9話 魔導騎士
魔力を圧縮して生み出されるは、半透明の甲冑騎士。
10歳になり、修行の成果を形にしてみた。
既に『魔力の手』は自由自在に操れるようになり、更には剣やら槍などの形も作れるようになった。
見様見真似だけどね。
そこで思ったのは、どこまで魔力で表現出来るかという点だ。
それがこの魔力だけで産まれた騎士。
さながら『魔導騎士』。
うむ。普通の感じになった。
魔導とか付いてるけど、魔法使えない脳筋なんだよね。
でも僕の代わりに戦ってくれるならこれほど頼もしい相方はいない。
耐久性はハッキリ言って未知数。
攻撃力はどうだろう。
魔力でバスタードソードを生み出し、『魔導騎士』に装備させる。
おお! かっけえ。
更に、大盾も生み出し空いている右手に装備。
利き手が左手の僕が操作しやすいように、左手にバスタードソード。右手に大盾だ。
2メートルをも越える巨体の『魔導騎士』は正しく歴戦の騎士ムーブをしている。
見たい目ほど強くなくてもビジュアルだけで脅せるね。
あ……。
「普通の人に見えないやんけ!」
忘れてた。
魔力を視認出来るのは、極限られた人だけだった。
「いやお待ちを。『魔力圧縮』を使って『魔導騎士』を作れば普通の人にも見えるようになるし、何より性能が爆発的に上がりそう!」
2年間の修行でかなり魔力量は上がった筈。
出来ないことはないと思いたい。
と、その前にこの『魔導騎士』ノーマルタイプの性能チェック。
生まれてすぐに上位タイプが誕生するとはなんと哀れな。
心なしか哀愁を感じる。
可哀想だから特別に名前をさずけよう。
「行け! ランスロット!」
『魔導騎士ランスロット』が剣を細い木に切りつける。
ブン!という鈍い音の後には、折れた細い木。
切ったと言うよりは叩き折ったが正しいだろう。
脳筋め。
というよりは、剣に問題がある感じ?
ランスロットに戻ってきてもらって、剣を見せてもらう。
「ああ。こりゃなまくらだ」
魔力の圧縮が甘いのか刃の部分が丸みを帯びている。
「鋭くかぁ〜。課題が増えたぁ」
やっぱり剣などの武器の創造は思ってた以上に難しい。
本物を遠目に見ただけじゃ完璧に再現出来ないし。
魔力を尖らせたり、鋭くするのも結構キツイ。
「修行あるのみ!」
やはり魔導の道は険しい。
と言うよりはいい加減他の魔法を覚えたい。
未だに『小回復』と『回復』しか使えないし。
これじゃヒーラーだよ。
小心者な僕にはお似合いかもしれないけど、やっぱり攻撃手段を用意しておきたいし。
唸りながら、僕は帰路についた。
*
村が騒がしい。
どうしたのだろう。
収穫祭はもう終わったし、人の少ない村じゃ、イベントなんかほとんどないから、こんなにも人の声で賑わうのは珍しい。
広間に向かうとそこには村の人達がいっぱい集まっていた。
「あ、レイン! お前無事だったか!」
「え? どうしたの。いきなり」
2桁年齢になったカーソン氏が話しかけてくる。
その体はますます引き締まっており、顔もやんちゃな頃と違って落ち着きが見て取れる。
狼の1件以降、猟師さんと色々特訓してたみたいだ。
本人曰く、「狼は倒せねぇけど、お前達を逃がす時間ぐらいは稼げるようになったぜ」とのこと。
なんと気弱な発言だろう。
本当にあの俺様でガキ大将のカーソン氏なのだろうかと驚いたものだ。
人間変わるもんだなあとしみじみ思う。
「ああ。実はオークが近くに出たらしいぜ」
「オーク?なんてまた」
「自警団が見つけたらしい。詳しいことは知らねぇ」
「そっかぁ。教えてくれてありがとう」
「良いってことよ」
なんかイケメンになったな、こやつ。
相も変わらずうちのママ様には、ほの字だけどね。
「レイン! レインは居るか!」
え? 呼ばれてる?
「こ、ここに居ます!」
「良かった! 来てくれ!」
自警団のおじちゃんが僕の腕を引っ張って人混みの中心に連れていく。
「どいてくれ」
切羽詰まっているのか、有無も言わさない低い声で人混みの中心に辿り着く。
そこには。
「これは……酷い」
体に複数の打撲痕と右腕がへし折れて、右足の膝下が噛みちぎられている20代の青年。
脇腹を噛みちぎられたカーソン氏よりも酷い状態だ。
あまりにもグロテスクさに吐きそうになるけど、前世と合わせたら30代にもなるので、意思でねじ伏せる。
「……治せそうか?」
鎮痛な面持ちで尋ねるおじちゃん。
「こいつは俺たちを逃がす為に殿になったんだ」
その青年の周りには同じ皮の鎧やプロテクターを身につけた自警団の団員たちが泣き崩れている。
「あ、足が1番速いからって、俺たちの意見も聞かねぇで囮になったんだ!」
青年と同じ歳ぐらいの青年が泣きながら叫ぶ。
「な、なあ。お前なら治せるんだろう? 助けてくれよ! 俺に出来ることがあるなら、なんでもするから!」
縋り付く青年に体が硬直する。
あまりもの必死さに、凄まじい重圧がのしかかる。
もし、治せなかったらどうしよう。
憎まれるのではないか?
罵倒されるのではないか?
思考が悪い方に傾く。
「たとえ救えなくても、誰も文句は言わねぇよ」
ふと頭に手が乗せられる。
見上げるとそこには猟師さんが静かな瞳で僕を見ていた。
「本来なら、この状態になったらおしまいだ。だがお前が居ることで生き残る可能性が僅かに生まれただけだ。例え失敗しても誰も責めねぇし、文句は俺が言わせねぇ!」
「親父! 俺だってその時は参加するぜ!」
「当たり前だ! 命の恩人が困ってるのに無視してたら鍋にぶち込んで煮込んでやるところだ!」
「お、おう」
2人の言葉に勇気が湧いてくる。
さっきまでのしかかっていた重圧もほとんど感じなくなった。
チョロいなあ僕も。
「やってみます。どいてください」
「あ、ああ。頼む!」
泣く青年をどかして、重症の青年の横に座り込む。
改めて見ても、酷い状態だ。
既に意識もほとんど無いだろう。
早く治さなれけば、本当に取り返しがつかなくなる。
両手をかざして目を閉じる。
『魔力圧縮』はこういう時の為に、練習してきた。
ほんの一瞬にて両手が魔力の光に包まれる。
「……っ」
誰かが息を呑むのが聴こえた。
やっぱり見えるようになってるらしい。
目を開き、次にこの青年の姿を記憶する。
記憶したら、今不足してる箇所。正常に機能してない箇所を一つ一つ確認していき、それを本来ある形に戻していく。
明確なイメージを完了させて、魔法を発動させる。
「『回復』!」
『過大深化』の効果により、本来ならありえない効果を生み出す。
青年の体は欠損部分が徐々に再生していき、骨折や潰れた部分も本来の形に修正されていく。
「す、すごい」
「奇跡だ」
「綺麗だわぁ」
多くの感嘆した声が聴こえてくる。
そして数分して青年の体は完治した。
「……ふぅ。治りました」
決まった。
相変わらず魔力はごっそりと減っているけど、気絶するほどでは無いし、前回は『小回復』を『過大深化』させたけど、『回復』はその負担が少ないらしい。
伊達にランクアップしてない。
程よい達成感から寝てしまいたくなる。
「あ、ありがとう。ありがとう! ありがとう!!」
涙のあとを残しながら、僕に感謝するお仲間の青年。
それに続くように自警団の人達。
そして村の人達も便乗するように感謝の言葉や、疑っていた謝罪やらをもらう。
こそばゆい気持ちになるけど悪くないね。
人を助け、救えるのは嬉しいものだ。
出来れば小心者のお腹に悪いので、できるだけこのようなことは控えて欲しいな。
*
後日詳しく聞くと、オークは1匹ではなく群れを成しているらしい。
その脅威度は冒険者ギルド基準でBランク相当。
Bランク冒険者が解決出来るレベルらしい。
Bランク冒険者は1つの国に100人居るかどうかのレベルなので、かなりの出来事だ。
村一つの手に負える案件じゃないし、高ランク冒険者を雇えるほど貯蓄があるわけではないので、鳥を飛ばして、国に助けて貰うことになった。
自警団の方も少なからず負傷者が出たので、しばらくは村周辺のみに探索範囲を下げるらしい。
そうしてひと月ほど、オークが襲撃してくるかもしれない恐怖から浅い睡眠を繰り返す村人達の所に、馬に跨り鎧を身につけた騎士と兵士の皆さんが駆けつけてくれた。
ようやく安心して眠れるかもしれない。