3.適性はありませんでした。
その男は、大柄な体格で長身だった。
短髪でぼさぼさな黒い髪、服装もラフで飾り気を感じないものだが、男には不思議と似合っていた。
年齢は30代から40代ほどだろうか。
前の世界とは違い、魔法で若い容姿にみせかけることぐらいは出来るから当てにはならないけど、見た目に気をつかっているようにみえないし。
たぶん、見た目どおりの年齢かな。
「俺は、ここのギルドマスターのガズィ・ラガンだ。」
「レイラ・リリアーヌです。 その、久々の戦いで熱くなってしまって……、ギルドを騒がせたこと謝罪しますわ。」
「気にすることはねえよ。マルナから吹っかけたことだしな。」
「別に、マルナを離してもいいのではなくて?」
「レイラぁ~、学生時代は不気味だったけれど、今は貴族のその猫被りが頼もしくみえるよ!」
レイラの眉がほんの一瞬だけつり上がったのを私は見逃さなかった。
「気が変わった。 ずぅ~っとそのまま貴女でいてね。 マルナ。」
「横暴! 鬼! 薄情者ー!」
ニッコリと微笑むレイラとフシャーッ!と声あげながら睨むマルナの視線がぶつかる。
まあ、今のはマルナが悪いと思う。
二人のやり取りをみながらガズィも口を開く。
「コイツはなぁ、馬鹿みたいに大量の魔物と戦って、魔力欠乏症でぶっ倒れたんだ。」
「離してやってもいいんだが、今日はまだ、戦うなって言っているのに、立ち上がれるようになった途端さっきみたいな勝負を挑みまくる。」
ガズィがうんざりした様子で続ける。
「俺は別に戦うことを否定するつもりはない。こんだけ、血気盛んな冒険者共が集まれば、ケンカぐらい起こるだろうさ。ああその勇猛さ、大いに結構! だが……」
「なら! アタシを! 離して!」
小動物のように背中からガズィに持ち上げられているマルナがじたばたと暴れる。
「コイツのような、自分の身体の状態を把握できていない馬鹿が我慢ならん。」
だが、ガジィはその言葉だけは何か遠いものを見つめているような、そんな様子で口にした。
レイラは微笑みながら。
「優しいのですね。」
「貴重な戦力に何かあったら、依頼を捌けなくなってギルドが困るってだけだよ。」
「えへへ、アタシは貴重な戦力そして強い! そうでしょそうでしょ!」
「黙ってろ。」
「はい……。」
ガズィ・ラガンのことは私もよく知らない。ラブプリンスは牢獄の物語、冒険者ギルドとの接点がほとんどないのだ。マルナが学園を卒業したあとのレイラへの手紙で、ガズィの名前が確認できるのみだ。
まあ、マルナを簡単に無力化できるあたり、少なくともCランク以上の強さなのは間違いないと思うけど。
「それでだが、冒険者になるには、魔力浸透率の検査が必要だ。 」
「ええー! アタシずっとこのままー?!」
ガズィは無視。 レイラも無視し、首を縦に振って続けて喋り始める。
「所持している装備との相性を数値化し、その結果によって冒険者に相応しいかを決める。」
ついで
「そうだ。 相性の良さは、魔力の効率や装備を使いこなせるかに関わり、冒険者の強さに直結する。」
「結果が悪ければ、冒険者にはなれない可能性もある。 なれたとしても入ることができるptが限定される。 逆に数値が良い奴は色々なptから引く手数多、伝説のパーティが作ったギルドの掟だ。」
何を思ってこんな掟を作ったのか。 こればかりは本当に謎だ。
レイラは、――圧倒的な強者を作り出すためじゃないかしら。―― なんて言っていた。
ギルド内でも格差に不満を持つ冒険者はいるだろうし。 メリットよりもデメリットのほうが多いと思うんだけどなあ。
ガズィは受付の水晶を示して。
「じゃ、この水晶の前に立つんだ。アンタが今まで装備してきた中の相性の良い装備を映し出す。」
「ええ……。」
レイラは珍しく、緊張している素振りで水晶の前に立った。
無理もない。だってレイラは……。
「ッ」
――瞬間、水晶から光が飛び出し、レイラを包み込む。
装備タイプ
剣。魔力浸透率、七%。
鎧。魔力浸透率、五%。
サブウエポン
弓。魔力浸透率、四%。
槍。魔力浸透率、六%。
杖。魔力浸透率、四%。
判定:冒険者、適性ほぼなし。
シンクロ率が低いのだから。
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