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キラービー・パニック! 


 キラキラした水晶の広間から分岐路まで戻ってくる。

 霞になったり、結晶になったりできるよくわからない結晶も俺の頭の上にふよふよ浮いて同行している。詳しい正体はわからないが、多分魔物の一睡だろう。

 俺はこの魔物と同行しているが特に思念会話などはしていない。

 この結晶は簡単な意思疎通こそ可能だが、多分それほど知能が高くないため会話や雑談を楽しむといった概念があまり存在していないんだと思われる。そもそも会話のネタすら無いしな。

 俺の方も俺の方であんまりコミュニケーション得意じゃないし、だんまりも当然な結果なんだろう。まぁ、時折壁にキラキラ水晶を見つけるとキラキラホシイと思念を送ってくるので適度に砕いては放ってやっている。単に俺が利用されているだけなのか気に入られているのかよくわからない関係性だ。


 さて、広間の方は下り坂だったからもう一つの道が崖上に繋がってるといいんだけどな。


 もう一つの分岐路を進んでいくとなだらかな上り坂になった。

 崖上までこのまま上り坂が続いてくれればいいなと祈りながら進んでいたが、五分ほど歩いたところで道が平坦になってしまった。だが、少しは上に移動したはずだ。

 洞窟が完全に行き止まりってわけでも無いので、少しは希望が見えてきたかな?


 しばらく歩いていると真っ暗な闇が地の底に口を開けていた。底の見えない崖だった。

 崖に向かって下り道が延びている。それとは別に平坦の道。更に上り坂になっている道がある。

 俺は当然上り坂を選ぶわけだが、この洞窟は嫌になるくらい広い。しかし、魔物とは不気味な程遭遇しない。魔物がいないのはやはり食べる物が無いからだろうか?

 俺だってショップが無ければ食料面で詰んでいるところだった。見渡す限り鉱物しかない。草の一本すらも生えてない。

 だが、魔物に遭遇しないことはありがたい。

 体が未熟な以上、戦闘になれば確実に綱渡りになる。

 それで怪我でもすれば動けなくなる。だから俺はなるべく戦いたくないのだ。


 俺は今まで通ってきた道を忘れないようにショップでノートボールペンを購入。辿った道筋をざっくり記載しておく。


 『アッチ アッチ!』


 メモを取っていると突然頭の上の結晶が騒ぎ始めた。

 何だろうと思ってそちらを見ると岩の巨人がのそりのそりとこちらへと向かって進んでくるのが見えた。前世でやったゲーム知識だとゴーレムと言ったところか?

 材質が岩な時点で現状では勝ち目が無い。持っている武器では有功打が得られないからだ。

 幸い動きは遅いようなので俺は全力でその場を離脱した。なるべく上り坂を選んでひた走る。

 しばらく走った後、少し開けた場所に出た。天井や壁がてかてかと琥珀色に光っている。

 呼吸を整えるべく壁に手を突いた俺は、気づいたときには琥珀色の何かに触れてしまっていた。

 軍手越しでもわかるべたべたとした感触。何か不味い物に触れてしまったかとも一瞬思ったが、それにしては甘い匂いがする。凄く美味しそうな匂いだ。軍手の繊維が絡め取ったその粘性の液体に俺は吸い寄せられるように思わず舐めてしまう。


 「……ハチミツ?」


 口いっぱいに広がる芳醇な香り。

 コクのある苦み走った甘味に思わず俺の頬も緩んでしまった。

 非常に濃厚な味わい。この蜂蜜は相当に美味い。

 日本でも最高級品として売れるんじゃ無いだろうか?

 恐らく蜂の品種からして違う。


 ――じゃあ、この蜜を作ったのはどんな蜂なんだ?


 俺がその考えに至ると同時、ブウウゥンとやたら大きな羽音が聞こえてきた。

 聞こえてくるのは先の通路の奥。非常に嫌な予感がする。

 俺は羽音から逃げるように元来た通路から撤退しようとする。

 そして、そいつと鉢合わせした。

 どうやらそちらからも挟み込まれる形で蜂が迫ってきていたらしい。

 四十センチくらいありそうな化け物じみた蜂だった。尻に付いた針だけで十センチほどの長さがある。俺を威嚇するためか、針からは不気味な緑の毒液が染みだしてきた。

 これは二度刺されたらとかじゃなく、一発刺されたら終わりでは無いだろうか?

 コイツと相対すると、前世で見たスズメバチが可愛く見える。

 俺は逡巡する暇も無く本能的に蜂から逃げ出し、まだ見ぬ通路の先へと足を踏み入れた。

 そして、その判断をすぐに後悔することとなる。

 俺が逃げた先には再び空洞があった。先程と同じく琥珀色の部屋だ。

 違いがあるとすればそしてその天井をびっしりと覆い尽くし蠢いている影がある事だろう。

 そしてそいつらは俺が侵入したことに気づいたのか一斉に羽音を立て始めた。

 そいつらが部屋中をけたたましく飛び回る姿は、非常に不気味で現実味が無く悪魔じみた光景だった。

 これならあの一匹をかいくぐって逃げた方が余程マシだった。

 三百六十度蜂に覆い尽くされている。逃げ場が無いとはこの事だった。

 俺は硬直した。すくんで一切動けなくなる。

 だが、それが幸いした。

 どうやらこの蜂は洞窟に住んでいるせいか視覚にあまり頼っていないようだった。飛び立ったはいいが、獲物を見つけられずにただ飛び回っているように見えた。

 そして、俺を襲ってこないことを見るに別段体温などを感知しているわけでもなさそうだ。

 だとすれば音か?

 蜂を刺激したら文字通り蜂の巣にされてしまう。

 俺は静かにショップを呼び出すと閃光弾を手元に出現させた。

 あまり現代兵器は使いたくなかったのが本音だ。

 だがこの現状を打開するには四の五の言ってもいられない。

 早い話、アサルトライフルとかを呼び出せば大分戦闘力が上昇する。

 中東辺りのショップを呼び出せばAK47なんかは五千円前後とモデルガン以下の超お手頃頃価格で手に入る。

 打つ手無しの蜂の大軍に一矢報いるくらいの効果は得られるはずだ。

 だが、その事によってこの世界に悪影響を及ぼすのは避けたいのだ。

 少なくともこの世界に銃があると確認できるまで俺も銃を使いたくはない。

 例えば、銃弾を見てこの世界の人が後に重火器へいたる発想を得たのならその元凶は間違いなく俺になってしまう。万が一俺が死んで現物だけが残ったらもっと最悪だ。使い手を失った銃器がどこへ流れるかわからないからだ。

 だが、閃光弾ならばその影響は最低限ですむだろう。

 手榴弾と違って破片が飛び散らないので回収しやすい。

 回収目的で本体再利用可能な物を選んだから、使用後拾っておくのが望ましいだろう。

 ピンを抜いて投擲。耳を折り畳んで更に両手で塞ぎ目を瞑る。


 ――直後、爆音が轟いた。網膜越しにもはっきりとわかる光の氾濫。

 しかし激しい光とはいえ直接見なかったのでそれほど問題はない。


 無数の蜂が閃光弾の爆心地へと向かう中、同時に俺は駆け出す。

 そしてそのまま先の通路に逃げ込んだ。

 使用済み閃光弾はとてもじゃないが拾う余地が無かったので後でまた回収に来なければいけないだろう。つまりまた蜂の大群と相対するわけだ。それを考えると少し憂鬱だ。

 ……まぁ、あくまで俺の自己満足だからやらなくてもいいと言えばいいんだけどね。

 後の世の平和のためにも可能ならば回収するって方向で何か方法を考えておくとしよう。


 通路をひた走って進んでいくと途中の壁には穴が空いていて、外からの光が差しこんでいた。

 もしや出口か?

 俺はその光に向かって吸い寄せられるように走る。

 壁の穴の手前まで来て、俺は目の前が崖になっていることに気づいた。

 恐らく俺が落ちた断崖だろう。底が大分遠いので大分昇ってきていることがわかった。多分半分くらいは進んだのだろう。

 俺も最初からやり直しは嫌なので、落ちる前にすごすごと洞窟の中に引き返す。

 すると、蜂の大群が背後から迫ってきているのが見えた。

 仕方が無いので大軍を背に必死に走る。走っていると三つ目の琥珀の空洞に出た。当然の如く聞こえてくる羽音の群れ。うんざりしてきた。

 どうやらここら一帯は巨大蜂のテリトリーらしい。

 言わばこの洞窟の一角事態が蜂の巣なんだろう。蜂の巣の中を歩き回っていると考えると中々にゾッとするものがある。

 だが、どこか様子がおかしい。

 三つ目の部屋では蜂共は俺を襲ってこなかった。

 俺を襲う以前に既に何者かと交戦していたからだ。蜂は何者かに取り付いて蜂だんごのような状態になっている。

 

 ――グアアアアアアアッ!


 その何者かはうっとうしそうに自身の体に集っている蜂を茶色い毛に覆われた太い腕で振り払う。または直接殴ってはたき落とす。地面に叩き付けられた蜂は毒体液をまき散らしながらひしゃげて動かなくなった。

 そうやって蜂が一旦離れた隙にそのまま壁まで直行すると壁から垂れている蜂蜜を掬って舐めた。そして時折、壁に空いた穴から白い幼虫を引きずり出しては喰らっている。

 恐らく蜂の子だろうがでかいと不気味だ。

 それをぐちゃぐちゃと音を立てて食べる姿はあまり気分のいい見世物ではなかった。

 なるべく静かに距離を取りながら部屋を通過するついでに、観察していたのだがどうやら蜂の巣への襲撃者は体長三メートルくらいの巨大な熊だったらしい。

 蜂という獲物がいるからこそこの洞窟に住み着いたと考えられる。

 つまり、巨大熊のテリトリーがほぼ間違いなくあると推測できる。

 この先の道程が危ぶまれる。


 ――しかし。

 あの熊は先程から何度も蜂に刺されている気がするのだが何故平気なのだろうか?

 体からはうっすらと蒼い炎のような物が立ちのぼっているようにも見える。

 バリアーか?

 まぁ、平気ならそれでいい。せいぜい囮として暴れ回ってくれ。その間に俺は逃げる。


 ひたすら通路を先へ進む。すると小部屋では無く初めて大部屋に出た。

 サッカースタジアムくらいは入りそうな広さだ。

 壁や天井は琥珀色ではないのでどうやら蜂エリアは抜けたらしい。


 ――だが、その代わりに熊がいた。


 もう嫌だ、この洞窟。

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