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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第二章
55/110

第54話 湖の見える場所

長めです


「ふぅーここか」


オークに案内されてやって来た部屋の前、覚悟を決めるようにショウは深い息を吐いた。

オークの頭領とは、言ってしまえば短い付き合いである。しかしながら、その短い付き合いのなかで頭領は強烈な印象をショウに与えていた。


原因は頭領の尊大な態度である。

オークを至高の種族として、他種族を見下すその性格は、かなり、ショウにとってやりにくく、付き合いづらい性格だった。

それゆえに呼び出されて来た今でも、またなにか言われるのではないかという不安は拭えなかった。

会う前にため息の一つでもしておかなければ、彼と話す気持ちが作れないのだ。


コンコン


一応の礼儀として木でできたドアをノックすれば、「入れ」という声が返ってきた。


「失礼しま―――」

「――すまなかった」


相変わらずの態度に若干の苛立ちを覚えながらドアを開けたショウに飛び込んできたのは、あろうことか、あのオークの頭領であるラ・ゴールが頭を下げて謝る姿だった。


『もしかしたらお礼かもしれませんよ?洞窟の主を倒したのもそうですが、ガードがトラウマを克服したのもショウ様のおかげですから、ない話じゃないでしょう』


ここに来る前に、リードがいっていた言葉がショウの脳裏をよぎった。


(いやいやいや、まさか、そんな・・え?・・おおおちつけ!一回話を聞こう!)


これ以上ないほど脳内で混乱しながら、ショウは精神を落ち着かせるように勤める。

目の前には未だ頭を下げ続けているゴール。何度みても信じられない光景である。


「ちょっと待って!とりあえず顔を上げてください」


無言の内に顔を上げるゴール。

その表情は心なしか今までのものと違って見える。


「ああ、すまない。心が逸ってしまったようだ。座ってくれ」


「ああ、はい」


言葉は落ち着いていて、間違いなくオークの頭領たる風格はある。

だがしかし、前あったときと比べると、いくらかその威風が落ちたような印象をショウは受けた。


ゴールの言われるがままに、彼の対面に腰かけるショウ。

ちなみに部屋に椅子はなく、両者とも座布団のようなクッションの上にあぐらをかいている。


「・・それで、『すまなかった』というのは?」


ゴールが謝るという衝撃的な展開から、やや回復したショウはゴールに問いかけた。

展開が読めず、なにが起きてるんだというのが正直なとこである。


「・・ガードのことだ。試合を観て驚いた・・あれは君の力だろう?」


今までとはうってかわった柔らかい態度でゴールは言った。


「いや、俺のっていうか・・あれはガードが自分で乗り越えたんだけど」


「だとしてもきっかけは間違いなくショウ、君だろう。

我らが何年も願っていた変化を・・ガードが乗り越えるきっかけを与えたのは・・。

本来なら我ら・・いや、頭領であり父である我がやるべきだったことだ。その役目を果たしてくれたことに感謝と、そして担わせてしまったことに対する謝罪がしたい。」


ゴールの本音の吐露であった。

そこまで聞いてショウは彼の態度に納得した。今目の前にいるには頭領ではなく、息子を思うただ一人の父親であると感じて。

強い言葉や、頭領らしい尊大な態度は、今この場には必要なく、父親として話をするのに威風など纏わなくてよかった。


「どうして―――」


ショウはゴールの態度に納得して、完全に落ち着きを取り戻すことができた。

だからこそ、彼の頭には新たな疑問がわいた。


「どうしてそこまでガードを心配していながら、あいつにあんな態度を?

・・ガードからはあんたはやけにガードに冷たく当たってたって聞いたけど?」


そう、解せないのはこの点だった。

ゴールの言葉からは、ガードに対する思いやりが感じられる。

ならなぜ冷たい態度をとったのだろうか。


「・・我が父は厳しい人だった。我が幼少の頃より戦士としての訓練をつまされ、文字よりも早く、戦鎚の握り方を覚えたものだ。

 父は部族内でも指折りの戦士で、息子である我にも、自分のような戦士になってほしかったのだと思う。ゆえにあれほどまでに厳しかったのだと。・・・そしてそれは、我が『元祖の怒り』を発現した時も変わらなかった」


「・・・・・・」


「いや、むしろ厳しさが増したと言える。『元祖の怒り』はすぐれた戦士の証。才能の証明。自らの才能が引き継がれているのを知って、父はおおいに喜び、我により過酷な訓練を課した。

 『その力を扱うためには、それに負けない程の強さがいる』とな。我は父に従い死に物狂いで特訓した。そして『元祖の怒り』を扱うにたりるほどの強さを身に着けたのだ。

 ・・・正直、最初は怖かった。突然現れた力のあまりの大きさに、自分が飲み込まれてしまうのでは・・と。しかし、父の地獄のような特訓がそれを御する術を教えてくれたのは事実!だから――――」


「―――だから、ガードにも同じことをした、と。親父さんのようにガードに厳しく当たることで、『元祖の怒り』の抑え方を教えようとしたってことか」


「・・うむ。その通りだ」


 重々しく言い放たれたゴールのその言葉には、後悔の念がうかがえた。

事実そうなのだろう。だからこそ、ゴールは開口一番にショウに謝罪したのだ。


「しかし、それは失敗だった。ガードは我の時とは状況が違っていたのだ。

 歳は我よりも若く、成人などまだまだほど遠いころであった・・・それにガードは『元祖の怒り』で兄弟を傷つけてしまっている。・・・それがどれだけあやつの心を痛めつけたか、我は鑑みることができなかった。

 我はアレの怖さを知っていたはずだというのに、我が父をなぞって厳しく当たることしかできなかったのだ。最後の最後、ガードが鍛冶師になるまで我にはそれしかできなかった。

 頭領という立場ゆえに、息子ばかりに構っていられず、厳格な頭領としての面目を立たせるため、余計に強く当たってしまっていた。・・・・いや、言い訳だな、我はオークの掟に縛られ、父の教えに固執する、ダメな父であり、ダメな長だ。

 しかしそんな我にも最低限、一オークの親としての矜持がある!ショウよ!」


「は、はい!」


 急にテンションが高まったゴールの言葉に、おもわずショウは返事をした。


「今一度感謝と謝罪を。感謝は我が息子を解放してくれたこと、謝罪はその役目を父である我が果たせなかったこと。

 ・・本当にありがとう、そしてすまなかった。」


 ゴールは再び頭を下げた。

深く深く、そこには尊大な態度でふるまう頭領の姿はなく、人間と変わらない、子を思う一人の父親の姿があった。

オークの王は王冠を脱ぎ、戦士は戦鎚を武器棚に戻していた。


「ラ・ゴールさん」


 ショウの言葉にゴールはゆっくりと顔を上げた。


「あなたの気持ちを聞けて良かった。・・初めてちゃんと話せた気がします」


 言葉に敬意をこめて、ショウは笑って手を出した。


「ああ・・。これは父親だけでなく、頭領としてもお願いする・・・ガードを頼む」


 ショウの言葉に、今までの会話を思い出したのかわずかに笑ったゴールは、差し出されたショウの手をしっかりと握った。

お互いの立場や状況から、まともに会話できなかったゴブリンの長と、オークの頭領は、今初めて、種族を超えて友好を結んだのだった。


 ガタン!


「頭領!!」

「どうした!!騒がしいぞ!!」


 そんな感動的な場面に雰囲気をぶち壊すほどの大きな音を立てて木の扉が開いた。

入ってきたオークの表情から、ただ事ではないと感じたゴールは、尊大な態度を即座にとりながら大声で叫ぶ。

その二人の様子を見て、ショウにもまた緊張感が走った。


「侵入者です!!」


「侵入者?」


「いや、俺の仲間じゃない・・はずだ」


 侵入者と聞いてちらりと視線をショウにやったゴール。

ショウは即座に否定する。自分の仲間が命令もなしに勝手に動くはずがないと。だが煮え切らないのは、「もしかして勝手に動かざるを得ない程の事態に陥っているのでは?」という考えがよぎったからだ。


「人間です!!頭領!!」


「人間だと!?・・あいつか!!」


 オークの報告に部屋を飛び出すゴール。

それに続いて報告に来たオーク、そしてショウも続く。


 そしてそのあとに、密かに涙を流していたガードも続いた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「何をしている!!レールイ!!」


「あぁゴールさん、どうもこんにちは」


オークがラの一族の頭領のラ・ゴール。

先程までの父親として顔の上より、一族を束ねる長としての皮をかぶった彼の威厳溢れるその怒声に、何の痛痒も受けていないと言った様子で人間は答えた。

人間の男の名はレールイ。ゴール達と取引をしている男である。


「・・答えろ、レールイ。何をしている」


「いやぁこれは―――」


 ショウに初めて会った時の何倍も顔を険しく・・いや怒りに染めてゴールは言った。

口調は冷静な頭領たるものだが、しかしその言葉には圧倒的な怒りの感情が乗っていた。

それも仕方がないことだと言えるだろう。なぜならゴールの視界には――――



 ―――血まみれで倒れるオークの姿があったのだから。



「――彼らから仕掛けて来たんですよ、こんな大きな体の人たちにいきなり襲いかかられたら・・・そりゃあ自衛のために反撃するのもやむなしって感じですよね?」


 ケラケラとレールイは笑った。


 そんな彼の態度に一層怒りながら、表面上には出さぬように努め、ゴールは現状を確認しようと目を走らせる。

開いていない門。そのすぐ前でなお笑い続けるレールイ。手には二本の血に濡れた短刀。そのすぐそばに倒れる二人のオーク。門番担当の戦士のオークである。


(!まだ生きている・・一刻も早く治療せねば!!)


 腹を深く切り裂かれているものの、二人とも呼吸をしているのがわかる。

焦る思考をなんとか冷やしながら、ゴールは代わりに戦鎚を強く握りしめた。


「・・そこに倒れている者達を治療したい。何もするなよレールイ?」


「いやですねぇ、俺はなにもしてないっていうのに!・・まぁいいですよ、ほぉら!!」


 ガッ

醜悪な笑みを浮かべながらレールイは足元に転がるオークを蹴り飛ばした!

身長二メートル三十センチはあろうという巨漢のオークが、軽々と対面にいるオークたちの元へと飛ばされる。


「貴様ッ!!何を!!」


「もう一人行きますよー!!」


 激高するゴールに、はっはっはと笑いながらもう一人のオークをレールイは同じように蹴り飛ばした。

しっかりとソレを受け止めたゴールは丁寧に他のオークに渡し、治療するように命じる。


「おのれ!人間め!!戦士を足蹴にするとは覚悟はいいのだろうな!!?」

「礼儀を知らぬ愚か者が!!我が戦鎚の錆にしてくれる!!!」

「ウウウォオォゥゥォォオ!!俺は我慢できんぞ!!今ここで、やつを冥府の女神の供物にしてやる!!」


 ガッゴォォオオキィィン


「静まれ!!我が今、やつと話しているのだ!!」


 戦鎚の長柄を思いっ切り地面に叩きつけて、ゴールの怒声が飛んだ。

ぶつかった部分の石畳は崩れ、その頭領たる威風をもった声によって、怒り狂っていたオークたちは冷静さを取り戻した。


「いやぁー良かった!これだけのオークの皆さんによってたかられたら、ひとたまりもなかったです!ありがとうございますゴールさん!」


 相変わらずの笑みを浮かべ、スッともっていたナイフをレールイは懐にしまった。

詭弁である。明らかにオークたちを相手取る用意はあり、またそれだけの実力を有している。

それを見抜いたゴールは他のオークたちを止めたのだが、レールイがまだこの場にいる限り危機は去っていなかった。


「貴様・・何しに来た?」


「何しに?いやだなぁーお忘れですかー?」


 嘘くさい笑みを浮かべながらレールイはポリポリと後頭部を掻いた。


「・・今月分の武器がまだですよ。約束、忘れたんですか?」


 ゾクリ

ゴールが、オークが、ガードが、その眼光にさらされたこの場にいるすべての者達の背筋が凍った。そしてそれはショウでさえも例外ではなかった。

さながら蛇のような感情のない、冷徹な視線を放つレールイに、先程までの雰囲気は一切なかった。

時が凍てついていた。一秒にも満たないその時間、ゴールを含むオークたちは呼吸するのを忘れる。

額から、一筋の冷や汗が流れたところで、さすがは頭領というべきか、ゴールはハタと意識を取り戻し、つばを飲み込んだ。


「・・その約束は、もうなしだ。貴様にはもう用はない」


「はぁ?」


 正気を取り戻したゴールが、自らの戦鎚を潰すほど強く握りながら言った言葉に、レールイは全く意味が分からないといった様子で首をかしげた。


「貴様に用がないと言ったのだ。もう貴様から食料をもらう必要がない、よって武器を渡す必要もないのだ」


「餓死したいんですか?・・いや、そんなわけがない、まさか・・なるほど、別の協力者が現れた、そういうわけですね?」


 レールイの質問に、顔色を一ミリも変えずゴールは無言を貫いた。


「・・はぁー相変わらず傲慢な人だ。だからオークは嫌だとあれほど・・・」


 ゴールの態度を見て、自身の仮説に確信したレールイは、ぶつぶつと呟きながら頭を抱えた。

嘘くさい笑みを浮かべる彼。人を射殺すほどの鋭い眼光を放つ彼。頭を抱える彼。

さまざまな顔を持つレールイだが、どれも嘘くさく、そして本物のようだった。


「あーあ、こうなったら仕方がないなぁ・・・殺しますか」


「な―――」


 あまりに自然と組み込まれていたために、耳を疑ったゴール。

その次の瞬間、彼の目の前には先程見た冷徹な眼光を放つレールイと―――彼が振るう白刃が迫っていた。


 その圧倒的な速さに、オークたちはおろか、ゴールでさえも反応できず、いやに引き延ばされたその一瞬の中で、自身の首元に迫る刃に視線を送ることだけが、唯一ゴールにできることだった。


 迫る刃。笑うレールイ。


 オークたちが気づくころには、短刀はゴールの首筋にあと数センチの所まで迫っていた。


 その後ろで叫ぶガード。手を伸ばしながら走ろうと懸命に足を動かす。


 間に合わないだろうと思っていた。いや、感じていた。どうあがいても自分では追いつけないと。


 そう、ガードは追いつけない。他のオークたちもその刃を防ぐことは叶わないだろう。


 


 しかしこの場にはオークではない者が一人だけいた。その者はレールイが駆けると同時に飛び出しており、短刀が振るわれたその瞬間にはすでに――――


 キィィイイイイィン


「させるか!この野郎!」

「ほぅ?誰かな君は」


 ―――鉄よりも固いその爪を短刀を防ごうと振るっていた。


「ショウさん!!」


「離れろ!!」

「おっと!」


 ガードの叫びを背に受けながら、もう片方の手で腰から抜いた片手剣を牽制の意をもってショウは振るった。

余裕(よゆう)しゃく)々といった様子でそれを躱すと、レールイはそのまま後方へとジャンプして退いて行った。


「ショウ・・」


「ゴールさん。あいつ強い、下がっててくれ」


 片手剣をブンッと一振りして、背中にゴールをかばう。

その様子をケラケラと笑いながら、レールイは手元で短刀をもてあそぶ。


「ゴールさん!誰ですそいつは、あんたがオーク以外を砦に入れるなんて・・・俺興味湧いちゃうなぁ」


「悪いけど、この人は殺させない!俺の大事な協力者だからな」


「協力者ぁ?・・なるほど君が・・・じゃあ君を殺れば俺にももう一度チャンスあるね」


「いーやないね。俺に勝てるわけがない」


 強い言葉で反論するショウ。

その心中では冷静に相手の戦力を見定めていた。

ほんの一瞬の接触であったが、その一瞬でショウはレールイの強さを認めていた。

ゾル、リード、ゴブリン、三角猪トリプルボア尻尾猿テールエイプ、洞窟の主、ガード、と様々な敵と戦ってきたショウをして、中でも最上位にランクインすると断言できるほどの強さを彼はもっていた。

ゆえに自らを鼓舞するため、敵の強さにのまれないためショウは強い言葉を吐く。吐かなければ、レールイの何か異質な強さに負けてしまいそうな気がするのだ。


「へぇー随分と自信満々なんだねぇ。その自信、虚勢かどうか・・・試してみようかなっ!!」


(来るっ!!)


 ピタッ


「?」


 レールイの雰囲気で、仕掛けてくると感じて構えたショウに対して、レールイは一歩踏み出したままぴたりと動きを止めた。

頭に疑問符を浮かべながら、しかし油断せずにショウは彼を睨み続ける。もしかしたら何かの作戦なのかもしれない。


「なんです・・えぇ今、は?・・どういう、、ん?ちょっ・・もーはい、はい、はい、・・わかりました、はい、では後程」


 棒立ちになったままぶつぶつと何か話すレールイ。

何が起こっているのかわからないまま、ショウとオークたちは警戒しつつ彼に熱視線を送る。

やがて口を閉じると、「やれやれ」と首を振って、レールイはだるそうにショウの方を向いた。


「えーっと、そこの君、悪いけどまた今度ね。・・あとゴールさん、約束の件はなしってことでいいです、じゃっ!達者で」


 最初の嘘くさい笑顔を張り付けて―しかし少しだるそうに―それだけ言うと、レールイはさっさと踵を返し門の方へと走って行った。

何をするのかと思えば、門の前まで行って跳躍し、短刀を投げつけて門の中腹部分に突き刺すと、それを足場にさらに跳躍。あっという間に外へと飛び出して行ってしまった。(短刀に括り付けていた縄で引っ張って回収することを忘れていなかった)

見上げるほど大きい門を、開けずに飛び越えてきた謎を目の前で解かれたところで、呆然と固まっていたショウ、ゴール、ガード、その他オークたちに正気が戻る。


「えーっと・・なんていうか・・」


「・・うむ。皆の者!『洞窟の主』を討ち取りし、我が息子の盟友であるショウが、我らを敵を撃退したもうたぞ!!彼に感謝を!!」


「「「「オオォオォオオ!!感謝を!!」」」」


 ゴールの言葉にオークたちは一斉に叫ぶと、各々感謝の言葉を述べる。

訳が分からず、照れながら視線をやればガードは笑っており、次にゴールを見れば、彼もまた密かに笑っていた。


「・・今宵の宴でそなたが親族になることを発表する。そのためにこういった実績が無いことに越したことはないからな」


「はぁ・・そういうものか」


 嘘ではない。が、完全な真実でもない。そんな事実に釈然としないショウであったが、オークの感謝は悪いものではなく、照れながら笑顔を浮かべるのであった。

笑顔を浮かべるその一方で、「レールイとは何者なのだろうか」と思案しながら・・。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 かがり火に火をともし、夜の闇をはらう。

地べたに胡坐をかいて酒をカッ食らう緑の巨躯を誇るオークたち。目の前には、通常の何週間分もの食料を使った贅沢な馳走も数々。

周りには太鼓が並んでいて、先程まで陽気なリズムを奏でていた。

今宵は宴。カ―マード砦は今夜だけは眠ることを知らなかった。

今回の宴は、何日も苦しめていた人間のレールイ、『洞窟の主』の討伐。そして、新たな親族の誕生のお祝いだった。


 オークという種族は基本的に外界と関わろうとせず、世界はオークだけで成り立っている。

食料は狩りで手に入れ、服や武器は自分たちで作る。生涯を通して誇りをもって、先代の教えを守って生きる。

しかし時に、彼らはオーク以外の種族と関わるときがある。

今回の食糧難という事情から、レールイと取引した件があるが、これは例外であり、彼らオークが他種族と関わるのは基本的に自分たちが『親族』と認めた種族たちである。


 オークの親族とはそれすなわちオークの協力者であり、オークにとって大恩ある人物の事を言う。

これは昔、『我はオーク以外に力を貸さん』と豪語していたあるオークが、自分を助けてくれた人間に恩義を返す意味で助けた事を、あらゆる人々に突っ込まれ皮肉気に、『オーク以外には力を貸さないんじゃないのか』と言われた時に、『やつは我が親族である。ゆえになにも間違ったことはしておらん』とむりやりその場を収めたということが起源となっている。

つまり、自らを助けてくれたものは、誇りあるオークの仲間と認め、その者には協力してもよい。という、いかにもオークらしい教えであった。

だが、彼らの性格上、なかなかに親族と認めることはなく、今回、ゴールが頭領になって初めて、ショウが『親族』と認められることとなった。

そうゴールが宣言した時、反対の者はいなかった。いたとしても、頭領の決定は絶対であって従うほかないが、それ以上に、心より、砦のオークたちはショウを認めていた。

凶悪な洞窟の主を討伐し、ガードを戦士として返り咲かせ、頭領を身をていして救った彼の実績を知るものの中に、それを反対する者などいるはずがなかった。


 それが、宴の序盤。ゴールと酒を酌み交わし、親族と認められたショウは大いに笑った。

そして今、辺りに神妙な空気が漂う中、ショウは彼らの真ん中にいた。

先程までなっていた太鼓は止み、誰もが食事の手を止めていた。

いやに緊張感のこもった視線を浴びながら、ショウは立っていた。眼前にはひざまづくオークのガード。これから行われるのはショウにとって二回目のあの儀式である。


「さてガード、準備はいいか?」


「はい、いつでも」


「そんな緊張しなくてもいい。すぐに終わるから」


 緊張をほぐそうと笑ったショウに、ガードも微笑を浮かべて返事をする。

ガードはこれよりショウを主と認め、名を授かるのだ。リードがリード・ホブソードになった、『誓約の儀』が今、行われようとしていた。


(やっぱり緊張するよな・・よし、とりあえずやるか)


 ≪スキルの発動を確認。個体名ラ・ガードに『誓約の儀』を行います≫


 スキル≪血の誓約≫を発動したショウに感情のない声が響く。

瞬間、ショウの頭に儀式のイメージが流れるが、二回目なのであわてずショウは受け入れる。


「ラ・ガードよ・・従属の誓いをたてよ」


 威厳溢れるどこぞの王のような口調でショウは重々しく言った。


「はい・・。我、ラ・ガードは貴方を主と仰ぎ、この身をあなたに捧げることを誓います。

 我が業をもって主に力を、我が巨躯をもって主の盾となりましょう」


 リードの時とまた違った誓いをガードはたてる。

鍛冶師であり、戦士であるガードらしく、またそれぞれに誇りを持つオークらしい誓いであった。


「従属の誓い・・確かに聞き届けた。我が血をもってお前を臣下と認めよう。手を出せガードよ」


 言われるがままに手をおわんの形にして差し出すガード。

その手の上で、ショウは爪を立てて自分の手を握る。爪によって裂けた傷口から血が零れ落ち、やがてガードの手一杯になると、ショウは手を引いた。


「飲み干すがよい。お前に我が力の一端を授けよう」


「ありがたく」


 ガードは軽く礼をすると、その両手にたまった血を、一息に飲みこんだ。


「我が力はお前に授けられた。よってお前に我が臣下の証として魔名を与えよう・・・オーテクだ。お前はこれよりラ・ガード・オーテクとなった!誓いを忘れず、我がもとで忠誠を尽くせ!」


 前回はここで名前のシンキングタイムがあったが、今回は前回の経験を踏まえて事前に考えていたおかげでスムーズに事が運んだ。

ちなみに、名の由来は、オーク+テクニックである。リードの時と同じく、種族名とあわせて語感のいいものを選んだ。


「このラ・ガード・オーテク。今一度、主に忠誠を誓います。我が主に栄光あれ!」


 ガードがそういったところで、二人の頭の中に流れていたイメージが消えた。それの意味するところは儀式の終了であった。


「ふぅーおつかれ、終わりだよガード」


「・・ほっ、そうですか。何だがドッと疲れましたよ・・」


 儀式がおわって疲れた顔で微笑みあうショウとガード。

それを聞いた周りのオークたちは、「何かすごかったな」と近くにいるものたちで感想を言い合う。


「さて・・じゃあ、め、し・・で・・も・・」


 自分の席に戻ろうと歩き出したショウから、ふらふらと力が抜けていく。


(あれーまたか・・また気絶・・)


 前回よりはるかにスムーズに儀式を終わらせたショウだったが、今回も気絶は免れないようだった。

どさりと倒れたショウを見て、唯一それを覚悟していたリードだけが、いち早く動いたのだった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ただいまー!!」


「おぉ!これは大長!よくお戻りになられた!おーい皆の者ぉ!!我らが長が戻ったぞー!!」


 ガードの名づけから一週間、出発してから実に一か月ぶりに、ショウは自分の家に戻って来た。

出迎えたのは老ゴブリンのガン。群れ一番の陽気者で酒好き。ゴブリンたちの教育担当の一人である。


「ただいま、ガン。なにかかわったことあるか?」


「それが―――」


「「「「大長!」」」」


「おー!インエ!コーガにダイにザラまで!元気だったか?」


 ガンの言葉をさえぎって、現れたのは隊長格のハイゴブリン達。

品性のあるインエ、体の大きいダイ、ガン並みの陽気者のコーガ、無口なザラ。かつてそれぞれ群れを率いていた者達である。


「長、久しく」


「おう、バル、ボル。腕はなまっていないだろうな?」


 元々リードの群れ出身のバル、ボルもショウの後にリードに挨拶をする。


「あーっ!やっほー!ショウくんにリード!久しぶりだねぇー!!」


「おーリーシャ!言っても一か月だけどな」


 やけにハイテンションな様子で現れたのはダークエルフのリーシャ。群れ随一の弓の使い手で、ガンと同じくゴブリンの教育を任せている一人であり、ショウに魔法を教えた者でもある。意外にハイスペック。


「大長、お見せしたいものがあります」


 相変わらずの礼儀正しさと、貴族のような品格をもってインエは言った。


「こちらへ・・」


 インエに誘導されるままにショウとリードは歩く。

その様子をやけに他のゴブリンたちがにやけながら見ているのが不思議である。

だがそんな謎も数秒後には解消された。


「これは・・・」


「おお、頑張ったのだな」


 ショウとリードの眼前に広がるのは、木でできた家が建ち並ぶ光景。

それ自体には何の驚く要素はない。それらが一か月前はなかったということを知らなければ。

インエ達ハイゴブリンと、その群れのゴブリンたちが一気にやってきたことで足りなくなった武器。それともう一つ密かに足りないものがあった。

それが家である。そしてその家―おそらく群れ全員が入れる分―が帰ってきたら建っているのだ。ショウたちが驚かないのは無理というものだろう。


「新参者である我らが、いち早くお役にたてるようにと、我らの分の家を建てさせていただきました!」


「インエの提案です、大長」


「はっはっは!いやー骨が折れましたわい!」


「・・頑張りました」


「私も手伝わされたんだからー!!・・・けっこー無理やりね」


 インエ、ダイ、コーガ、ザラ、リーシャと思い思いに感想を述べる。リーシャは本当に疲れた様子である。


「皆・・よくやってくれた。ありがとう」


 ショウは長らしく配下をねぎらう。その様子を見て皆満足そうに笑った。


「うわーこれすごいですねー」


 そんなショウの背後から、いきなり何者かの声が響いた。

群れのゴブリンたちは何者かと構えるが、その正体を知っているショウは、手をかざして落ち着くように指示する。


「えー紹介します。こちらにいるのは新しく俺たちの仲間になったオークの、ガードです」


「どうも、ラ・ガード・オーテクといいます。・・こんなにゴブリンがいるとこ見るのを初めてなんで不思議な気分です」


 そう、背後から現れた人物こそ、今回の旅の目的である鍛冶師であり、ショウに忠誠を誓ったガードであった。

『誓約の儀』が終わり、ショウが気絶から覚めた次の日、ショウ、リード、ガードの三人はカ―マード砦を後にしていた。

ガードが砦を出ていく時、最後まで尊大で厳格な頭領であったゴールだったが、ガードがこっそりと、ショウとの会話を聞いていたことと感謝を述べると、耐えられなくなりこっそりと涙を流していた。


 そんなガードは≪血の誓約≫のおかげで力がまし、リードが小鬼人ホブゴブリンから人子鬼ホブロンに進化したように、オークからオーク・ガンドへと進化していた。

身長はやや伸び、身体は引き締まったものの依然筋肉の隆起はすさまじく、銀に近い白色だった髪色は若干赤みががり、決定的に変わったのは、身体中にうっすらと紋様が浮かんだことだった。

ガード本人いわく、「体が軽くなり、力が増しました」らしい。

ちなみに、ガードが遅れてやってきた理由は、道を覚えるために辺りを少し散策していたためである。


「これが・・あの・・」


「うむむ・・でかいな」


「これは力が強そうだな!!」


「・・でかい」


「えーっ!これが本物のオークさんかぁ!!ねぇねぇほんとに火を吐けるの??」


「え、火?あ、いや吐けないですけど・・」


「おーい!一旦落ち着け!質問はたくさんあるだろうけど、明日もガードはいるから!今は旅の疲れを癒させてやってくれ」


 ショウの言葉に、次に質問を繰り出そうとしていたゴブリンたちは口をつぐんだ。

リーシャは「なんだ吐けないのか・・」としょんぼりとしていて、ガードは申し訳なさそうにする。


「えーっと、とにかく!本日よりこの―――」


 言葉途中に止まるガード。

頭をひねって頭上に疑問符を浮かべている。


「どうしたガード?」


「あのーここって名前ないんですか?」


「え?」


「確かにそうだな・・」


「ほんとだー!!」


 そういえば、とショウは思う。

いつも自分たちを表す時は群れ、といい、この住んでる場所は住処と言っていた。

でもよくよく考えてみれば、いまこの場所には当初は三十人しかいなかったゴブリンが、百五十以上いるのだ。これは群れというよりは村といっても過言ではない勢力である。


「ならば大長よ、今つけてしまえばいいではないか」


「え、俺が?」


 ガンの提案にショウはたじろいだ。


「それはそうでしょう。ショウ様以外に誰がつけるというのですか」


「はいはーい!私が代わりにつけようか?えーっとー―――」


「リーシャ先生。ここは大長に任せるべきですよ」


(うーん・・どうするかなぁ・・)


 悩むショウ。

自分たちのグループに名前を付けるなんて初めての経験である。何か特別な意味を持たせたい気もするが、どうにも思い浮かばなかった。


「ショウ様」


 そんな中、リードが口を開いた。


「なにも難しく考える必要はないと思います。ショウ様が、皆にどうなってほしいか、皆と何をしたいか考えればいいのです」


「俺が何したいか・・・」


 ショウの夢。それは種族問わず皆が平等な世界の実現である。

しかしいったい、そんな夢をそう名前にこめればいいのか。


(うーわからん!教えて!ゴブジイーー!!・・・はっ)


 心の中にいるゴブジイに助けを求めるショウ。


 そして脳裏に閃くものがあった。


「・・レイクビュー」


 それはかつてゴブジイが言っていた言葉。ショウも共感したゴブジイが好きだった景色にちなんだもの。


『いつかこの素晴らしい景色を皆で見れたら良いのにのう』


 ゴブジイが湖と呼んだ、あの池の景色。種族問わず皆で見たいと願ったあの景色。

湖の景色。つまりレイクビュー。意味はゴブジイの願いそのもの。


「レイクビュ―ですか・・いい響きですね」


「うん。僕も好きです」


「うーん、私の『皆で仲良く最高パーティー』並にイイね!!」


 リードを筆頭にそれぞれ高評価を下す仲間たち。


「よし!決まった。俺たちは『レイクビュ―』だ!」


 こうして、かつてリードの群れだったそれは、ダークエルフ、四人のハイゴブリンとその群れ、オーク・ガンドのガードを加え、『レイクビュ―』となった。

ショウが束ねるその勢力は、その名のもとに同じ景色に向かって歩き出したのだった。




                                                           第二章 完






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「≪呼出コール≫」


 うっそうと茂る森の中、男は手に魔石を握りながら魔法を唱えた。

魔石に封じられていた魔法が、男の言葉によって発動し、男の意思が目的の相手につながる感覚を味わう。


『誰だ』


「俺です。レールイです」


 魔法の効果によって、離れた相手とつながった男、レールイは話す。


『おぉ、今回はご苦労だったな。で?何の用だ?』


「何の用だって!あなたが『引き揚げろ、事情は後だ』って言ったんじゃないか!事情を説明してくださいよ!」


 とぼけた様子で返答する会話相手に内心ルイーレはうんざりした。

魔法越しでも伝わる相手の態度に、「相変わらず苦手だ」とため息をつく。


『ああ、オークの件か。事情って言っても、もうあいつらに用がないから退かせたまでだぞ、余計な戦闘は避けるべきだろう?』


「用がないってどういう意味ですか?あいつらの武器は・・」


『ああ、もう必要ない。十分すぎるほど集まったからな。それにあたって他の班も撤退させた、お前も帰ってこい』


「他の班・・っていうと魔獣狩りの班ですか?いいんですか、それ」


 他の班といわれて思い浮かぶのは一つだけ。

オークたちが飢餓で苦しむように、森の中の魔獣を狩りつくす役目を担っていた班である。

取引を有利に進めるための班だがそれを撤退させたとなるといよいよ任務終了というわけだろう。


『ああ構わん。これ以上続けると突然変異する魔獣が現れるかもしれんしな。オークどももこれで生き延びられるな!はっはっ』


「あぁ、それですが、別にこのまま狩り続けてもオークが生き延びれますよ。別の協力者が現れたみたいですから」


『・・なに?どこの誰だそいつは』


 雰囲気が一変し、魔法越しでもその緊張感が伝わってくるようである。

その変わりように、「俺のはこの人の影響なのかなぁ」とレールイはぼんやりと考えた。


「さぁ・・どこの誰かまでは・・・そういえば、名前も聞いてなかったですね」


『はぁ・・お前は優秀なくせしてたまにこういう詰めの甘いところがある。だからいつまでたっても辺境の任務担当なんだぞ』


「・・俺はかまいませんよ、気楽でいいですからね」


『・・まぁいい。とにかく帰ってこいルイーレ。今俺が抱えてる計画をお前にも手伝ってもらう、じゃあな』


「あ、ちょっ!」


 一方的に魔法を遮断され、役目を終えた魔石は砕け散った。

「やれやれ」と頭を掻いて、『レールイ』と名乗っていた男、本名―――ルイーレ・ラインは深く息を吐いた。


「はーあ、めんどくさいけど、仕事だししょうがないか・・確か計画って村を占拠するんだっけ??楽しくなさそうだなー」


 そう言いつつもルイーレは、しっかりと帰路へと着くのだった。







 


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