7.サイド:レイラ・リリアーヌ④ 決着。
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「レイラ・リリアーヌです。 貴方達のパーティ【リトルスピリット】に新しく加入することになりました」
「ほ、本当に助かりました……ありがとうございます」
「うぬ、感謝する。 じゃが、ワシら以外にこのパーティに入る者がいるとは思えんが」
「入るというより、ここにしか入れなかった、が正しいですわね」
「あ、そ、そういえば!……ギルドマスターさんから新しい人がパーティにくるって、マジック・レターで連絡がありました!」
「リリー、そういうことはもっと早く……ってか、この新入り、火球を切り裂くし、オレより目立っててなんかムカつく」
「トウライ! おまえ、助けてもらったのに、少しは感謝せんか!」
「そ、そうですよ! だいたい、トウライさんは派手に残念なイケメンとして充分目立ってますよ!」
「リリーがそれをいうか。 つうか、派手なのはかっけえだろ! わっかんねえかな。 このセンス」
(あの……しもしも、また喧嘩でしょうか……)
「僕を無視するなあああああー!」
不意の男からの火球の攻撃が飛ぶ。
「あら貴方、そういえば、いましたわね」
まるでレイラはわかっていたかのように振り向きざまに、撫でるように炎球に剣を当てた。 火球が剣にのみ込まれていく。
「馬鹿な……最弱の落ちこぼれパーティにしか入れない奴がなぜ、僕の魔法を打ち消す事ができるんだ」
「簡単な話ですわ。 貴方の魔法、詠唱がずさんです。威力だけであれば、確かにDランクレベルでしょう。 しかし、魔法とは世界から魔力を譲り受けて発動する物。それゆえ、魔法を形成する魔力は皆同じ……」
「ずさんだと……」
「ええ、魔力制御を実践レベルまで鍛えた者……ワタクシやワタクシを鍛えた師匠などであれば、相手の魔法を逆にコントロールすることぐらいわけないのです。
それをさせないように、魔力に自らのオリジナルの術式を編み込み、相手の干渉から自らの魔法を守る、それが【詠唱】ですわ」
「ふん、戦闘中に魔力制御だと……非効率だ!
お前の言うとおり、詠唱がずさんだとしても、敵の魔法をコントロールするほどの魔力制御は、集中力の大半を使用するはずだ。
それなら、装備の加護を利用して詠唱の短縮を行い、素早く、大量に攻撃魔法を用意した方が効率的だ」
「できないから……」
「何?」
「できないからですわ。 貴方も言ったでしょう。ワタクシは、魔力制御で無理矢理、魔力を補っているシンクロ率の低い落ちこぼれ」
レイラは、ぽかーんとしている三人の方へ向き直る。
「さあ、勝ちに行きましょう ここからは、先輩方が主役です」
「え、で、でも私たちはどうすれば、魔法も全く歯が立たなかったし」
「オレより目立つとか……(ぶつぶつ)」
「そうじゃ、悔しいが、ワシらでは力の差は歴然じゃ」
「いえ、先輩方がそのシンクロ率の低さで、冒険者になれたのです。それは、魔力制御を習得しかけていることの証明です」
「ワシらが」
「わ、私達が……」
「オレが、魔力制御でもっと派手に目立てる?!」
「目閉じて、集中して、先輩達ならできる。世界を拒まないで。
魔力も人も世界の一部、取り込んだ魔力に身を任せて、受け入れることで、魔力の鮮度を保てます」
三人は言われた通りに目を閉じる。
レイラは続ける。
「シンクロ率が低いから、魔力を制御しながらだと、大掛かりな魔法や意識を外に向けながら敵に魔法を放つのは難しい。
だから魔力と自分自身を一体化させる。
自分が魔力の塊になったイメージ、装備に魔力を纏わせるのですわ」
レイラはさも簡単なように言っているが、リラックスした状態で、極度の集中力を常に発揮しなければ魔力制御をし続けることなど不可能である。
だが、レイラはイケると感じていた。
あのギラついた目を持つ。 この三人ならば——
「認めるものか…… 僕はお前達を認めない。 諦めろよ、諦めてくれよ! 落ちこぼれが夢をみるな!」
男が駄々をこねる幼い子供のように叫ぶ。
「おい、お前ら、あの魔法をやるぞ!」
男は他の仲間達に声を掛け、陣形を組んで、詠唱を唱え出した。
熱気が周囲を満たしていく。
「魔力制御か ふん、ならコントロールなどできない一撃をみせてやる。いくぞ!これが、僕達、【ヴォルカニック・カルテット】の切り札だ」
次第に熱気が形を取り、魔法が姿を表す。
さきほどよりさらに大きい火球、それが四つ。
それに対するレイラ達は。
「この装備に纏わせる魔力制御をワタクシは魔力憑依と呼んでいますの」
「チャージ完了、力が湧いてくる。
これが魔力制御か。 気に入った。 いくぜ!」
「新しい斧の実体化完了……。 ワシもいいぞ」
「凄い……私の中に、遠くの構造が、色々な人達の事が入ってくる」
トウライ、カーラル、リリーが迎撃態勢に入る。
トウライの双剣は、派手に光っていた。
いや、派手さだけではなく今回は双剣への魔力の収束を感じる。
カーラルは斧を魔力で強化していた。
それは魔力によって、装備が悲鳴をあげていたときの無理矢理な魔力強化ではない。
魔力制御による正しい強化だ。
リリーは杖に魔力を集めていた。
杖の性能が格段にアップしているのを感じる。
だが、それだけではない。
リリーは周囲の状況を同調することで把握していた。
(リリーさん、貴女すでにワタクシと同レベルの魔力制御を……いや……恐らく、魔力制御だけならワタクシ以上……)
レイラはこの三人なら魔力制御をしながら、装備に魔力を纏わせるぐらいならできるだろうと考えていた。
しかし、リリーはその次の段階、世界そのものとの同調の段階まできていた。
いとも簡単に大地や世界と同調するとは……レイラもこれには舌を巻いた。
(リリーさんは先程の戦闘をみる限り、補助魔法を得意としていたかしら。
納得ですわね。器用さと魔力制御ならワタクシ達の中で一番でしょう。)
(さて、ワタクシも援護しますか)
レイラは剣に先程、吸収した火球の魔力を纏わせる。
さあ、この模擬戦も終わりだ。
男は【リトルスピリット】を否定する。
怒り、妬み、そして——
それは男にとって、あの少年少女達の姿が——。
少年少女達は笑う。 わかっていると。自らの弱さも、現時点でシンクロ率が他の冒険者より、劣っていることも。
それでも、たとえ今は、その夢が遥か上空に浮かぶ星にみえるとしても、手を伸ばすことを諦めない。
そう、何度、罵倒、馬鹿にされようと、今更だ。 もう決めたのだ。
「四竜火連弾!」
「火剣!」
「双雷招来!ツヴァイ・ライトニング!」
「大地と斧の共振!」
「身体操作開始!
対象四人。物理強化と魔法強化比率、三対七
成功! 120%強化完了」
そして、四つの火球とレイラ達は衝突した。
「はは、これはCランク級の魔法、Fランクのボンクラじゃ、受け止めることすらできないだろう。
……なんだと」
そんな予想とは裏腹に四つの火球は押し返され始めたのだ。
「魔法の規模では勝っているはずだ。
なのになんだ、この強大な圧力は……何故押し返される……。
くそ、こんな落ちこぼれ達に負けてたまるかあああああ……!」
そんな叫びも虚しく【ヴォルカニック・カルテット】は飲み込まれた。
「うおおおおお、最弱PTが勝ちやがったよ!」
最弱PTの戦いだと、冷やかしていた観戦者達もいつの間にか、純粋に熱狂していた。
「レイラ、流石ね。 アタシも負けないから」
観戦者達の熱狂の中で一人、マルナは呟いた。
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