103話 魔導学園4
「おや、これはこれは」
予鈴ギリギリで一人の男性が教室に入ってきた。
教師かと思ったけど、その男性は僕たちと同じ制服に身を包んでいた。
……何故か、手には花束が。
「いやはや、少し寄り道をしていたら始業式に出遅れたよ」
そう言い、階段を上がってくる。
その仕草一つ一つが優雅で、平民の女の子はみんな見蕩れていた。
顔も非常に整ったイケメンで短い金髪とサファイア色の瞳とハリウッド俳優かよと思うほど。
金髪ならキャシーさんも同じだけどね。
「ふーむ。なるほどね」
教室を見渡して、何かを納得して僕たちのどころで足を止める。
「おや、これは美しい。どうかこれを受け取って欲しい」
なんと花束を差し出したではないか。
こんなイケメンに花束を渡されるとは、これは羨ましいことでは?
さて、そんな幸運な女性はなんと!
(て、なんで僕やねん!?)
何故か、僕に突き出された花束に戸惑う。
「あの、僕は男の子ですよ? 女の子じゃ、ありませんよ?」
「おや? あはは。大丈夫さ。間違っていない。美しい君にこの花束を贈りたいのさ。ダメかい? 獣人の君」
「は、はあ……ありがとう? ごさいます」
花束を受け取ると満足したのか背後のキャシーに断りを入れて隣りに座る。
キャシーさんは何故だか、コイツ出来る! みたいなオーラを放っていた。
受け取った花束はどうしよう。
花なんぞ、興味を持ったことすらなかったけど、この花束は正直綺麗だと思った。なんか、いい匂いするし。
『そう言えばこの庭園の花って、彩りが少なかったのよね。丁度いいわ。その花たちを追加しましょう』
『いいですねっ! お世話のやり甲斐がありますっ!』
『雛もお花を植える!』
手から僅かにノロノロと魔力が零れ流れ、それが僕の持っている花束を包もうとする。
(お、遅い。普段なら一瞬なのに)
数百分の一とかのレベルになっている。マナから聞いていたけど、実際に体験すると、とてもじゃないけど、実用出来ない。
今まで蛇口とかで出せていた水を、細い糸から一滴ずつ絞り出すぐらいの差がある。
「クロエ君って、そっちの人?」
「んなわけないでしょう!」
「お、俺。クロエに襲われるのか?」
「気色悪いことを言わないでください!」
早速、左右の人からいじられているじゃないか。
「貴方のお名前をお聞きになっても?」
「もちろんだとも。私の名はマイク・ロイエルだよ」
「ロイエル!?」
僕は思わず立ち上がった。
「おや、獣人の君は私の家を知っているのかい?」
やべ、つい驚いちゃった。周りは、何事か注目しているし、左右と背後からは話せと促される。
仕方ないと、僕は答える。
「はい。ロイエル家はルノワール王国の公爵です……つまり、王族に連なる方々になります」
「お、王族!?」
「あわわ」
「あら」
三者三様の反応。だけでは済まず、僕の言葉を聞いてたクラス中がザワつく。
「王族に連なってはいるが、貴族だよ」
「でも、王族を娶れるのも公爵だけですよね」
「まあ、そうだね」
そう。他国から嫁ぐ王族は公爵か王族が相手になる。その逆もしかり。
ミリアさんからは、公爵はほぼ王族だと思えと教わっている。だからこそ、こんなところに公爵の子息が居ることに驚いたのだ。
『ここに神子がいるけどねー』
(今の僕は平民なの!)
この学園に通う身分の中で間違いなくトップだ。……僕を除けば。
そう言えば、マイクさん、バッジ付けてない。
「マイクさんバッジはどうしたんですか?」
僕の素朴な質問に、マイクさんは着いていたであろう箇所を撫でる。
「ん? ああ。……少し邪魔だったものでね」
「なっ……!?」
先程、僕たちに怒っていた貴族の子息が言葉を失っていた。
何せ、公爵の子息が、貴族の証を邪魔だったからと、外したのだから。
さっき、バッジは貴族の誇り云々言っていた彼からしたらたまったもんじゃないだろう。
「付けないので?」
一応フォローしとこう。
「う〜ん。いや、このままでいいよ」
「あら、いいのですか?」
「君も付けていないじゃないか」
「うふふ。クロエ……獣人の彼と仲良くなるのに邪魔だったのですわ」
「おや、それは朗報。獣人の君と仲良くなるのには、邪魔だったとは。外して良かったよ。あはは」
「うふふ」
「ぐぅ……っ!」
さ、先程から貴族の子息の顔色が悪いですよ!? お二人共、邪魔、邪魔っていいスギィ! 無自覚の死体蹴り怖ぇー!
左右の二人なんかは、王族云々の時からフリーズしているよ。
……僕が神子って言ったら、昇天しそう。うん。絶対にバレてはいけないね!
*
初っ端から色々あって既にお腹が少し痛いけど、それも先生が来たことで終わりを迎える。
「おはよう。僕が君たちの担任のレーズンだよ。担当は錬金術だ」
ボサボサ髪で丸メガネの三十代前半ぐらいの男性の先生だ。
「早速だが、取り敢えず君たちの魔力量を測定しよう。それを元に今後の授業の参考にするし、定期的な測定による魔力量の増加を把握する」
魔力量は成人までに上昇し続けて、二十歳ぐらいでほぼ上がらなくなる。そこからは修行などで増やす。
一般人と魔法使いの差は、この修行の差とも言える。個人差もあるから必ずしも魔力量が増えるとも言えない。
この学園も魔力量が効率よく上がる方法を試すために、色んなことに挑戦し続けている。この大陸において、魔法に関する研究の最先端が魔導国ゆえに、将来魔法使いになりたい者たちは、この学園に通う。
「知っての通り、多くの記録を手に入れるのには人手がいる。その為にも、生徒である君たちにも協力してもらう」
そのことに関しては既に聞かされている為、誰も不満を抱かない。むしろ、参加出来て光栄にすら思っている。
まあ、僕に関しては事後承諾なんだけどね!
「じゃあ、始めるか。取り敢えず……あ〜」
水晶を教卓の上に置いたあと、教室を見渡す。
「後ろの子達から始めるか〜」
面倒くさそうにボサボサ頭を掻きながら言う。
貴族の面々は当然だと頷く。
そしてマイクさんに視線が集中する。年功序列ならぬ、身分序列で公爵家のマイクさんが一番始めにするべきなのでは? と考えているのだろう。
「構わないよ。先にするといいよ。私は君たちの後にすることにする」
特に気にせずに先を勧める。
トップが譲ったので、じゃあ次は誰が? みたいな雰囲気になる。
「俺が行く」
ここでも先程の子息が一番に名乗り出る。
「分かった。すまないけど名前を言ってくれるかい? 生徒の名前をまだ覚えてないんだ」
「ノット・ポットです先生」
「それじゃあ、ノット君、水晶に触れたまえ。知っているかもしれないが水晶の光量によって大まかな魔力量を測定できる」
「ええ……知ってますよ」
子息……ノットさんがニヤリを笑った。
(ポット……ポット……あ! ファスマ王国の伯爵だ! )
ファスマはそれほど大きな国じゃないけど、それでも伯爵というのは、平民にとっては雲の上の存在だ。
同じ伯爵でもキャシーさんが特別、気さくな人なだけだ。
(なるほど。それじゃあ、偉ぶってもおかしくないか)
みんなが固唾を飲んで見守る。ノットさんは手を伸ばし水晶に触れる。
『あの水晶は触れた者に魔力波を飛ばして、その反響から推測しているみたいね』
(マナさんや、対策は完璧かえ?)
『問題ないわ。ようは体内の魔力量を調整すればいいだけの話よ。得意分野でしょう?』
(今の僕には自信がないよぅ)
『はぁ……フォローしてあげるから安心なさい』
(蟻が十匹!)
『子供か!』
触れられた水晶はかなりの光を放つ。
「ふむ。申し分ないな。同年代でもトップクラスだろう」
「ありがとうございます。まあ、魔法使いを目指す者ならばこのぐらい当然ですよ」
ニヤリと前方に座る平民と中央に座る僕たちを挑発するように言う。
平民の多くは下を俯く。ジミー君とマリンさんも悔しそうにする。
「ノット様そんなに平民をいじめないでくださいよ〜可哀想で可哀想で、涙が出ちゃう!」
「悪ぃ。事実を言ったのは少し残酷だったな」
ノットさんの取り巻きがフォローという名の追撃をして、ノットさんもそれに乗っかる。
(す、凄いこんなにベタなのは初めてだよ!)
『今のでどれぐらいの魔力量なのかは、分からないわね。旦那様、少しマリンさんに触れてもらえる?』
(へ? マリンさんに!? お、女の子に触るの!? ハードル高くない!?)
『しょうがないじゃない。今の私たちでは、魔力を拡散して魔力量を調べられないもの』
つまりは、マリンさんの魔力量を調べて、それを基準に水晶での魔力量を調べるわけか。
(な、ならジミー君でも)
『男にくっつきたいの?』
(ぐ……)
それは少し嫌だ。
『ほら、何も抱きつけと言っていないわよ。少し肩が触れ合うぐらいでいいの』
(そ、それなら……)
もしも僕が実行しなかったら、僕の番の時に大騒ぎになるのかもしれない。魔力を垂れ流しにするのが普通らしく、僕みたいに魔力を完全に体内に押さえ込んだりする人は稀だ。
僕は覚悟を決めて少しづつマリンさんににじり寄る。
みんな水晶の測定に興味津々で、自分の番を心待ちにしている様子。
一人測る度に一センチにじり寄る。
『早くなさい! 焦れったいわ』
(だ、だってぇ〜)
女の子に接触するとか変態じゃないかと、考えてしまう。何せ、前世ではクラスの女の子と少し肩がぶつかっただけで、舌打ちされたもん。女の子怖い。
それでも何とか、マリンさんにほぼピッタリくっつくことに成功。女の子特有のいい匂いに頭がクラクラするけど、堪える。
マリンさんは頬杖をついて、水晶をじっと見つめている。
僕には気付いていないご様子。良し!
(マナさん! 早くぅー!)
『急かしても速度は上がらないわよ』
ノロノロと僕の魔力がマリンさんを覆うように広がる。一グラムの金をテニスコートの広さまで伸ばしてんのかってぐらいゆっくりだ。
『ゆっくりしていってね!』
(ゆっくりしたらバレるでしょう!?)
僕は石像。僕は石像。僕は動く石像……って、動いたらダメなんだって!
必死に動かないようにしていると、マリンさんがこちらを振り向いた。
(きゃああああ!! バレた!)
汗が滝のように流れる。
「あ、いや、その」
必死に弁明しようとするが言葉が浮かばない。
そんな僕にマリンさんはニコって微笑んだ。
「どうしたの〜? 緊張してる? 大丈夫だよ! 測るだけなんだから」
そのまま抱きしめられ、頭を撫で撫でされる。
「んなっ! ずるっ……ん」
背後から声が聴こえた気がしたけど、そちらに振り向く余裕はない。
(あ、あれさっき撫でられた時と違う。なんか安心する)
キャシーさんに撫でられた時は、頭がクラクラしたのに、今は安心感がある。
(そっかぁ〜手つきがやさしいからだぁ〜)
ふにゃふにゃとマリンさんに寄りかかる。
「あんもう、かわいいなぁ〜」
「ふごっ!」
「いやぁ〜眼福だねぇ」
「ぐぐぐ」
鼻血を出した音、楽しんでいる声、悔しそうにしている声。
そのまま僕は瞼を閉じた。
*
「ク……クロエ……クロエ君! 起きて」
「ふふぁ〜……?」
ぐっすり寝た。眠っていた。眠ってしまった。眠っちゃった!?
「わ! ご、ごめんなさい!」
「いいよ〜それじゃあ、私の番だから……」
にこやかな表情から一変して、緊張した面持ちで教卓の前に進みてるマリンさん。
「も、もしかして……もう終わりですか?」
「お、おう。マリンとお前で終わりだぜ……ぐふっ」
「は、鼻血大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。問題ない」
「そ、そうですか」
既に制服の半分ぐらいが真っ赤なのだけど?
「どうして起こしてくれなかったんですか?」
最後とか、何故か微秒に恥ずかしいよね。
「君の寝顔が非常に可愛らしかったものだからね」
「あまりにも気持ちよさそうにぐっすりだったから、つい」
「俺も同じ感想だ」
三人が悪ブレずに答える。
まあ、寝たのは僕の過失だから、怒らないけど。寝顔が見られたのは非常に恥ずかしいけどね!
「ただいま〜」
「あ、おかえりなさい」
気落ちした風のマリンさんが帰ってきた。
「ほら、クロエ君の番だよ」
「あ、はい。行ってきます」
「行ってらっしゃい〜」
マリンさんが手を挙げたので、そこに手を打ち付けてバトンタッチ。
そのまま教卓に向かう。周りからの視線を独り占めだ。
(マナさんや。大丈夫なんだよね?)
『ええ。バッチリよ。何事も問題なくつつがなく終えられるわ』
(それは頼もしい)
「さて。君にはどれほどの魔力があるかな? あ〜記録にあるテイムした魔物は何処にいるのかな?」
「あ、こちらに」
僕はお腹あたりをボンボンと叩くと、するりとスピカが顔を出した。
「きゅぅ〜♪」
「おや、珍しいトカゲだね」
「「「か、可愛いぃ〜」」」
クラスの前方をメインに黄色い声が上がる。若干野太い声も聴こえた気がしたけど、気のせいだろう。
「その子を離してくれないかい? 水晶が機能しないかもしれないから」
「分かりました。スピカ、少し離れていてね〜」
「きゅ!」
ビシっ! と、片足をあげて僕から飛び降りる。そのまま何処に行くのかと思ったら。
「きゃ! うわ、トカゲ君くすぐったいよ〜」
マリンさんに飛び込んだ。そのままマリンさんの頬をペロペロし始めた。
『寝ている間、ずっと傍に感じてたからかな〜?』
雛と言う通りなのかも。僕自身も安心感を抱いたもの。
「ほら、手を水晶に触れさせてみたまえ」
「分かりました」
頼んだマナ!
僕はマナを信じて水晶に触れた。
光はそこそこの光量で済んでいる。
(やった! 普通より多めとかだろう!)
少なくても、ノットさん程じゃない。
よし! これで貴族に睨まれ
『おっと手が滑ったぁ!』
ピカァーン!
(澪さあぁぁぁん!?)
クラス中が眩い光に包まれる。
「あ、あわわ」
やっべ! どうしようとあわあわする。
「こ、これは凄まじい魔力量だ。過去一番かもしれない……!」
過去一番出ましたよぉぉぉ!?
(澪さん!? 澪様!? なぜ!? 何故!? ワイ!?)
『澪……あなた』
『てへっ。だってあの貴族の餓鬼ウザかったしぃ〜』
『うん! お兄ちゃんはこんぐらい余裕だもん!』
『ご主人様の威光は、身分を隠しても隠しきれるものではないのですっ!』
『はぁ〜……あなた達もなの? まあ、私も少しイラッとしたから良いけど』
(僕は良くないんですけど!?)
頭を抱えたくなってきた。
「ふ、不正だ! こんな結果ある訳ないだろ! 貴族ところか、人間でもない亜人だぞ!?」
亜人って差別用語じゃなかったっけ?
「その発言を撤回したまえポット君」
「その口を閉じなさい」
「てめぇ……俺のダチになんて言った?」
「……謝って! クロエ君に謝って!」
「きゅるるるるぅ!!」
「な、なんだよ! 不正なのは誰が見ても一目瞭然だろ!?」
「根拠は?」
「は?」
「不正の根拠はない。そもそも一流の錬金術師の先生が不正とは言っていないんだ。不正なわけないだろう?」
「いや、だって魔力の光量が一気に跳ね上がったじゃねぇーか!! おかしいだろ!? 他のやつはみんな、そんな反応しなかったぞ!」
すみません! すみません! ノットさんの言う通り不正なんですぅぅ〜!
「いや、そういう事例も過去になかったわけではない」
「は?」
「過去にも一気に魔力量が跳ね上がる事もあるんだよ。極限の状況に置かれたり、生死をさ迷ったり、何かのきっかけで魔力量が跳ね上がったりする」
「い、いや先生! だからと言ってこんなタイミング良く」
「私の元同僚で現宮廷魔法使いのミシンという女性は、神聖国にて、一切魔力を発しない神子が一瞬にして数百、いや数千もの人間にも匹敵する魔力量を放出したと言っている」
あのゆるふわカールの人だぁ! なんか興奮して僕に近付こうとしていたんだっけ。なるほど、一切魔力を外に出さなかったことがむしろ怪しかったのかぁ〜。気を付けないと。
「で、ですが、それは神子という選ばれた人間であって、こいつは唯の獣人です!」
「前例がある。先生はそう言っているが?」
「っ……」
「謝りなさい。クロエを侮辱したことを」
マイクさんとキャシーさんが追い打ちをかける。
(澪ぉ!? 場の空気が過去最悪なのですが!?)
『あ、そういえばまだやりかけのゲームがあったんだった! 遊んでこよーっと!』
『雛も遊ぶ〜!』
『不肖このメイドも、紅茶をご用意させていただきます』
『三人とも逃げたわよ』
(のぉぉぉーー!)
いきなり初日にこれはないぜ!
キリキリ痛む脇腹を押さえながら、沈黙を貫く。僕が余計なことを言えば拗れる。
「……悪かった。亜人は言い過ぎた」
「大丈夫です! はい!」
「それに不正だと言ったことも取り消す」
「ありがとうございます!」
あれ? 素直に謝ったぞ? とか、さっきの喧嘩腰はどこに? とか、そういう細かいことは、捨ておき、とにかく肯定する。
「ふむ。当事者が許している以上、外野が騒ぐのは道理に反する」
「むむむ。そうですわね……なんか素直ですわね」
「俺もなんも言うことない」
「私も〜」
「きゅぅ〜」
その場が和んだ。やっぱり小動物は癒しをもたらすね。
「ならば、クロエ君席に戻りたまえ」
「はい」
何とか万事解決だ!
『彼、意外と義におもんじるのかもしれないわね』
(ん? どいうこと?)
『ようは、自分が感情任せに発したことを反省したり、間違いを指摘されたら受け入れられるというわけよ』
(なんだ、良い人なんだね)
『根は悪い人じゃないのは確かね。素直になるには、納得いく材料がないといけないけど』
亜人は差別用語。不正は前例ありの専門家の証言により不正なし。
この二つの納得いく材料があったからこそ、謝る選択が出来たわけだ。
「それじゃ、少し今後の話をして今日は終わりにしようか」
先生が仕切り直すように手を打ち合わせて、みんなの視線を集中させる。
席に座った僕の膝の上にスピカは座って同じように先生を見る。その可愛らしさに撫でようとすれば、左右から手が伸びてスピカを撫でられる。
(ガーン! 僕のスピカが!)
ジミー君もマリンさんも器用に先生に視線を固定してやってのけている。
スピカの小さい体では、もう僕の撫でられるポイントは残されていない。後で、撫でよう。後ろの羨ましそうな視線は無視しておこう。
「君たちの中には知っている者もいるだろう。月に一度、月末に発表される魔導戦を」
開校してから、ずっと続いている伝統行事だったはず。
「君たちの参加は来月の初めからになる。つまり今月は言わば先輩方の試合を見学する期間とも言える」
先生の言葉にクラスがザワつく。
「全校生徒参加型の競技。求められるのは強さではない。勝利でもない」
先生はそのタイミングで言葉を区切る。生唾を呑む音がいくつも聴こえた。
「必要なのは、魔法を操る技術力。魔法を扱う腕前。魔法の理解度。魔法の練度。魔法の数。魔法。魔法。魔法。全てが君たちの繰り出す魔法のみを評価する。魔法を含んだ立ち回りを評価する。剣の腕前がいくらすぐれていようが、腕っ節が強かろうが、英雄だろうが、この競技において魔法を行使しなかった行動は全て加点対象外」
「本戦は月に一度のみ。タイミング、対戦相手は指名制。場所は学園敷地内であればとこでも指定可能。魔法に関するスペシャリストの教員たちが余すことなく対戦を記録し、採点する」
「この競技に関して、貴族も、平民も、種族も関係ない。必要なのは魔法のみ……『魔法を極めよ魔法使い』」
先生は静かな熱気に包まれたクラスを見渡す。
「以上。今日の授業は終わりだ。明日に備えて帰りたまえ」
「「「はい! ありがとうございましま」」」