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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第三章
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第72話 村戦争Ⅹ


『いいかガンドン、片手短剣ショートソードはな何よりも速さが重要だ。刺すにしてもの斬るにしても、他の剣より威力が劣る分、剣筋の鋭さが命取りだ。だから今日から毎日振り続けろ!鋭く鋭く、剣筋を研ぎ澄ませ』


 右方から迫る刃に合わせて、肩から片手短剣を振りぬく。

両手大剣では間に合わないという判断の元、即座に武器を切り替えたが、重量による混乱はない。この武器の使い方は毎日の素振りで身に染みていた。

距離をとろうと下がるショウを追うように、一歩二歩、踏み込んで片手短剣を薙ぐ。残念ながら直撃はないが、サクサクとわずかにショウの皮を裂く。


『ガンドン、お前は力がある。両手大剣グレーターソードは、その重さから使い手を選ぶが・・お前なら使えるだろう。攻撃力で言えばトップクラスだぞこいつは。

 いいか?ポイントは、どうこの馬鹿でかくて重いもんを敵に当てるかだ・・まぁ大抵のやつならこれにビビッてそのまま斬られるか慌てて武器で防いで潰れるかの二択だ。だが、もし、相手がそのまま振るっても回避してくるやつなら、そん時は――――』


 追撃の刃を振るっていたガンドンが突如後退する。

糸につながれているかのように、役割が反転。ショウはすぐさまガンドンを追い―――カウンターの両手大剣をくらった!


「うぐっ・・」


 ガンドンにまんまと誘われ、両手大剣を片手剣で防ぐことになってしまったショウ。

不意を突かれたことと、両手剣の重量が彼の身体をきしませ、思わず苦痛の声が漏れた。


『短剣の必要性?フンッ・・少しはマシになって来たかと思ったが、まだまだだなガンドン。こいつが懐にあるのとないのじゃあ大きく違うぜ?

 いいか、こいつは軽く、小さい。重荷になることはないし、懐にしまえば敵に持ってるとばれやしない・・この利点は大きいぜ!とどめをさすのにも使えるし、咄嗟の防御にも役立つ一品だ!・・ほらっ!やるよその短剣。ありがたく使え!はっはっ』


 ≪蝙蝠移動≫によって四散したショウの身体が再び人型に戻る。

その瞬間に振るわれた片手剣であったが、その刃はガンドンが即座に抜いた短剣の腹に着地した。

防御の動きは素早く、何度も繰り返しているのだろうと思わせる滑らかな動きである。


『ん?この武術をいつ使えばいいか?・・ふむ、まぁその時になったら体が勝手に反応すると思うが・・俺の経験上、敵に接近されて離れて欲しい時だな。

 手元には殺傷能力の低い武器しかない、敵は目前、そして両腕が自由な時だ!さぁ!わかったら立て、続きやるぞガンドン!』


「ぐっ!」


 どこからともなく、ガンドンの拳が飛来した。

その動きは―経験がないゆえか―読めず、痛みはないものの、衝撃によってショウは後方へと弾かれた。

動かされた視線を戻してみれば、そこには既に両手大剣を振るうガンドンの姿。ショウは咄嗟に転がって横に回避する。


 キィイイイン。回避したその数瞬後に響く金属音。

ガンドンが振るった片手短剣を防いだ音である。いつの間にか彼は武器を切り替えていた。


『才能がないだぁ?そりゃあ見ればわかるぞガンドン。俺は魔導師だぜ?でもな、ないからと言ってできないわけじゃないし、必要ないってわけでもないんだぜ。

 難しいものでなくてもいい、多くなくてもいい、一個や二個、自分の助けになる魔法を覚えとけ。それぐらい、お前ならできる』


「≪重撃化ヘヴィアー≫」


「ぐぐっ・・」


 ズンッ

ガンドンの刃が突如として重くなる。スキルではない。これは魔法であった。

長年訓練したのだろうか、詠唱はなく、つぶやくだけで発現させている。

魔力を感知したショウにはそれがわかったが、だからと言って何もできはしない。敵の評価が一個上がっただけだ。


(魔法まで使えるのかよ!!)


 心中で愚痴を吐き捨て、片手剣に力を込めて、ガンドンの剣を弾いた。

続けざまに、彼目がけて剣を振るうが、その一撃一撃をガンドンは弾いていく。

何が違うのだろうか?それはショウには分からない。しかし確実に何かが違っていた。

振るう片手剣を、その剣筋を、まるで旧知の仲のように、何度も闘ったことがあるかのように読んでいる。ショウが狙った頃には既にそこには剣が置いてあって攻め続けなければ、即座に反撃を喰らうということが容易に想像できた。


 ショウにとって、最強の剣士はリードであった。武器の扱いで言えばガードの名前が挙がる。

しかしガンドンはその二人を優に超える。剣撃の鋭さはリードを凌駕し、技術はガードのよりも熟達している。

驚くべきは、それが主武器であろう両手大剣だけでなく、片手短剣や、短剣においてもそれらが見られるということだ。

手札の多さこそが強さだと言われている感覚さえしてくる。まるでガンドン独りでなく、複数の達人と戦っているような気分であった。


 彼の名は『獅子の爪』の団長でありながら、さほど知られてははいない。彼が売名行為を嫌うからである。

代わりに、「獅子の爪の団長」が為した業績や、彼自身の実力はトップクラスの傭兵らしく世に広まっている。

曰く、豚食人ピグルスの群れを独りで一掃した。曰く、魔法を受けてもビクともしなかった。曰く、彼の両手剣は鋼鉄をも切り裂く、など。

団長という肩書や容姿によってではなく、純粋な武勇のみがガンドンの実力を示している。それほどの男が、傭兵が、今のショウの相手なのだ。


 重くなった片手短剣を力任せに振り払う。

その衝撃を利用して振るわれる片手剣。その刃はたやすく躱される。

鋭い風切音と共に襲うその剣を、躱し、払い、受け止める。リードと出会ったその日から、欠かさず積んだ鍛錬の成果を、ガンドンは簡単に制してゆく。

焦りからショウの口から息が漏れる。体力的にはまだまだ問題ないはずだ。しかし体は疲労をあらわにする。

精神の揺らぎは肉体の迷い。迷いは剣筋を鈍らせる。ショウの放った斬撃がガンドンの片手短剣に防がれた。


「ぐっ・・!」


 防御してすぐ、ガンドンは流れる動きでショウの身体を突く。

素手によって放たれた突き。あまりに早く、滑らか。防御する暇もなく、ショウの身体はわずかに後退する。

相変わらず体にダメージはない。しかし、この不可避の拳術は隙を生み、距離をとらせる。そしてそれをガンドンは必ずついてくる。


「・・・ッッ!!」


 巨大な質量が、頭上から飛来した。正体はもちろん、ガンドンの両手大剣である。

歯を食いしばり潰されんと耐えるショウ。気を抜けば、いくら吸血鬼のショウと言えどやられてしまう。


 経験と観察。それがガンドンが誇る唯一の武器であった。

彼が今持つ様々な技術――武器の扱い方や武術――はどれもこれも人からもらったものである。

無論、教わったことをモノにしようと努力したのは彼自身であり、それらはとうに彼のモノであると言ってもいい域ではあるが、彼自身がそれを認めていなかった。

理由は自分にその技を教えてくれた先輩方に比べれば、自分の技はまだまだ未熟であると感じているためだ。その一芸を極めた人たちと、様々な技を幅広く学んだ自分を比べるのは少々ずれていると言えなくもないが、それでもガンドンは自分のものだと認めようとしなかった。


 そんな彼であるが、こと観察においては自信があった。

昔から動きをまねようと先輩の動きをよく見ていたおかげか、いつの間にか備わっていた能力。特に戦闘中において、非常に役に立っていた。

戦場の地形や気候はどう動けば自分の武器が十全に扱えるかを、敵の視線や息遣い、武器や防具は相手がどう戦うのかを教えてくれた。

そして時間が経てば経つほどに、得られる情報も増えていく。何度も斬り合えば敵の攻撃の癖や回避の仕方、その傾向も自然と見えてくる。

それらの情報に加え、長い傭兵生活で培った戦闘の経験を合わせれば、どんな敵だろうと倒せるという自信があったし、事実そうであった。それがたとえ人間で無くとも。


「≪蝙蝠移動≫!!」


「・・・・≪流燐りゅうりん―――」


 戦いが始まって何度目かのショウのスキル発動。

肉体が一斉に影と化し、影が蝙蝠の姿をかたどっていく。

一瞬にしてショウの姿は消え、両手大剣は目標を失い空を斬る。突如現れた蝙蝠の群れは移動、やがて空中で再び人型となり――――――


「――――――斬鉄ざんてつ≫」


――――――まばゆいほどの赤い光を纏った、巨剣に貫かれた。


「ッッ・・がっ・・なっ・・!!」


 何が起こったのかわからず、ショウはただ腹からせり上がってくる血を吐く。

ショウからでる血を顔に浴びながら、勢いそのままに、ガンドンはショウの身体を両手大剣ごと、地面へと突き立てた。

背中に衝撃を感じ、再び血を吐く。なぜなのか、身体にうまく力が入らない。ゆっくりと引き抜かれた切っ先があった場所からは、どくどくと濃い血が溢れている。


「大剣で上方から斬れば、防ぐしかないと分かっていた。振り払う力もないと。散々試したが、どうやら他に手段はないようだし、必ずあの蝙蝠になる技を使うと思っていた」


「う・・がぁ・・ああぁあ・・」


 声を出そうとするショウ。しかし出るのは言葉にならないうめき声と血だけである。


「そしてお前はいつも同じ場所に現れる。念のために三度確認したが毎回同じ・・つまり癖だな。そこに合わせてスキルを放つのは容易だった」


「ヒューヒューヒュー」


 息だけがショウの口から洩れる。

視線に映るガンドンは笑いもせず、怒りもせず、ただ淡々と自分の勝因を告げている。

そのガンドンの姿さえもゆらいできた。瞳から力が、光が抜けていく。

ガンドンは両手で大剣を持つと、軽く持ち上げ、一言。


「終わりだ・・盗賊」





『――――お前はやさしいんだよ』


「ん?どうした急に」


 いつもの帰り道。学校終わりの疲れた体を引きずって二人は歩く。

津田 翔と松井 弘人である。高校生である二人は、小学生の頃からの仲で、親友と言っていいほどの仲良しであった。

そんな親友の口から、突如意味深なことを言われれば、翔がその言葉の意味を問うのに是非はなかった。


「いや、お前さっきから自分がいかに冷たいか話してるからさ、俺が知ってる優しい部分を教えてあげようかと」


「・・別に自分の冷たい部分なんか話してたつもりなかったけどな・・・・」


「じゃあ、さっき言ってた荷物持ったばあさんを素通りしたって話」


「ああ、朝遅刻しそうで助けられなかったって話だろ?なにか変か?」


「変というか・・翔は助けなかった自分を責めているようだけどな、冷たい人間はそんなこと気にしないぞ?助けなかったことを悔やんでる時点で優しいんだよ、お前は」


「んーそうか?お前ならどうする?」


「助けるな」


「じゃあ普通じゃん。べつに優しくもないだろ」


「俺も優しいって事よ!」


「自分で言うなよ・・」


 満面の笑みを浮かべる弘人に、翔は少し引く。物理的と精神的に。


「いやまじだって!じゃなきゃ他人をいじめから救おうなんてしないだろふつう!」


「・・随分となつかしい話を・・・あれはーなんいていうか・・自分がやるべきだと思ったっていうか」


 翔と弘人が出会ったのは小学三年生の頃。翔が通っていた学校に、弘人が転校してきたのが始まりだった。

転校生というのは往々に目を引き、注目を浴びるものだが、弘人に関してはソレが絶大であった。

彼は足が速く、勉強も得意で、小学生にしては身長も高く、そしてなにより顔がよかった。

引っ込み思案の恥ずかしがり屋で、自分の意見を強く言えないような性格であったが、そこが可愛いとすぐさま女子の間で人気となった。

もし彼が明るく活発な性格であったら、自分の意見を主張できる性格であったら、ソレは起きなかっただろう。しかし事実は異なり、ソレは起きた。


 いじめである。


 まだまだ性別の垣根は浅い小学生であったが、異性にモテたいというのはいくつになってもあるもの。

運動では勝てない、勉強でも無理、顔も負けている。同級生の男子たちにとって嫉妬の対象となるのに時間はかからず、彼の控えめな性格が、嫉妬をいじめへと発展させるのを後押ししてしまった。

慣れない土地で、同性の友人が出来ず、いじめをうける日々。いじめと言っても物を盗られたりということはなく、無視されたり、こづかれたりする程度であったが、見た目以上にそれらは弘人の心に深い傷を負わせた。

何日と続き、それが一か月続いたとき、不意にぴたりと止んだ。毎日笑いながら叩いてきた少年たちは絡んでこなくなり、同クラスのおとなしい子たちは話しかけてくるようになった。

『なにがあった』と聞く弘人。話しかけてきた内の一人が答えた、『隣のクラスの津田 翔のおかげ』だと。


 翔もまたいじめをうけていた。理由は片親だから。

小学校二年生の時、父親が交通事故で亡くなったのだ。以来母親と母方の両親と共に暮らしていた。

父が亡くなった時、遺体を見て泣く母を見て、子供ながらに翔は『自分が母を守らなくてはいけない』と強く思った。

学校で片親であることを馬鹿にされようと、小突かれようと、反応せずただ耐え、母にはそんな事実を一切悟らせなかった。

卒業するまでだろうと耐えるつもりだった。しかし突然いじめは終わった。

初めは「今日はないだけ」や、「なにか企んでいるのかも」と考えていた翔だったが、それが一か月続き、「終わったのだ」と思うようになった。

しかし、事実は違った。標的が変わっただけで、いじめはまだ続いていた。それを知った翔の行動は早く、その日のうちにいじめの主犯格を呼出し、人生初めての素手による喧嘩を仕掛けた。

なにをされても無反応だった翔が、鬼の形相で迫ってくる。いじめていた少年たちにとってはこれ以上ない恐怖であり、次の日からすぐに彼らは翔、弘人、両名に手を出すことはなくなった。

なぜそこまで怒ったのか、翔にはわからなかった。ただ、心の底から許せないと思ったのだ。自分の代わりに虐げられている人がいる。その事実が翔にとっては許せなかった。


 事の顛末を聞いた弘人は、勇気を出して翔に声をかける。

ほどなくして二人は友人となり、やがて親友となった。そして中学に入った時、丸山 妃菜という女子と友人となり、以来三人でつるむようになる。


「理由はどうあれ他人の為にそこまで出来るやつが優しくないわけないだろ」


「・・お前よくそんなことを恥ずかしげもなく言えるな。こっちが照れるわ」


 この時、翔は本当に自分が冷たいという事を話していたつもりはなかった。

ただ、自分の事を冷たい人間ではないのか?と思っていたのは事実であった。母の苦労を見て来たせいか、わがままを言わない性格になったし、自分が耐えればいいと考えるようになったのも事実だからだ。

しかしこの瞬間、弘人に言われたこの言葉はいくらか翔を救った。自分のやりたい事をやっただけであったが、結果的にソレは1人の少年を救い、「優しい」と感謝されているのだと知ったからだ。

母が再婚し、種違いの弟が出来たからかもしれない。母をこれ以上守る必要はないと、心のどこかで安心したからかもしれなかった。


「いいじゃんか別に。もっと自分を誇れよ!お前は誰かを助けるためなら――――――』




 懐かしい記憶が頭の中を巡り、意識は今一度自身に迫る大剣へと戻された。

走馬灯。死ぬ直前に見る自分の過去の記憶。身体が、脳が、これから死ぬのだと告げているようであった。

その瞬間に、なぜ、この記憶を思い出したのだろうか。独特な選択に笑える状態であったなら笑ってしまっていたかもしれない。

だが、この記憶は正解であった。なぜならおかげで――――――


「む・・」


――――――ショウの瞳に力が戻った。

言葉にならない声で叫びながら、するりとガンドンが突き刺そうとしていた大剣を避ける。

予想外の動きに一瞬ガンドンが戸惑い、その隙をついてショウは勢いよく右手を振るった。


(『――――――体を張って戦える奴だ!』だよな?弘人!)


 親友の言葉を思い出し、ショウは再び立ち上がる。

振るった右手は、指の先にある尖った爪は、ガンドンの頬を削った。

歯を食いしばるガンドンと視線が交錯する。ショウの浮かべていた表情は笑顔だった。

頬から出血し、血が、ショウの腕へと降りかかる。瞬間、ショウは顔に衝撃を感じる。「離れろ」と殴られたのだと数瞬遅れて理解して・・その手を掴んだ。


「ぐぬっ・・貴様あぁあ!!」


「おおおあぁぁああああ!!」


 吸血鬼の握力で握られ、ガンドンはわずかに怯む。

すかさずショウは二撃目を見舞う。爪で裂くのではなく、拳で顎を打ち抜いたおかげで、ガンドンはふらついた。


(なぜだ・!?なぜまだ動ける・・!!)


 揺れた脳でガンドンは思考を開始する、が、させまいと言うようにショウの蹴りが視界に映っていた。


「なめ・・るなぁあ!!」


 放たれたショウの蹴りに、思い切り短剣を突き刺す。

足首の辺りを素早い動きで刺され、ショウの足からは大量の血液が溢れた――――しかし蹴りは止まらない。


「ぐ・・ぁあああ」


 腹を衝撃が駆け巡る。

さりとてガンドンは傭兵。鍛え抜かれた腹筋は、さすがの吸血鬼の蹴りと言えど、威力も死んでいるソレを耐える。

無意識に下ろした視線を戻せば、そこには闇が広がっている。躊躇いは一瞬。ガンドンはすぐさま手を片手短剣へとやり、抜きざまに振り下ろした。

剣閃と共に闇は晴れる。一度見たスキルだと結論付けて―――ショウの姿が無いことに気づく。


「横かッ!!」


「上だ!」


 前回の経験から、剣を投げて持ち手を変え素早く振るうガンドン。しかし捕えたのは空気のみ。敵の居所は、敵自ら数秒前に言っていた。



「≪防護プロテクト≫!!」


 ガシュ

青く光るガンドンの身体を、ショウの剣が斬る。

吸血鬼の爪とは違い、剣撃の威力は高く、スキルと鎧の防護はあれどそれなりのダメージをガンドンに与えた。


「≪眷属召喚≫!」


「ちぃい・・!!」


 ガンドンの舌打ちと共に、再び闇が視界を覆う。当然、ショウの姿も消えた。

ガンドンは両手大剣を拾い上げ一閃。即座に闇を払い、左右に警戒を置く。しかしそれは間違いだった。


「ぐっおおおぁぁあああああ!!!」


 叫んだのはガンドン。激痛によるもの。ショウの片手剣が彼の首の横に生えていたためだ。

≪眷属召喚≫を発動した際、ショウは同時に≪蝙蝠移動≫も発動しており、眷属たちの影に紛れガンドンが左右を警戒した瞬間、上から強襲したのだ。

スキルの同時行使によって多大なる負担がショウを襲う。だがそんな事を気にする余裕などなかった。既に肉体がボロボロなのだ。


「・・ぐぅぅう≪火花スパーク≫」


「くっ・・!」


 痛みに耐えながら、ガンドンは指を掲げ、魔法を唱える。

指先から小さな光の球が数個発現し、一斉に爆発。ショウはすかさず距離をとった。

痛みのせいか、そもそもそういう魔法なのか、爆発の範囲も威力も小さく、ショウにダメージはなかった。無いということはまだ戦える。即座にショウは地を蹴り開いた距離を詰めにかかる。


「舐めるなよおォォォ盗賊風情がぁ!!」


「あああぁぁぁああああ!!」


 体から片手剣を引き抜き、ガンドンは叫び、負けじとショウも吠えた。

両者とも、既に余裕はなく、肉体の傷も無視できぬほど甚大である。

引き抜いた片手剣を、ショウ目がけてガンドンは投擲する。主に向けて迫るその剣を、ショウは難なく片手で払う。

キィインと弾かれた剣は地面に転がり、その動作の間に距離を詰めていたガンドンは、両手大剣を横なぎに振るった。


「≪蝙蝠移動≫!」


 刃がショウにあたる瞬間、肉体が蝙蝠の群れと化す。

物理攻撃は透過され、その太い刀身が群れを通り過ぎた瞬間、ショウは肉体を元に戻し、地を蹴る。

それを迎えたのはガンドンの拳。いつの間に放ったのか、その拳はショウの顔面を正確に捕え、そして止まった。ショウが再び捕まえたのだ。


「捕まえ――――」

「終わりだ」


 ドスッ


「グフッ・・」


 ガンドンに斬られ絶体絶命に。親友の言葉を思い出し復活したショウ。

この数分の勢いはすさまじく、全快の時には負わせることのできなかった傷をガンドンにつけることができた。が、その勢いが突如、死んだ。

ガンドンの短剣だった。彼は自身の拳を囮に使い、注意を一瞬引き付け、短剣をショウののどに突き刺したのだった。

勢いは死に、ショウはゆっくりとその場に倒れる。かかった血を払いながら、ガンドンは踵を返した。どこからどう見てもショウは動けない。だが、しかし、


 闘いはまだ、終わっていなかった。


 ≪獲得魔力量が一定数を超えました。只今より種族進化を行います≫


 魔人とは生物の頂点に立つ種族である。

高い身体能力、知能、魔力、長命など人間、亜人の能力を優に超えており、数こそは少ないが最も優秀な種族と言っても過言ではない。

そんな魔人ではあるが、一括りに魔人と言っても、その中には実は多数の種類があり、その種類によって特徴があり、能力にもばらつきがある。当然、吸血鬼ヴァンパイアにも特徴はあった。

現存する人間社会ではわかっていないことは多いが、挙げられる吸血鬼の特徴として、高い自己治癒能力、そして「血」の重要性がある。

魔人は皆血に対して思い入れがあるが、中でも吸血鬼は特に重んじ、時に崇拝するほどだと言われていた。それはなぜか、最も有力な学者の見解は「血が力の源だからだ」という説である。

太古の時代、より多くの敵の血を浴び、吸収してきた吸血鬼は普通の吸血鬼よりも強靭で強大だったという。この現象は後に「種族進化」と名付けられた。


 ドクンッ

上から押されたかのように、ショウの身体が跳ねる。

目は閉じられ、指先に至るまでピクリとも動かないが、心臓があるだろう胸だけは大きく動いていた。


「・・なんだ?」


 踵を返したガンドンにはその様子は見えない。

しかし、空気が変わったのを感じ、背筋に悪寒が走る。

両手大剣を強く握り、ゆっくりと振り向く。敵が、再び立っていた。


「まだ・・立つか・・!!」


 闘いはまだ終わっていなかった。そう認識し、両手大剣を構えようと持ち上げ――――


「・・・・・」


――――大剣が地面に落ちる音と共に、右手の感覚がないことに気づく。


「な・・にが・・ちぃぃ・・!!!」


 なにが起こったのか、一切ガンドンにはわからなかった。

それは今まで積んだ経験でも、観察でも判断しえないことであった。目の前に立つショウがなにかを呟いたと思った次の瞬間には右手が落ちたのだ。分かるわけがない。

常人ならパニックに陥るだろうこの事態。しかしガンドンは素早い動きで片手短剣を残った手で引き抜く。目の前のショウが動き出す予兆を確認したからだ。

ガキィィィンン。剣と剣がぶつかり金属音が辺りに響く。


「いい気になるなよ!お前の相手は獅子の爪団長ガ・ン・・・」


 制止は一瞬だった。

先程まで止めることの出来たその刃は、赤く光った途端威力を増し、片手短剣ごと、ガンドンの首を掻っ切った。

離れた首は言葉を発せず。首無き体はそのまま倒れた。

喜びの雄叫びも、辞世の言葉も、世を去る嘆きも、悲しみも、人を殺めた罪悪感も、なにもかもその場には無かった。

ニンデ村戦争において、最も重要な長同士の戦いは、静かに幕を閉じた。

 





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