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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第三章
62/110

第58話 生存の対価


「ぐっ・・このドチビがぁっっ!!」


 怒声と共に男は剣を叩きつける。

体重を乗せられたソレは、圧倒的に体格が不利なゴブリンには強烈で、勢いに負けてゴブリンは吹き飛んだ。

地面に激突し悶えながらも、何とか立ち上がろうとする・・・が、闘いによってスタミナはすでに空。体のあちこちにある傷口からは血という生命力が流れ出ている。

それでもなお体を震わせて懸命に立とうとするゴブリン。それを見て立ち上がれないと判断したのか、男はふーっと息を吐いた。


「はぁ、はぁ、手こずらせやがって・・・」


 男の吐く息は荒く、ゴブリン程ではないにしろその体にはいくつもの切り傷が望める。

『ゴブリンと村人を殺すだけ』という簡単な仕事だと思っていた傭兵団『獅子の爪』の一員である男は、ここ、ニンデ村にいるゴブリンの強さに内心驚いていた。

ゴブリンと言えば小さな体躯でただ棍棒を振り回すしか能がない魔獣だと思っていたが、目の前で今なお立ち上がろうとあがく赤い小鬼はとても普通のゴブリンとは思えなかった。

剣筋は素人にしては鋭く、動きは魔獣にしては機敏であった。もしかしたら負けるのは自分だったのかもしれないと思うほどに。

とはいえ結果は自分の勝利であるし、「ゴブリンに負けそうになった」なんて言ってしまった日には、この先一生仲間たちの嘲笑のタネになることは間違いないので、大きく息を吸って自らの内にとどめておく。


「おいおい、ゴブリンに手こずり過ぎだぞお前ら」


「ランさん・・」


 男が声のする方を見れば、そこには自分たちのリーダーであるランの姿。

彼は団長から今回の襲撃の責任者を命じられた人で、その役職に見合うほどの実力を有していた。

事実、男が手こずったゴブリン―おそらく実力にそう違いはない―を二匹同時に相手取って、その体には傷が見当たらなかった。

周りをみれば、どうやら自分だけではないようで、他の仲間たちも思いのほかゴブリンに苦戦しているようであった。

それを見て、男は自分だけではないという安堵し、そして改めてリーダーであるランの実力の高さを認識したのだった。


「はーっはーっはーっ」


「お?まだ立つか!お前の相方はとっくにダウンしたってのによぉ!・・お前もそろそろ楽になったらどうだ?」


 荒く息を吐きながら剣を構えるゴブリンに、ランは笑いながら話しかける。

ゴブリンの傷はおびただしく、額からは出血し、全身には細かな切り傷。足は疲労で震えており、剣を握る握力はもうほとんど残っていない。

それでも、そのゴブリンの目は死んでいなかった。まるでまだなにかとっておきがあるとでも言うように、半分しか開いていないその瞳の奥にはかすかな輝きが認められる。


「はぁ・・こいつは・・よくやった・・・お前など、はぁ・・おれ・・・だけで」


 隣で倒れる同胞を横目で見ながら、瀕死のゴブリンは言う。

声を出すだけで倒れそうになる身体を意志の力で支えながら言ったその言葉には、まだまだ闘志が残っている。


「はっはっは!!ゴブリンがこんなに大口を叩けるとは驚いた!!はっはっはこいつはけっさくだ!」


 ゴブリンの戦士としての言葉にランは腹を抱えて笑う。

隙だらけだが、それをつけるほどゴブリンに体力は無く、隙を見せていいほどにランはゴブリンをなめていた。


「はぁー面白れぇ・・・そうだ!おまえ面白れぇから逃がしてやるよ!!逃げて救けでも呼んで来い、まだまだ他にいるんだろ?ゴブリンはゴキブリみてぇに増えるからな」


 ランの言葉に、周りにいた傭兵たちは非難の目を彼に向けるが、そんなものは視界に入っていないとでも言うように彼は笑う。

「他にもっといるかもしれない」というのはランが襲撃前に団長に聞いていた話であった。そして依頼人は可能ならより多くのゴブリンの死体を望んでいるということも。

つまりランは傭兵として仕事をこなそうとしようとしているのだ。実際はそれに加えてゴブリンに興味がわいたというのもあるのだが・・。


「ふっ」


「あ?何を笑ってる?」


 そんな目論見があったランの言葉を聞いて、予想外なことにゴブリンは笑った。


「もし・・おれがにげて、はぁ、助けを呼び・・お前に斬られなくても、俺はどのみち・・斬られてしまう」


「なに?」


「はぁ・・仲間を見捨てて・・自分だけ、はぁ逃げるなど・・・うちの隊長が許さんだろう・・」


「はぁ?何を言ってんだお前」


 話がつかめずいらだつラン。

ゴブリンはそんな彼など歯牙にもかけず大きく息を吸った。


「俺はレイクビュ―、戦士ゴブリン三番隊のコジ!!コーガ隊長と、大長の誇りにかけて、死んでも仲間を守って見せる!!」


 それは最後の咆哮であった。

追い詰められた獣が死の間際放つ叫びにも似た、死を覚悟してなお闘う意志を示すもの。

瞳の奥にともる光をより輝かせて、瀕死のゴブリン―――コジはランを睨む。

表面とは裏腹に、コジの心中は落ち着いていた。

自分は間違いなくここで死ぬだろう。しかし怖くはない。自分は最後まで仲間を守るために闘う事ができるし、自分が死んでもレイクビュ―の仲間たちが仇をとってくれるということを確信しているからである。


「レイクビュ―?戦士ゴブリン?・・・はぁーよくわかんねぇが・・・なんか飽きちまったな。やっぱり殺すわお前・・おれは村にいるゴブリン殺せって言われただけだし、まぁいいだろ」


 そういうとランはだるそうにコジへと歩み寄る。

剣を構えずぶらぶらと歩くその様子は隙だらけのようで、コジを一刀のもとに葬る用意があった。


「おおおっっ!!」

「ふんっ」


 ランが足を踏み出した瞬間、コジは最後の力で斬りかかる。

しかしながら、その剣がランに届くことはなく、あっさりとランの片手剣ハンドソードによって弾かれてしまう。


「じゃっ終わりだ」

「いーや違うね」


 ガキィィン

まるでなんてこともないような感じでコジの命を奪おうと振るわれたその片手剣は、彼に届く直前、硬質な何かによって防ぎとめられた。


「だ、だれだお前・・!」


「ふーっ、間に合ってよかった・・コジ―――」


「あ・・あぁ・・」


 驚きで目を見開くラン。片手剣は万力に抑えられているかのようにビクともしない。

現れたその人物を見て、思わず剣を落としてコジは視線を送る。


「――お前は俺たちの誇りだな!」

「大長!!!」


 剣が切り裂くその直前、コジを白刃から救った救世主。

彼の名はショウ。生態系の頂点に立つ魔人にして、総勢百五十以上のゴブリンを従える『レイクビュ―』の大長である。


「待ってろよコジ。すぐに助けてやるからな!」


「大長・・おれは・・」


「てめぇ無視してんじゃねぇぞ!!こらぁ!!」


 攻撃を防がれて、言葉も無視されたランは怒りのままに叫ぶ。

いくら踏ん張っても抜けない片手剣から手を放し、懐からナイフを取り出してショウへと振るう―――――


「ふんっ!!」

「ぐえっ・・」


――――が、ソレがショウに届く前に、彼の放った蹴りによってランは後方へと吹き飛んだ。


「ランさん!!!」


 あまりに突然の出来事に、傭兵は思わず叫ぶ。

この場にいる一番の実力者のはずのランが、たった今、目の前で突如現れた謎の男に蹴り飛ばされたのだ。頭が現実に追いついて行かない。


「くそっ!てめぇ何者だぁ・・・あぁ?」


 とりあえずショウが敵だということを理解した傭兵は抜刀すると、すぐにショウへと駆け出・・・そうとして途端に視界が暗くなるのを認める。

時刻は午後。まだまだ日が沈むには早い時間である。

だというのに男の視界は暗い。まるで何かが日光をさえぎっているかのように・・・・・。


 悪寒が傭兵の背筋を走った。

嫌な予感と、今さらながら後ろに気配を感じて、ゆっくりと傭兵は頭上を見上げた。


 巨人がそこに立っていた。


「うわぁああああ!!げふっっ!!」


 恐怖のあまり無我夢中で傭兵は手持ちの剣を振るう。

わずかな感触を覚えた瞬間、鼻に強大な衝撃を感じ、謎の浮遊感を感じ、そして今度こそ、視界は完全に真っ暗になった。


「人の顔を見て叫ぶなんて・・失礼な人だ」


 拳に付着した血を払いながら、巨人―――オーク・ガンドのラ・ガード・オーテクは不満そうにつぶやいた。


「なっ・・なんなんだお前ら!!!」


 吹き飛んできた二人の仲間と、それをした二人を交互に見て、傭兵は叫んだ。

表情は悲愴そのもので、ショウとガードを移す瞳には恐怖の色しかない。


「『なんなんだ』って・・それはこっちのセリフだぞ」


 ランの落とした片手剣を拾ってショウは前へと歩く。

それに合わせて、ショウの隣へとガードも歩を進めた。


「お前らこそ『なんなんだ』?俺たちの仲間をこれだけ傷つけたんだ・・覚悟はできてるよな?」


「ひぃ」


 ショウの言葉と気迫に、傭兵たちから悲鳴が出る。

彼らの足元には血だらけで倒れるゴブリンたち。ぴくぴくとわずかに動く者もいるが、全く動かない――死んでいる者もいる。

そう、ショウは怒っていた。仲間をいたずらに殺されて、心底腹を立てていたのだ。


「まっ・・待ってくれ!!俺たちはただ!団長に命令されて・・!!」

「おい!馬鹿!言うなよお前!!」


「団長?」


 傭兵の言った言葉にピクリとショウが反応する。


「あ・・しまっ・・」


「頭領・・これは・・」


「ああ、聞かなきゃいけないことがあるな・・生け捕りで頼むガード」


 その言葉を皮切りに、ニンデ村を襲撃した傭兵六名はあっという間にショウにひざを折ることとなった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「はぁ・・はぁ・・無事か!?みんな!!」


 ティステル大陸の西に繁るガヴァの大森林。

日夜生存競争が繰り広げられるその森に囲まれたニンデ村に、1人の男が走ってくる。

男の名はノイド・イーエル。ショウたちに助けを呼んだ後、今、帰って来たのだった。(ショウたちはノイドよりも圧倒的に速かった)


「あぁノイドさん。村は無事です、皆けがはありません」


 門から入ってきたノイドにショウは現状を伝える。

コジ筆頭にゴブリンたちが襲撃者たちを抑えたおかげで、最初に犠牲になった二人を除いて、ニンデ村の死傷者はゼロであった。


「おお!そうか!それはっ!・・こいつらは?」


 ショウの言葉に喜ぶノイド。

そんな彼の視界に縄で縛られた男たちが映る。


「おい、もう一回説明しろ」


「へぇ・・俺らは傭兵団『獅子の爪』の者で、ここへ来たのはゴブリンと村人を始末するためです」


 ショウの言葉に怯えながら傭兵の内の一人が話す。

それはショウたちが一度は聞いた内容で、ノイドはそれを聞いて顔を憤怒で染める。


「なんだとお前ら!!誰の依頼だそれはッッ!!」

「親父!落ち着けって!!」


 傭兵たちを殴ろうと拳を掲げて近づくノイドを、彼の息子であるオイドは止めにかかる。

それを見てあわててナダも参加して二人でノイドを羽交い絞めする。


「そ、それは知らないんだ!!俺たちはただ殺せとしか!!依頼主と会ったのは団長だけだから!!」


 ノイドの怒り狂う様子を見て、怯えながら傭兵は叫ぶ。


「・・どうします頭領?」


「うーん・・そうだな・・」


 ガードに尋ねられてショウは頭をひねる。

ここにいる傭兵たちを殺すのは簡単だ。仲間を殺された怒りはいまだ残っているし、野放しにすれば報復にやってくる可能性もある。

しかしここで彼らを殺せば、ニンデ村がその傭兵団に睨まれて、もしかしたらもっと多くの傭兵たちが来るかもしれない。

そうなれば今度こそ全滅の危機がある。


「・・俺たちを解放しろ」


 声を出したのはラン。

今回の襲撃を率いた張本人である。


「なんでだ?」


「もし解放しなければ、お前らに待っているのは絶望だけだからさ」


 ふっ、と静かに笑うラン。

ショウに蹴られて気絶していた割には元気そうである。

いや、だからなのかもしれない。彼とガードに気絶させられた傭兵を除いた他の者たちには、ショウとガードの恐ろしさが身に染みているのだ。

たとえ冗談でもこんな強気な態度はとれないだろう。それを証拠に傭兵たちは狂人を見る目でランを見つめている。


「いいか、俺たちがここに来たのは、さっきそいつが言った通りだ。

 だがな、それに加えてもう一つ仕事があったんだ・・・偵察だよ」


「偵察?」


「ああ、この村のゴブリンが予想以上に強いか、数が多かった場合、俺らは撤退し次の機会に備える手はずだった・・」


「次の機会だと?」


「・・もし俺たちが失敗した場合、今から四日後に約300人の傭兵たちがこの村に襲撃する手はずになってんだよ!

 『次の機会』っつのはそういうことだ!だ・か・ら!俺たちを解放しろっていうんだよ、それを止めるためにな!!」


 ランの言葉にその場にいた者全員が息をのむ。

たった5人の襲撃によってゴブリンが3人、村人が二人死に、他のゴブリン3人は重傷を負った。

数にして60倍もの人数がやってくるというのだ。あまりに過剰で、あまりに非情な数である。


「・・解放してお前に説得を期待しろってことか?」


「ああ、そうだ。・・俺は正直これ以上こんな村と関わりたくねぇ。

 それに参加すんのはウチだけじゃないって話だが・・俺が団長に言えば『獅子の爪』は手を引くし、他の団もウチが抜けりゃあ同様に手を引くはずだ・・悪い話じゃないだろ?ショウとやら」


「ふざけるな!!お前の話が本当だという証拠はないだろう!!」


 オイドとナダに羽交い絞めにされながらノイドは叫んだ。

しかし怒りのこもったその声を聴いてもなお、ランは不敵に笑うのをやめない。


「信じないなら今ここで俺たちを殺せよ・・。ただ、そうすればやってくるのは300人の猛者で、お前らはそれを回避する唯一の手段を失うことになるがな」


「・・頭領」


 心配そうな顔をするガードを横目にショウは思案する。

ランの言っていることは一見めちゃくちゃだが、その実筋が通っている。

どうしてそこまでニンデ村に固執するのかは謎だが、自分にはわからないだけで実はこの村は見るものが見れば価値のある場所なのかもしれない。

それを言うなら、そもそも5人とはいえ傭兵団が村に攻めてくるのがおかしい。

盗賊ならまだしも傭兵を雇うとなればそれなりに金もかかるし、しかもやっていることは王国民の殺害――犯罪である。

謎の依頼主は、犯罪を犯し、大金を支払ってまでこの村を手に入れたいというわけだ。情勢に疎いショウとしては敵の目星などつかないが、どうもコレにはどこかの国が関わっているような気がしてならない。

自国民を殺していることからマッシャルディーナ王国は除外して、可能性があるのは他の二大国のガルディアス帝国かダンデンド王国。いや、もしかしたら他の国かもしれないが、ショウが知っているのはこの三国だけなので予想のしようがない。


(いやまて落ち着け俺!俺が考えるべきことはそんな事じゃない)


 考えるあまり思考がそれていったことに気づいたショウは軌道を修正する。

そう、ショウが考えるべきことは『300人の傭兵をどうするか』だ。

ランの言葉が真実だとして、今ここでやつを殺せば・・・ランの言うとおり次の襲撃を回避する手段は失うだろう。

仮に嘘だった場合、ランたちを殺せばひとまず1件落着。謎の敵も自分たちを警戒して容易にニンデ村に手を出さなくなるはずである。

だが、賭けの要素が強すぎではないだろうか?もしこのままランたちを解放したとして考えられるデメリットはランたちの報復である。

しかしその可能性こそショウには低く思えた。ランやほかの傭兵たちにはしっかりと自分たちの強さが伝わったはずだと。勝てない相手に何度も挑むほど人間は強くはない。


 本音を言えば殺してやりたかった。

仲間を殺された怒りはショウの心中で燃え盛っている。それをしないのは長として安全な道を選ぶ責任があるからだ。


『冷静になれ!!あなたが周りをみなかったら、誰が配下を守るんだ!!

 どんなときでも冷静でいてください!それが、それが群れの長というものでしょう?』


 冷静さを欠いたとき、リードがショウに言った言葉である。

あの時殴られたほほの痛みを思い出して、ショウは怒りを押し込んだ。


「・・お前らを解放すれば、次の襲撃はなくなるんだな?」


「ショウ君!!」


「ノイド、ここはショウ君に任せようよ!」

「そうだぜ親父!いい加減落ち着いてくれ!」


 怒りのままに暴れようとするノイドをナダとオイドは抑え続ける。


「ああ、約束するぜ」


「そうか・・・」


 シュバッッ

風を切る音と共に、ランの横を何かが通り抜ける。

少し遅れて、彼のほほには生暖かい液体が降りかかってきた。


「な・・なにを・・?」

「ひやぁあああああ」


 ランは訳が分からないと言った顔でショウを見つめ、傭兵は恐怖で叫ぶ。

一瞬のうちに5人のうち3人の傭兵の首をはねたショウは、血を払うと剣を地面へと突き刺す。


「解放するよ。・・ただしこっちは仲間であるゴブリンを3人失った。だからあんたらの命も3人もらう・・・ノイドさん!」


「お、おう・・?」


 突然の出来事に暴れるのも忘れショウに返事をするノイド。


「ランとかいうやつはダメですが、あとの一人をどうするかはあなたに任せます。どうしますか?」


「どう・・か・・」


 ショウの言葉を聞いて、必死にノイドに視線を送る生き残りの傭兵。

涙ぐみながら小刻みに首を振って、彼はノイドに命乞いをする。


「いや・・いいよ、もう。すまないなショウ君。俺のために・・殺しをさせてしまって・・」


「いえ、いいんです」


 そこまできてショウの行動の意図を理解したノイドは顔を伏せる。

ショウが3人の命を奪ったのは自分の怒りを晴らすためにしてくれたのだと理解して、同じ怒りを抱えながら冷静を保っていたショウに対して羞恥心を抱いたのだ。


「言ったからには約束を守ってもらう。・・もし守らなければお前らはこいつらと同じように死ぬことになる、いいな?」


「あ、ああ。わかったよ・・」


 そう言って縄を切られて解放されたランは、生き残りを引っ張ってニンデ村を後にした。

そうしてようやく村に平穏が訪れた。しかし村人たちの心には、同胞を失った深い悲しみが大きな傷を作っていた。





∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥


「いやー・・ほんとにあぶなかったっすね、ランさん・・おれ、まじで死を覚悟しましたよ」


 とぼとぼと街へと歩きながら傭兵はランへと声をかける。

彼は何も言わずただ真っ直ぐに歩き続ける。


「しかし、よくあんな土壇場であんな嘘をつけましたね!さすがランさんです・・」


「あ?どういう意味だ?」


 傭兵の言葉にランが振り返る。


「いや、褒めてるんです、尊敬ですよ。生き残るためとはいえあんなハッタリは思いつきませんよー」


「何いってんだお前。俺はうそなんかついちゃいねぇよ、言ったことは全部本当だ」


 ランの言葉に、傭兵は足を止めて凍りついた。


「え・・・それって・・・」


「300人はマジでそろってるぞ?・・・あぁ嘘っていやぁ俺はそれを止める気はないな、うん。それは確かに嘘ついた」


「ちょ!何でですか!やめましょうよ手を引きましょうよ!あんなやばい奴らとこれ以上関わりたくないっすよ!!」


「うるせぇ!!がたがた抜かすな!!・・どのみち俺が何と言おうと団長はとまらねぇよ」


「そ、そんなぁ・・」


 どうしようもないと悟って傭兵は肩を落とす。

またさっきの連中と闘わなくてはいけないなんて考えただけでも気分が悪い。


「ふんっ!いいから歩けボケっ!さっさとエリート・レントに帰るぞ!・・・ったくあのショウとかいうやつ覚えていやがれ」


 ペッとつばを吐くとランは街へと向かって歩き続ける。

脳裏にはショウへの報復の事ばかり考えていた。



∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥


「ショウ君!!はぁ、ショウ君!!」


「どうしたんですかノイドさん。そんな息を切らして」


 ニンデ村が襲撃にあった次の日、レイクビュ―にノイドが走ってやってきた。


「これを見てくれっ!!」


「これは・・?」


 ノイドが息も絶え絶えに、ショウに1枚の紙を渡す。

折りたたまれており、一度広げられた形跡がある。


「今朝、門に刺さってたんだ!弓矢と一緒に・・!」


「・・・これは」


 ノイドに言われるままに紙を広げると、そこには短い言葉が一つ。

この世界の文字を習いたてのショウにも読めるほど簡単なもの。


 赤い血でたった一言『戦争』と。




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