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104話 魔導学園5

「私、部屋に戻って復習する!」

「俺も! 絶対にいい成績残してやる!」


燃え上がる二人に囲まれる。


「クロエ。あなたはこの後どうしますの?」


キャシーさんが近付いてきて、尋ねてくる。


「街に出ようかと」

「ほう。街はいいよ。賑やかで」

「そういえばマイクさん遅刻してましたもんね」

「あはは。散歩のつもりが、ついね」

「たらしないですわね……何か欲しいものでも?」

「はい。マイクさんに貰ったお花用の花瓶を買いに行こうかと」

「気に入ってもらえて嬉しいよ。花瓶代は私が出そう」

「良かったら(わたくし)の実家からいい花瓶を贈りましょうか?」

「いやいや。そこまでしなくても大丈夫です! 街の散策ついてに買うので」


それに向かいたい場所がある。お昼は賑やかなお店で食べたいというちょっとしたわがままでもある。朝の件で少し、食堂に行きづらいというのもあるけどね。


「それじゃあ、私行くね!」

「俺も行くぜ!」

「「んじゃ!」」


二人して駆け足で廊下を走り抜けていった。


「元気が有り余ってますねぇ〜」

「それでは私も失礼するよ。また明日」

「また明日」

(わたくし)も少し疲れましたわ。今日は部屋で食事を頂くことにしますわ」


あー。朝助けてくれたし、さっきも庇ってくれたしで、色々迷惑かけちゃったからなぁ。


「今日は度重ね、ありがとうございました」


頭を深々と下げる。本当にキャシーさんが居なかったら拗れていたかもしれないし、最悪土下座でも決行するところだった。


「うふふ。クロエ。これからも仲良くしてくださいね」

「もちろん! キャシーさんは僕にとって大切な友達ですから!」

「キュン! あんもう! あなたって、なんてステキなのかしら! お持ち帰りしたくなりますわ」

「ご、御遠慮願いますぅ〜!!」


目が怪しくなったので僕は慌ててその場から立ち去った。





部屋に花束とお眠なスピカを置いてきてから正門から生徒証を提示してそのまま通り抜ける。

手元の生徒証はこの学園に入るのに必要不可欠のもの。本人の魔力を登録している為、他の人が拾って使うことは不可能。一時的に学園に入る時に臨時の証を貸し出される。


一切の部外者を拒絶する為、逆に侵入しようとする者が後を絶たないとか。


正門から少し離れて、人気のない通りを歩く。その時不意に背後に気配を感じた。本当、なんだろうね気配を感じるって。でも感じるからしょうがない。


「ドロシー?」

「ん。正解」

「あはは。当たった」

「なぜ、分かったの?」

「何となく?」

「不思議」

「そうだね」

「うん」


そのまま顔を合わせず、僕の背後を歩くドロシーの足音に耳を傾ける。

今の僕は平民の獣人。ドロシーはBランク冒険者。

今はこの距離感でいい。


「みんなは?」

「今日は三人。近距離担当私。中距離担当ロイド。遠距離担当ミーゼ」

「基本三人?」

「ん。暫くはローテーションしていくって、スーニャが言ってた」

「……一人だけ連日護衛になってたりしない?」

「すごい。あたり」

「やっぱり……」

「ライオットが叱って公平になった」

「さすがぁ〜」

「私も。スーニャをしばいた。さすが?」

「手加減してあげてね? スーも一応女の子だから」

「まかせて。お腹だけにしておく」

「南無三」


スーニャのご冥福をお祈りします。


「消える」

「うん。護衛よろしくね」

「うん」


人通りが多くなった為、ドロシーはすーっといなくなった。もちろん近場で護衛に励んでいる。近くに居てくれてるだけで、安心感がすごい。


取り敢えず腹ごしらえと、丁度いい店はないかうろつく。


そうしていると前方から見知った顔を見つけた。


「あれ? 先生? どうしてここに?」


古びた店のような佇まいの一軒家から先生が現れた。ボロい白衣を身につけ、眠たげだ。


「んぅ? それぇ、俺のことかぁ?」


えっ “俺“? 確か“僕“じゃなかったか。先生の一人称。


「は、はい。こんなところでなにを?」

「……」


先生は眠たげな瞳をコチラに向け凝視。そして目を閉じた。


「先生?」

「ぐぅ〜」

「寝るな!」

「うお! おおう。悪ぃ三日ほど寝てねぇんだぁ……ふわぁ〜」

「三日って、先生。先程まで元気でしたよ」

「あ、それ俺の兄貴」

「なるほど。お兄さんでしたかぁ〜」

「そうそう」

「って、お兄さん!? 双子ですか!?」

「そうだぞぉ〜。先生って呼ぶってことは教え子かぁ?」

「はい。担任です。お名前を尋ねても?」

「トーストだ」

「美味しそうな名前ですね」

「そうだなぁ〜ぐぅ……」

「寝るな!」

「お! おう」


いきなりこんな展開に出くわすとか、僕の人生どうなってんの?


その後、すぐ寝ようとするトーストさんから色々話を聞けた。

曰く、兄は汎用的な錬金術を専門に扱っているとのこと。万人に扱えてこそ錬金術。

曰く、弟はロマン溢れるオリジナルの錬金術を日夜研究しているとのこと。天才が極めてこそ錬金術。

そんなことから、レーズン先生は、教師としての素質を買われ学園にスカウト。トースト先生はその独自の錬金術からコアなファンを獲得して小さながら店を構えているのだとか。


「また今度来なよ。面白いもの見せてやるからさぁ〜ぐぅ……」

「早く寝てくださいね!」


寝ている人に寝ろという不思議なこの気持ち伝わるかな。

トーストさんをその場に放置して、僕は料理屋を探すことにした。


半刻ほど歩き回って、酒場みっけ!


そう。酒場である。冒険者御用達の酒場である。行ってみたかったのだ。


扉をくぐり抜けると、騒がしい店内が出迎えてくれた。


「いらっしゃーい! 空いてる席にどうぞー!」


酔っ払いたちの合間を鮮やかに駆け回りながらも僕に一言かけてくれる手際の良さに圧倒されながら、空いてあるカウンター席に向かって歩く。


「おい。あいつ学園の生徒じゃねぇか?」

「オマケに獣人だぜ?」

「変わってんなぁ」

「こんな場末の酒場に飯食いに来るのか?」

「物好きなんだろうよ」


案の定注目の的。だが、生徒たちの視線からしたら、前もって身構えていたこともあってそこまで動揺しない。


カウンターに座り込むと、カウンターの向こう側にいた中年の男性が話しかけてきた。


「注文は? 十五以上じゃねぇーと、酒は出さねぇぞ」

「オススメでお願いします」

「あいよ」


言ってみたかったんだよね〜オススメお願いします。

酒場の喧騒も胸を躍らせる。


「はむはむ! うめぇ〜な! ここの飯!」

「そうだな姉貴! おかわり!」


なんか仕事放棄して飲み食いしているドワーフの姉弟がいるけど、きっと人違いだろう。


「はいお待ち」

「ありがとうございます」

「前払いだ」

「あ、分かりました。おいくらですか?」

「金貨二枚だ」

「はい。金貨二枚です」

「じょ、冗談だ。銅貨四枚だよ」

「あ、そうなんですね」


言われた通りの額を出したら、男性は頬を引き摺って訂正してきた。どうやら、お茶目な冗談だったらしい。場馴れしてなくてごめんなさい。


そのまま、置かれた料理……肉のレバニラ炒め? を、フォークで食べる。箸とかないんだよね。


(おお! 味が濃い!)


基本的に神聖国で出される料理は健康に気を使った味付けでそこまで味の濃いものはなかったから、舌がびっくりしている。普通に美味い。


「何してるの?」

「げぇ!?」

「バレた!」

「天誅」

「「ぐべぇっ……!」」


あ、女の子に腹パンされて二人のドワーフが気絶されて、そのままドナドナされていった。南無三。


お腹を満たして、早々に酒場から出た。初回はこれぐらいでいいだろう。徐々に慣れていこう。


次は少し食料とかを買い出して、目的地に向かうとしよう。




賑やかな屋台から肉や野菜、果物を買い込み、人に道を訪ねて目的地に辿り着く。


辿り着いたのは孤児院。エディシラ神聖国と魔導国がお金を出し合って建てた教会だ。


門を通り、建物に向かう。庭の方から元気な子供たちの声が聴こえてくる。


教会の開けっ放しの扉から中に入っていく。古びているが丁寧に手入れされている為、清潔な空間になっていた。


「ごめんください」

「は〜い。あら、いらっしゃい。何か御用ですか?」


奥から中年のシスターが姿を現す。恐らくこの孤児院の院長だろう。


「これ、差し入れです」

「こんなに!? あらあら、ありがとうございます」

「いえ。信徒として当然のことをしただけですから」

「あら、貴方もエディシラの神を信仰しているんですか?」

「はい。縁あって」

「それは素敵なことですね」

「せっかくなので、何かお手伝い出来ることありませんか?」

「いいのかしら? それじゃあ、お言葉に甘えて、子供たちの遊び相手をしてくれますか?」

「分かりました」

「助かります。貴方にエディシラの神の御加護があらんことを」


院長さんは差し入れを持って奥に行った。


「子供の相手って、どうしよう」


前世は関わりにならなかったし、村に来た頃は僕が最年少だったし、神子になってからは遠くから手を振るぐらい。


「とりあえず挨拶に行こう」


僕はまあ、何とかなるだろうと軽い気持ちに庭に向かった。





「あ……ぁ……」

『陵辱されたヒロインみたいな虚ろな目になってるよ〜?』


舐めてた。子供の無遠慮さに。


「……体が動かない」


まさか、キャシーさんの撫でが、天国に感じる日が来るとは、つい今朝のことなんだけど。


今の僕は庭に倒れ込んで動けないでいる。


挨拶して直ぐに獣人という珍しさから、子供達にもみくちゃにされたのだ。


「ひっぱるわ、握るわ、齧るわ、捻るわ、くすぐるわで耳も尻尾もボロボロだよぉ」


泣きそうになるのを堪える。今、子供たちは院長さんにお昼ご飯に呼ばれてここに居ない。


「ねーちゃん! 飯食おうぜー!」

「ひぃ! ……ごほん。何度も言ってますけど、僕はにーちゃんですよ」

「髪長ぇーし、ねーちゃんじゃん!」

「男性でも髪を伸ばすことがあるんですよ」


僕は髪を切る事を、止められている。ユリアさん達曰く、こんなにも綺麗で神々しい髪を切るなど言語道断とのこと。最初はくすぐったかったりしたけど、今は慣れて特に困ることもない。


「そんなことより、みんなねーちゃん待ってるぞ? 早く飯に行こうぜぇ〜俺腹減ったよ〜」

「僕はもうお昼をいただきましたので。院長さんにはそうお伝えください」

「腹いっぱいなのか? わかったー」


とてとてと教会に駆け込んで行った。


実は少し空いているけど、今は動きたくない。


「さて、後は花瓶を買いに行って、帰るとしようか」


院長さんに帰る挨拶と子供たちの元気溢れる感謝の言葉をいただき、孤児院を後にした。





店が連なる通りを物色していく。さすが魔導国ということもあって、魔導具が多い。


(花瓶の魔導具とかあったら面白そう)

『お兄ちゃん! 花瓶は雛に選ばせて!』

(いいよ〜)


どうやら、雛は花を気に入ったらしい。今、精霊の箱庭で大きな花壇を準備しているのだと。


『いつか世界中の花をこの花壇に植えるの!』

(素敵な夢だね)

『うん! えへへ』


僕にある花の知識など無いに等しい。こちらの世界の花なんてもってのほかだ。精霊の箱庭は僕の記憶、体験、イメージを記録する。

僕がこの世界の花を見つけていけば、あちらの世界にも花が追加されるようになる。

色採り豊かな箱庭はきっと素敵な場所になるだろう。


そうして、花瓶探しを続ける。でも、花瓶なんか日用品の中でもそこまでメジャーなものじゃないためか、置いてないことが多いし、置いてあってもシンプルな物が多く、雛が気に入らない。


日も落ち始めて夕暮れとき。


(どうする? 花瓶は明日また探す?)

『ううん。今日探さないと。お花さんが萎れちゃう』

(分かった。とことん付き合うよ)

『お兄ちゃん……大好き!』

(ぐへへ)

『犯罪者みたいな声出さないの』


だって、雛が可愛いんだもん。


「あいたたた!」

「だ、大丈夫ですか?」


前方に腰を押さえて座り込むおばあさんに出くわした。

慌てて駆け寄り、背中をさする。


「歳をとったからかのう。腰が痛くてしかない」

「家はどちらですか? おぶっていきますよ」

「いいのかい? ねいちゃん」

「にいちゃんですよ。構いません。当然のことですなら」

(で、いいんだよね雛)

『うん! 回復魔法をかけるね! むむむぅ〜』

「言葉に甘えることにするよねいちゃん」

「にいちゃんですよーこっちですね」


おばあさんが指さしたほうに歩いていく。接触したことで、ゼロ距離からギリ回復魔法を雛が行使して、おばあさんの腰痛を治していく。普段なら一瞬だけど、今は距離も取れないし非常に時間もかかるので、おばあさんの家に着くまでに治ればいいけど。


「ねいちゃん名前はなんていんだい?」

「にいちゃんですよ。クロエっていいます」

「クーちゃんかい。めんこいなぁ。あたしの孫にならんかえ?」

「嬉しいのですが、孫はちょっと……」


終始ご機嫌なおばあさんに、おばあちゃんと呼べも言われたり、お駄賃をやるとかいわれたり、若い頃の話をされたりと、賑やかな時を過ごす。


「ここじゃよ。ありがとうなぁクーちゃん」

「どういたしまして。……それにしても大きいお家ですね」


屋敷でした。はい。


「うちの亡くなった主人がのう骨董屋をやってて、今は子供が引き継いでいるんだよ。未だに結婚もしない親不孝者だよ。まったく」


お子さんはお父さんの骨董屋を引き継いでから、仕事一筋で嫁も迎えず各地の骨董品を買いに回っているらしい。


「あ、奥様。お帰りなさい」

「ああ。坊は帰ってきてるかえ?」

「いえ。坊っちゃまはまだ帰ってきてません」

「まったく……そうじゃ。クーちゃん紅茶でも飲んでいき?」

「お誘い嬉しいのですが、学園の門限が迫ってきていますので……」

「おおそうだ。クーちゃんは学園の生徒じゃったわい。お陰で腰も良くなったし、感謝の礼がしたい。なんでも言ってくれ」

「え、気付いていたのですか?」

「にしし。歳も取れば鈍くなることもある。じゃが、鋭くなることもある。特に人の親切には敏感なんじゃよ」


僕が回復魔法を使ったのがバレてたらしい。正確には雛なんだけど。それでも照れくさいや。

「えっと、実は花瓶を探してまして」

「花瓶かえ? なら、倉庫についてき。いっぱいあるぞ」

「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」

(やったね雛!)

『うん!』

『いいことをするものね』


雛が気に入った花瓶を貰った。高そうだけど、おばあちゃんは二つ返事で頷てくれた。


これで無事花瓶をゲットだ。


門限ギリギリで何とか学園に戻れて、今日はそのまま過ぎた。

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