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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第三章
77/110

第73話 村戦争ⅩⅠ

約二ヶ月ぶりの投稿です。遅くなり申し訳ありませんでした。

今後も遅くなる可能性は高いですが、投稿をやめる気はありませんので、暖かい目で見守っていたただけたら幸いです。


「どこだコラァ!!出てこい!」


 ニンデ村より見て、西側のガヴァの大森林。日の光薄い森の中で、男は叫ぶ。

男の名はラール。傭兵団『緑葉の雫』の一員であり、団長であるリスランに命じられてダークエルフ率いるゴブリンたちを追ってきた傭兵である。

軽装で、隠密や弓が得意な傭兵たちが集まる『緑葉の雫』のなかでも、ラールの実力は高く、その力量はリスランが団員の半分を預けるという折り紙つきであった。

が、現状は彼にとって最悪であった。なぜなのかは周囲を見れば一目瞭然。森の中に立っているのは彼一人だけだという事実である。

自分も含め二十という数で敵を追ってきたラールであったが、慣れない地形、暗い森、乱立する木々といった負の要素が重なり、また何より敵の能力の高さにやられ気づかぬうちに半数を、警戒したころにその半数、反撃したら自分を除く残った傭兵全てが矢に射られやられてしまった。

敵の力量を見誤った。自身の実力を過信していた。半数をやられた時点で森を抜けだすべきだった。後悔と反省の念がラールの頭をぐるぐる回る。

しかし時既に遅し。射られた仲間たちは立ち上がることはない。地形が突然有利なものに変化するわけがない。背を向けて逃げ出せば背後から撃たれるのは明白。

生き残るにはここで勝つしかない。自分に圧倒的不利なこの状況を打開して、謎の敵を殺すしかないのだ。半ばやけになりながら—しかし神経を研ぎ澄ませ—ラールは叫び続けた。


「姿を見せろ!ゴブリンか!エルフか!正々堂々勝負しろ!!」


「残念・・私は『ダーク』エルフです」


 ぐるぐると弓を構えつつ周囲を見回すラール。

彼の言葉に、上った木の枝の上でぼそりとリーシャは返答する。

傭兵たちを射殺したのは当然彼女。レイクビュ—一の射手、リーシャである。

自身の部下である—通常は隊長のインエの部下—ゴブリンたちを村の援護に向かわせ、彼らに言った通り一人ずつ素早く矢の餌食にしてきた彼女であったが、ここに来てその手が止まっていた。矢が切れたのだ。


「もっと用意するんだった・・しくじったなぁ・・」


 矢の製作は主にリーシャ、インエ達によるもので、製法は彼女が教えたものだった。

出来上がった矢を、リーシャは「自分は外さないから」と出来る師匠面してゴブリンたちに余分にあげてしまっていた。

それがまさかここにきて痛手になるとは、だれも予想のできなかったことだろう。矢を譲った時のゴブリンたちのあの羨望の眼差しを見た後では、「失敗した」と大きな声で言うのも忍びなかった。


 矢の不足。これ自体はどうしようもない。そう考えてリーシャは思考を切り替える。

弓を使って倒せないなら、使わなければいいだけだ、と半ば無理やり自分を納得させ、腰につけた短剣に手をやる。

昔から弓は得意であった。その対価なのか短剣を使った戦闘はリーシャは得意ではなかった。しかし、まあ—————


「そんなことも言ってられないよね・・・ふぅ——≪エルフセンス≫」


 短い息を吐き、覚悟を決める。リーシャは静かにスキルを発動した。

エルフ族固有のスキルによって、五感が研ぎ澄まされ、視界は明るみをまし、耳は葉のこすれる音さえ拾う。

この暗い森の中で、傭兵たちを倒すために使ったこのスキルを、リーシャは再び使う。今日一日で使いすぎだという感覚はあるが、出し惜しみできるほど余裕な戦いでもない。


 ガサッ


「そこかっ!!」


 言い終わるよりも早く、ラールの放った矢が音の発生源を貫く———空の矢筒だった。


「くそっ!!」


 囮に引っかかったことに悔しがりながら、すぐさま次の矢をつがえ、構える。

目標は決まっている。矢筒で注意を引いた間に、ダークエルフが飛び出し、こっちに向かってきているのだ。

ヒュン——迷うことなくラールは矢を放つ。二発目をすぐさま方向を定め射ることのできたのはさすがの実力と言っていいだろう。


 だがその矢を、リーシャは首を振って躱した。


「なっ!!」


 まさかの事態に目を丸くするラール。≪エルフセンス≫の存在など知らない彼にとってリーシャは超人に見えたに違いない。

驚きも一瞬。若干慌てつつも、第三の矢を番え、射撃体勢に入る。が、その頃にはリーシャは近距離にまで迫っていた。

視線がリーシャの表情に。次いで彼女の手元で光る短剣へと向く。


 キィイイン

次の瞬間に鳴る金属音。リーシャの刃は寸でのところで別の刃に止められていた。


「舐めるなよぉ!!おらぁ!!」


「くっ・・!」


 怒号と共に繰り出されるラールの短剣。

強化された視覚によってリーシャは見切り、体勢を傾けて躱し、反撃の一撃を振るう。

再び響く金属音。互いに振るう刃がぶつかり、火花が散る。続けて出来の悪い楽器の音色が森の中に響く。

刃を躱し、時に受け止め、反撃し、蹴りも混ぜる。互いに息を荒げながら攻防は続く。しかし勢いはラールへと傾いていく。

射手の腕は間違いなくリーシャが上だった、しかし短剣を用いた格闘戦においては一歩ラールが上をゆく。


「らぁ!!」


 突き出される短剣。それを視認していたリーシャは首を振って躱す。

頬を鋭い風が撫で、凶器が遠ざかる。敵の伸びた腕が間近に映る。


「ここっ・・・うあっ・!!」


「へっ・・!!」


 反撃に出ようとしたリーシャに突如鈍痛が走る。ラールの肘に顔を打たれたのだ。

まともに喰らってしまったリーシャの脳は揺れ、衝撃は足に達して少しふらつく。

それを見逃すほどラールは実力不足ではない。その隙を狙ってラールは再び短剣による突きをリーシャの顔面目がけて繰り出す。


「くぅう・・!!」


 ドスッ

揺れる頭を懸命に働かせ、リーシャは躱そうと体を動かす。

その甲斐あって目標はずれ、ラールの短剣は彼女の肩に直撃した。死は避けられたが、それでも重傷である。彼女の褐色の肌を赤色の血がたらたらと伝っていく。


「はっ・・!勝ったぞ!見たかおらっ!エルフと言えども大したことねぇな!」


「・・・・アラ」


「あ?」


「メリク イルト レーク 」


「・・?何を言って・・・!まさか!!」


 勝ち誇り、浮かんでいた笑みがラールの顔から消える。

悪寒が背筋を這い回り、危険だと肌が逆立つ。

すぐにとどめを刺そうと短剣を引き抜こうとするが、抜けない。見れば細い褐色の手が、自分の手ごと肩に刺さっている短剣を抑え込んでいる。


「く・・そ・・はなせええ!!」


「 アロド ミスリード・・ありがとう油断してくれて————≪昏睡コマ≫」


 詠唱を終え、微笑むリーシャ。

そんな彼女の手には黒色の球体が出来上がっていた。

そして彼女は、それを思い切りラール目がけて叩きつけた!


「ぬおおおぉあぁぁっぁああああああ!!」


 黒の球体がラールの顔を包む。

手を掴まれていたせいで避けることが出来ず、リーシャの魔法をダイレクトに喰らう。

目から耳から鼻から口から、ありとあらゆるところからその黒は侵入し、そして意識を喰らっていく。

恐怖だった。ゆえにラールは叫んだ。が、その叫びは唐突に終わり、ラールはまるで糸の切れた人形のようにその場に倒れた。

昏睡コマ≫は幻惑の初級魔法。そのまま当ててもそう簡単に相手の意識を奪うことは出来ないが、今回はラールの疲労度と、叩きつけると言う物理的な衝撃のおかげでうまくいった。


「はぁ…勝った……」


深いため息とともにへたりとその場に座り込むリーシャ。

《エルフセンス》の反動で頭がズキズキ痛み、四肢が疲労でぐったりしている。

できることなら今すぐ横になって寝たい気分だが、それができないということは重々承知している。


「戻らなきゃ…」


数秒の休憩をとり、リーシャは立ち上がろうと足に力を込める。

今は戦争中。人手はなによりも必要だし、なにより自分は重要な戦力の一つである。疲労がたまっているとはいえ遊ばせておく余裕はない。


『生まれてこなければよかったのに』


「……そんな言葉、もう聞きたくないんだから」


ショウたちの役に立ちたい。素性が不明な自分を迎えてくれた人たちに恩返ししたい。その気持ちがリーシャを動かす。


「おい嬢ちゃん」


ズキッと痛む頭を押さえながら立ち上がったリーシャ。

同時に背後から野太い声が響く。瞬間、彼女の体は疲労を忘れ、流れるように短剣を構え振り向く。


「おいおい!落ち着けよ嬢ちゃん!俺たちはただ―――」


「君たちは………!」


「―――ニンデ村への行き方を教えてほしいだけだ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「っはぁはぁはぁ……勝った」


敵の首を斬った体勢のショウ。口から息が漏れ、耐えきれず膝をつく。

瀕死の状態からのもう反撃。それすらもねじ伏せられ負けを意識した瞬間の逆転。

一体何が起こったのか。身体が尋常じゃないくらいに熱い。いや答えはすでにわかっていたし、この燃えるような熱もすでに体験したことがあった。

それはショウがゴブジイを失った時に。答えはあのとき同様謎の声が教えてくれている。

そうこれは間違いなく『種族進化』である。リードを人子鬼(ホブロン)にし、ガードをオーク・ガンドにしたあの。

意味するところは驚異的な成長。力が増したお陰でガンドンに逆転できたのだ。頭が熱でボーッとしていてうまく思考がまとまらないが、ガンドンの手を奪った力も、剣ごと彼の首を斬った力も全て種族進化の賜物だろう。



だが今は、そんなことよりも――――



「この戦いを………はぁ終わらせないと……!!」


自らが立てた作戦通りに事は進んだ。

敵の大将を討ち取ったのだ。あとは敵中にそれを知らしめさえすれば頭なくして身体が動かないように、彼らは瓦解するはずである。そうすればこの戦いはレイクビュー側の勝利となる。

戦士ゴブリンたちが血を流し、ガンたちが治療し、ガードが門を守り、リードが活路を開いてくれたお陰でなし得たのだ。一刻もはやく彼らを、仲間を救わなければならない……ならない…が―――――


「身体が…動かない……こえ、も……はぁ」


疲労という枠を越えたショウの身体が動くことを拒否する。

体は依然火中にいるかのように熱く、意識は気を抜けばすぐに飛ぶのがわかる。

まるで『誓約の儀』を行った時のような疲労感。いやそれ以上だということが身に染みていた。


「っ…はぁあ…!!」


ごねる体に鞭を打ち、ショウむりやり体を動かす。

震える足でボロボロの体を支え立ち上がり、よろよろと千鳥足で数歩歩く。

フラりと倒れそうになる体を歯を食いしばって支える。今倒れればもう二度と立ち上がれないと悟っていた。そして目当ての物を拾い上げる。

それは敵将ガンドンの首。その表情はショウに怒号を飛ばした時の怒りの表情で固まっている。


ひきずるように体を動かし、視線を戦場へと動かす。

常人では確認できないほど離れているが、吸血鬼の優れた視力は細部までその光景を捉える。

ゴブリンも傭兵も、互いに血を流し、叫び、倒れ、また血を流す。流し続けている。


(やめろ…もういいんだ!終わっていいんだ!)


心の声は音にはならない。声を出そうにもヒューヒューと空気が漏れるだけだった。


(くそっ!あと少しなんだ!あと少し!)


高々に首を掲げ、大声で「討ち取った」と言うだけ。それだけで傭兵たちは自分たちの長が敗れたことと、それを為しえた者の強さに怯え戦意を失う。だが、そんな簡単なことさえ、この満身創痍の体では不可能に近くなる。


「―――――――!!」


「―――!!」


戦場から離れたこの場所には、戦いの音は届かない。しかしショウの目には仲間であるゴブリンたちが痛みから叫び、血を流し、倒れていく様がしっかりと映っている。彼らは叫び、敵に向かい、倒される。傭兵もゴブリンに倒されるが、しかしその比率が傾いてきている。ゴブリンが負け始めているのだ。

それでもゴブリンたちは武器を捨てない。むしろより強く握る。戦意は高まる一方である。

それは長のため。ショウを信じているからこそ、戦いが苦しくなろうと闘志を燃やし続けるのだ。


「っはぁっはぁ…はぁ…」


だが現実は非情である。闘いを止める方法を知っているのに、ショウの身体はそれを許さない。力なく漏れる息の音を聞きながら、ショウに苛立ちと焦りがつのる。


ショウの視界に、ゴブリンが倒れるのが映る。


「…っはぁ、」


しかし声はでない。


(やめてくれ!頼む!)


また1人ゴブリンが斬られる。


「………っぁあ」


口からは情けない音が漏れる。


(くそっ!しっかりしろ!頼む!頼むよ!もう少しなんだ!あと少しで!)


ゴブリンが吹き飛ばされる。彼の体から赤い生命が吹き出て大地を染める。


「………あっぁぁああ……!!」


(頼む!誰か!助けてくれ…!!……ゴブジイ…!)


ブオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッ


焦燥にかられ咄嗟にショウは助けを求める。その対象として浮かんだのは親でも友でも部下でもなく、力は今となっては自分より弱いだろうゴブジイ。しかしその曲がった背中は彼にとってなによりも頼りになる背中だった。そしてその願いは―――――――


「オオオオオオオオオッオオッオオオッッ!!!!」


―――――大笛の音とともに叶えられた。



∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥



「ッアアァ!!」


無意識に出た咆哮と肉を斬った感触が重なる。荒い息を吐きながら、同族の血で濡れた剣先を片手斧(ハンドアックス)を持つゴブリンに向ける。表情の読みにくいゴブリンだが、明らかに苛立っているのがわかった。


「『風来の剣』なめるなよ…!」


苛立つゴブリンを煽るように、男はニヤリと笑って言う。意味するところは勝者の余裕。偶然にも、それは目の前のゴブリンが最も嫌うものだった。


「調子に乗るなよ!人間がぁ!!」


つり目をさらにつり上げて、口からは牙を覗かせ怒鳴るゴブリン。ゴブリンにしてはあまりに流暢な口ぶりだが、今はそんなことよりも相手の出方に注目しなければならない。


戦いは終盤である。少なくとも男はそう感じでいた。

ゴブリンたちは平均以上に強く、自分も含めほとんどの傭兵たちが手間取り、苦戦してきたが、ようやく傭兵側が勝ってきた。というよりも本来の関係に戻ったのだ。

ゴブリンは狩られる側、人間が狩る側。終盤というのはこの勢いでいけば勝利が見えているからである。


(ボスの為にも頑張らないとな…よしっ!気合いいれろ!フリッツ!ゴブリンぶっ殺して団の名を上げ――――――)


ブオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッ


「オオオオオオオオオッオオッオオオッッ!!!!」


「あ!?なんだっ――――――」


男、フリッツの思考は突如耳に飛び込んできた笛の音で飛び、思わず向けた視線の先は彼の言葉を奪った。

幸運だったのは、相対してたゴブリンも同じように視線を奪われていたこと。

不運だったのは、音の発生源である森から、巨人たちが走ってくるのを誰よりもはやく見てしまったことだった。


「なんだありゃ…!!」

「あ…?あぁーっっ!?なんだよ!!」

「ゴブリンじゃねぇよな!?でかすぎる!」


近づいてくる怪物たちを、フリッツに続き他の傭兵たちも視界に納める。

馬車が走っているかのような地響き。人間の倍はあろうかというその身長が彼らの恐怖心を煽り、不安にする。

腹はむき出しに、両肩と胸を黒い金属製の防具で被い、手には人間大の戦縋を持っている。傭兵の誰もが彼らが視界に移ったときにそう分析した。それは職業柄なのか、相手の装備を観察し自分ならどう戦うか考えてしまっているのだ。

それゆえに彼らの反応は一歩遅れた。普通の人間なら即座に気づく事を見逃した。彼らが森を抜けてこの戦場まで走ってきていることの意味を。武装して自分たち傭兵()を睨んでいるその意図を。


「誇り高きラ族の戦士たちよ――――」


不意に、先頭を走る巨人が戦縋を掲げる。息を大きくすって放たれた言葉は、戦場によく響く。


「―――今こそ!我らが親族に恩を返すとき!!ゴブリンを救え!!」

「「「オオオオオオオオオッオオッオオオッッ!!!!」」」


巨人たちの言葉に驚愕する傭兵たち。その数秒後、傭兵たちは巨人と激突する。

そう彼らはオーク。誇り高きラ族のオーク。ショウに受けた恩を返すため、ゴブリンたちを救うためにやって来たレイクビューの援軍であった。


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