2.レイラとマルナ
「あら? マルナ! マルナじゃない!」
冒険者ギルドに着いたレイラは受付にいる女性を見るなり、喜びに満ちた声をあげた。
「レイラー! 久しぶりね! 1年ぶりね!。」
受付にいる女性もレイラに気づき、手を振り、声をあげる。
灰色のショートヘアーで黒い瞳、レイラよりも低い身長で八重歯が特徴的だ。
受付の女性のことは私も知っている。
「ええ、中等部卒業のとき以来ね。」
「ここにきたってことは結局、学園をやめたんだ。 へえ、貴族の仮面を被ってるときよりマシな顔してるじゃない。」
「む……、色々あったのよ。そっちも受付嬢なんて、転職かしら。」
「ア、アタシはちょっと別なワケがあって……」
マルナ・ドライヘン。
レイラと同い年の唯一の友人もとい悪友だ。16歳。グントー学園中等部、魔法騎士科に所属していたが、中等部卒業と同時に学ぶべきことはなくなったと学園に告げて、冒険者になるために学園を自主退学した。
その先の高等部でやることといえば、王国騎士志望の学生が、貴族としてのしきたりを学んだり、家同士の婚約のためのコネ作りの場に成り果てていたりと、魔法や武について学べることはほとんどない。そのため、冒険者志望であれば、中等部卒業と同時に学園をやめる人間も珍しくはないのだ。
私の前世、つまりはユーカの世界ではラブプリズンという、この世界と酷似しているマイナーなゲームがある。 主人公のレイラは理不尽な婚約破棄に激怒し、侯爵家のエリックに刃向かったとして、牢獄に送られてしまう。
牢獄から始まる脱獄ラブロマンス!……と銘が打たれているのだが、結論から言ってしまうとレイラは様々な出会いに恵まれるも脱獄に失敗して処刑される。
要所要所で挟まれるレイラの優しさに溢れた学園時代のエピソードで散々プレイヤーに感情移入させておいて、最後の最後で脱獄に失敗してBADENDにするものだからショックを受けたプレイヤーも少なくないのだとか……
私もその一人なのだれどね。レイラには絶対に言えないけど。
まあ、だからこそ――助けられてよかった。
閑話休題。
前世のゲーム世界だとマルナは主にレイラの学園時代のエピソードで登場する。
確か、その性格は……。
「じゃあ、久々のアレ、いきますか。 ギルド内だから攻撃魔法はなしね。」
談笑していた二人だが、マルナがそう口にした瞬間、場の空気が変わった。
二人の魔力の高まりに、ギルド内の酒場で騒いでいた冒険者達も真剣な面持ちで二人を見つめている。 しばらくの静寂のち――レイラとマルナは互い腰にある剣を引き抜いた。
剣の同士がぶつかりあい、鈍い音が響き渡る。
戦闘大好きっ子だった……。
やっぱこうなったか。レイラはそこまで戦いに固執するタイプじゃないけど、マルナはよくレイラに勝負を挑んでたから、なんとなくこの展開を予想はしてたんだ……。
剣同士での睨みあい。 互いの隙を窺いながら様子を見る。
レイラ曰く、この最初の睨みあいで大体、相手の力量を測ることができるらしい。
「くっ?!」
――だというのに、レイラの驚きはいかなる理由か。
確かに力量は測ることができる。だが、それは相手が他に武器を持っていなければの話。
マルナは隠し持っていたナイフを左腕の付近から発射したのだ。
咄嗟に上体を捻って避けたレイラだが、次の瞬間、マルナはレイラの背後に回りこもうとしていた。
魔法による身体の強化、スピードの緩急を巧みに使ったその動きは洗練されていた。
「ふふ、決まった。」
マルナの勝ちを確信した笑み。
――だが、それはすぐに驚きへと変わる。
まるでマルナが回りこんでくることがわかっていたかのように。
振り向きもせず、レイラの切っ先はマルナの首筋に当てられていた。
「ちぇ、今回は勝てるとおもったんだけれど、アタシの負けか。」
マルナは肩を落とし、負けを認めた。
おおー、と他の冒険者達から歓声があがった。
「おお、嬢ちゃん、マルナに勝っちまうなんて凄いな。 マルナは冒険者になって1年で既にDランク相当の力を持っている注目の成長株なんだぜ。」
若い男の冒険者が、レイラに話しかける。
「マルナとは付き合いが長いですから。」
ランク。 F、E、D、C、B、A、S 左から順にSが一番高い。冒険者が依頼達成率やその実力が認められたときに与えられる称号。冒険者資格。
ちなみにDランクとはEランク相当の複数の魔物を一人で相手にしても余裕を持って戦えるレベルだ。
「おい、マルナ! なんかうるせえと思ったら、戦ってやがったな。 また魔力欠乏症になりてぇのか。 今日までは受付だけにしとけつったろ!」
受付の奥から声が響いてくる。
「げっ、ギルマス……。」
マルナがばつの悪そうな声を出す。
さて、冒険者登録はどうなることやら。
『レイラ、剣との魔力浸透率は結局上がってないよね。』
『……ええ、けれどこればっかりどうしようもないですわ。 相性の良い武器に出会えていないのですから。』
私とレイラは頭の中で直接会話をする。
『もし、そのことで冒険者になれなかったらそのときは、私がなんとかするから。』
『? どういうことですの。』
そんな会話をしていると。
「おう、冒険者志望ってのはアンタか?」
「痛い、痛い!ギルマス、放して!」
「目を離したら、勝手に戦うだろうが!」
マルナを片手で持ち上げながら、ギルマスと呼ばれた男が話しかけてきた。
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