4.サイド:レイラ・リリアーヌ① 過去と結果発表。
サイド:レイラ・リリアーヌ
水晶から映し出されるのは、冒険者、適性ほぼなしの文字。それをみてレイラは小さくため息をついた。
(何度もみても変わらない光景ね……)
浮かび上がった光を見てガズィが驚く。
「おいおい、マジか。普通は適性のある装備だけが浮かぶはずなんだが、なさすぎてほとんどの装備が浮びあがっているし。トップクラスの適性のなさだぞ。 本当にマルナに勝ったのか? これで? 」
「ありゃー、レイラ、結局、適性のある装備を見つけられなかったんだ。 悔しいけど、負けたのは本当。 攻撃魔法なしのルールだけどね。」
驚いたガズィの手からいつのまにか脱出していたマルナが口を挟んだ。
レイラは低いシンクロ率をみて、幼い頃のふと思い出していた。
今はもう亡くなってしまったが、幼い頃、武芸に秀でていたレイラの祖父が、レイラのために冒険者の装備を買ってきたことがあった。
もちろん、冒険者に憧れていたレイラは喜んだ。しかし、最初は、装備に満足に持つことすらできなかった。 魔力を装備に通そうとすると弾かれるのだ。
魔力浸透率が低いから。
「痛いよ……、 おじいちゃん。」
「うむ……、この装備もレイラには合わぬか。」
魔力を装備に通すたびに、静電気のような痛みが全身に走る。祖父のアドバイスを受けて、今でこそ、痛みは軽減したが、それでもまだ痛みがある。
祖父は、きっと相性の良い装備がみつかるさ、と剣や弓、槍、杖、その他、色々な装備を買ってきてはレイラのことを励ました。 けれど、何度やっても結果は同じだった。
(ワタクシに冒険者は向いていないのだと現実を思い知らされた。)
それでもレイラは暇をみつけては、訓練は続けていた。心のどこかで、なりたい自分を思い描き続けた。
シンクロ率の低さを補う方法も考えて身につけた。
(だからこそ、あの婚約破棄のときに、憧れた冒険者になりたいと。 諦めるのは嫌だと。 自分の心に従った。)
(冒険者に絶対になる。もう迷わない。 そのために、マルナとの戦いで力を示したのですから。熱くなってしまったのも事実ですけれど。)
(事前に知らせてくれたユーカには感謝ですわね。ワタクシを気にかける理由はわからないですが……)
「どうしたのー、レイラ?」
「え、いえ、なんでもありませんわ。」
気がつくと、マルナがレイラの顔を覗き込んでいた。
ぼーっとしていたようだ。
レイラが恥ずかしさで顔を赤く染める。
すると、ユーカの声がレイラの頭の中にきこえてきた。
『まさか、これが百合というやつなんじゃ?! うーん、女性同士は私の好きなジャンルから外れるし、よくわからないけど。』
ときどきユーカは突拍子も無いことを言い出す。 百合という言葉は知らないが、なんとなくレイラにも意味は理解できた。
『違いますわ……! 貴女ねぇ、腕の良い聖職者に祓ってもらおうかしら。』
『ごめん! それだけは勘弁して!』
そんな会話をしてると。
ガズィがうーんと言いながら腕を組んで悩んでいた。
「こりゃ、厳しいな。 マルナに勝てるほどの即戦力なら、落としたくはないんだが……。」
(よし、もう一押しすれば、冒険者になれる!)
「適性があるかは生まれ持った素質ですから、低いシンクロ率を魔力制御で補った形ですわ。」
「魔力制御?! 詳しく聞かせろ。」
「生物は世界から魔力を取り込み、それを力に変える。
その中で魔法などに使える魔力はほんのわずか。 なぜなら、取り込まれた魔力は体内を循環するうちに鮮度を失ってしまうから。 これがこの世界の常識。」
「ああ、そうだ。」
ガジィも同意する。
「けれど、ワタクシにはこれまで出会ってきた全ての装備の適性がなかった。
シンクロ率の低さは、装備へ魔力を通す効率の悪さに直結し、低い者は装備の力が引き出せず、弱い。 冒険者としてやっていけない。」
ガズィもマルナも静かに聞いている。
「だから、身につけた。」
「限界までその鮮度を保つほどの魔力制御を。」
ガズィが感心した様子で頷く。
「なるほどな……。 鮮度を保てば、使える魔力量が飛躍的にあがる。装備へ魔力を通す効率が悪くても、魔力量で補えば問題ないということか。 確かにそれならばマルナに勝てても不思議ではないか。」
「よろしくお願いします。 必ず、ギルドでお役に立ちます。」
レイラが頭を下げる。
「即戦力なのは事実。 よし、合格だ!」
ガズィが歯をみせて豪快に笑った。
レイラが目を見開く。
(ああ……やりましたわ! ここから、始まる。 ワタクシの冒険者ライフが!)
「やったね。レイラ! ま、私に勝ったんだから当然か!」
「ありがとう。マルナ……!」
「今度は攻撃魔法ありで勝負しようよ! すぐに追い抜いてやるんだから。」
「ふふ、負けませんわよ。」
ユーカも頭の中で何か叫んでいる。
『ギルマス、GJ! 決まりを破らずに済んだよ!』
『決まり?』
『あ、なんでもない。 気にしないで。』
ユーカの言葉にレイラが首をかしげる。
レイラは気になったが、次のガズィの言葉ですべて吹き飛んだ。
「……ただし! シンクロ率の低い、ギルド内、最弱パーティに入ってもらう!」
「え? えええええええ?!」
レイラが叫び、がっくりと肩を落とす。
覚悟はしていたけれど、まさか最弱パーティとは……。
「これが妥協点だ。それに、アンタをみていたら、あのパーティとも気が合うんじゃないかと思ってな。」
落ち込んでいるかと思われたが、しかして、すぐにレイラは調子を取り戻した。
(まあ、冒険者になれただけでも喜ばしいこと、贅沢は言えませんわね。 最弱、望むところですわ!)
静かに闘志を燃やしてレイラは笑っていた。
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