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107話 魔導学園8

「それでは、素材を回路の指定位置に置いて魔力を流してみよう」


錬金術の授業を受けている時、僕は中々集中出来ないていた。


あの魔導戦から数日、気のせい或いは何かの勘違いだと信じたかった。


「流す魔力は一定に、早過ぎず遅すぎず」


マリンさんたちと一緒にいる錬金術用の机から顔を上げて、周囲をちらっと見渡す。


(やっぱり距離がなんか遠い!)


あれ以降マリンさんたちは一緒に居てくれるけど、それ以外のクラスメイト。平民も貴族も関係なく距離が遠い。


物理的な意味ではなく、心の距離がだ。


「今、君たちが錬成しようとしているのはポーションだ。素材は治癒草と不純物を取り除いた真水」


前は獣人という物珍しさから話しかけてきたり、チラチラ見てくる人は居たけど、今はみんな目線が合わないし話しかけてこない。なのに僕のことを意識していることが分かるぐらいの雰囲気はある。


「治癒草は本来ただの雑草だった。それを薬師ミルソンが治癒効果を促進させる効果があると」


理由は、まあ……分かる。あれほどの魔法を使ったんだ。怖がるなというほうが酷って話。


「ポーションは世界で最も素晴らしい発明の一つだと言われており、ポーションを錬金術でも生み出せないか? と考える人達が現れたのは当然の結果ともいえる」


これも全てノットさんが悪い!


僕は本来、無難に終わらせるつもりだったのだ。相手の魔法をとにかく分析して、最後相手が魔力切れでバテるタイミングで、無属性魔法の中でも最も威力が低い『衝撃(インパクト)』を拳にのせて、一発KOを狙っていたのに。あの魔法陣は保険のつもりだったのに。


「錬金術の可能性を広げた錬金術師であるクラフトは後世に多くの価値ある錬金術を残して」


なのに、価値を示せ! とか言って、挑んできたから、致し方なく遺憾ながら全力を出さざるおえなかった次第にございます。


『あなたもノリノリだったじゃない』


そう! 全てはノットさんが悪い! と言わんばかりに、僕は錬金術に励むノットさんを睨みつける視線をおくる。


『文句を直接言いに行けない辺り、やっぱりチキン』


僕の視線に気付いたノットさんは僕にニヤリといやらしい笑みを浮かべる。


かぁ〜っ! と僕は頬が熱くなるのを感じて、慌てて目の前の錬金に視線を固定する。


「ん? クロエ君なんか顔赤いよ? 熱でもあるの? 保健室行く?」

「だ、大丈夫ですっ! 少し僕には大変な作業ですので、気張っていました」

「あ〜獣人のクロエ君は魔力を放出するのが苦手だもんね」

「ですですそういうことです!」


マリンさんに何とか誤魔化すことに成功した。


(って、誤魔化すってなに!? 僕、なんも悪いことしてないのに!?)


大体、ノットさんが変なことを言うから! 僕が女の子だったらものにするとか……何考えてんだか! 男に惚れられても嬉しくなんかないっつーの!


『これ、完全に意識してますわ』

『お兄ちゃんが少女漫画でヤンキーに惹かれる自称普通の女の子みたいになってるよ』


そうだ! そもそも僕がこんなに苦労していふのは、獣人にしやがった賢者様のせいだ!


あとで文句言いに行ってやる!!


「クロエ君!? 何故君はポーション作成でミドルポーションクラスの効果のあるポーションを作っているんだい!?」


僕じゃない! 雛たちが面白がって色々回路をいじりやがったんだ!


確かに魔力を流したのは僕だけど!


それでも僕はやってない!


この後、更にクラスメイトとの距離が離れました。はい。





「りーじーちょーうー!!」

「む? おお、クロエ君。いらっしゃい」


僕は早速、放課後に理事長室に突撃した。


本来ならこんな簡単に会うことは出来ない相手だけど、僕は特別パスだ。もちろん多用するつもりはないけど、たまには近況報告した方がいいだろう。


「聞いたぞ? ほほほっ。随分活躍しておるようじゃのう」

「笑い事ではありませーんっ!」


机の上には冷めた紅茶が入ったコップが二つ。


少し前までお客さんがいたのかな?


「察しの通り、少し前まで知人が来ておってのう。せっかちな奴で困るわい」

「あはは。あ、失礼します」


紅茶が片付けられ、座るように勧められる。


その間に賢者様……ここでは理事長と呼ぶことに統一しよう。

理事長がポットからお湯を注いで新しく紅茶を用意する。

ほんのり香る匂いから僕は茶葉を予測するが記憶にない。


「珍しい茶葉ですか?」

「お、わかるかのう? そうじゃ。これは個人で経営している者から特別に送ってもらっている儂のお気に入りじゃよ」


分かってもらえたのが嬉しいのか、声を弾ませて話してくれる。


「僕も紅茶には少々こだわりがありますから! 特にエイリン茶葉の深みは神聖国で生産される牛乳と合わせることで、極上のミルクティーに!!」


思い出すだけで、ヨダレが溢れそう。


「ほほほっ」

「あ、すみません。はしたなかったです……」


少しテンションが上がってしまった。


「後で茶葉を君の部屋に送っておこう」

「いいんですか!?」

「構わんさ。むしろ理解がある者にこそ味わって欲しい」


その後、普通に紅茶に関しての雑談を存分に楽しんで、理事長室を後にした。


『目的忘れてない?』

「あ……」


そうだった! 文句を言いに行ったんだった!


…………


「ま、まあ、また今度にしてあげましょう。老体に長話はこたえますからね!」


人気のない廊下に僕の言い訳が響き渡った。





「トーストせんせ〜い。居ますかぁー?」

「ん? おお。お前は……確か」

「クロエです」

「そうそう。レーズンの教え子の」


とある日の放課後。僕はレーズン先生の弟であるトースト先生の元へ赴いた。


古びた小さな店。客一人も居ないのに、適当に並べられた小物のせいで狭苦しさを感じる。埃っぽさも合わさって、レトロ感が凄い。


お店の奥で小物を弄っていたトースト先生に声をかけた。


「今日はどうしたんだ? 買い物かぁ? それとも兄貴からなんか伝言?」

「いえ。錬金術について教えてもらえたらと」


僕の言葉に首を傾げるトースト先生。


「兄貴から教えてもらっているだろう?」


もっともな意見である。


「はい。レーズン先生の指導には不満はありません。ですが、十人十色。人の数だけ知恵と知識がある。レーズン先生から教えてもらえることがトースト先生から教えてもらえることと一緒とは限りません」

「お前は貪欲なんだなぁ。だがいいねぇ! そういうの嫌いじゃない」

「ありがとうございます!」


ぼさぼさの髪を掻きむしりながらニカッと笑う。


「んじゃあ、とりあえず錬金術師なら誰でも出来るだろう初歩かつ、金稼ぎでも教えるかね」

「お金稼ぎですか?」


それはまあ、錬金術師は大量の素材を扱うこともあり、とにかくお金がかかる。

だから金策は必須だろうけど、僕は出来れば役に立つ知識の方が嬉しい。

その事を伝えるとトースト先生は笑った。


「安心しろよ! 金稼ぎと言っても小遣い程度で、あくまでも副産物でしかない」

「なるほど。早合点してしまい申し訳ございません」

「いいよ。そんじゃあ……これ。何かわかるか?」


白衣のポケットから小さな石を取り出した。

ほんのりと水色に染まっていることもあり、直ぐになんなのか分かる。


「魔石ですよね? 水属性の」

「正解だ! そう。魔道具を動かすには必須。魔力量の少ない錬金術師や魔法使いにも御用達。今や一般人でも入手できる程出回っている魔石さ!」

「おお〜」


ぱちぱちと握手しとく。


「さて質問だ! この魔石がこんなにも出回っているのは何故?」


それに関して確かに疑問を持ったことはある。魔石は希少だ。でも、それは単一属性の魔石に限るもので、複合属性の魔石はそこまで希少ではない。


現にトースト先生が持っている水属性の魔石も少し他の色が混じっている。


「考えられるとしたら、人工物がある……でしょうか?」


普通に考えれば、人工的に作れれば供給量を補える。


そして正解は……


「大当たりだ! そう! 人工物がある。その作成方法は非常に簡単。魔法使いや錬金術師を目指すなら誰でも作れる! さて、その作り方だが……まずこれを使う」


ポケットから更に魔石を取り出す。


「これは空の魔石。魔石の前段階のものだ」

「そんな物があるんですね。ただの石にしか見えませんけど」

「そうだ。ただの石だ」

「へ? ただの石だったんですか!?」

「いや。空の魔石だ」

「どっちなんですかっ!」


いきなりとんちなことを言われ混乱する。


『なるほどね〜』

(さすがマナ! どういうこと?)

『両方ってことよ』

(ん? ……あ! なるほど)


マナの言っていることが分かり、スッキリする。


「鉱物ならどんなものでも魔石になれるということですね!」

「察しがいいな! 頭がかたい奴は大抵ここでつまづいたり、いい加減なことを言うなと怒鳴ったりするもんだが」

「思い出しただけですよ。万物には魔力が宿ることを」

「そうだ。この世界に魔力を持たない物質は存在しない。そこら辺の雑草だろうが道端の石だろうが魔力を帯びている。人間が感知出来ないレベルの魔力でもだ」

「察するにこのただの石に魔力を込めることで魔石ができるのですね?」

「本当に察しがいいな! ここで錬金術とか魔法を使うという奴が大半なんだがな」


産まれて間もない頃から、魔力と共にあった僕からしたらこっちのほうがイメージしやすかった。


「お前なら優秀な錬金術師になれるぜ。俺が保証する」

「ありがとうございます! ですが僕には既に目指すべきものがあるので錬金術師にはなれません……」

「おう! なら仕方ねぇか。まあ、商売敵を増やさずに済んだんだから別にいいか」


細かいことを気にしない質のようで、そういうところは付き合いやすいと思う。


「それで細かいやり方だが。単純明快! とりあえず魔力を石に込め続けるだけ! 色は当人の魔力の性質に反映される。火属性の適正がある奴なら火属性の魔石が、水属性の適正なら水属性の魔石」


そこで僕は一つ疑問が浮かんだ。


「ならば複数の属性を持つ人の魔石はどうなるんでしょうか? おおよそ予想は出来るのですが……」

「答えは当人の才能と努力による」

「どうにでもなるという訳ですか」

「そうだ。だが有利なのは間違いなく単一属性の適正しかない奴だな。純度に差は出るものの確定で狙った属性の魔石が出に入るわけだからな。複数属性を持っているやつは、どうしても混ざっちまう。努力すればある程度偏らせられるが、無くすことはほぼ無理だろうな。よっぽとの才能でもなけりゃあな」


才能と努力。両方なければ単一属性の魔石は作れないというわけか。


「んで、一般的な魔法使いの魔力量なら、ひと月程度魔力を込め続ければ、三等級程度の魔石が一つできる」

「い、一ヶ月ですか」


時間かかり過ぎない? 忍耐力を試されそうだな。


「ずっとってわけじゃない。一日に一度空っぽまで魔力を込めればひと月ってだけの話だ」

「それでもかなりハードな気がしますが」

「実際ハードだよ。そんで三等級の魔石ならば一般的な魔道具を一年ぐらい持たさられる。例えば火をおこす魔道具とかな」

「なるほど。でも割に合わない気がします。相場を把握しているわけではないのですが、そのレベルの魔石なら銀貨数枚程度では?」


銀貨一枚でおおよそ日本円で一万円だ。

つまりそこまで頑張って三等級の魔石を作っても数万円程度にしかならない。


「ちなみに三等級なのは、ただの石に込められる限界が三等級と言われているからだ。それ以上はどれだけ体積を増やしても、耐えられずに破裂する。それゆえ二等級より上の魔石は純度の高い鉄や鋼などの鉱物を用いなければ作れない。その為二等級から一気に値段が跳ね上がる。鉱物によっては魔力抵抗に差も出る。例えば鉄なら込めた魔力の三割程度しか吸収出来ない。そこいらの石なら五割だ。確認されている鉱物の中で最も魔力抵抗が高いのがアダマンタイトで魔力を百分の一程度しか吸収出来ない。逆に一番魔力抵抗が低いのがミスリルで抵抗無しだ。両方とも希少鉱物で滅多に市場に出ないし、出ても国が率先して確保するから魔石になることはほぼない。武器や防具のほうが優先されるからな。もし魔石になるのなら間違いなく特級の魔石だろうな。値段は小国の国家予算程度だと言われている。それに特級レベルの魔力を込めようとすれば数世紀かかるから実質幻の魔石だな」


やっぱり聞けば聞くほど、割に合わないように感じる。


「でも、先生はお金稼ぎにもなると言いましたよね? 金策になるのならば、ある程度割に合わないと」

「そうだ。そこで裏技って程じゃないが、知る人ぞ知る方法ってのがある。……これだ!」


店の奥を漁り取り出したのは、小瓶だ。小瓶の中には色鮮やかな金平糖みたいな小さな魔石が沢山詰まっている。


「三等級は野宿を頻繁にするような商人や冒険者、貴族用みたいなもんで、一般的に出回っているのはもっと等級が低いやつだ。俺が今持っているのは六等級の魔石。一度使ったら空っぽになる最低等級だな。値段は一つ銅貨三枚程度だな。需要が高い火、水、光なら銅貨四枚だな。ちょっとした遠出やいざってときの備えに一つや二つ持つ者も多い」

「六等級なら金策できるわけですか?」

「ああ。一般的な魔力なら寝る前に三割程度魔力を込めれば一つできるから、一日三個作れば銅貨九枚。ひと月分で銀貨二枚と大銅貨七枚。ほらちょっとした小遣いだ」

「魔力量が多ければ多いほど、数を用意することも等級を上げることも出来るわけですね!」

「ああ。六等級なら爪先程度の大きさの石がちょうどいい。三等級をただの石で作るなら手に収まる程度の大きさが必要だからな。そして少しお得情報だ。魔導具には基本的に適した属性の魔石を使えと言われているだろう?」

「はい」


火属性の魔導具なら火属性の魔石。水属性なら水属性の魔石。と、適したものじゃなければいけないと言われている。


「だがそれは少し違うんだ。簡単に言えば、他の属性の魔石も使えるんだ」

「えっ……そうなんですか?」

「ああ。適した魔石というのは、その魔道具を不具合なく使える基準に過ぎない。他の属性の魔石だと、魔力減衰が発生して、おおよそ七割の魔力量に減衰する。そしてこれは魔導具士から聞いたんだが、大抵の魔導具はこの七割の魔力量で問題なく使うことができる。そして、六等級はどんな属性でも1度きり。つまり六等級ならどの属性の魔石でも価値は一緒という訳だ。適している魔石なら魔力効率は最高だから他の属性魔石より使用出来る回数が多くなるという利点がある。そして初めの頃に言った複数の属性の魔石……混合魔石は単一属性よ魔石より安く売られている。理由は分かるな?」

「ええ。最高効率に達しない半端な魔石。魔導具はどれも高価なものばかり。その為、基本的に不具合を嫌い適した魔石のみを買い求める方が多いからですね?」


例えるなら、純正品しか使いたがらない人みたいなものだ。あ、僕です。パチモンの家電製品は発火や他の家電製品の不具合の元にもなったりとリスクがある。


「だが、今の話を聞けば分かると思うが、単一属性の魔石と混合魔石の違いは魔力の効率でしかない。そして大抵の魔導具は混合魔石でしっかり稼働できるように調整されている。だからもし魔石を買い求めるなら安い混合魔石をオススメするぜ」


その後もトースト先生から多くの有益な情報を貰って、そのお礼にご飯を奢ったりと有意義な時間を過ごせた。

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