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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第三章
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第68話 村戦争Ⅵ


 血しぶきが舞い、土を汚す。

命を奪った鉄の刃は生命の雫を滴らせ、すぐさま次の標的目がけて振るわれる。

人間だとか亜人だとか、傭兵だろうが小鬼ゴブリンだろうが、皆等しく赤い血を流し、闘ってその命を散らす。

力尽きて倒れたその体は栄養分として大地に帰る。そこに生物の垣根はない。

しかしその割合が今、ゴブリンの方へと偏って来ている。そんな中、この場で唯一、ゴブリンでなければ人間でもなく、ましてや傭兵でもない男が皆と同じように闘いにその力を注いでいた。


「ふっ!」


「あめぇ!」


 片手剣ハンドソードの斬撃が、片手短剣ショートソードでそらされる。

それを見越していたショウは、すぐさま追撃の袈裟切りを見舞うが、それすらも体をひねられて回避される。


「≪蝙蝠移動≫」


「≪旋風斬せんぷうざん≫」


 物理無効の移動技。

蝙蝠の群れとして移動し、解除して人型に戻るその一瞬で斬りつける新しい運用法。

精強な傭兵たちを一気に十人以上葬ったその技さえも、片手短剣の使い手――ライゾール・テラファインの起こした風の刃で防がれる。


(スキルで起こした風は防げないってわけか・・!!)


 早くも見つかった新技の弱点を思いながら、ショウは蝙蝠移動を解く。


「シッ!!」


「ぐっ・・!」


 ショウが人型に戻ったその瞬間、ライゾールの刺突がショウに襲い掛かる。

すぐさま剣の腹で防ぐショウ。あと数瞬遅かったら胸を貫かれていた。


「≪疾風刃しっぷうじん)≫!!」


「くっ・・!!」


 刺突の防御に成功したのも束の間、ライゾールのスキルがショウを襲う。

スキルの加護によってか、加速したその斬撃を回避するには間に合わず、ショウは肩にその攻撃を受けた。

わずかに笑うライゾール。しかしショウもタダでやられるわけではない。


「≪吸収ドレイン≫」


「なっ・・!」


 ライゾールの肩を掴んでいたショウの手から淡く、赤い光が発せられる。

詠唱破棄された破壊魔法が、ライゾールを対象として発動したのだ。

ライゾールの背中を悪寒が走る。風邪をひいたときのような寒気が全身をめぐる。

すぐさまショウの腹を蹴り、後方へと跳躍。ライゾールはショウとの間に距離をとった。


 フシュウウゥウウウ

今しがたライゾールにつけられた肩の傷が、煙を吐きながら治癒されていく。

吸収ドレインの効果である。ショウは肩の調子を確かめるようにぐるぐると回した。


(・・何とかなった。しかし強いなこの人・・時間がないってのに・・)


 視線はライゾールに固定しつつ、頭の中では別の事を考える。

自分が建てた作戦通り、敵を蹴散らし、本丸であるリーダーらしき男――ガンドン目がけて一直線に進んでいたのがついさっきまで。

突如現れた目の前の傭兵のせいで、作戦は妨害され、ショウはここで足止めを喰らっていた。

ショウは強い。吸血鬼としての身体能力、リード譲りの剣技。武器としては主にこの二つであるが、この二つさえあれば大抵の敵は倒せるのだ。

その高い反射神経から、敵の攻撃は見切れるし、その膂力から、敵の身体を容易に切り刻める。事実、この戦場においても、傭兵たちを倒すのはそれほど重労働ではなかった。

が、目の前の相手は違う。技術はショウが出会ってきた中でも一級品で、その多様なスキルは様々な場面で彼の邪魔をする。

ボスよりも先に隠れボスが出て来たかのような気持ちさえ芽生えてくる。作戦は相手側に強者がいない、もしくはいたとしてもリードと自分で何とかなるという仮定の元、立案された。完全にライゾールの出現は予想外であった。


「まいったな・・ほんと」


 ぼそりとつぶやかれたその言葉は、本人以外の耳に届かず消える。

頼みの綱はリードだが、その彼が後方から全く上がってこない。

後ろを見る余裕などないショウは、彼が今どんな状況なのかはわからない。ただ、自身の右腕を、信じるしかなかった。

空に昇り、輝いていたはずの太陽はいつの間にか雲に隠れている。まるで戦場を映す鏡のように、雲行きが怪しくなってきていた。



∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥


「くそっ!!」


 無意識に口から苛立ちの声が漏れる。

苛立っているから焦るのか、焦っているから苛立つのか。

答えがわからないまま、男は自分目がけて飛来する二本の矢を両手剣グレードソードで払う。


「こいつも防ぐのかよッ!くっそー人間のほうにすりゃあよかった!」


「何を言ってる!そこをどけっ!」


 弓を構えつつ、文句を垂れるリスラン。

そんな彼に吠えながら、両手剣を構えてリードは突進する。


「≪強射マイティーショット≫」


「くっ!!」


 威力も速度も、今までと段違いのその緑の光を纏った矢。

予備動作が見えず、即座に放たれたソレを躱しきれずリードは頬に深い裂傷を負った。


「これを躱すか・・いよいよただのゴブリンじゃねぇな」


 リスランがリードへの警戒を強める中、リードはただ黙って頬の血をぬぐう。

これだ、これが苛立ちの理由なのだ。そうリードは思考する。

目の前に行く手を阻む小柄な傭兵。しかし彼はその見た目からは想像できない程強い。剣ではなく弓において。

まだ小鬼人ホブゴブリンだった頃、リードは何度か弓使いと闘っていた。

それらは全員が冒険者で、ゴブリン討伐の依頼を受けてやってきた者達だ。(当然、全員返り討ちにしたが)

そんな少ない経験しか持たないリードであるが、間違いなく目の前の傭兵は弓において最強の敵であった。


 魔獣のようなギラギラの瞳のリスラン。その奥に別の傭兵と闘う自身のあるじがうかがえる。

本作戦において、リードの役割は敵の掃討。もっと言えばショウの敵のリーダーまでの道をつくることである。

『この命続く限り主を支え、主に仇なすものを屠る剣となる』、魔名まなを得る誓約の儀でリードはそう誓った。

まさしく誓いを果たすための舞台。しかしながら、今、自分はその誓いを果たせていない。

遠くから矢を放ち、近づけば躱される。無視していけば背中に矢を受けることは明白である。つまるところ敵を倒すしかないのだ。誓いを果たすために、いやそれも誓いの内である。


(ショウ様・・今しばらく御辛抱を・・)


 両手剣を構えて敵を見据える。

早くしなければ、ショウどころか他の仲間たちが危ない。

主力だったショウとリードが抑えられたせいで、ゴブリンたちの勢いは止まっている。いや、止まるどころかむしろ傭兵たちの勢いが増しているのだ。

元々数では負けているのだ。このままでは傭兵たちに押しつぶされてしまう。


 変化が必要だった。戦況を変える変化が。

無い物ねだりはしても仕方がなく、変化を望むならば自分で起こすしかない―――本来ならば。


「ん・・あれは・・」


 そう、変化がやって来たのだ。予想以上に早く、自分によってではなく外から。


「弓隊ー!!構え!!」


「あぁ?」


 いち早く気づいたリード。遅れてリスランも気づく。

彼らの眼前に映るのは森からやって来たのだろう、弓を構えるゴブリンたち。


「ちょっと待て何でお前らがここにいる!!…おいらの部下はどうしたぁあ!!」


「放てッッ!!」


 叫ぶリスランを無視して、先頭にいたゴブリンが号令を出す。

一斉に放たれる矢。通算三回目の矢の雨が傭兵たちを襲う。


「ぎゃぁああ!!」

「くそっっ!!」

「防げ!盾で防げっ!」


 再び荒れる戦場。

リスランは怒声を吐いてゴブリン目がけて弓を引き―――一瞬、リードの存在を忘れた。


「しまっ・・!!」

「フンッッ!!」


 咄嗟に弓で防御するも、人子鬼ホブロンの剣撃はそれごとリスランを襲う。

突進と共に繰り出された両手剣は強力で、衝撃を殺しきれずリスランは後頭部から思い切り倒れた。

意識が飛んだのか死んだのか。何はともあれリスランが動かなくなったのを確認して、リードは走った。

とどめを刺すという発想はなかった。戦闘不能になったのならそれでいい。そう考えるほどに時間が惜しかった。なぜなら、主が、自分を、待っている。


「ショウ様ッッ!!」


「来たなリード!!待ってた!」


「くそっ!リスランがやられたか!?」


 叫びながら飛び出し、挨拶代りにライゾール目がけて両手剣を叩き込む。

軽やかなステップでライゾールは避けるが、その隙を狙ってショウは背を向けて駆ける。


「行かすかッッ!」


「させんッッ!!」


 ライゾールが剣を振ると同時、リードもまた振るう。

ショウ目がけて振るわれたライゾールの剣だが、目標に到達するまえにリードの剣によって阻まれた。


(ありがとうリード!)


(お気をつけて)


 視線が交錯するその瞬間、主とその臣下は言葉を交換する。

音はなく、ただ目線のみで行われたその短い会話を、理解できるのはその二人のみで、互いの信頼がそこに現れていた。


「あーくそっ!行かせちまった」


「お前の相手はこの俺だ」


 ショウの背中を横目に、ライゾールは新たな敵を睨む。

すぐさま距離をとったライゾール。剣を握る手は先の衝撃で痺れている。

目の前の敵はどれほど強いのだろうか。ショウも強かったが、痺れる手から、目の前の鬼も相当なものに違いないとライゾールは感じていた。


「…レイクビュ―の大長、ショウだ」


 リードに助けられ、ショウは今、目的の場所へと到達していた。

目的の場所、すなわち敵の長の眼前。ショウの前方には馬にまたがる中年の戦士がいる。


「・・名乗り合いか・・くだらん。そんなもの傭兵に必要ない」


 そういうと戦士は軽やかに馬から降りる。

その動作とは裏腹に、ズシッという音が聞こえそうな重量感をもって、男は地面に着地した。

太い腕を伸ばし馬の頭をなでる。ブルルッと息はく馬を横目に、馬が背負っていた荷物から身の丈ほどの大剣を取り出し、抜いた。


「俺はただの傭兵。依頼を受けて盗賊を討伐に来ただけだ」


「そうか、まぁ俺は別にどっちでも・・ただレイクビュ―の『長』としてあんたを倒すって意味だから」


 さすがは歴戦の傭兵だろうか。その言葉はやけに重く、ひとつひとつの動作に隙がない。

しかし、ショウは怯まない、臆さない。いくら肩書きが立派だろうと、闘いでは実力がすべてである。それに何より、纏う雰囲気の話であるなら、ショウは目の前の傭兵よりも尊大でより重い人物を知っている。


「御託はいい・・かかってこい」


「じゃあ遠慮なく」


 言い終わると同時、ショウは駆ける。

傭兵に肉薄し、愛用の片手剣を振るうが、ソレはあっさりと大剣によって防がれた。


「フン・・この程度、なぜ部下たちは止められないんだ・・」


「さすがに強いな・・でも俺は負けられない」


 雲が天を覆い明かりを消す。

昼に輝いていた太陽が、午後になってその姿を消すこの頃。

ゴブリン対傭兵のこの戦い。両勢力の長が、今、ようやくその刃を交えた。


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