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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第四章
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第78話 新人冒険者の力


「どうだ?ローリ。いたか?」


「いえ…いません。すいません」


「謝らなくていいぞ。引き続き頼む」


  はい。と返事をする小柄な少女、ローリに微笑みかけると、彼女の先を歩く大柄な男は目線を反転させ前を向く。


「相変わらずローリに優しいわね…ファングってそういう趣味なの?」


「……妹がいたからだよ。盗賊に殺されたけどな………アホリビィ」


「し、知らなかったからしょうがないじゃない!ほんと、嫌味な男ねバカミゼル」


  森の中、一列に歩み続ける一行。

男女混合のそのグループは一人一人身につけているものが違い統一感はない。先頭を歩く男―――ファングは炎のような赤い髪が目立つ長身で、革の鎧を身につけ、背中に両手剣グレードソードを背負っている。彼に続いて歩くのは、先程彼と言葉を交わした小柄な少女ローリ。白い、見たものに清廉な印象を抱かせる服を纏う彼女の姿は、森に遊びに来た貴族のお嬢様のようだが、彼女が手に持つ短杖ワンドが彼女を神官であると証明していた。そんな彼女と対照的だといえるのが、リビィである。ローリの後を歩く彼女は全身を黒いローブで包んでおり、身長も女性としては高く、着崩したローブから時折覗く妖艷な白い肌や木製の杖を手でもて遊ぶその様子はローリとは真逆の人間であると証明していた。


(この人たちは……別に仲良くはないのか?冒険者ってこういうものなのかな)


  ファング、ローリ、リビィに続き、先頭から四番目を歩くのは新米冒険者ツダこと、レイクビューの大長ショウである。ニンデ村で起こった戦いで堂々と素顔と名前を晒してしまった彼は、名前をツダと偽り、フルフェイス型のヘルムで素顔を隠して現在冒険者として初めての依頼をこなしているところであった。レイクビューの鍛冶師、ガード作の鎧、片手剣ハンドソードを身につけ、背中には大きめの荷物を背負っている。しかしその荷物は彼の物でも、彼の後ろを歩くダークエルフのリーシャの物でもなく、ファングたちの荷物であった。エリート・レントにて冒険者の登録を済ませたリーシャとショウ。そんな彼らに声をかけてきたのがファング率いる冒険者のパーティーであった。


  ファングが言うには彼が新人だった頃、同じように先輩冒険者に声をかけられ随分と助かったので、同じようにショウたちを助けたいということだった。冒険者組合のルールでは自分の階級ランクより高い階級の依頼、例えば鉄級アイアンの冒険者がその上の銅級カッパーの依頼を受けることは不可能だが、上の階級の冒険者が同行することで同じ依頼を受けることができる。当然、功績の大半はその階級の冒険者のものとなるが、手伝いとして少しはその功績を認められるということだった。つまりファングの依頼を手伝えばショウ、リーシャの階級を上げることにつながり、また、冒険者という仕事のやり方を学ぶのにも役立つということである。その結論に至ったショウはその場でファングの誘いを受け、彼らの装備以外の荷物を持つことを了承した。しかし――――

 

 チラッと少しだけ首を動かしてショウは後方を見る。ヘルムのせいで狭まれた彼の視界に映るのは彼の後ろを歩くリーシャと、彼女の後ろ、列の最後尾で歩くミゼルという男だった。深海を思わせる深い青色の髪、ファングより少し低い身長。細く引き締まっているその体にファングのものと同じ革鎧を身につけ、腰にはショウと同じ類の片手剣を佩いている。『魔獣を警戒する』。そう言って列の最後尾についたミゼルだったが、ショウには彼のその言葉が違って聞こえた。


(すごい睨んでるな…やっぱり)


 ファングに誘われたことで行動を共にしているショウたちであったが、どうやらミゼルはそれに納得が言っていないようであった。レイクビューを出発する前、ショウが年寄りゴブリンのガンに聞いた話によると、冒険者というのは心優しい者もいるが大半は他の仕事につけないような荒くれ者であり、人を騙す、陥れるなんていうのはよくあることであり、そうされないためには自身の強さを見せつけ、所謂ナメられないようにしなくてはならないということであった。そのガンの話を話半分に聞いていたショウであったが、ゴブジイを殺した冒険者たちに嘘の道を教えられたことを今更ながら思い出し、それになにより、魔獣というよりは自分たちに警戒の念をおいているミゼルを目の当たりにすると、ガンの言うことが嘘ではなかったと嫌でも実感することとなった。とはいっても、ヘルム、そしてフードで素顔を隠している今日会ったばかりの二人組をすぐに信用しろというのが無理な話なので、仕方がないとショウは心中でそう自分に言い聞かせる。


「……!ぜ、前方から一匹魔獣がやってきます!」


「目標のやつか?」


  慌てた様子で口を開いたローリに、静かな声でファングが尋ねる。

彼の問いに対して小さく首を振ったローリ。彼女に答えるように頷くと、ファングは振り向いて最後尾のミゼルに手で合図をした。


「脇に逸れるぞ。静かにな」


  ミゼルの指示に従って、ショウとリーシャは今いる道から横道にそれる。前方に目をやれば、彼らと同じようにファング、ローリ、リビィの三人も横へと移動していた。続くファングの支持によって一行は体勢を低くして、その身を茂みへと隠す。そうしてただじっと待つこと時間にして数分、彼らが元いた道を一匹の豚が二足歩行しているような見た目のものが歩いてきた。


「………豚食人ピグルスだ。動くなよ」


(なるほど・・索敵してたのか)


  小声でパーティーに語りかけるファングの声を耳で捉えながら、一人、納得した様子でショウはヘルム越しに頷いた。魔力を感じていたため、ショウは、ローリがなにかしらしているのだとは思っていた。そしてそれが索敵だったことにようやく気づいたのだ。「魔獣を狩りにいく」ということまでファングたちから聞いていたショウだったが、なんの魔獣を狩るのかまでは聞いていなかった。どうせ戦うことがないだろうという理由から、ファングが教えなかったというのが理由だし、ショウ自身も聞いたりはしなかった。しかし、こうして隠れてやり過ごそうとしている現状を鑑みれば、ファングが豚食人と呼んだ目の前の魔獣は今回の目標ではないということだろう。手には粗末な木の槍を持ちフガフガ鼻を鳴らしながら歩くその魔獣を、ショウは見たことが無かった。普段、今いる所よりももっと奥に住んでいるせいだろうと彼は結論づけた。住む環境、縄張りの違い故だろう。


「ショッ…ツダくん。後ろから何か来てる気がする。何か物音が」


  九割名前を言い間違えながら小声で話すリーシャ。彼女の言うままに後ろに視界を移すとフガフガー実際は聞こえないがー言いながらこちらに近づいてくる影を確かに視認した。


「あ・・ファング。後ろから――」


「後ろからっ!二匹魔獣来てます」


  ショウが口を開くと同時、跳ねるようにローリが叫ぶ。

ローリの叫びの内容を皆が理解する前に、目の前の三匹の豚食人がこちらに気づいて雄叫びを上げた。


「ごっ・・ごめんなさいぃぃー!」


「ミズ!後ろの奴らが来る前に前の奴ら蹴散らすぞ!ツダたちはリビィたちを頼む!!」


  言うやいなや、ファングは背中の両手剣を拔いて目の前の豚食人めがけて突進する。彼に続いて片手剣を抜いたミゼルも茂みを飛び出す。


「リ・・リビィさぁああん」


「ほらっ泣かないの!大丈夫よ!…さっ新人君、その腰のものが飾りじゃないってとこ見せてね」


「わかった」


  ショウの短い返事をリビィはどう捉えただろうか。

新人特有の自信過剰を見たか、はたまた恐怖を抱えながらも闘おうという意志を感じたか。どちらにせよリビィは僅かに微笑むと、杖を掲げブツブツと詠唱を始めた。


「リーシャ、援護頼む!」


「了解!」


 腰から片手剣を抜くと、鉄仮面の戦士は騒ぎに気づいてこちらにかけてくる豚食人に向かって疾走する。フードの相棒は肩にかけていた弓を構えて色よい返事をした。


「あ、コラッ!自分から突っ込まなくていいのよ!」


「ぴぎゃあぁぁ!!」


 走ってくるショウを迎え撃とうと、手に持つ槍を豚食人は突きだす。

しかしそれは遅く、鋭さに欠ける。技術がないのだろう。ニンデ村で戦った傭兵たちに比べればそんなものは脅威とは呼べなかった。懐に入る要領で一歩踏み込んで加速。槍を交わすと同時、片手剣で豚食人の腹を裂く。


「硬いな」


 でっぷりと膨れた腹の厚い脂肪がいくらかショウの斬撃の威力を弱める。

しかしそれとてオークの肉体ほど頑強ではない。しっかりと裂かれた豚食人の腹からは血が流れ、トドメにショウはその豚食人の首を刎ねる。


「ビギャアアァアア!!」


 仲間の首を刎ねるショウの背中をもう一匹の豚食人が槍で狙う。

雑だが鋭利に尖る木製の槍の穂先が彼の心臓を突こうと伸ばされるが、槍が届くよりも早く、豚食人の片眼に弓矢が刺さった。痛みによる悲鳴。怯む体。歯を食いしばり攻撃を続行しようと映したかたっぽだけの視界にはすでに敵であるショウの姿はない。


「《吸血印》」


 紅色の光をまとった刃が腕ごと豚食人の首を刎ねる。

ドサッと落ちる頭から矢を拔いて、その矢を射ったリーシャに手を上げて感謝の意を示す。


(あぶなかった・・蝙蝠移動つかうところだった・・・)


 ショウの持つスキルのうちの一つ。『蝙蝠移動』。自身の肉体をコウモリの群れの影へと変化させ移動する能力。その状態ではショウは移動することしかできないが、代わりに物理的な攻撃を受け付けないという特性を持つ。敵の攻撃が当たる瞬間に発動して攻撃を避ける。日々の特訓の中で見出したその回避術であったが、それに頼りすぎるあまり、先のニンデ村での戦いにおいて敵の傭兵に見切られ死の淵にまで追いやられた経験があるショウとしては思わず苦笑を浮かべてしまう。それになにより、今彼は普通の新人冒険者である。普通の冒険者が自身の体をコウモリに変化させて移動するだろうか。そんなワケがないということくらい、ショウは理解していた。レイクビューを出発する前、ガンが注意していたことのうちの一つでもある。人間ではないということを悟られてはいけないということと、魔法を使ってはならないということ。特にこの二つにおいて、ガンは口を酸っぱくしてショウに注意していた。


 人間ではないとバレてはいけないというのは当然のこと。魔法を使ってはいけないというのは、ガン曰く、基本的に戦士は魔法を使えないから。肉体を鍛え、技を磨くということはやる気さえあれば誰でもできることである。当然、そこに才能という概念は存在し、同じだけ努力を重ねても実力に雲泥の差がつくなんていうことは多々あることである。しかしながら、そんな戦士の世界よりもさらに才能という言葉が重くのしかかるのが魔導という世界である。天性の才なくしては魔素を感じられず、いくら努力しようが魔法を操ることは叶わない。何故ならスタートラインにすら立てていないからだ。よしんば立てたとしても、その先に続くのは更なる努力と才能の世界。戦いで役に立つほどの魔導師になるまでにはそれ相応の努力が必要である。そんな厳しい環境で、魔法を使える戦士がそう簡単にいるかと問われれば子供でも首を横に振るのは明白である。当然ゼロではない。歴史を振り返れば幾人もの、いわゆる魔法剣士たちは存在していた。しかしそれは彼らが特別だったという他ない。もし魔導の才に恵まれた人物がいたとして、英雄と呼ばれる魔法剣士の話を聞いて彼らを目指したとしても、出来上がるのは戦士としても魔導師としても中途半端な魔法剣士もどきだろう。そうなるくらいならば、戦士は戦士として、魔導師は魔導師として努力を続けた方がいい。大抵の人々はそう考える。


 そんな中、ショウは魔法を実践レベルで扱え、なおかつ歴戦の傭兵と互角に戦えるほど剣の腕がある。彼が本気を出してしまえば瞬く間にその名を轟かせてしまうこととなるだろう。しかしそれはショウの本意ではない。ニンデ村の一件の際、堂々と顔と名前を晒してしまったが故に少なくともエリート・レント近辺ではヘルム等で顔を隠さなければならなくなっている。それでも冒険者になったのは貯金が底をついたからだ。有名になれば高額な報奨金を出す依頼を受けられるようになるかもしれないが、そのせいで正体がバレてしまっては意味がない。あくまでショウは魔法の使えないただの冒険者のツダ。そこだけは守らなくてはいけない、とガンは何度も注意していたし、ショウもそれは理解していた。


 その為、ショウは魔法を使わずスキルを使った。『吸血印』。ショウが吸血鬼ヴァンパイアからピュア吸血鬼ヴァンパイアへと種族進化した際に得た新たな能力のうちの一つである。効果は単純明快、あらゆるものに『吸血ドレイン』の効果を付与し、さらに威力を増加させるというもの。『吸血ドレイン』ほど相手の生命を吸収する効果は高くはないが、剣に付与すれば斬撃の、拳に付与すれば殴打の威力が上がるという効果はなかなかに高い。使い始めて間もないため、まだまだ持続時間などなれない部分はあるが、豚食人を仕留めたように、一撃の威力を高めるといった運用方法は正解といえるだろう。


「っはぁ!勝った!・・リビィ!ローリ!そっちは大丈夫か?奴らもう来てるか?」


「……こっちは……なんていうか―――」


 豚食人を仕留めたファングの言葉に、リビィが答える。

戦いの興奮と緊張から大きく早く発せられた彼のものに対し、彼女の言葉は静かでどこか間抜けに響く。


「―――もう終わっちゃったわよ」


 呆然とした様子で指し示されたリビィの指の先を、ファングとミゼルは訝しみながら見つめる。急所だけを覆う鉄製の鎧。その上に羽織られた奇妙な紋様のサーコート。素顔の見えぬ鉄仮面。そして横たわる肥えた豚食人二匹と、その辺に転がる彼らの頭。奇妙な格好の新人が立つ戦闘の跡を見て、二人はしばし言葉を失った。





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