1.婚約破棄とはじまり。
レイラ達の冒険をお楽しみください。
よろしくお願いします!
「レイラ、君との婚約は破棄だ。」
やはりこうなってしまったか。
タスワン王国の中にある貴族達が通う王立グントー学園の中庭でレイラは婚約破棄という重い宣告を受けていた。
私はこの場面を何度みてもなれない。その理由は伯爵家、レイラ・リリアーヌの婚約相手である侯爵家のエリック・モルゾーが後に放った言葉がムカつくからだ。
「君は優しすぎる。 他の貴族達からの人気も高い。 他者のことをいつも考えている。ああ、婚約相手としては申し分ない。……なさすぎるんだ。 不満を口にすらしない。それが気に食わない。」
なにそれ、いい奴であることの何が悪いのか。――すると、エリックの言葉を聞いていたレイラが観念したような素振りをみせる。
整った顔立ちに茶色の瞳、金に近いプラチナブロンドで髪の左側の部分だけ縦ロールような髪型だ。婚約破棄という場であっても、その振る舞いは気品にあふれているようにみえた。
「……はぁ、言動に違和感が出ますか。やっぱりワタクシには貴族生活は合っていないですわね……。 ――決めました。 ワタクシ、貴族をやめます。」
その言葉を聞いたエリックの目が見開かれる。
「は……? いや、別にそこまでのことを望んでいるわけでは……、大体、このことはこちらからの一方的な婚約破棄で……」
「だってワタクシ、冒険者になりたかったし、貴族生活が苦手なんですもの。」
空は快晴。 婚約破棄にまったく合っていない。ああでも――レイラのあっけからんとした態度によって、私には新たな始まりを象徴している相応しい空に思えた。
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1ヶ月後。
「あのときは大変でしたわね。」
「いやぁ、私もさすがにあの場でいきなり貴族をやめるって言い出すなんて、思わなかったからびっくりしたよ。」
強い日差しの中、冒険者ギルドで冒険者登録を済ませるために、レイラはタスワン王国、首都メルグルンの街道を歩いていた。季節は前の世界での夏ようなものだ。
――あの婚約破棄宣告後、レイラは冒険者になりたいと両親に話した。
最初は両親も反対していたが、すぐに折れた。
レイラの弟のフレッドが――姉上の好きにやらせてあげてください――という強い希望を示したからだ。
あまり強く反対しなかったのは、両親もレイラが家のために、貴族生活が苦手なことを隠しながら頑張っていたことに薄々気づいていたためだろう。
「改めて感謝します。 ユーカ、正直、最初に貴女と出会ったときは、ワタクシの頭がおかしくなったかと思いましたわ。ですが、貴女が事前に婚約破棄されることを話していなければ、取り乱して、エリック様を罵倒して牢獄送りになっていたかもしれません。」
貴族社会の厄介なところだ。上の身分の者に不敬を働けば、罰せられてしまう。 レイラは貴族のそういう堅苦しさが苦手だとよく言っていた。
「どういたしまして。っていうか、レイラもよく信じたよね。 普通は信じないでしょ。だって、私はゴーストだし。」
「ふふふ、良い霊もいますわ! 伝説のパーティである精霊使いの五大精霊達とか。……ワタクシもリーダーである冒険者アルフのようになりたい!」
レイラが熱く語る。無理もない。 ――精霊使いと五大精霊。 多くの冒険者は伝説にある彼らのように精霊に選ばれ、新たな伝説を作り出すことを夢見て過ごすという。偉大な先達。
あ、私の名前はユーカ、――前世の記憶を思い出した精霊だ。先達と比べるとまだまだだけれどね! よろしく!
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