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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第三章
61/110

第57話 狼の陰謀と襲撃


「では・・話を続けても?」


 ボロボロの家。

テーブルと二つの椅子しかないその部屋で、奥の椅子に座るレールイは口を開く。その後ろには不気味なほどに何も言わず、動かないローブをかぶった人物が侍る。

レールイの声音は落ちついていて、平穏そのものである。先ほど彼の目の前にいるオードンが逃げだそうとしたことなど、まるで夢だったかのようだった。


「・・・目的は?」


「は?」


「・・目的はなんだ。金ならいくらでも払おう!だから!命だけは助けてくれ!!」


 初めはか細く、次第に大きくオードンは声を出した。

一瞬のうちに捕まり、再び席に戻された彼は、泣き叫ぶのは止めたが、レールイと違い平穏なんてものはなかった。

なにせ相手は敵国。それももっとも強大なものである。自分が王国の貴族というだけで殺される可能性があるのだ。


「落ち着いてください。初めに言ったでしょう、『いい話』だと。

 絶対に損はさせませんし、あなたを殺しもしない・・ほら、見てください」


 意識して落ち着いた声を出しながら、レールイはオードンに語りかけた。

不意に懐から何かを取り出すと、ソレをテーブルの上に置いた。ナイフであった。つまるところ殺す気がないと言う意思表示。

それを見て―ほんの少しではあるが―落ち着いたオードンを見て、レールイは話を続けようと口を開いた。


「ニンデ村」


「なに?」


「ニンデ村ですよ。聞き覚えがありますよね?」


「あ、ああ。それはもちろんだとも、私の領地下だ」


 レールイの口から飛び出た言葉に、若干の疑問を持ちながらも、オードンは彼の質問を肯定する。

『ニンデ村』。一言でいえばド田舎である。

作物は魔獣の被害により供給量は少なく、周りはガヴァの大森林によって囲まれ、一番近い都市のエリート・レントからは大分離れている。

それらを加味して、王の恩赦によって納税は年に一度のみ。村人にとってはありがたいだろうが、領主としては何のうまみもない場所であった。

しかもその場所は、自分が保有する領地群とは離れていて、特に干渉もしていなかった。強いて言えば最近魔獣討伐に駆り出したぐらいである。

そんななんの魅力もない村の名前がなぜ帝国側からでるのか。頭上に疑問符を浮かべるオードンに、レールイはすぐさま答えた。


「はっきり申し上げまして・・我々はその村が欲しい」


「・・ど?どういうことだ?」


「・・ニンデ村の立地は御存じでしょう?」


「ああ、街から遠く、辺りは魔獣だらけ。人が住むようなとこではないよ、本来はな」


 かの村の悪口ならば一晩中言い続ける自信がオードンにはあった。

なぜそんな村を、父は残したのか。そう思うたびに、先代オードンへの敬意は薄れていく。


「そう、まさにあなたの言うとおりです。

 街から遠く、人は立ち寄らない・・・しかしそこは依然王国内だ」


「んぅ?・・いや、お前の言うとおり・・だ、がっっ!まさか!?」


 未だ疑問を抱きながらレールイの言葉を咀嚼するオードン。

そして天啓のごとく、ある考えが打ち立てられた。


「せ、戦争をする気かっっ!?」


 王国内の村を制圧する。

その場所は人は立ち寄らず、可能性があるとすればそれは領主かその部下だけである。

では領主を抱き込み、村を戦争時に使える砦へと改造すれば・・?


 その考えに至って、オードンは声を張り上げた。

これは自分の命どうこうのレベルではなく、国家間の問題だと認識して。


「ええ、あなたの言うとおりですよ。ふぅーこれでやっと本題に入れますね」


「なにを・・なにをそんな軽く!これは国レベルの問題だぞ!」


「・・私は帝国、あなたは王国。

 仕える国が違う者同士、話し合いを始めた時点でそうなる可能性はあるでしょう。

 落ち着いてください、ここからがあなたにとってのいい話だ」


「・・買収か?」


「おお、これはこれは話が早い!そう、買収ですよ。ニンデ村を我が国に売ってください」


「・・そんなことをすれば、オードン家は裏切り者として王国に罰せられるだろう。リスクが高すぎる」


 確かに金は欲しかった。それはもう、のどから手が出るほど。

だが目先の金に踊らされて、その後の事を顧みないのはいくらなんでも馬鹿すぎる。


「もちろん、そんなことはさせません。

 ・・・これは機密事項なので詳しく言えませんが、帝国は戦争を仕掛けます。が、それはすぐにというわけではないのです」


「・・続けたまえ」


「いつになるかは言えません。しかし我々はそれが始まる前に、村を手に入れ準備をしなくてはならない」


「そう、なるだろうな・・」


「そこであなたの力を借りたいのです。

 お分かりの事と思いますが、この事は王国側に知られてはいけない。そのために領主であるあなたと協力する必要がある、戦争までね」


「いや、だからそれでは―――」


「そして戦争が始まった時、あなたは我が国にこう紹介されます!

 『かの者は王国に潜入し、皇帝陛下のために尽くした英雄である』とね」


「な・・に?」


「つまり、ここで我が国に協力していただければ、戦争後あなたは晴れて帝国貴族の仲間入りというわけです!」


 嘘くさい笑みを浮かべながら、まるで、物語でも話すようにレールイは言った。

しかしその言葉は、今まで自身の危険と、国家レベルの事態に巻き込まれているという恐怖以外感じていなかったオードンに、貴族らしく損得を考える時間をもたらした。


 レールイが提案したのは買収である。しかしその規模はオードンの想像以上のモノであった。

袋一杯の金貨を想像していた彼だが、提示されたのは金ではなく地位。帝国の手先となることだ。


「・・質問がある」


「どうぞ」


 オードンの言葉に流れるようにレールイは返事をした。そうオードンが言うのをわかっていたのだ。


「もしそれに私が協力したとして、私の帝国内の地位はどのようになる?」


「戦争での貢献度、皇帝のために費やした時間、王国内での地位。

 それらを鑑みれば、少なく見積もっても今以上の地位を得られるでしょう。『伯爵』以上です、それとそれに見合った領地も」


「そんなもの・・どこから?」


 オードンの質問にレールイはにやりと笑う。


「ここですよ、ここ。

 戦争に勝てば王国は帝国のモノだ。旧王国の土地は、戦争の功労者にふさわしいでしょう?」


「しかし・・勝てる見込みは・・」


「勝ちますとも。・・それともこのまま辺境領地の没落貴族でいいのですか?」


 レールイの言葉に、オードンは彼を強く睨む。

が、すぐにそらした。言われたことが図星だったことと、レールイの目が本気だということを物語っていたからである。


(このまま『没落貴族』でいいのか・・か。かつて王国中に轟いていたオードン家はいったいどこへ・・・。

 いや、こうなったのは私のせいではない。無能な父と、富にすり寄る家臣ども・・そして救いの手を出さない王国のせいだ)


 オードン家と言えば、歴史ある良家で、王国の柱。

王がかの家に助けを求めれば、すぐさま参上し知恵を貸す。両者は強い絆で結ばれている。


 そう、父から聞いてきた。

朝の食事の時に、叱られた時に、寝る前のおとぎ話の代わりに。

しかし現実は違った。無能な父は金を生まず、部下は金が欲しいとよだれを垂らすだけ。強い絆で結ばれているはずの王は助けるどころか土地を奪った。

これでは没落貴族と言われてもしょうがないだろう。『伯爵』という名誉ある地位は、今ではただの飾りとなり果ててしまった。しまいには敵国にも揶揄やゆされる始末。

玲瓏れいろうたるオードン家は死んだ。・・・・では、生まれ変わろうではないか。



 帝国貴族のオードン家として



「その話、受けよう」


 覚悟を決めてトーニ・モス・オードンは言った。

その様子を見てレールイは嘘くさい笑みを浮かべて拍手をする。


「それはよかった!では・・計画について説明しましょう」


「うむ」


「まず、村を制圧する手順ですが・・・」


「手順?そんなもの、村人を全員殺せば済む話だろう?」


「いえ、そう簡単にはいきません。・・ご存じないのでは?と思っていましたが―――」


「ん?何の話だ?」


「ゴブリンです。かの村にはゴブリンがいるのですよ」


「ゴブリンだと?そんなバカな、村人がゴブリンに支配されているとでも?」


 ゴブリンと言えば、思い浮かぶのは小さな人型の魔獣である。

素人が遭えば危険はあるが、しかしその強さは新米冒険者でも圧倒できるほど弱い。

もしニンデ村にゴブリンがいるとしたら、村人を支配せずに食うか殺すかしている筈である。が、税はきっちり収めているのだその可能性すら低い。

ゴブリンが農耕をしているなら話は別だが。

そう考えて鼻で笑ったオードンだったが、レールイの表情は変わっていない。その様子から段々と落ち着きをなくしていく。


「まっ!まさか本当に!?」


「ええ、そのまさかです。村人は健在、しかもゴブリンもいる。一緒に生活しているようだったと報告を受けています」


「そんな馬鹿な・・ゴブリンは本当にそこに住んでいるのか?別に住処があるんじゃ・・」


「その可能性を考慮して森に入るゴブリンを追わせましたが・・ガヴァの大森林は広く、見失うか魔獣のエサに・・・」


「そんなことが・・・いやっまて!たかがゴブリンだろう?それほど脅威でもない筈だ」


 あまりに現実味のない話に取り乱したオードンだったが、すぐに持ち直した。

魔獣と言えどゴブリンである。そんなものすぐに片付くはずだ。


「ええ、直ちに駆除しなければなりません。それで・・これを――」


「これは?」


 レールイの取り出したものに、オードンは視線を送る。


「傭兵団との契約書です。金は支払済みで、こちらの事情もある程度話してあります。あしがつくと面倒ですので、名目上は伯が雇用者ということで・・」


「なるほど・・これでゴブリンと村人を殺して制圧完了、というわけだな」


 下卑た笑みを浮かべてオードンは差し出されたペンで契約書にサインする。


「・・そううまくいけばいいが」


「ん?なんか言ったか?」


「いえ、なんでも・・はい、ありがとうございます」


 一瞬消えた嘘くさい笑みを再び浮かべると、レールイはオードンから契約書を受け取る。


「で、いつ始めるのだ?」


「はは、じつはこの傭兵団は金が大好きでしてね、前金を支払ったら『契約書は後でいいから』と・・」


「ほぅ?つまり・・?」


 笑いを一層強くして言ったレールイの言葉に、つられてオードンも笑う。


「もう、始まっています」


 その笑いを受けて、レールイはさらに嗤った。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ランさん、そろそろですか?」


 でこぼこのあぜ道をあるきながら、男が尋ねた。

周りには男と同じ装備―革の鎧を着て腰に剣を刺している―をしたこれまた男たち、計四人。(最初の男を合わせれば五人)

その先頭を歩く男が、歩きながら首だけ振り返ると、口を開いた。


「ああ、もうすこしだ。気合い入れとけ」


 先頭を歩く男―ランの言葉に、一同は笑みを浮かべた。


「気合いっつってもなぁ?」

「そうですよランさん、相手はゴブリンと村人でしょう?余裕じゃないですか」

「ばか、お前!相手はあくまでもゴブリン、現場に居合わせた村人は巻き込まれて死んじまうかもって話だろうが」

「はっはっは!そういやそうだったな!『獅子の爪』の名にかけて、それはふせがねぇと!」

「「「「はっはっはっはっはっは!!!」」」」


「おいお前ら、馬鹿話もその辺にしとけ・・見えたぞ」


 ランの言葉に笑いを止めて、前方に視線をやる。

目的地の名はニンデ村。マッシャルディーナ王国下の田舎村である・・・が。


「・・ランさん、あれほんとに村ですか?」


 男の言葉に、他の者も同意の意を示す。

見えるのは村に不釣り合いなほど大きな門。どこぞの砦のような風格を放っている。


「魔獣除けだろうありゃ・・おい、見ろよ!開いてやがる。今のうち行くぞ」


 そう言うや否や、ランは村に向かって駆け出した。あわてて男たちがそれに続く。


「はっはっは!!魔獣狩りだ!!」



∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥


「ん?なんだありゃあ?」

「あー?」


 刈り取った稲を運ぶ作業中、稲を持ったまま男はつぶやいた。

その男の言葉に、近くにいた別の男が顔を上げる。


「人か?」

「人だな」


 彼らの視線に映るのは、走ってくる人影。

独り突出していて、そのあとを何人かが追っているようだ。

革の鎧を着ていて、片手には――――


「おい!あれは!!」

「けっ!剣だ!!盗賊だぁー!!」


 叫ぶと男たちは稲を捨てるとすぐに、村へと駆け出す。

村には門があるのだ、盗賊から守ってくれる。


「おいおいなんだって・・・!!おい早くこっちにこい!!オイド!ナダ!門を閉めるぞ!!」


 村人が追われる光景を目にして、ニンデ村のノイドはすぐさま指示を飛ばす。

村外にある稲を収穫するために門を開けてしまっていたのだ。この門は頑丈な分重い。閉めるには大人が何人も必要だ。

走って逃げる二人を入れてすぐさま門を閉めようと動き始めるノイドだったが、それをするには時間が過ぎすぎていた。


「邪魔だウスノロ!!」

「あっがぁ・・」


 先頭を走る男――ランによって逃げていた男は背中をざっくりと斬られた。

飛び散る鮮血。稲は血で赤く染まり、その光景はニンデ村の人々に強いショックを与え―――硬直させた。

すなわち、門は閉まらない。


「きゃあぁあああああー!!」


 そのむごい光景を見て、反射的に村の女が叫び声をあげる。

見知った顔が、仲間が目の前で殺されたのだ。声を出すことでしかストレスを軽減できない。


「・・はっ!門を!」

「おせぇ!!」


 叫び声のおかげで、衝撃から立ち直ったノイドがすぐさま門を閉めようと動くが、その時にはランが門前まで迫っていた。

手には血に濡れた片手剣ハンドソード。今しがた目の前で人を殺した凶器である。

そしてその赤い刃が、次の標的へと狙いを定め――――


「ガァアアッッ!!」

「ああっ!?」


――――後方から弾丸のように飛び出したゴブリンが、ノイドを斬ろうと振るわれたランの剣を止める。

身体ごとぶつけられた勢いを殺せず、ランは数歩後退した。


「ノイドサン!!大長を呼んでくれ!!ここは俺たちが!」

「おいおいマジか!ははっ!ゴブリンがしゃべってやがるぜ、こいつは驚いた!」


 ランとつばぜり合いをしながら、ゴブリンが早口でまくしたてる。

彼はレイクビュ―の一員で、ニンデ村に柵構築作業の手伝いに来た男のゴブリンだった。他のゴブリン同様リードから訓練は受けているものの、いや、受けているからこそ彼我の戦力差がわかってしまった。

勝てない。自分では、この人間には勝てない、と。

そう思い立つとすぐに目標を「時間稼ぎ」に定める。幸い、先程まで大長であるショウと、オークのガードがこの村にいたのだ。彼らならば負けるわけがない。彼らが来るまで、「いい人間」であるニンデ村の人々を守るのだ。


「わ、わかった!待ってろ!すぐに呼んでくる!!」


 危機が去ったのを遅ればせながら理解して、ノイドはすぐさま森へと駆け出す。

常人なら迷うだろうが、走るのはノイド・イーエルその人である。

レイクビュ―とニンデ村をつなげた功労者であり、両者間をもっとも行き来する唯一の人物だ。よっぽどのことがない限り―時間は必要だが―無事にショウに会えるだろう。


「おいゴブリン!剣なんか使って剣士気取りか?獣のくせに滑稽だぜ!!」


「・・・・・」


「おいおい!何か言えよ!」


「・・仲間に手を上げるやつに言う言葉などない!!」


「ふっ・・そうかよ!!」


 ゴブリンの言葉を鼻で笑うと、剣ごとランはゴブリンを蹴飛ばす。

蹴られた衝撃でよろめいたゴブリンの隙を狙って、すぐさまランは追撃の刃を振るう・・・が。


「させんっっ!」

「ちぃ!」


 現れた別のゴブリンによってそれは弾かれた。


「ぞろぞろと・・何をそんな必死になってんだぁおまえら」


 剣のつばをとんとんと肩に当てながらランはゴブリンたちを睨む。

最初に飛び出してきたゴブリンに、後ろからやってきた者達を加え、計六人のゴブリンたちがそこにいた。


「もーっ早いっすよランさん」

「おめぇらが遅いんだろうが!てか途中から歩いてたろ!!いくらなんでも遅すぎるぞ!」

「あ、ばれました?」

「でもいいでしょう?ランさんだけで十分じゃないですかコレ」

「仕事しろお前ら・・俺は1人殺ったぜ」

「おいおい、お前がやったのランさんがってない方の村人だろ!ゴブリンをやれよゴブリンを」

「あーっうるせぇお前ら!!見ろ!!」


 怒鳴って黙らせるとランはゴブリンたちを指さす。


「六匹いる。俺が二匹もらうから、おまえら一匹ずつやれ、いいな?金もらう以上仕事しろよ、もしくは団長に怒鳴られるかだ」


「うへぇ」

「それは勘弁・・」

「おれは仕事したのに・・・」

「やりますよ!やりますから!」


 想像したのか、青い顔をしながら傭兵たちは抜刀する。

その行為をみて、すでに剣を構えていたゴブリンたちにも緊張が走った。


「さぁて・・俺の相手はどいつだ?人間もどき」


 そう言うとランは獰猛な笑みを浮かべた。

 



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