくちゃ。


僕はいつも彼女にされているように、俯く彼女の頭を優しく撫でる。


「クロエ……君?」


俯いた顔は上げれば、そこには涙を堪えようとして、顔を赤く染めた、だたの女の子だ。


不思議と今は僕の方が年上に感じた。


実際、僕の精神年齢は君の倍はあるんだけどね!


「何も出来ない? 違いますよ。今は経験して経験値をためているんです。誰にだって初めては何も出来ないし、完璧に対処なんか出来ませんよ。僕たちは学生ですよ? 学ぶ生徒なんです。これは授業なんですよ? 知識を、経験を授かっているんです。むしろ出来ないことを喜んでください」

「……え?」

「だって。出来るようになる楽しみがあるんですから」


僕はにこやかに微笑む。


大丈夫。


努力は報われないかもしれないけど、努力して身に付けたものは無くなる訳では無い。


「まあ。獣人なのに耳も鼻も普通の人並みの僕が言えることじゃないんですが」


お飾りのケモ耳を撫でてオチをつける。


「ううん……そんなことないよ」


マリンさんは首を横に振り、にこやかに微笑む。


「クロエ君はすごいよ」

「……ありがとうございます」


真正面からそんなこと言われたら、照れる。


「おふたりの世界に入るのをやめてくれません?」

「うわぁ!」

「きゃぁ!」


ジト目をしたキャシーさんにより、今僕はクラスメイト全員に注目されていることに気が付いた。


マリンさんはみるみる顔を紅潮させて固まっていた。


「仲が良いとは思っていたがここまでか」


ノットさんがため息混じりに言う。


僕は慌てて弁明しようとしたその刹那、殺気を肌に感じとった。


『あーあ。あんなにイチャイチャしたらあの二人が黙ってるわけないのに』

『今回はお兄ちゃんが悪いよ!』


澪と雛に責められて、一瞬なんの事? と、思ったけどそんな余裕は僕にはなかった。


「皆さん! 備えてくださいっ!!」


僕の言葉に誰かが返事する前に、僕達を中心に突風が吹き荒れて、全員吹き飛ばされた。


闘気を滾らせている僕は、宙で身体をひねり、足から着地する。


「スピカをそのままマリンさんと一緒にいて!」


スピカに指示を出して、突風の中心に目を向ける。


そこには外套で全身を隠してなお分かる、圧倒的なプロモーションをしたレイピアを抜き去った女性と、二本の短剣を逆手に持った先程の子供体型の二人組と大差ない黒い外套小柄の少女が並び立つ。


凄まじい殺気を携えて。


『ご主人様。あれは殺気では』

『無駄よライア。彼はポンコツだから』


ひどい!


誰も動けずにいた。


それほどまでに圧倒的な格の違いがあったからだ。


「まさかこんなタイミングで襲ってくるとは……」

(わたくし)たちでは、一撃を入れることすらかなわないですわね」


普段から自信に溢れているノットさんとキャシーさんですら、体が震えていた。


それも仕方ない。


彼女たちの実力は既にSランク冒険者と対等かそれ以上。大陸屈指の実力者だ。


伊達に神子の護衛を少人数で任されていない。


それにしたって張り切りすぎじゃない?


ドワーフの双子は、ちゃんと手加減してくれたのに。


「っ! くるぞ!」


ジミー君が叫ぶ。


レイピア使いと短剣使いはそれぞれ反対側に歩き出す。


円になって固まっていた僕達は全方向にバラバラになっている。


「二手に別れて対処しよう!」


マイクさんが素早く指示を出し、みんなも条件反射みたいに、別れる。


僕に真っ直ぐ向かってくる短剣使いと、真反対にいるマリンさんの元にレイピア使いが向かう。


僕の元にジミー君とキャシーさんと半数のクラスメイト。


マリンさんの元にノット君とマイクさんと半数のクラスメイト。


「こんなに震えているのは、お父様の殺気を体験した以来ですわ」

「どこまで出来るか分からねぇが、やってやらぁ!」


震えながら、僕に寄り添うキャシーさん。


震えを打ち消すように、両手を打ち付けるジミー君。


僕には頼もしい仲間がいる。


「出来ることを出来るだけ。出来るようになったことをありったけぶつけましょう」


僕は柄になくリーダーっぽいことを言ってみんなを鼓舞する。


「「「おう!」」」

「「「はい!」」」


みんなの力強い返事が返ってきた。


『この戦い。私たちは静観するわね』

(了解。元からそのつもりだよ。なんでか分からないけど、僕が悪い気がするんだ)

『あ。自覚あったんだ』


相変わらず澪さんは辛辣じゃない!?


体に心に闘志を滾らせて、神経を研ぎらせる。


「行きます!」


僕は先陣をきって短剣使い……ドロシーに突撃した。


思い出す。


彼女と初めてあ会った時は、彼女にいきなり殺されそうになったんだった。


あの時はドロシーから向かってきたけど、今度は僕からだ!


ひと息にドロシーの懐に潜り込み、掌底を打ち込む。手加減はなしだ。


ゆっくり歩いていたドロシーは、まるでギアが切り替わったように、攻撃が当たる前にひらりと躱す。


そう来ると思ったよ!


僕はすかさず、しゃがみこみ足を払う。


それも飛んで躱される……が。


「皆さん! 今です!」


キャシーさんたちの魔法が宙にいるドロシーに殺到する。


「……闇付与(ダークエンチャント)


ボソリとドロシーが呟いた瞬間。二本短剣に薄暗いオーラが纏われる。


技能(スキル)だ。


才能(ギフト)のように最初から備わっている異能とは違い、努力すれば誰にでも身に付けられる可能性がある技術の到達点のひとつ。


飛来してくる数多の属性魔法を二本の短剣でにべもなく打ち払う。


圧倒。


その一言に集約される。


キャシーさん達も言葉を無くす。


曲がりなりにも各々の最大火力を一蹴されたんだ。無理もない。


だが、それがなんだ? と言わんばかりに、地面に着地する前に、しゃがみ込んだままの僕の頭を跳び箱のように両手で押され発射台代わりにされる。


「わ!」


反動で倒れ込む僕の視界に、キャシーさんたちに向かって、見える(・・・)速さで駆けていく。


どうやら手加減する意思はあるようで安心。


もちろん、だからと甘えて舐めプはしない。


倒れ込む体を前転で姿勢を戻して、曲げた足をバネのように伸ばしてドロシーの後を追従する。


僕の背後から悲鳴の嵐が聴こえているけれど、スーはちゃんと手加減してくれてるか不安なんですが……。


いざとなったら、ライオットや元神聖騎士の二人がフォローしてくれるだろうと、あちらのことを頭のおくすみに置いておく。


「待ってください!」


キャシーさんたちに辿り着く前にドロシーに辿り着き、動きを止めようと肩に手をかける。


もちろんドロシーなら触れる前に躱すだろうけど、その一瞬の時間でみんなとドロシーの間に割り込める筈だ。


だが、事もあろうか、僕がドロシーに触れそうになるタイミングでドロシーが振り返ったではありませんか。


そして、みんなの視界に映らないし、闘気を使っている僕ですらギリギリの速さで手をスナップして、伸ばしていた僕の手の軌道をズラした。


何のために?


それはすぐ結果として分かった。


最悪の結果として。


「んっ」


むにゅ。


人並みの膨らみを僕は現在、鷲掴みにしているではありませんか。


むにゅむにゅ。


無意識に手を動かしてしまう。


「んっ……大胆」

「ち、ちがっ!」


慌てて弁明しようと声を上げるがそれより早く。


「不潔ですわぁーーーーっ!!!!」

「最低!」

「変態!」

「エロガキ!」

「所詮獣だったわけね!」

「可愛い顔して中身は性力の塊だったんだ!」


クラスの女性陣が僕を取り囲みフルボッコにしてきたのだ。


薄れゆく意識の端に、いつの間にか木の上に退避したドロシーが、あっかんべーしていた。


なにゆえ〜?



目が覚めれば、誰かにおぶられていた。


大きな背中だ。


でも、知らない背中じゃない。


「らいおっと?」

「お目覚めですか神子様」


眠たい目を擦りながら、周囲を見渡すと僕とライオット以外誰も居ない森の中だった。


「神子様はあのままではお目覚めになられないと判断され、いち早く離脱することになりました。さすがにやり過ぎたとクラスメイトの方々は反省しておりました」

「あはは……あんなにボコボコにされたのは初めてだよ」

「すみません。隊長のスーニャに怪しい影が見えた気がすると言われ、確認しに行っている間にあのような強行に出るとは……後でキツく叱っておきます」


ライオットが居るのに随分乱暴だなぁと思っていたけど、あの時離れていたのか。


でも、そこまでするほど、僕に怒っていた? んだよね。


「多分僕が悪いから、程々にしてね」

「はぁ……神子様は相変わらず、隊長とドロシーに甘いですね」


ため息をついたあと、仕方ないなぁと弟を見るような目で微笑みかけられて、少し照れて背中に顔を押し付ける。


「神子様?」

「少し疲れたから寝る」

「かしこまりました。着いたら起こします」


そう言いつつ、少し歩行速度が下がったことから、もうしばらくはゆっくり出来そ……。


「あれ!? スピカは!?」


僕の家族が居ないぞ!?


 「ご安心を。スピカなら隊長の頭部を噛んで離れたがりませんでした」

「相変わらず仲が悪いね!」


恐らく、スーが手加減を間違え、スピカにも攻撃を……いや、意図的に攻撃して、それでスピカが怒ったんだろう。


未だに仲が悪いけど、本心から嫌いあっているわけじゃないからなぁ〜。


覚めかけた意識も、思考の海に潜った瞬間には、深く眠りについた。


後日。


キントに追いかけ回されて、野生に目覚めたクラスメイトたちとの会話は困難を極めたり、どんな攻撃も防ぐロイドを如何にぶっ潰すかブツブツ言い続けるクラスメイトたちに囲まれて、学園生活を送る羽目になったのは言うまでもない。


一週間もすればみんなの黒歴史になってたけど。

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