6.サイド:レイラ・リリアーヌ③ あの目。
その演習場に、二つのパーティが相対していた。
一方のパーティは、男が四人、もう一方には少年が二人、少女一人。
レイラとマルナは野次馬に混じってその戦いを見守っていた。
「こうなっちゃったから言っちゃうけど、あの三人組のパーティがレイラが入るパーティだよ。」
マルナはそう言った。一体どのような戦いをするのだろうか。
やはり戦いはワクワクする、レイラはそう思った。
「それじゃあ、 皆、配置についてー」
リーダーとおぼしき短髪の男の指示で、四人のパーティは左右にペアとなって別れた。
対して、少年達のパーティのフォーメーションはバラバラだ。ガタイのいい少年が右側にいる相手に、細身の黒髪の少年が左側にいる相手に突っ込んでいく。
「いくぞトウライ! ワシらで速攻で倒すのじゃ!」
外見年齢に似合わぬ言葉を話すガタイのいい少年、名をカーラル・グロウ。 その手には斧。
「オレがサイコーに派手に、決めるぜ! 」
自信に満ち溢れたもの言いをする黒髪の少年、名をトウライ・シュルツ。 その手には金の双剣。
カーラルが二人の男に斧を振りかぶる。
ガンッ!斧と剣がぶつかる。二人のうちの一人の作戦を指示した短髪男が剣で受け止めたのだ。
しかし、カーラルの斧は止まらない。
「うらあああああああああああああ!」
カーラルの気迫とパワーにレイラは目を見張る。
「このパワー、押し切れる! なんだ、最弱なんて言っていたから弱いかと思ったけれど、単純なパワーだけなら、マルナ以上じゃない!」
一方、トウライは。
「ライトニング・バインド!」
トウライの剣の切っ先から、閃光がほとばしり、雷魔法が二人の男を縛り付ける。
双剣の切っ先から光が伸びており、それぞれ二人の男と光が繋がって拘束している状態である。
「拘束が巧みですわね!」
レイラの賞賛する声。
最弱とは思えない攻撃。
「そう思うでしょ? でもね……」
しかし、マルナの言葉は厳しいものだった。
その言葉の意味にすぐにレイラは気づく。
カーラルの持っている斧からけたたましい音が響き始め、ヒビが入り始めたからだ。
レイラがいけないと、叫ぶ。
「ああ、そんな強引に斧に魔力を注ぎ込んでしまったら!」
ついで、マルナの言葉が続く。
「シンクロ率の低さによって負担がかかるのは装備している人間だけじゃない。装備にも負担がいくのよ」
カーラルとレイラの違い、それは、装備への魔力の通し方である。 レイラは装備に通す魔力に対して装備への負担を減らすように、細心の注意を払っているが、カーラルのほうは、装備への負担をまったく考慮していない。
否。
(できないんですわね)
とうとう、カーラルの持っている斧がバキンッと物凄い音を立てて折れてしまった。
カーラルはすぐに後退するが、後退している隙に相手の炎魔法で吹き飛ばされる。
「ぐぅ……」
「そう、そして」
マルナが呟き、トウライのほうをみた。
「おいおい、カーラル、しっかりしろよ……しゃーねえな。 よし、オレのとっておきで決める! ライトニング・バースト・ブラスト・フォー……」
トウライは早口で詠唱している。
拘束した相手に対して更なる魔法を使うようだ。
だが。
「長い……」
レイラが呟く。 長すぎる詠唱、それを相手も感じ取ったのか。
「長えよ!」
「ごへぇ!」
いつの間にか、拘束を突破していた相手が放った魔法にトウライは吹き飛ばされる。
そのまま、トウライは吹き飛ばされていたカーラルとぶつかる。
「おぬし、詠唱が長すぎるわ! 派手な魔法を使おうとして棒立ちで攻撃受けてたら、意味がないって何度も言っとるじゃろ!」
「うっせえよ。 派手なのはかっけえだろうが! カーラルは装備をすぐにバカスカ壊しすぎなんだよ。 依頼の報酬もほとんど、カーラルの装備に消えてんだぞ」
「おぬしだって、使いこなせもせん派手な装備をたくさん買っとるじゃろ!」」
「派手なのはかっこいいからいいんだよ」
「なんじゃ、そのずるい理論」
取っ組み合いの喧嘩を始める二人。
「ふえ、や、やめてください 二人とも」
二人の後ろにいた同じチームの眼鏡をかけた少女が声をあげる。
「リリーも援護ぐらいしてくれよー」
トウライがその少女、リリー・トランスに向かって言った。
「そ、それは、二人が私が作戦内容を伝える前に飛び出していくし、援護する前にあっという間にやられちゃうから……」
「作戦は始まる前に言って欲しいのじゃが」
「同意ー」
「ご、ごめんなさい」
マルナが呆れて頭を掻いている。 あのマルナが……。
レイラもあまりのひどさに苦い顔をしていた。
(チームワークもなにもないわね……)
――けれど、レイラはあの三人から目を離せないでいた。
(何に対して?)
観戦している他の冒険者や相手のパーティは馬鹿にしたように笑っている。
短髪の相手のリーダーの男がニヤつきながら、喧嘩している三人に話しかけた。
「あいかわらずだねぇ、君たち。 シンクロ率は低いままだし、装備は壊すし、派手さを求めすぎて魔法の質も悪い。 仲間の援護ができない。挙句の果てに仲間割れときた。 ほんと、何で君たち、『リトルスピリット』なんてパーティを名乗ってるの~?」
「うるさい、オレ達の勝手だろ」
トウライが叫ぶ。
「伝説のパーティと同じ精霊の名を冠しているとか恥ずかしいからやめて欲しいんだよね」
「なんじゃと……」
「パ、パーティ名は自由に決めていいってことに、な、なっているはずです!」
「てめぇ」
トウライは掴みかかろうとするが、魔法で吹き飛ばされる。
「ああ、悔しい? なら、僕達を倒してみせてよ。 ……できないよねぇ、シンクロ率が低いんだもん。 自分達が伝説になれるって夢をみてるんだ? そのざまで。 冒険者に向いてないのがわかりきっているのに」
トウライは吹き飛ばされるのを足で踏ん張る。
「ぐっ諦めない。 オレは絶対に精霊使いの【雷光】クラウみたいに派手になりあがるんだよ」
トウライに続き、二人も声を上げる。
「装備を壊してしまう。ああそうじゃ! ……じゃが、それで最強になることを諦めるならワシはここにはおらん!」
「わ、わたしは、秘薬を作る…… 精霊使いみたいに、あ、あたらしい薬草をみつけたい」
(ッ……!)
三人の言葉を聞いた瞬間、レイラに幼い頃の記憶がフラッシュバックした。
それは、冒険者に向いていないという苦しい現実。
鏡に映る自らの、悔しさに歪んだ顔。
――目だ。 自らの未熟さ、才能のなさ、運の悪さ、それらをみせつけられても、それでもと、挑むことをやめない、あの三人の目。
レイラが、目を離せなかった理由
ああ、この目をレイラは知っている。
(……ギルドマスター、そういうことですか)
「ふふッ」
「レイラ?」
笑うレイラを不思議そうに見つめるマルナ。
「出来もしないことを吐くなよぉ。 ブラスト・フレア!」
男は、剣を天に掲げて頭上に火球を作り出した。
観戦していた冒険者の一人が火球をみて叫ぶ。
「あれは子竜の火球……?! Dランクに匹敵する魔法……」
男は自らの魔法をみて、勝ち誇る。
「ハハハ、この魔法は、Dランク昇格試験用に取っておいたとっておきの魔法さ。 装備とのシンクロ率が高ければこういう魔法も装備の加護で素早い発動が容易になる。 終わりだ!」
男が剣を振り降ろし、火球を放つ。
「終わらない……。 双剣よ! 小雷の障壁」
「サブウェポン、実体化。 大盾」
「人体、把握、対象指定三人、耐久力底上げ、開始。 身体操作、魔力の鎧!」
トウライの雷のシールド、カーラルのサブウェポンの実体化、リリーの杖による身体操作。
彼らが低いシンクロ率を補い、実践レベルまで鍛えた守りである。
「そんなちっぽけな盾で防げるかよぉ!」
火球と三人の力がぶつかった。
だが、火球の大きさと比べてその盾は、守りは、あまりにも小さかった。
「耐えるのじゃ……トウライ! リリー! 」
「わかってる!」
「でも、このままじゃ……」
シールドがひび割れていく。
終わったと、観戦している冒険者の誰もが思った。
否。
それはマルナを除いて。
突如、火球が二つに分かれる。
ついで光の粒子へと変わっていく。
「僕の火球が……!」
「乱入は好きではないのですが、身体が勝手に動いたものはしょうがないですわね」
レイラがプラチナブロンドの髪を揺らしながら、男の前に立っていた。
「おぬしは……」
「アンタは一体」
「だ、誰なんでしょう」
三人が口を揃える。
「何者なんだ! オマエは」
男を無視し、レイラが三人へ振り返る。
「レイラ・リリアーヌです。 貴方達のパーティ【リトルスピリット】に新しく加入することになりました」
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