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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第三章
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第65話 村戦争Ⅲ

ようやく落ち着きました。

更新を再開していきます!


「シイッ!」


 鋭い息を吐き出して、迫りくるゴブリンをライゾールは切り伏せる。

片腕を跳ね飛ばされてもがくゴブリンを横目に、休む間もなく続けて他のゴブリンを斬る。

愛用する片手短剣ショートソードは既に血で染まり、ヘルムを被っていない彼の顔にもゴブリンたちの返り血がついていた。


「ギャァアアッッ!!」

「くそっ!よくも仲間を!!」


「キリがねぇな!!くそったれ!!」


 仲間をやられて憤慨するゴブリン。

恨みをぶつけるそのゴブリンに対して、ライゾールもまた自身の不満をぶつける。

しかし彼の不満もおして知るべきだろう。無限と感じるほどにゴブリンたちが襲ってくるのだから。

数の差は圧倒的に開いているはずなのに、傭兵側はどうにも攻めきれない。

原因は分かっている。ゴブリンたちが強すぎるのだ。

強すぎるといっても敵わないレベルではない。でもある程度拮抗する段階までいっているというのが問題だ。

さすがに団長クラスならば余裕をもって対処できるが、部下たちは違う。

自分の知識以上の強さを見せるゴブリンたちに戸惑っているし、気持ちで負けてしまっている。

だからこそ自分が頑張らなければいけないのだが、一匹一匹を余裕をもって倒せるとしても、物量で攻められたら長くはもたない。


(くそっ・・!!後ろはどうなってる)


 ライゾールが今いるのは前線である。

といっても、ゴブリン軍の大半を押しとどめているだけで、約二人の敵を後方の内部に侵入させてしまっている。

おそらくその二人―片方はゴブリン―が最も強い二人であり、そいつらの活躍がゴブリンたち全体の士気を上げている。

早めに彼らを対処しなければ後方はもちろん、前線にいるゴブリンたちの勢いもなおのこと増すだろう。


「よそ見するな!」

「ちいっ!≪疾風刃しっぷうじん≫」


 ちらりと後方をうかがったライゾールに、ゴブリンの刃が迫る。

ライゾールはすぐさまスキルで応戦。風の加護をうけた刃が、ゴブリンのよりも早く彼を襲った。


「ぐぅ・・アァアアッッ!」

「くそ!まだか!」


「≪強射マイティーショット≫!!」


 ライゾールの斬撃を受けてなお向かってくるゴブリン。

再び振るわれたその剣は、しかし彼に届かず、ライゾールの後方から放たれた矢によってゴブリンは絶命した。


「リスランか!」


「ライゾール!このままじゃまずいぞ!」


 武器をナイフに持ち替えて、リスランが前線へと飛び込む。

逆手に持ったナイフを巧みに操りゴブリンの攻撃を捌き、ライゾールも近くにいるゴブリンを葬る。

お互いがゴブリンを何匹か倒した後、わずかに息を乱しながら二人は背中合わせになる。


「はぁ・・ライゾール・・このままだと本隊が壊滅するぞ」


「わかってる、はぁ・・あの二人だろ?誰かが止めなくちゃな・・」


ひらには無理だ、遠目に見ただけだがあいつら強いぞ」


「・・俺らがやるしかないか」


 ライゾールの言葉に、「ああ、それしかない」とリスランはうなずく。

背中合わせになっているため互いの表情は見えないが、きっと二人とも覚悟を決めていることだろう。

しかしそれを実行するには問題があった。ゴブリンたちの勢いだ。

今、前線はライゾールとリスランの活躍によって押しとどめられているが、その二人が後方へと下がれば、前線は崩壊し、その位置がそのまま押し上げられてしまうだろう。


「ここは任せてもらおう」


「お前は・・・」


「『獅子の爪』のランだ。前線は俺らが保持する」


 と、そこに救世主が現れた。

襲撃に失敗したランである。後方より手勢を引き連れてやってきた。

さすがはトップクラスの傭兵団といったところか、ランの部下たちがゴブリンたちを押し込んでいく。


「行ってください!ボス!ここは俺らが抑えます!」


 ライゾールが率いる『風来の剣』の団員からも賛成の声が上がる。


「ライゾール・・」


「・・ああ、行くぞリスラン!お前ら!死ぬんじゃねぇぞ!」


「「はいっ!」」


 仲間の頼もしい返事を聞きながら、ライゾールとリスランは前線を離れる。

返り血を拭うライゾールの顔には、わずかに笑みが浮かんでいた。


「いい部下だな・・おいらのほどじゃないが」


「部下の良さで張り合うつもりはねぇよ・・それよりリスラン――」


「うん?」


「―――ゴブリンと人間・・どっちとやる?」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ぬぅん!!」

「ぐっ・・!」


 力任せに手斧ハンドアックスを叩き付けられ、人間は唸る。

ゴブリンのボルはすぐさま突進をかまし、わずかにひるんだところを、下からすくい上げるように手斧を振るった。


 鮮血がボルに降りかかる。

あふれ出る血をその小躯で浴びながら、ボルは静かに笑う。


「はっはっはっは!!これで五人目だ!そんなものか人間!その程度なのかお前らは!!」


 右手に手斧を持ちながら高々にボルは笑う。

その笑みは残虐にして醜悪。魔物としての小鬼ゴブリンをそのまま体現している。


 彼の頭に去来するのは過去の記憶。

森の奥で暮らす自分たちを襲う人間。捕えて奴隷にしようと企む人間。

抱く感情は憎悪しかない。体格も力も劣る自分たちを、まるで虫けらのように、何の罪悪感もなし殺す人間。彼らにそれ以外のどんな感情を抱けというのだろう。


 しかし今、それが逆転した。

あれだけ速かった剣は躱せるようになり、当たらなかったこちらの攻撃は、相手を怯ませられるほどになった。

手に持つ武器の手斧。「攻撃力が欲しい」とガードに頼んで作ってもらったコレは、自身の性格にものすごく合っている。重力に任せて振り下ろすこの快感。敵を討ち取った時のその感触は何物にも代えがたい。

勝てる。あの人間に。憎くても力で敵わず、悔しさで歯を食いしばることしかできなかった小鬼ゴブリンが、このボルが。


「はっはっはっはっはっはっはっはっは!!!俺は人間を超えた!これからはゴブリンが人間を蹂躙する番だ!」


 今一度ボルは笑う。

さっきより高らかに、醜く、残虐に。

同じく血を浴びて笑ったリードとは違う、どこか暗い笑みは人間だけでなく、周囲にいるゴブリンにも影響を及ぼす―――士気が上がったのだ。

それは本能なのか、味方が意気揚揚に敵を倒すその姿は、人間にとっては怒りの対象、もしくは恐れの対象であっても、ゴブリンたちからすれば「自分も」と奮起させるものであった。

ゴブリンたちの勢いが再び増す。燃料ガソリンを投下された炎のように。


「「オオオオォォオォォオオオオオオオッッ!!」」

「調子に乗るな!ゴブリンども!!」


 まるで爆発したかのような勢いで、ゴブリンたちは突進する。

傭兵たちもまた、罵声を飛ばして迎え撃つ。

自分たちを蹂躙するとまで言われたのだ。さすがに黙ってはいられない。


「おい!ボル!」


「おお!バル!お前は何体やった?競争をしよう、俺は今―――」


「今そんなことをしてる場合かっ!戦いの最中だぞ!遊びじゃない!!」


 普段からは考えられないほど興奮するボルに、同じ群れ出身のバルから叱咤の声が飛ぶ。

いつもなら喧嘩が始まる勢いであるが、テンションが高いおかげか、バルの怒声にボルは笑うだけだった。


「何をそんなに怒るバル?俺たちはもう弱小じゃない!!人間に俺たちは勝てるんだぞ!!」


「油断するな!人間たちにはまだまだ上がいる!油断していてはやられるぞ!」


 真剣な面持ちで訴えるバルに、ボルもまた一瞬表情を締める。

がすぐに歯を見せて笑う。それは「来るなら来い」という意味だし、「そんなやつは俺が倒す」という意味である。


「油断?はっはっは!これは余裕というやつだ!人間が散々俺たちに見せてきたあの『余裕』だよ!!はっはっは――――」

「はいドーン!」

「!!」


 余裕の笑みを浮かべるボルに、不意に衝撃が走る。

とっさにガードしたものの、その勢いは強く、弾かれたようにボルは後方へと飛ばされる。


「ほらっ!!」

「ぐっ・・がぁ!!」


 ボルを吹き飛ばされた後、続けざまにバルの視界に何かが移る。

ほとんど反射的に、無意識にバルはそれを愛用の剣で防ぐ。

瞳の数センチ先まで迫った白刃をなんとか止めながら、押し返そうとバルは必死に力を込める。


「ふんっ!」

「ぐっ!」


 剣を押し返すことに注視していたバルのわき腹になにかがめり込む。

と、そう思った次の瞬間、バルの体もボル同様後方へと吹き飛ばされた。


「はーあっ・・なにやってんだよほんとに、ゴブリン如きにこんなに手間取って・・・」


 吹き飛ばされた着地点。痛む腹を押さえながら立つバル。その隣で立つボル。

彼らの視界に映るのは、突然現れた襲撃者――――傭兵団『獅子の爪』のランが気だるそうに立つ姿だった。


「・・貴様ッッ!」

「待て!ボル!!こいつは他のやつより強いぞ」


 蹴飛ばされた怒りから飛び出そうとするボルを、起き上がったばかりのバルが声で諌める。


「よくしゃべるなぁほんと。俺がったやつも喋ってたが、お前らに比べると無口なほうだったんだな」


 ギリッっとボルが歯を噛みしめる音が隣のバルに聞こえる。

ここは戦場。ボルが人間を殺すように、ランもまたゴブリンを殺すだろう。

起きるべくして起きたことだし、今なお、この瞬間にも起きていることだ。が、だからと言って怒りを覚えないというわけではない。


「んん?なんか黙っちまったな・・・あぁそういや、お前らは何番隊なんだ?」


「なんだと?」


「隊だよ隊。お前ら隊で編成組んでんだろ?俺が殺ったやつは三番隊とか言ってたんだよなー・・やっぱりお前らゴブリンにも隊毎に役割とかあったりすんのか?」


「貴様などに言う必要があるかッッ!」


 ランの質問に怒声でボルは返事する。

ランの脅威は認めたものの、強くなったという自負と、先程まで自分がかましていた『余裕』を見せつけられ、ボルは頭に血が上っていた。


「っはぁー・・イラつくなやっぱゴブリンの癖に生意気でよー。俺は結構飽き性でな、怒りとか悲しみとか寝ればすぐに忘れる性質たちだし、なんなら普段全く怒らないんだが・・・どうにもお前らはむかつくなぁ」


 頭を抱えてため息を一つ。

だらだらと喋り続けた最後の言葉には、彼の言うとおり怒気がこもっていた。


「弱えぇくせにいきがりやがって・・強い言葉を吐くならそれ相応の実力をつけろよな」


「ほぅ?ならわいがお前に勝てばいくらでも言いたい放題だな?」


 バルでもボルでもない、この場における第三者の声にランは片眉をあげる。


「コーガ殿・・」


「下がれバル、ボル。こいつはわいがやらねばならん」


 第三者―――ハイゴブリンのコーガがバルたちの後方から現れる。

腰に佩くのは片手剣よりもやや長い剣。先にいくにつれてそれている形状のそれは、同じ形をした鞘に納められている。


「コーガ殿ッ!しかしこいつは俺が―――」

「ボルッッ!総隊長がここにいない今、わいの指示に従え!『三番隊隊長』は飾りじゃないぞ!」


 いつもの陽気さを全く感じさせない気迫でコーガは睨む。

身長が自分よりも上、筋肉量も上、そして何より、実力が上の彼に睨まれ、ボルは渋々頷くしかなかった。

ボルは一番隊所属。隊長はリードである。コーガの命令を聞く謂れはない。

しかし、実力至上主義者のボルにとって強者の言うことは絶対であるし、彼とコーガの実力差は明白だった。

悔しそうな顔をしながらボルはその場を離れ、会釈をした後、バルもそれに続いた。


「いいのかよ、三匹まとめて相手にしたっていいんだぜ?」


「フン、お前程度、わい独りで充分・・それに何よりわいとお前には因縁がある」


 ハッと鼻で笑うランに、ゆっくりとコーガは愛刀を抜きながら近づく。

鞘と刃のこすれる音と共に、磨き抜かれた刀身があらわとなっていく。


「因縁?・・知らねぇな、何のことだ?」


「・・そうか、わいの部下が言ったとの話だったが・・まぁいい今一度聞け」


 ガードに頼み、作成してもらった、切れ味を追求した剣、刀。

それを上段に構え、コーガは一呼吸する。


「わいの名はコーガ。レイクビュ―、戦士ゴブリン三番隊隊長のコーガだ。貴様に殺された部下と、命がけで仲間を守ったコジの為・・・いざ!参る!!」


 ビュンッッ

言い終わると同時、弾丸の如き勢いでコーガはランへと襲い掛かる。

上段から振り下ろされたその一撃は、寸での所でランの片手剣が受け止める。


「っは!!部下の敵討ちかよぉ!ますます人間臭いなお前らッ!・・しかしまぁ、少しはマシな奴が出て来たじゃねぇか!!」


「斬って捨ててやるぞ、人間!!」


 ここにきて初めて笑うランに対し、静かに怒りを表すコーガ。

前線にやってきたラン率いる『獅子の爪』。ライゾールとリスランは後方へと戻る。

ニンデ村をめぐる村戦争。その戦況が今、徐々に変わろうとしていた。



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