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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第四章
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第85話 人攫い

「―――――――!!」


 おぼろげな意識の中で初めに捉えたのは誰かが叫ぶ声。完全に覚醒しきっていない頭では何を言ってるかまではわからず、次第に冴えてくる感覚が吹き抜ける風の冷たさとガタガタと揺れる地面の感触を得る。目を開けてみるが映るのは変わらず暗闇。頭になにか被っているようだ、と少し遅れて理解する。


(どこだろう・・私何をして・・・)


 半覚醒の頭がゆっくりと回り始め、状況を確認しようと努めだす。確か、先程まで自分は人間の街に居たはずだ。憧れの冒険者になり、初めての依頼を完了した。これから皆で食事をしようとしていて・・・。そこまで記憶を辿ったところで手足に違和感を覚える。頭に何かを被せられ視界を封じられ、手足は縛られ、そして気絶させられていた。つまり――――


「あ、誘拐だこれ」


 ぼそりとリーシャは呟く。エリート・レントで立ち寄った店で「幸運の御守」なる物を売っていて、興味本位に覗いていたところから記憶がない。そういえばその御守から変な臭がしたような気がする。薬で眠らされたのだろうか。時折聞こえる馬の嘶きと、お尻に伝わる感触から馬車に乗せられているのだろうと確信する。ファングたちに散々注意された人攫いに攫われてしまったのだろう。


 「あちゃー」と心のなかでため息をつく。昔から抜けている所はあると自覚していたが、今回ばかりは流石に自分でも顔を覆いたくなるほどの失敗だ。フードを深く被り、顔を見られない様にしていた筈だったが、どこかで見られてしまったのだろう。


(ショウくん、心配してるかな・・・・)


 突然いなくなった自分に対して、彼はどう思っているのだろうか。探し出そうと必死になってなっているだろうか。不用心な自分に怒っているだろうか。それとも―――「厄介払いが出来た」と喜んでいたりするだろうか。自分自身の想像で胸がキュウっと痛くなるのをリーシャは止められなかった。「そんなこと考えるわけない」と首を振って最悪の想像をかき消して、現状の把握に頭を使おうと切り替える。そういえば目覚めた時から誰かが叫ぶのを聞き続けている。十中八九、人攫いのものだろうが、どうにもその声には動揺と焦りが混じっている気がする。


「くそっ!何なんだこいつらぁ!!」


 苛立ちの一声。次いで微かに聞こえる弦が弾ける音。弓を射った音だ。しかし、当たった音は聞こえない。遠すぎるのか。外したのか。そもそも相手は何だろう。魔獣にしても人にしても息づかいが全く聞こえない。遠くにいるのだろうか。いや、だとしたらここまで焦っている筈がない。身の危険を感じているからこその焦りの声だ。


 暗闇の中では現状を完全には把握できない。リーシャはもぞもぞと動いて何とか頭に被せられているモノーおそらく麻袋ーを取り外そうとしてみる。不幸中の幸いか、人攫いたちは正体不明の何かを相手するのに夢中で、自分の動きに気づいていないようだった。


 少し時間が経った。しかし状況は変わらない。手足を縛られた今の状態では可能な動きは芋虫が如く身体をくねらせる程度。せめて手だけでも自由にならねば新たな展開は望めない。


「仕方・・ないよね」


 声に出したのは自分を納得させるため。出した声が小さかったのは望んだ事ではないから。縛られて横たわる態勢から、軽く深呼吸をして、リーシャは再び口を開いた。


「カイ ヲキト クゥー ケイク ウィンコ デモーリシュ――――《風刃ウィンドカッター》」


 言葉を紡ぐたび、漲ってくる魔力を手の方へと集中させる。言い終わると同時、魔法が発現。リーシャの手のひらに小さな風が巻き起こり彼女の手を縛る縄に傷をつけた。断ち切る程の威力はなかったものの、結びを緩める効果はあった。少し緩くなった縄から手を自由にしようと、リーシャは手を動かす。


『その程度なのか・・・。益々お前は―――』


 思い出したくない過去を、頭が勝手に映し出す。「風刃ウィンドカッター」を使う度、いつだって頭に浮かんでくる。だから使いたくなかった。唇を強く噛み、縄を解く作業に力を注ぐ。力に任せ動かしているうちに片手が縄から抜けた。そうなれば後は簡単だ。抜けた片手を巧みに使い、もう片方の手も自由にすると、リーシャは頭に被せられた麻袋を取り外す。突然の光に目が眩むのに耐えながら、視界を得ようと目を細める。


「はぁ・・あと一体だぞ、ちきしょうっ!」


「おい!早く仕留めろ」


「うるせぇ!荷台が揺れて照準がぶれるんだよ!」


 馬車の御者と弓を構える男が喧嘩口調で言い合う。馬を操ることに集中していて振り返らない御者はリーシャが上体を起こしたことに気づかない。弓の男が狙うのは、黒く大きな物体。狼のような形をしているが、目も鼻もそこにはなくただただ黒く、必死に走って馬車に追いつこうとしている様だが、息遣いすら聞こえてこない。


「あれ・・ショウ君の・・・」


「んあぁ?」


 追ってくる狼の影の正体をリーシャは知っていた。ショウのスキル『眷属召喚』。目の前のものほどの大きさの物を見るのは初めてだったが、間違いなく、あの狼は自分を助けるために遣わされたものだろう。「見捨てられてなかった」。自然と出た結論に頬が綻び、嬉しさがこみ上げる。あまりに嬉しかったので、無意識に声を出してしまったことに彼女自身気が付かなかった。

 謎の第三者の声に弓の男が振り返る。目と目が合い一瞬の間、男とリーシャは見つめ合う。先に動き出したのは弓の男の方だった。


「くそ!どうやって縄を解きやがった!変な生き物に追われるしよぉ・・面倒な仕事を請けちまったぜ」


「あ、ちょっ!ちょっと待って!来ないで!!」


 手を前に突き出し、ブンブンと振って拒否するが構わず男はリーシャに近寄ってくる。手は自由になったものの足はまだ縛られたままだ。逃げるにしろ応戦するにしろ準備はまだ整っていない。


「悪いが耳長の嬢ちゃん。また気絶してもらう――ぜっ!!」


 真ん前まで迫っていた男が不意に、前のめりに倒れる。倒れた衝撃で呻く男を押さえるように、狼の影が踏みつけていた。


「あ、ありがとう!」


「調子に乗んなや!!」


 うつ伏せの状態から、男はぐるりと半回転して弓をそのまま影に叩きつけた。衝撃に負け、影はよろめきどかされる。素早い動きで男は立ち上がると、腰からナイフを抜いた。


「あんまり俺をなめるなよ・・何年この仕事やってると思ってんだ犬っころ」


 腰を落としやや前傾の姿勢を男はとる。ナイフの切っ先は正面の影に。その構えから、リーシャは男がただの素人ではないと読み取った。


「おおぉーい!何が起こってんだ?」


「黙って運転に集中してろ!こんなもん問題ですらねぇ!」


 馬を操りながら、ちらりと横目で荷台の様子を御者は伺う。後ろで発せられる騒音、相棒のがなりを憂いてのその言葉を、弓の男は狼の影を睨みながら一蹴した。真っ黒なその足を男は睨む。相手の動きを読もうとしているのだ。心なしか、狼の影も同様に自分の事を睨んでいるような気がする。全力疾走する二頭の馬によって荷台はガタガタと揺れている。


――――来る!


 影が前足を上げた瞬間、男は影が自身に飛び掛かってくることを確信した。カウンターでナイフを食らわせてやろうと、ナイフの柄を握り移動しようとして、男は足が重いことに気づいた。反射的に視線を足に送れば、そこには褐色肌の手がくっついている。


「ぐっ・・!てめぇ―――」


 男が言い終わるよりも早く、影が男を襲う。再び押し倒される男。しかし今回は、肩口に深く影の牙が食い込んでいる。


「ぐおおぉぉお」


 痛みに耐えながら、男はナイフを影に突き立てようする。が、手に握られていたはずのナイフがない。押し倒されたときに無くしたのだと手で辺りを探すが見つからない。


「貸してくれてありがと」


 男の視界に見下ろす形で自身を覗くリーシャの姿が映る。彼女の手には自分のナイフ。いつの間に切ったのか手に続き足の縄までなくなっていた。形勢逆転。悔しさと焦りから動こうともがく男だったが、狼の影は依然として強く押さえ込んでいる。


「ねぇ君。馬車を止めてエリート・レントまで引き返して」


 御者の首元にナイフを当て、最大限の冷たい声でリーシャは言う。突然刃を突きつけられながらも、御者は何も言わず振り返ることもないままただ正面を見つめている。


「馬車を――――」


「なあ耳長、あんた俺が戦えないと思ってるだろ?」


「え」


「その通りだよ!!」


 予測していなかった御者の言葉に一瞬、リーシャは固まった。その隙をついて、御者は俊敏な動きで振り返るとリーシャを突き飛ばした。


「うっ!!」


 荷台の揺れがリーシャの踏ん張りを弱める。勢いを殺しきれず、彼女はそのまま荷台から突き落とされた。空中に投げ出されるリーシャに影が飛び掛かる。彼女を守れと命令を受けたショウの眷属は見事彼女を空中でキャッチし無事に地面へと降り立った。


「今回の仕事は失敗だな。とっととトンズラここうぜ」


「・・ちっくしょー俺のナイフが」


 自由になったリーシャを警戒してか、それとも狼の影を脅威ととったのか二人の人攫いはそのまま馬車を走らせその場を離れていった。


「ふぅー危なかった・・ありがとね助けてくれて」


 何もない平原。近くにあるのは森だけ。そんな場所にとり残されたリーシャはとりあえず自分を助けてくれた影を褒める。他の犬同様に感謝の意を込めて頭を撫でてみるが、真っ黒な顔からはなんの感情も読み取れない。


「とりあえず、行こうか」


 そう言うとリーシャはむき出しのナイフを手に近くの森へと歩を進める。平原に留まっていたらいつまた他の人攫いに狙われるかわかったものではない。レイクビューに帰るため、歩き出した彼女に、黙って狼の影は追随した。


 


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