第74話 終戦
長い間お待ちいただきましてありがとうございます。
前述の通り間が空きましたので、お時間のある方は前話から読んでいただけると幸いです。
「「「オオオオオオオオオッオオッオオオッッ!!!!」」」
化け物じみた声が戦場を揺らす。
大笛の音と共にガヴァの大森林より現れたオークの群れが、まるで雪崩のように傭兵たちに襲いかかる。
傭兵対ゴブリン。有利なのは間違いなく傭兵側であった。それは数の多さ、技術の高さ、経験値の量といった要素が確実に傭兵たちが上回っていたからである。これらが下回るレイクビューのゴブリンたちがここまで粘れたのは、ひとえに傭兵たちを上回る強者であるショウ、リード、ガードの存在。そして「ゴブリンは弱い」という固定観念を利用したショウの作戦のおかげだった。しかしながら、それらをもってしても力の差を覆すのは不可能に近い。それほどまでに数の差は厄介である。数の差が大きくても、たとえば強者ならばその不利をはねのけられるかもしれないが、ここ半年鍛えただけのゴブリン達にそれを求めるのは酷というものだろう。…ではオークならどうか。答えは明白―――――オークの圧勝である。
「オオオァアアアッッ!!」
叫び声があがる度、人が飛ぶ。
鎧を着た男を、鍛え上げられた肉体をもつ傭兵を、戦縋でかちあげ、叩き、吹き飛ばす。
傭兵たちの優勢は瞬く間に崩れ、緑の波が彼らを押し返していく。
「くそっ!なんだってんだよ急に!」
「我らが親族のためにー!!」
「「「親族のために!!」」」
困惑しながらも、傭兵たちは応戦する。降りかかる鉄槌を防ごうと剣を振るう。
しかし鈍器に対し刃物で対抗するのは無謀というもの。オークの膂力に裏打ちされた猛攻は、真っ正面から剣にぶつかりそれらを折り、叩き割り、所有者をのしていく。
戦況は瞬く間に変わる。たった数十人のオークたちが傭兵を圧倒していた。
(これは・・・)
「お待たせしましたショウ殿。さ、水を」
膝をつき、疲労困憊のショウに野太い声と共に、革袋が差し出される。
中身が水だと悟ったショウはすぐさま受け取りゴクゴクと音をたてて一気に飲み干す。渇ききった喉が潤いを取り戻し、熱くなり続ける身体が少し冷めるのを感じる。
「っはぁ…来て…くれたのか」
「もちろんっと…我らラの戦士、35名で親族の救援にやって参りました」
水を飲み、いくらか力と声を取り戻したショウがよろよろと立ち上がる。
途中よろけたところを、水を差し出した男が支える。男の正体はラの一族のオーク。それを知っているからこそショウは安心して彼に体を預けた。
ショウがたてた作戦の最後の一手。交友関係のあるオークたちへの援軍の依頼である。『洞窟の主』の一件以来、主に食糧と武器の精製に使う鉱物の交換で関係を保っていたレイクビューとラのオークたち。両住居の距離からして戦争に間に合うか疑問であったが、この終盤において、間に合ったらしい。
「……裏門には…?裏門には……誰か行ってるのか?」
「ご安心を。我らが誇る最強の戦士が行っております」
裏門を守るガードの顔がちらつき、問いただすショウ。
そんなショウに笑顔でオークは答えた。彼の笑みと、言葉で、ショウの脳裏には赤髪の巨漢が思い浮かんでいた。
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「……はぁっ!グアアアッッ!!」
疲労が息となり、熱が湯気のように体から立ち上る。
視界が霞み、その瞳に映るものはぼやぼやと輪郭だけを残してハッキリしない。
体につけられた傷の痛み、酷使した手足の疲労、水を求める喉の渇き、散々感じてきた苦痛がいつのまにか消えてなくなっていて、もう自分が立っているのかどうかさえ分からなくなっていた。
力を抜くのは簡単なはずなのに、休息こそが求めていることのはずなのに、なぜだかそうする気が起きない。不明瞭な姿の敵をほぼ自動的に武器で叩き、弾き飛ばす。何をするにも今は苦痛なのに、声を出さずには、叫ばずにはいられない。
自分はここにいる、と。この場からどく気はない、と。言葉にならない声が咆哮となって溢れ続けていた。
「焦るな!もう少しだ!」
ニンデ村の裏門方面。さらりと長髪を風になびかせて、男は声を張り上げる。
彼の名はマフュ―。今回の戦争において、『蟻土竜』と共に裏門を攻める役割を担う傭兵団『火の金槌』の団長である。自身が戦うよりも戦闘の指揮をとる彼の言葉は、団長らしく鋭く、ハッキリと団員達に響いた。が、そんな彼の心情は決して穏やかなものではなかった。原因は、門前に立ちはだかるガードの存在であった。
向かっていく傭兵が次々に倒されていく。まるで壁に弾かれているかのように、わずかな時間で彼らが倒れていく様は敵ながら一種の爽快感を味あわせる程だった。
ロージェスがやられたのが不味かった。『蟻土竜』の団長であった彼は、同時に優れた戦士であった。それゆえに自身が止めるべき敵と戦い、そして負けてしまった。『蟻土竜』の団員達は激昂し、陣形を無視。指示を出す人間が消失したお陰で収拾がつかず、怒りに狂う彼らの耳にはマフュ―の言葉は届かない。本来の作戦ならば、団員の大多数が魔導師である『火の金槌』が魔法でゴブリンたちをまとめて叩き、その魔導師たちを『蟻土竜』の傭兵たちが盾となって守ってくれるはずだったし、ロージェスが死ぬまで実際にそううまくやっていた。しかし今、陣形を無視した『蟻土竜』たちの突進と、彼らを容易く倒す怪物のせいで、脇にいるゴブリンたちが後方の『火の金槌』まで迫ってきていた。今のところは魔導師以外の団員が盾役を行ったり、怒りを覚えながらも自分の役割を果たしてくれる『蟻土竜』の団員達のおかげでもっているが、このままでは戦況が変わる恐れがあった。
(何とかしなければならないのはわかっている…しかし…!)
問題はとうに判明しているが、解決に向かうのをマフュ―は躊躇う。最大の敵はガードなのだ。やつさえいなければゴブリンどもを蹴散らし、村内を通って表門の本隊と合流し敵を挟撃できるだろう。そんなことはわかっている。並みの傭兵ではあの怪物には対抗出来ないだろうということも、可能性があるのは自分だということも、マフュ―にはわかっているのだ。行動を起こさないのは、指揮をとらなければゴブリン達に突破されてしまう危険があるということと――――ガードに勝つ自信がないからである。
体から湯気をだし、ふらふらと立つあの姿。どう見たって瀕死である。だというのに一向に倒れる気配はなく、向かっていく傭兵たちを倒していく。そんな彼に勝つ自信がどうにも得られなかった。
(………なにか、なにかが必要だ。戦況を変える決定――――――)
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッ
「何だッ!?」
思考を妨害する特大の音色。
続く喚声を耳にしながらマフュ―は音の発生源へと視線を動かす。映ったのは土煙を上げて自分達に迫る巨漢たち。しかしその姿はこの戦場では嫌というほど見続けたものだった。
「(オークの援軍………!!)・・・くそっ!撤退だ!!退くぞ!!」
勝てない。勝てるわけがない。オーク一匹に今これだけ苦戦を強いられているというのに、少なくとも二十はいるだろう援軍を相手に出来るわけがない。即座にそう判断したマフュ―は声を張り上げ腕を振る。突然の撤退命令に困惑を浮かべる傭兵たちだったが、オークの援軍を見て徐々に状況を把握していく。
「走れ!早くしろっ!」
「ふざけるなっ!ロージェス団長の敵を取れずおめおめ逃げれるかっ!」
「団長!」
「『蟻土竜』の連中は放っておけ!お前たちは早く逃げろ!ゴブリンは私が引き受ける!」
マフュ―の言葉に『蟻土竜』は怒り、『火の金槌』は頷き命令に従う。魔導師たちが退いた影響で戦線が崩壊。彼らを追おうと迫ってくるゴブリンたちをマフュ―は腰に下げる片手長剣で迎え撃つ。
「カイ ヲキト クゥー ケイク―――」
片手短剣を弾き、脳天を割る。振り上げてから振り下ろすそのわずかな隙をついて、腕を撥ね飛ばす。あくまで冷静に、しかし着実に急ぎながらマフュ―はゴブリンたちを斬っていく。言葉を紡ぎながら振るわれる彼の片手長剣は華麗な捌きによってゴブリンたちの足を止める。
「―――ファイコ ライク ガイン デモ―リッシュ《火炎線》」
ボオオオオッッッッ
マフュ―のかざした手から炎が吹き出る。マフュ―はその手を素早く横にスライド、炎が一直線になり、地面に燃え移る。まるで壁のように。炎によって作られた線がゴブリンたちの進行を阻んでいる。
(これで時間稼ぎにはなるだろう。今のうちに――!!)
「「「オオオオオオオオオッオオッオオオッッ!!!!」」」
喚声が戦場に到着する。
予想より早い到着に心中舌打ちし、マフュ―はやってきたオークの援軍を視界に納め――――――絶句した。
「どうした!ガード!!へばっちまったかぁ!?」
彼の視界に映ったのは、巨漢のオークのなかでもさらに大きい、赤髪のオーク。そして――――
「頼むよオークさんたち!皆を助けて!」
――――そのオークの肩に座る黒肌のエルフの姿だった。
「…なっ……なぜ…彼女がこんなところに…………一体、なにがっ!!」
「オオオオッッアアアッッ!」
思考を整理するよりも早く、炎の壁を突き抜け、ゴブリンがマフュ―に襲いかかる。反射的に迎え撃とうと、即座に突進をかわし、ゴブリンの首を跳ねる。
(……いや!今はそんなことよりも、生き延びることが重要だ!)
思考を切り替え、マフュ―は踵を返す。突如生まれた謎を解くには時間と余裕が足りなかった。
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「頼みが…ある…」
「何でしょう?」
ショウの言葉にオークが答える。
『野蛮なイメージがあるけど、ガード以外にもこんな話し方の人いるんだな』なんて不意に思いつつ、ショウは未だ本調子でない声を続けて絞り出す。
「俺を…皆のところまで連れてって、くれ。途中…までで……いい」
「そんな…もう休まれるべきでは?」
「必要な…ことなんだ……た、のむ」
ショウの言葉に反対の意を示すオーク。しかし彼の表情と掠れる声音がオークの首を横に振ることを許さなかった。
「………そう、だ……リードは?…見なかったか?」
オークから肩(正確には身長の差から腰)をかり、半ばひきずられるようにショウは歩く。そこで不意に思い出すのは自身の右腕たる存在。傭兵の親玉であるガンドンに勝てたのも彼が道を開いてくれたからこそであり、ガンドンと闘った場所の近くで、彼もまた強敵と闘っていたはずだった。
「その人なら別のオークが回収してます。他のけが人も同様です。頭領から『救援に行くのであって、闘いにいくのではない。親族の安全を第一に考えよ』と申し付けられましたので間違いないでしょう」
「……!そうか……助かる…」
言葉と心に感謝の念を抱きながら、ショウは歩き続ける。やがて遠くから見ていた戦場が近くなり、喧騒という言葉では足りない荒れ具合が彼の瞳に映ってくる。
「もういい……この辺で……」
「はい…」
ショウが言うままにオークは彼の肩から手を外す。支えを失い、倒れこみそうになるのをグッとこらえ、その両足でしっかり地面を踏みしめる。幸いなのはその様子を、ゴブリンを含め誰も見てはいないということ。皆それぞれの敵の相手で忙しく、ショウに気づいていなかった。
静かに、息を吸う。体内に残るわずかな力をかき集めるように。一向に慣れない高熱や、良くなるどころか蓄積され続ける疲労に負けまいと、ショウは力を込めて両の目を開く。
「聞けええええェェェェッッッッ!!!」
爆弾が爆発した。当然実際にはしていないが、そう感じるほどの音と、衝撃が戦場を駆け巡る。
突然すぎる爆音と、無意識に拾った言葉の意味から、傭兵が、オークが、ゴブリンが一斉にショウへと顔を向ける。
「見ろ!傭兵たちよ!!お前たちの大将は俺が討ち取った!もし敗けを認め、このまま去るなら俺たちは追わない!お前たちの大将に勝った俺の実力を疑うものがいるなら、今!ここで名乗りでよ!俺がいくらでも相手になる!……さぁ!選べ!!逃げるか、まだ、戦うか!!」
喧騒が消え、不気味な静寂が場を支配する。鳩が豆鉄砲を喰らったかのような、衝撃的な言葉をぶつけられ傭兵たちは即座に反応することが出来ず、彼らに出来ることは敵の親玉が掲げる武勇と実績で知られる『獅子の爪』の団長の生首を黙って見つめることだけだった。
わずか数秒。しかし体感はその数十倍。嫌というほど引き伸ばされた数秒間の沈黙。打ち破ったのは――――――
「おっ…おぉ!オオオオオオオオオッオオッオオオッッ!!」
――――――喜色の雄叫びを上げたゴブリンだった。
「オオオオオッッ!!さすが!さすがは我らが大長!!」
「やった!!勝ったんだ!!我らの勝ちだ!!」
「さすがだな……それでこそ我らが親族」
空気がうってかわる。ゴブリンの割れんばかりの喚声が場を埋めつくし、オークの野太い称賛の声が時折耳を鳴らす。
「……てっ…撤退だ!」
「あ?」
「逃げるんだよっ!ガンドンさんが勝てなかった相手に、俺らが勝てるかよ!!」
始めたのは『獅子の爪』の団員の一人。あまりに突然の出来事に呆けた返事をした別の団員に、その男は悲鳴混じりに声を荒らげる。
「あ、ああ!ああ!そうだっ…勝てるわけがない!!」
「に、逃げる……そうだ!逃げるんだ!!」
「まっ……待て!いいのか勝手にそんなことをして!団長が―――」
「その団長がやられたんだろうが!!他の団のやつらもさっさと逃げろ!お前らの団長もやられたに違いない!」
「ばっ!バカな!俺らのボスはそんなやわじゃない!」
「んなこと知るか!俺は逃げるぞ!」
血脂を払う手間すら惜しみ、強引に鞘へと剣をしまう。叫んだ男は何の躊躇いもなく、一直線に街の方へと走り出した。
そこからは皆早かった。
「待て!!俺も!」
「くそっ!やってられるか!」
「すいません……ガンドンさん!!」
敵に背を向け一目散に。あるものは怒り、あるものは嘆きながら、次々に傭兵たちがその場を離れていく。そこには傭兵としての矜持などなく、あるのはただ生きたいという意思。彼らの正面に仁王立ちするショウをよけ、全力で駆けていく背中は戦士というにはあまりに嘆かわしいもので、その姿を見てゴブリンたちは喚声をより高めていく。
「「「「大長!!大長!!大長!!」」」」
傭兵たちが逃げ惑う混乱のなか巻き起こる大長コール。その歓声に応える為なのか、レイクビューの大長はゆっくりと彼らがいる村の方へと歩み出す。
「「「「大長!!大長!!大長!!」」」」
(あぁ…これでやっと……)
「「「「大長!!大長!!大長!!」」」」
(休め…る)
瞬間、ショウの視界は暗転した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『俺の名をもう一度教えてやるッッ!リード・ホブソード!!この名が示すのは我が誓い!命ある限り、俺は主の敵を屠る剣であり続けるッ!!』
『大したもんだよ・・リード・ホブソード』
「はっ!!っぐっ……!!」
ガラガラとなるやかましい音。その音に合わせて、ガタガタと揺れる不愉快な地面の上で男は飛び起きる。その拍子に痛む腹を不審に思い見てみれば、自身が上半身裸で、包帯が巻かれているのがわかった。
「……起きたか、ライゾール」
「リス…ラン…?……ここは?ッツ!」
「…落ち着け。帰りの馬車の荷台だ。生きてるぞ……重症だけどな」
飛び起きた男―――ライゾールに、小柄な体躯のリスランが宥めるように話す。彼の言うとおり地面ではなく荷台の上にいるようであった。
「なにが…どうなった?記憶があいまいだ……ゴブリンは?戦いは?」
最後の記憶は、そう、リード・ホブソードの姿である。敵の親玉であるショウを守るように闘いを仕掛けられ、闘い、しまいには炎に包まれた。そこで記憶は途切れている。
「……負け、たのか?まさか……」
「……………」
沈黙は肯定の証だった。先程からリスランはライゾールに視線を合わせようとしない。ドクンと心臓が跳ねた気がした。
「…っなぁ…リスラン…俺の仲間は……『風来の剣』のやつらは……どこにいる?」
「……………」
ドクンと心臓が跳ねた。今回は間違いなくそう言える。額から汗がにじみ出し、背中がすうっと冷え始める。
「あ、あいつら…俺がいないとダメなんだ……きっと心配してる……どこら辺にいるんだ……?」
「……………」
心臓がバクバクと鼓動を大きくし、額からはさらに汗がにじみ出る。仲間を探そうと辺りを見回すライゾール。しかし見当たるのは下を向いてとぼとぼと歩く傭兵たち。得られるものは仲間の姿ではなく、腹につけられた傷の痛みだけ。
「あいつら…きっと初めての敗戦で落ちこんでんだ……俺が励ましてやらねぇと……なぁ!リスラン…」
「…………ッツ!」
心臓が鼓動を抑えることはなく、太鼓の音のように身体中に響く。最悪の予想が脳裏によぎるが、必死にそれを無視して、意識は奥歯を噛み締めているリスランの表情へと集中させる。
「……リスラン!答えろよ!俺の仲間はどこ――――」
「死んだよ……ライゾール。あんたんとこもおいらのとこも……皆…死んだ」
「……………ッッ!!」
言葉は出なかった。それはきっと既にその結果を予想していたから。数瞬、固まって、ライゾールは奥歯を強く噛み締め、首をたれる。手はいつの間にか拳を作り、強く、強く握っていた。
「おいらが目を覚ましたとき、戦況は変わってた。相手の援軍が来たんだ。おいらも参戦したが敵の勢いは止まらず……そして、皆は逃げることを選択した」
リスランの小さく、それでいて高い声がライゾールの耳に入る。しかし内容は入ってこない。
「その時誰が生き残ってたかは分からない。でも、前線にいたはずのランってやつと……『風来の剣』のやつの姿は無かった………こいつを除いてな」
胸元からなにかを取り出し、静かにリスランはそれをライゾールへと渡す。力が抜けた手でそれを受けとる彼の頭は、依然、下を向いていた。
「それ…あんたの仲間のものだろ?最後の最後、皆が逃げ出すなかで『風来の剣をなめるなっ!』ってゴブリンに挑んだやつがいたんだ。名前はたしか――――」
「フリッツだ……フリッツ・ナーズ。これはあいつが身に付けてたペンダントだろ?」
「……ああ。それしか持ってこれなかった」
ライゾールの表情をリスランが伺うことは出来ない。しかし彼の声の震えが、ひどくリスランの心を痛める。
「……っふ、このペンダントな…中身は折れた剣の切っ先なんだ。あいつ、どうしても俺の技をモノにしたくて……まぁ才能はなかったんだが諦め悪くてな……少し前にようやく形が出来てきたときに、その技のせいで欠けたやつなんだ……。『ボスに近づいた証です!』とか言って……ペンダントまで……買いやがって………くそっ……!!」
両手でペンダントを強く握り、ライゾールは肩を震わせる。顔をあげないのは大人の男の矜持ゆえか、その気力すらないのか。エリート・レントへと向かう馬車の上で、一人の傭兵はひっそりと仲間の死を悼んだ。
昼に始まり、夕刻に終わったニンデ村戦争。
輝いていた太陽はその身を雲の中に隠し、天は戦士たちの悲しみを映すように雨を降らせる。
ガラガラと鳴る車輪の音だけがその場に虚しく響いていた。
ニンデ村戦争結果。
傭兵 317 vs レイクビュー 152(+35)
-獅子の爪:154 -ゴブリン戦士隊(1~5):148
-蟻土竜:48 -ショウ
-緑葉の雫:42 -リード
-風来の剣:35 -ガード
-火の金槌:38 -リーシャ
-(オーク:35)
戦死者
傭兵:187名
レイクビュー:76名
負傷者
傭兵:84名
レイクビュー:12名




