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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
序章
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第6話 出発の時

*今回の話は主人公目線になっています

「ん~!こんなもんか~!」

日差しの強い昼ごろ、俺、ショウこと津田翔は背筋を伸ばし思いっきり伸びて体をほぐす。

今ちょうど畑仕事を終えたところで、一仕事終えた疲労と充足感がある。

畑といっても簡素的なもので、範囲も狭いがやったことがなかった俺にはなかなか重労働だった。


「ショーウ!飯にしよう!」

ゴブジイの声だ。

見ると焚き木を燃やして火を作り魚を焼いていた。

俺は返事をしつつ、農具を置くとゴブジイのもとに向かって歩き出した。

 ゴブジイを見るとあの夜の事を思い出す。

俺が酒を初めて飲んだ日でもあるが、それよりもゴブジイの過去や夢の話の印象が強い。

すでにあの夜から二週間経ったというのに、あの時のゴブジイの強いまなざしと語りは今でも昨日のことのように思い出せる。

ゴブジイの話が終わった後は普段通りに話をしーおもに俺の世界の話だがーそのままお開きとなった。

あの夜以降も、というよりは毎日酒を飲むあの夜会を池の前で催している。

最近ではあの酒の味にも慣れてきて、うまさがわかり、ゴブジイと一緒にがぶがぶと飲んでいる。

俺って実は酒豪なのかも・・。

などと考えていたらいつの間にかゴブジイのところに到着した。


「お待たせ」

「うむ。それとソレはもう焼けておる。いまこの湖で取ったばかりで新鮮じゃ。味わって食え」

「いやだからゴブジイ。これは湖じゃなくて池だって。湖はもっとでかいよ」

「何を言うかこれほど大きな湖を池じゃと?池はもっと小っちゃいじゃろうが」


 また駄目だった。

最初は冗談だと思っていたがどうやらゴブジイはほんとにこの池を湖だと思っているようだ。

海も本物の湖も見たことがないと言っていたから、誰が見ても池だと疑わないこの池を海の次に大きい湖だと思い込んでいるのだ。

もし海が一番大きいと知っていなければ、この池を海と言ってもおかしくないくらいの勢いだ。


(まぁずっと森の中で過ごしてればしょうがないか・・。)


 森の中といってもこのガヴァの大森林は広大で、70年森で暮らしているゴブジイでさえ森の全貌がわからないというほどだ。

安全の為、あまり見知らぬ場所に行かないというのもあるけどね。


「それにみよ!この湖の景色を!池ではこれは拝めんよ」


 確かに、この池から見える景色は美しかった。

水は青く、汚れが一切見当たらない。太陽が出ていれば日光を、月が出ていれば月光を反射してきらきらと輝いてくれる。

初めて見たときは驚いたし、今でも飽きずに見ていられるほどだ。

 俺は「ああそうだね」と相槌をうつと焼けた魚にかぶりついた。

丁度良い熱さと共に魚の油が口いっぱいに広がる。

小鬼たちは料理をする習慣はなく、調理法は「焼く」しかない。当然味付けもないので、素材本来の味を楽しむしかない。

まあそれももう慣れたのでこのただ焼いた魚にはなにも文句はない。俺は二口目をかじる。


「ところでショウ。足はもういいのか?」

「あー足なら治った。全然平気」


 俺は魚を食べながら返事をした。

足は毎日の薬草クリームのケアと、日々のリハビリによって、けがをする前と全く同じように動かせるようになっていた。


「そうか・・。ならよかったわい」

「?」


 俺の返答を聞いたゴブジイはどこか悲しそうな表情をした。

なにか悲しい事でもあっただろうか?俺の足が治ってほしくなかったわけじゃあるまいし。


「じゃあ・・もう発つのか?」

「え?」

「足が治るまでここにいる話じゃったろ?」

「あー」


 思い出した。

そういえば最初、世話になるのがどこか申し訳なくて足のけがが治るまででいいって話だったんだ。

すっかり忘れていた。。

なんとなく住み始めてもう二週間。居心地がいいここを離れるなんて考えていなかった。

俺がここを出ていくからゴブジイは悲しそうな顔をしたのか。ちょっとうれしいな。


「いやーそれなんだけど・・」

「なんじゃ?出ていかないのか?」

「うーんっと・・あ!まだ農作業完璧に終わってないし、それ終わってからにするよ!とりあえず!うん」

「おー!そうかそうか!ならいいんじゃ。そうかそうか」


 とりあえず適当に理由をつけて期間を伸ばした。

ゴブジイの「ならいいんじゃ」の意味はちょっとよくわからないが、今はこれでいいだろう。

 でも、この先ずっとこのままでいいんだろうか?

確かにここなら生活するのは簡単だろう。畑もあるしいけもあるから魚は定期的にとれる。

森に入れば果実もあるし、ぼろぼろだが雨風をしのげる家もある。

そして何よりゴブジイがいる。

ゴブジイの知識と物を作る能力。それに加えてサバイバルの能力があればこの先ずっと今までと同じ生活を続けていく事が出来るだろう。

ここにいれば生きていくうえで何も問題はないように思える。だが本当にそうだろか?

俺には自分で生きていく能力はないし、たとえばゴブジイが急に死んでしまったら、俺はすぐに死んでしまうだろう。

ゴブジイは今までずっとひとりだったから、俺がいなくなっても独りで生きていく事が出来る。

だけど、俺は違う。

諸所手伝ってはいるが、狩猟につかう罠やエサ、毎日の食事に衣服などはすべてゴブジイが用意してくれている。

俺はーゴブジイはそう言わないだろうがーゴブジイの重荷になっているのだ。

俺の為に用意する食事は単純計算で二倍だし、衣服も無から作っているわけじゃないから材料が必要だし、しかもその材料は貴重だ。

そんな貴重なものを俺のために使ってくれているのも申しわけない。

今すぐというわけではない。ただ、いずれ俺はここを出ていくべきだ。

出て行ってなにか、ここからではなく、別の形でゴブジイに恩返しすべきだ。


「どうしたショウ。腹でも痛いのか?」

「ん!?あーいや何でもない」


 どうやら長い間考えていてしまったようだ。様子がおかしい俺にゴブジイが声をかけた。

俺はあわてて返事をする。このことはゴブジイに言わないようにする。まだ。







一か月後


「準備できたのか?」

「ああ。ばっちり」

「なにか他に必要なものはないか?食料は十分持ったのか?それから・・」

「だーいじょうぶだって!食料も十分持ったから。心配すんなって」

「そうか・・。」


 ゴブジイは心配そうに納得した。

心配し過ぎだ。森を出るのに必要なものはちゃんと持ったしもし迷ったとしてもここに戻るくらいはできる。

ここを出ようと考え始めてから一か月。とうとうこの日が来た。

寂しくないと言えばうそになる。でも新しい生活が始まるのだと考えたらワクワクもしていた。

 俺はこの世界に来たときと同じ格好でいた。

黒のパンツに、黒のスニーカー。白の長袖のVネックに黒コート。

ゴブジイの作った服を着て行ってもよかったが、質で言えばやっぱり前の世界の服の方がいいのでこの格好で行くことにした。

とりあえずの目標は森を出て近くの町にいく事。そこから先は何も考えていないが適当に職を探そうと思っている。

早く一人前になって、ゴブジイに恩返しをする、それが今の俺の夢だった。


「ショウ。これも持って行け」


 そういうとゴブジイは俺に何かを差し出した。

見るとそれは小さな袋と鞘に収まった剣だった。


「え?ゴブジイどうしたのこれ」

「前々から集めていた金と、この前冒険者の死体から拝借した剣じゃ。まだ使える」

「いやーいらねぇよ。俺剣使えないし。」

「いいから持って行け。使えなくてもあるのとないとでは気分が違う。いざというときに武器があった方がいいじゃろ。

 それにわしに価値はわからんが、人間の世界で金は重要じゃろう。金貨が一枚と銀貨が5枚。それと銅貨が60枚入っておる。持って行け」

「う、うん。わかった!ありがたくもらっていくよ」


 俺がそういうとゴブジイは満足そうにうなずく。

俺は受け取った剣をベルトに挟み、金の入った袋を黒コートの内ポケットにしまった。


「じゃあ俺行くよ。」

「そうか・・。ほんとにわしが森の外まで案内せんでいいのか?」

「いいから。これ以上ゴブジイのお世話になるわけにはいかないからね」


 最後に施しをもらったが、これは自立の門出だ。できるだけゴブジイの手を借りずに出発したい。


「お前がそこまで言うのならいいだろう。くれぐれも森で迷うなよ。もし迷ったらすぐにここに戻ってくるのじゃ。」

「大丈夫大丈夫。明るいうちなら迷いはしないよ」

「うむ。ではショウ。お前に再び会うのを楽しみにしておるぞ!」

「ああ。ゴブジイも元気でな!」


 俺はゴブジイと挨拶を交わし森に向かって歩き出す。

また会う時まで、こことはしばしのお別れだ。

願わくは、次にゴブジイと会ったときはあのいけのまえで酒を飲みながら俺の一人前になった話をしたいものだ。

俺は歩き続ける。

まだ見ぬこれからの生活を想像しながら・・・。



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