5.サイド:レイラ・リリアーヌ② 変わってる。
サイド:レイラ・リリアーヌ
ユーカはレイラだけにみえる光の球、みたいなものだ。
レイラは声と話した雰囲気で辛うじて、女性だろうと判別している。
『私、行かなきゃいけないところがあるの! すぐに戻るから! じゃあねー!』
『ちょっとユーカ?! どこにいくんですの』
その言葉と共に光の球がレイラの胸のあたりから飛び出していった。
(一体、どこで何をしているのかしら)
ギルドの酒場から出るなり、ユーカはどこかにいってしまった。
ユーカの存在は謎だ。ゴーストだし、そもなぜ自分を助けたのか。
レイラは不思議に思ったが、その疑問をぶつけられずにいた。
言えば離れてしまうかもしれない。
ユーカに告げられるまで婚約破棄されるなんて微塵も思わなかったように。
ユーカにはユーカの事情があるのだとレイラは考えていた。
それでも、レイラはユーカのことを悪い奴ではないと感じていた。
それぐらいはわかっていた。
レイラが婚約破棄されたときは本気で怒っているのが伝わってきたし、レイラが冒険者になれたときは自分のことのように喜んでいた。
唐突におかしなことも言い出したりするけれど、理屈ではないのだ。 根拠なんてない。
それでも、ユーカなら信じられると。 だから――レイラは待つことにした。
ユーカが打ち明けてくれる日を。
* * *
そこは冒険者達で溢れていた。
レイラはマルナの案内で、ギルドが経営する演習場にいた。最弱のパーティがこのあたりにいるらしい。
一体、どんなパーティなのか。 レイラはマルナに聞いてみたのだが、マルナは会ったときのお楽しみよ、と言って話そうとはしない。
レイラは早く知りたがったが、あいにくのお昼時、二人は腹の虫に勝てず、マルナの勧めで近くの店に入ることになった。
レイラたちが店でランチを食べていると二人組の冒険者の声が聞こえてきた。
「おい、聞いたか? 王国の騎士団が極秘で遠征に出た話」
「ああ、最近、魔物共の動きが活発化している王国の東部の国境まで、調査に出向いたって話だろ?」
「そう、調査のついでに魔物への対策を他の国と協議して連携を強化したいらしい。」
「しっかし、王国内部も情報を漏らしすぎだよなぁ。 百四十年前まで魔帝と戦争状態だったんだぜ?」
「だな。 一平民の耳に届くほど、情報が筒抜けときた。 腑抜けたもんだ。 百四十年前だって精霊使いの力がなけりゃ、やばかっただろうにな」
聞き耳を立てるレイラとマルナ。
ギルドの酒場は酒の匂いで近寄りがたかったが、ここなら情報収集に役に立つかもしれない。とレイラは思った。
「魔物の動きが活発ねぇ」
と、呟くのはマルナ。
「何か思うところがあるのかしら?」
「この間、アタシのパーティが受けた討伐依頼のオーク、妙に強かったのよね。数も尋常じゃなかったし。 Dランクの依頼だと思ったら、Cランクに片足突っ込んでたね。 あれ」
「そのときに、魔力欠乏症に?」
「そうそう、魔法を撃ち過ぎちゃってね。 アタシ以外の他のパーティメンバーはまだ療養中。 何とか依頼の規定数のオークは倒せたし、なんだかんだきつかったけど、楽しかった! またやりたいなー」
マルナは、心底楽しそうに無邪気な顔で笑っている。
(マルナ、あれだけギルマスに注意されているのに、まだ懲りてないのね…… やっぱり、貴族らしくない。 変わっている)
レイラは思う。だからこそ――
「どったの レイラ?」
「いえ、なんでもないですわ」
首かしげるマルナ。
(――だからこそ、友人になれたのかもしれない)
「さて、腹ごしらえも済んだし、そろそろ行きますか」
マルナが席を立とうするが、レイラはそれを引き留めた。
「これを飲むまで、ちょっと待ってくれるかしら」
レイラが紅茶を飲んでいる。――飲みながら、砂糖を大量に投入している。
ドボドボという音を立てながら、砂糖の山が紅茶の表面に積みあがっていく。それはもうてんこ盛りに。
その凄まじい光景にマルナが呻いた。
「うえぇ、学園のときからずっと思っていたけど、その量はおかしくない?!」
「そうかしら、ワタクシにはちょうどいいのだけれど。 案外、マルナだって飲んだらいけるかもしれなくてよ」
「そ・れ・は・な・い!」
即答するマルナ。 ついで、小さく呟いた。
「レイラって変わってるよね……」
「? 今何か言ったかしら」
「いや、なんでもない」
レイラは首をかしげる。
その後、たわいもない会話をしながら、レイラが紅茶を飲み終えて二人は店を出た。
そのときだ。
「おーい、パーティ同士の模擬戦が始まるってよ! Eランクの奴らとだってさ、あいつらも懲りねえな。 シンクロ率の低い奴は高い奴に勝てないのによ」
冒険者達がざわついていた。
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